ダンジョン攻略4
四月二十五日二巻発売されます!!
なんか、市中引き回しの刑に処されている人達がいた。
顔を見るに、半数は外国人でもう半数は日本人っぽい、と思う。
顔がボコボコにされて腫れ上がっており、正確に判別が出来ないのだ。
その様子を皆が面白がってスマホで撮影しており、警察が遠目に見ている状況だった。
警察はどうして助けないんだって?
そう疑問に思うだろうが、刑に処されている人達を囲っている魔法を見て、助けないのではなく助けられないのだろうと察せられる。
あの魔力には覚えがある。
というより、ありゃフウマの物だ。
あいつ何やってんだ?
近くの人にあれっていつからやっているんですか? と尋ねると、どうやら二日前から突然現れたそうだ。
最初は三人だったが、半日後には八人に増えていたらしい。
警察も助けようとしているが、一定の場所から近付けなくて何も出来ないという。
まあ、そりゃそうだろうな。
あれは、プロの探索者が百人いても無理な風の結界が張られている。
あんなの、俺でも作れない。
いや、一時的には発生させられるが、あそこまで維持出来るのは、フウマしかいない。
教えてくれた人にお礼を言って、俺は実家に急いだ。
やいフウマ! あれはなんだ⁉︎
「ブル?」
実家に戻ると、日向のそばで寝ているフウマを問い詰める。
しかし、何のことかよく分かっていない様子で頭を上げて首を傾げていた。
あれだよ! 市中引き回しにしている奴! あれやったのお前だろうおっ⁉︎
俺が大声を出したからか、日向が泣き出してしまい魔力を暴走させた。
それをフウマは、「ヒヒン」と大声出すからと俺に非難の声をあげつつ、魔力を霧散させていく。
その手際は慣れたもので、これまで何度も行っているだろう、熟練の手際が感じ取れた。
というか、この為にフウマを置いているんだけどね。
騒がしくしていたからか、母ちゃんがやって来て「なに、どうしたの?」と日向を抱えながら聞いて来る。
いや、市中引き回しの刑に処されている人達って、何したのかなって思って……。
そう言うと、「なんか大変な事になっているみたいね」と呑気に言っていたので、母ちゃんはこの件に関わっていないのだろう。
まあそうだろうな。
やるとしたら、フウマが単独でやっただろう。
それもひっそりと、誰にも悟られることなく。
だとしたら、どうしてあんなことをしたのかだ。
日中のフウマは、ほとんど日向と一緒にいたはず。あんなことをするとしたら、それは日向か家族に危害を加えようとした奴としか思えない。
んで、何があったんだ?
そうフウマに尋ねると、「ブルル」とジェスチャーで説明してくれた。
なになに? あいつらは悪の戦闘員で、世界征服を企む一派だったと。
それを止める為に、フウマは変身をして日夜戦っていると。
悪の総帥の名前はデススター、異世界から来た侵略者だという。
ふむ……そうか、ジェスチャーじゃ分からんわ。
普通に喋れ、そっちの方がまだ伝わるから。
「メッ⁉︎」
ショックを受けたフウマだが、「ブルル」と説明を始めた。
どうやら、あの市中引き回しの刑に処された奴らは、俺の家族を狙っていたそうだ。
狙っていた理由は俺にある。
ネオユートピアでの戦闘の映像は、ネットの海に広がっており、どんなに消そうとも全てを消し去るのは不可能だった。
その映像の中には、ミューレによる世界の破滅を予言したものも含まれており、各国はその対策を行わなければならなかった。
まずは世界の破滅の回避。
それを考える前に、二号の言葉により不可能だと示されてしまった。
なら、生き残る方法は?
そう考えた時、単純な選択として戦力の増強が上がる。
この世界の最大の武器は、黒龍によって全て消されてしまった。では、残された武器で太刀打ち出来るのかというと、それも厳しいだろう。
弾薬が無限にあるのなら不可能ではないが、そのどれもが有限な物だ。とてもではないが、モンスターを退けるのは不可能だった。
だったら、探索者を揃えようと考える。
それも、どんな化け物も倒せる最強の探索者を。
その人物は、正攻法で行ってもまず頷かないだろう。
力尽くで言うことを聞かせようにも、返り討ちに遭うのが目に見えていた。
だから、身内を人質に取ろうとなった。
もちろん、この作戦を発案した者は上手く行くとは思っていなかった。
だが、どのような手だろうと試さなければ、終わるのは自分達の命だ。
だから、やらざるを得なかった。
多くの資金援助を受けて、九州地区に在住する各国の探索者が集められた。
大金を前に命令を告げられ、即行動を開始する。
そして、フウマにボコボコにされて市中引き回しの刑に処されているという。
夜中に侵入しようとしていた者達は、悪意を感じ取ったフウマにより、空気の弾丸を何発もお見舞いされたのだ。
フウマは即殺すつもりだったようだが、ただの雇われだと分かると、警告の意味も込めて市中引き回しの刑を実行したという。
そうか、分かった。
助けてくれてありがとな。
俺はフウマにお礼を言うと、実家を出る。
さて、あいつらを殺しに行くか。
収納空間から不屈の大剣を取り出して、クソ野郎共の下に向かおうとする。すると、「ブルル⁉︎⁉︎」と焦った様子のフウマに止められてしまった。
なに? やめとけって?
馬鹿野郎、邪魔すんじゃねー。奴らはやっちゃいけないことをやったんだよ。
え、衆人環視でやったら家族にも迷惑が掛かるって?
……確かに。
今、魔法解除したから、奴らも逃げ出しているって?
そうか、そこを狩ればいいんだな?
流石だなフウマは。
「ヒヒン!」
当然だと胸を張るフウマ。
この馬は、どこまでも気の利く奴である。
召喚した当初は、どう送還しようかと考えていたものだが、今では頼れる相棒だ。
それにしても、ミンスール教会からの護衛は何してたんだ?
二号が付けているって言ってたよな?
え、フウマがいるから要らないって言ったの?
「ブルル!」
それって、護衛がいないから狙われたんじゃね?
「…………ブル?」
え、なんて? と首を傾げて聞こえないフリをするフウマ。
不屈の大剣をフウマに向ける。
フウマはにっこりと笑うと、空へと飛び上がり逃走を開始した。
あの野郎……。
一瞬で姿が見えなくなるフウマ。
追いかけようにも、本気で逃走するフウマに追い付ける奴はいない。
俺が本気を出しても無理だ。
それだけフウマは速い。
帰って来たら、説教してやる。
そう決めると、俺は市中引き回しの刑に処されている奴らの下に向かった。
それから現場に到着すると、拘束を解かれた奴らは警察に泣き付いていた。