ダンジョン攻略3
4月25日に二巻が出ます!
口絵がオーバーラップ文庫で公開されております。
https://blog.over-lap.co.jp/tachiyomi_2504/
ダンジョン50階まで攻略して、地上に戻って来れたのは、ダンジョンアタックを開始して二十日後だった。
43階までは順調に進んでいたが、そこから先は洞窟の中に入ったり、フィールドの端の端にあったりと半端なく時間が掛かったのだ。
鎧と武器を収納空間に放り込んで、放り込んで、放り、ほうり……。
イルミンスールの杖から伸びた蔦が、俺の腕に巻き付いて離れない。
テメー! この杖が‼︎ 俺の腕に巻き付いてんじゃねー‼︎
くっ付いて離れない杖。
まるで、これまで離れていた分を取り戻そうとしているようだ。
つーか、ダンジョンで散々使ってたんだから、その必要も無いだろうが!
離れろー‼︎ とやっていると、杖からある映像が流れ込んで来る。
それは、懐かしいあの森での生活。
その中でも、翼の子供を特に映しており、まるで日向に会わせろと言っているかのようだった。
……分かったよ。だから今は大人しくしてくれ。
そう告げると、蔦が解けてイルミンスールの杖は大人しく収納空間に入ってくれた。
ったく、我儘な奴だ。
そう悪態を吐くけど、杖から伝わった感情は心配するものだったので、少しだけほっこりした。
思えば、あの森で生活していたのは、イルミンスールの杖も一緒だった。武器という認識でいたので、人数に入れていなかったが、何だかんだで二号よりもよほど長い時間を過ごしていた。
杖も立派な仲間だった。
思い出を共有出来る仲間だ。
明日には実家に帰るので、その時に会わせよう。
そうと決めたら、ギルドに向かう。
早朝だというのに、ギルドには多くの人が詰め掛けており、大変賑わっていた。
その理由は分かる。
連日ニュースで、ダンジョン関連や世界の終焉を知らせる報道がされているのだ。
それは今もされていて、不安になった人達は、どうにかして生き延びようと足掻いているのだろう。
その様子を眺めていたら、眼帯をした男が近付いて来た。
なんだ、ここで働いているのか?
そう尋ねると、灰野は苦笑しながら「ああ、拾ってもらった」と言う。
元気してそうだなと言うと、まあなと、いろいろと大変そうな体で答えが返って来た。
それから少し雑談をすると、どうやら未来もこのギルドの受付として働いているそうで、今は落ち着いた生活を送れているらしい。
俺は、そうか良かったな、と言うくらいしか出来なかった。
こいつらが、ネオユートピアでどういう決着を付けたのか、俺は知らない。
だけど、灰野の目に憎しみはなく、穏やかな感情しか読み取れないので、きっと悪い結末にはなっていないのだろう。
まあ、これも俺の想像でしかないんだがな。
灰野はこれから新人の指導があるらしく、またなと言って仕事に戻って行った。
俺も、モンスターの買取りを行っている受付に並ぶ。
そこはまだ早朝というのもあり、それほど人はいなかった。
直ぐに俺の番が回って来たので、受付にモンスターが少し大きいので、どこに回したらいいですかと尋ねる。
すると、裏に持って行ってくれとお願いされた。
そちらに移動して、収納空間からモンスターの素材を取り出す。
取り出したのは、結晶化したデスワームと50階のボスモンスターであるベヒーモスだった物だ。
まるまる持って来たので、かなりの範囲を占めている。
それが余程邪魔だったのだろう、ここの責任者と思われる人に、「そんなデカいの持ってくんな!」と怒られてしまった。
でも、ここ以外置くところがないですよ。と言うと、「……そうだな」と納得してくれた。
なので、責任者っぽい人の指示に従って解体していき、使える物とそうでない物を取り分けていく。
責任者っぽい人は、解体が進むに連れて顔を緊張した物に変えて行き、解体が終わる頃には、「会長呼んで来て!」と他の作業者に呼びかけていた。
「また凄いの狩ってきたねぇ」
そう言うのは、ギルド長である天津道世だ。
以前、この人からナナシの手紙を貰い、その時にいろいろと話を聞いている。
そんなギルド長が、呆れた様子で解体した物を見ていた。
じゃあ査定お願いします。
ふんふん、えーと、一十百千……五億……。
ええ、じゃあ振込みでお願いします。
え、探索者登録してないから振り込めないって?
じゃあ、ゲンナマで下さい。
あるわけないだろうって?
じゃあ、どうするんですか?
探索者登録しろ? いまさら?
無料で良いって?
……いや、登録するのはいいんですけど、なんか負けた気がして。
無料でいいから探索者登録しろと言われて、何故か負けたような気がするのはどうしてだろうか?
別に損するわけではないのに、むしろ無料になって勝利したはずなのに、何か俺のこだわりが壊れてしまったような気がしてしまう。
まあ、それは置いておいて、手に入れたスキルを調べるチャンスでもある。
今回の探索で、二つのスキルを手に入れたので、それが何かを知っておきたい。というより、それより前に手に入れたスキルも調べられていない。
なので、仕方ないから登録してやんよと了承した。
なのだが、
「鑑定できません」
鑑定してもらったところ、上記のことを言われた。
ギルドに所属している鑑定スキルを持った人にやってもらったのだが、読み取れないらしい。
じゃあ他の人呼んでよと言うと、私が鑑定スキル持ちで一番レベルが高いという。
え、じゃあ登録した意味無いじゃん。
まったく、がっかりだ。
他に高レベルの鑑定スキル持ちはおらんのかと尋ねると、宗近友成という人物の名前が上がった。
何でも、宗近友成は武神と呼ばれた伝説的な探索者の一人で、ダンジョン60階まで到達した人物なのだそうな。
おお凄い! その人紹介してよ。
お願いすると、その人物がいる場所を書かれた紙と紹介状を貰った。
『武器屋』
…………武器屋やん。
店主の顔が思い浮かんで、何とも言えない気分になる。
そういえば、前に店主が鑑定したのを見て、こんな名前だったのを思い出す。
その店主でも鑑定出来なかったから、もう調べられないやん。
他に調べる方法ってないの?
無い。
あるとしたら、ダンジョンで鑑定用のアイテムを得るしかないと。
んー、ギルドには置いてないの?
無いの、そう。
何の為に登録したのか分からなくなってしまう。
いや、お金を稼ぐという点では必要なんだけど、俺にそこまでの額は必要無い。
日向に残すというなら間違いじゃないけど、この金を当てにして、将来ニートにならないか心配になる。
というより、将来使えるかも怪しいしな。
まあ、そこら辺は父ちゃん母ちゃんの教育に任せよう。
せめて、グレないように育ててほしい。
もしもグレたら、力尽くで改心させよう。
あのヒナタの生まれ変わりだから、話し合いは無意味だろう。
大丈夫、女の子に拳なんか使わない、ちゃんと張り手で優しく説得する。
グレたらいけないって、優しく物理的に叩き込む。
そうすれば、きっと日向も分かってくれるはずだ。
ギルドでのステータス鑑定を諦めた俺は、念の為に武器屋に立ち寄る。
店主が「なんじゃい、もうここに来ても意味無いだろう」と不貞腐れたように俺に告げた。
いや、まあそうなんだけどね、ギルドに紹介状貰ったから来たんだよ。
「紹介状?」と聞いて訝しむ店主に、ギルドで貰った封筒を渡す。
それに目を通した店主は顔を上げて、「前に鑑定したが、俺には何も見えなかった」と前にも聞いた内容を言っていた。
まあそうだろうな。
ステータスチェッカーで調べて『卒業』の文字が表示されて、店主に触れられた時に動きが止まっていたので、そうじゃないかとは思っていた。
何か調べる方法ないか?
そう尋ねるが、返ってきた回答は先程と同じものだった。
こりゃ、あっちに行くまでは調べられそうもないな。
まっ、運が良けりゃアイテムが手に入るだろう。
そう楽観視しつつ、店主にまた来るよと告げて店を出る。
なんだかんだでお世話になっているし、ここを離れる時には挨拶くらいしておこうと思っている。
人が居ない所まで行くと、風属性魔法を使って空を駆ける。
そして、あっという間に地元に到着した。
流石に、直接実家というのも味気ないので、地元を歩いて行く。
大きな洞窟が現れた以外は、特に変化の無い日常が広がっていて、なんだか安心する。
世界が終わりそうなのに危機感が無いと言われたらそれまでだが、それでも、この景色は俺を和ませてくれるのだ。
だけど、そうじゃない景色が目に飛び込んで来た。
縄に縛られた八名が、何らかの魔法で市内を引き摺り回されていた。
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田中 ハルト(25+13)(卒業)
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《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性 不滅の精神 幻惑耐性 象徴 光属性魔法 悪食 勇猛
《装備》
聖龍剣 不屈の大剣(魔改造) 守護獣の鎧(魔改造) イルミンスールの杖
《状態》
ただのデブ(栄養過多)
世界樹の恩恵《侵食完了》
世界亀の聖痕 《侵食完了》
聖龍の加護 《侵食完了》
聖天の心部
《召喚獣》
フウマ
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