ダンジョン攻略5
2巻4月25日発売します‼︎
あの野郎共、警察に泣き付いて保護されやがった。
これじゃ◯せないじゃないか!
力尽くで行けば、今度はこっちが悪者になってしまう。そうなると、日向達がここに住めなくなり、大変な目に合ってしまう。
ちくしょう〜。
悔しく思いながら二日間を実家で過ごして、八つ当たりでフウマを説教した。
探索で得たお金は、そっちに振り込んどくからと母ちゃんの口座を聞いてポチッといた。
税金が掛かるが、別にいいだろう。
それだけでも十分な金額なのだから。
ダンジョン51階
イデデデデッ⁉︎
ごめん、ごめんって‼︎
ダンジョン51階に来て、早速道案内を頼もうとイルミンスールの杖を取り出すと、俺の腕に巻き付いて攻撃して来た。
なんでこんなことすんだと思ったら、日向に会わせる約束をしていたのを思い出した。
ごめんって! あれだって! 市中引き回しの刑のせいだって! あんなインパクトあるもん見たら忘れても仕方ないじゃん⁉︎ 次は! 次は会わせるから許して!
そこまで言うと、ギチギチと締め上げていた蔦が緩んで元に戻る。
おー痛て、と治癒魔法で癒しつつ、吹雪の中を出発する。
ダンジョン51階からは雪の世界だ。
ここには大きな山も谷もあり、雪で視界が潰されていて見渡せない。
しかも、谷が雪で埋まっているという状態で、どこが境目なのか目視では分からない。
こんな所に落ちれば、どんなに頑丈な探索者でも死んでしまうだろう。
しかし、俺には空間把握というスキルがある。そして何より、空も飛べるので何の問題は無い。
雪の中を歩いていると、空間把握がそこからずいぶん先に谷があると教えてくれる。
これで、谷というかクレバスを回避出来る。
仮に落ちても、風属性魔法で飛ぶので気にする必要も無い。
ただ問題があるとすれば、空に上がり過ぎると、もの凄く寒い上に、猛烈な吹雪に襲われて視界が塞がれることだろう。
おかげで、前のフィールドに引き続き、ここでも空からは行けそうもなかった。
いや、本当は行けるんだけど、宝箱を探さないといけないのでやめているのだ。
ステータスを探る手段が、宝箱に入っているかも知れないのなら、可能な限り手に入れておくべきだ。今、不明なスキルが幾つかあって、それを使い熟せれば俺はもっと強くなれる、はずだ、たぶん、きっと、そうだったら良いなぁ。
まあ、それはそれとして、単純に気になるのだ。
俺も男の子だから、自分にどんなスキルがあるのか知りたい。
という訳で、うーさぶっとか呟きながら進んで行く。
寒いとか言っても、そこまで寒い訳ではない。
鎧の効果もあるが、身体強化をしていればある程度の寒さは平気になってしまうのだ。
まあ、反対に暑いのには効果は無いがな。
ザッザッザッと歩いて行くと、途中でイエティが現れた。
俺が片手を上げて、よっと声を掛けると、何かを感じ取ったのかイエティは怯えた顔で逃げてしまった。
ええ〜、逃げんのかよ。
この階で初めて遭遇したモンスターだというのに、イエティは逃げてしまった。
流石に怯えた存在を倒す気にはならなくて、追うようなことはしない。
弱い物いじめがしたいわけじゃないからな。
その後もイエティと遭遇するが、みんな逃げて行く。
この階は楽ちんだなぁと進んでいると、宝箱を発見する。
迷うことなく開けると、中には一本の槍が入っていた。
それは青白いシンプルな槍。
試しに魔力を流してみると、辺りを凍らせて行く。
こりゃ夏に必須なアイテムになりそうだなと、収納空間に放り込んでおく。
さて、と立ち上がると、逃げたはずのイエティ達を見る。
イエティ達の顔に怯えたものは無くなっており、モンスターらしく、凶悪で挑む者の表情をしていた。
イエティ達はどうしたんだろうか?
もしかして、数を揃えれば勝てるとでも思っているのだろうか?
そんな風に上から目線で見ていると、イエティ達は一斉に雪に手を置き魔法を使う。
大量の雪が起き上がると、それが凍りながら俺に迫って来る。
ただの雪崩ではなく、魔法を使った強固な氷の雪崩。
しかも広範囲で、逃げることなんて普通ならば出来ないだろう。
だから俺は杖を掲げて魔法を使う。
薙ぎ払え。
なんてことは心の中でしか言わないけど、光属性魔法を使ってみる。
光が走る。
魔法の雪崩を破壊して、その先にいるイエティ達を両断して突き進む。
そして大爆発。
まるで某アニメ映画を再現したかのような光景。
あの映画では、迫る脅威に対抗する手段だったが、この光景はそんな生優しい物ではなかった。
杖の効果で強化された魔法は、雪の世界を破壊してしまう。
爆発した場所は、ぐつぐつと煮えたぎっており、とても人がしたとは思えない光景が広がっていた。
いずれ元に戻るだろうが、手加減した魔法でこの結果だと考えると、とてもではないが本気で魔法は使えない。
ちょっと殺傷能力が高すぎるな。
ヒナタが得意としていた光属性魔法。
それがイルミンスールの杖の効果と合わさって、その威力がやべーことになっている。
これで魔法陣を使ったら、他の魔法とかけ合わせたら……。
考えただけでも恐ろしい。
使うならダンジョンの中、それも奈落のような場所じゃなければ必要ないだろう。
全力は出せないなと思いつつ、探索を再開する。
ダンジョン54階
探索は順調に進んでいる。
ここまで来るのに十日も経ってしまったが、まあ順調だ。
あっ、冷たいのはいいんで。
はい、出来たら出てってもらえたら助かります。
ちょっと触らないでもらっていいすか? あなたが触ると、料理が凍っちゃうんですよ。
おい! 触んなってつってんだろ!
ああ! 俺のスープが……。
こっちの方が美味しいって?
んなわけあるかい!
雪の世界でかまくらを作って食事をしていると、雪の妖精が入って来た。
見た目は白いエルフなので、とても美しく、多くの男を虜にする容姿をしていた。しかし、雪の妖精は54階から現れるモンスターで、倒すべき敵でもある。
そんな雪の妖精は、何故か敵対しない。
というか、51階以降に現れるモンスターは単体では俺を襲って来ない。
恐らく、敵わないのを理解しているのだろう。
それでも、挑んで来るのがモンスターだと思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。
もう一つの可能性は、俺をモンスターと勘違いしているかだ。
俺は、はっきり言って強い。
それくらいの自覚はある。
人では考えられないほど強い。
それこそ、世界を滅ぼせるくらいの力がある。
だから、モンスターからモンスター認定されている可能性がある。
決して容姿がとか、体型がとか、見た目がモンスターだから、とか思われていないはずだ!
きっとそうだ!
強過ぎるのが悪いんだ!
そう自分に言い聞かせながら、俺に触れようとする雪の妖精を風を操って外に吹き飛ばす。
雪の妖精は、触れた物を凍らせる。
近接戦や魔法を使った戦闘も可能なモンスターだが、一番厄介なのは触れることだ。
しかもモンスターなのに、戦意もなく近付いて来るものだからやり難くて仕方がない。
逃げてくれたら良いのに、何が面白いのか、追い返しても近付いて来るから面倒なのだ。
早く次の階に行こう。
そう思いながらかまくらを出て、集団で襲って来たイエティや他のモンスターを殲滅した。
ダンジョン60階
探索を始めて一ヶ月が経った。
思っていた以上に時間が掛かっている。
次の階の場所が分かっているというのに、ここまで手間取ってしまうものなのか。
宝箱を見つける為というのもあるが、敵意のないモンスターというのが想像以上にうざかった。
雪の妖精は56階からは現れなくなったが、58階から現れたジャックフロストは老人の姿で近付いて来るので、対処するのに苦労した。
若い女なら、まだ何とか押し返せるけど、ひ弱な老人の姿で来られると勘弁してよとなる。
風で吹き飛ばすことも出来ず、ただ横に座っているのだ。
宿った魔力量や、実は近接戦のスペシャリストというのは分かっていても、何もして来ないから、何も出来ない。
ただ、雪の世界で老人が横にいるだけ。
側から見れば、とてもダンジョンの中とは思えないほど呑気な絵に映っただろう。
おかげで、唯一明確に敵意を向けてくれる59階のモンスターである氷雪の巨人が、とても頼もしく思えた。
俺にとっての最大の天敵は、敵意の無いモンスターなのかも知れない。
そんなことを思いながら進んでいると、視界の端に天使が見えた。
誰だろうか? そう目を凝らして見てみるが、吹雪が強くなったせいで見えなくなってしまった。
何か用事があったのかな?
そう思ったけど、近付いて来ないなら何も無いのだろう。若しくは、俺の見間違いかだ。
え? 老眼が始まったんじゃないかって?
お前みたいな老人に言われたかねーよ!
これからボスに挑戦すんだから、邪魔すんなよ!
俺はジャックフロストを振り切り、目的地に向かって走って行く。
次の階からは、普通のモンスターがいいなーと思いながらボス部屋の扉を開いた。
それはまるで、王が率いる騎士団のようだった。
真っ白な鎧を纏った騎士団。
普通の馬とは違い、鹿角を生やしたモンスターに騎乗しており、その手には長い槍が握られていた。
その騎士団の奥には一際大きな存在がおり、真っ白な見た目で、目玉は無く、王冠のような物を被っているので、王様のように見えた。
腰には何かの力を秘めた剣が携わっており、あれが抜かれたら結構な脅威だと察せられる。
その王様が手を掲げ、まるで戦闘の開始を告げるかのように振り下ろした。
一斉に動き出す騎士団。
それに向かって、光を走らせ大爆発を巻き起こす。
え? 見せ場を作ってやれって?
大丈夫だって、ほら騎士団復活しているだろ?
ここからが本番なんだよ。
というわけで、光属性魔法を使って復活する騎士団を何度も薙ぎ払った。
ビー…ドン! ビー…ドン! ビー…ドン! という効果音が続き、百回目を過ぎると復活しなくなった。
そう、騎士団を操っていた王様の魔力が尽きたのだ。
じゃあな。
そう言って杖先を向けると、王様には目が無いはずなのに怒りに満ちた視線を感じた。
即座にその場を飛び退く。
俺が立っていた場所に、一体の騎士が降り立つ。
それは先ほどの騎士団よりも一回り大きく、鎧もゴツくなっていた。そして、手にした剣と盾はとても頑丈そうだった。
その騎士の背後で、王様が剣を抜くのを感じ取る。
なので、問答無用とビーッと光で貫いて始末した。
いや、分かってる。このボスモンスターが強敵なのは分かっている。
でもそれは、順当にこの階にたどり着いた奴の場合で、最下層に行った俺には脅威ではなかったのだ。
俺は、見せ場を作ってあげられなくてごめんなさいと謝罪して、黄色いスキル玉を拾い、王様が落とした剣を拾ってダンジョンを出た。
今回の探索で宝箱十二個手に入れたが、スキルを解析可能なアイテムは何もなくて全部売却した。
その帰り、二号がいなくなったと報道されているのを見た。
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コキュートス
四百分の一で現れるあれ。万の軍勢を生み出し操る氷の王。殺した者を配下に加え、永遠に操り続ける非道な王。腰には一太刀で山を断つ剣があり、一度抜かれるとまず勝てない。
相手が悪かっただけの残念な強者。
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