ダンジョン攻略1
二日に一度の投稿となります。
この世界を延命させる。
どんな手を使ってでも、俺はこの世界を存続させる。
そう決めて、二号の下に来ていた。
「……突然ですね。その方法は、余りにも残酷ですよ」
大きな杖を持った年寄りな二号は、言葉の割に無関心のように見えた。
恐らく、俺が極端な手段を取ると思っているのだろう。
違う、そうじゃない。人をダンジョンの生贄に捧げるつもりはない。
「では、どのような方法があるというのですか?」
それをお前に聞きに来たんだ。
二号、お前はダンジョンをどこまで攻略した?
ダンジョンには、何があった?
「……あそこにあるのは、権兵衛さんが期待するような物ではありません。たとえたどり着いたとしても、その先には進めない」
その言い方だと、奈落までの道を行ったな。
教えてくれ、そこには何があった?
俺の問い掛けに、二号は口を開こうとして咳き込んだ。
「ゴホゴホッ、……申し訳ありません。それは、知らせることが出来ない仕組みになっています。あの地での時と同じです。言葉が縛られています」
それは、聖龍であるト太郎が施した力と同じなのだろう。
情報を外に漏らさない為の手段。
どうして、情報を封じるのか分からないが、これで何かがあるのは確実になった。
分かった。なら、そこまで行く地図が欲しい。
何かに書き写したりはしてないのか?
「……権兵衛さん、今更この世界は救えません。何故、足掻こうとしているんですか?」
……妹が生まれた。
この世界で真っ当な人生を歩んでほしい。
「ユグドラシル様の元では駄目なのですか?」
妹は、ヒナタの生まれ変わりだ。
「っ⁉︎ まさか、転生⁉︎」
その言葉に、自然とカズヤの顔が浮かぶ。
カズヤは転生者だ。
別の世界から魂が運ばれて来た、厨二全開の転生者だ。
前世では勇者をやっていたらしく、かなり強い魂を持っていた。
そんな実例があり、ヒナタが出来ない理由も無かった。
ヒナタが転生したと聞いた二号は、目を瞑るとしばらく黙り込み、何か考えを巡らせているようだった。
「…………権兵衛さん」
何だ?
「このイルミンスールの杖をお返しします」
それは……大丈夫なのか?
手放して、体は持つのか?
「ええ、No.4との対話も済んでいます。杖が無くとも、問題はありません」
…………本当か?
「はい。元々、この杖は権兵衛さんの物だったのです。気にする必要はありません」
…………。
「きっと、イルミンスールが貴方を導いてくれるはずです」
満面の笑みを浮かべた二号は、俺に杖を差し出した。
だけど、それを受け取るのに躊躇してしまう。
その理由は、二号の、マヒトの瞳に覚悟を見てしまったから。
そんな俺に、マヒトは告げる。
「……権兵衛さん、私の役目はもう終わったんです。いろいろ失敗してしまいましたが、こうして貴方と出会えた。それが、私はとても嬉しいんです」
……娘はいいのか、ユグドラシルの所にいるんだろう?
「今更、父親面なんて出来ません。私は、あの子を見捨てましたから」
それは誰の為だ?
そう聞こうとして口をつぐんだ。
答えは分かっている。
二号もナナシも、俺が現れるのを待っていた。
そうするように、ト太郎にユグドラシルに導かれていた。
だから聞けなかった。
俺なんかの為に、全てを捧げたなんて思いたくなかった。
俺は、マヒトから杖を受け取る。
その瞬間に杖から光が溢れ、マヒトから力が流れて来る。
この力は、元からイルミンスールの杖に備わっていた力だ。
そして、マヒトを延命させていた力でもある。
……無事か?
「ええ、言ったでしょう。No.4との対話は済んでいると」
何だよ、心配させやがって。変な言い方するから勘違いしただろうが!
二号に理不尽にキレると、ふんと振り返り扉を見る。
扉の外には、俺達の会話に聞き耳を立てている輩がいた。
スキル【空間把握】が読み取る情報には、二人の姿があり、そのどちらも覚えがあった。
なあ、あいつらにあとを頼むのか?
「ええ、あの子達は、私と違って世界に絶望していません。それに、ユグドラシル様とも縁があります。きっと多くを救ってくれるでしょう」
……そっか、まあ二号が言うなら間違いないだろう。
「失敗ばかりの私の言葉なんて、何の保証にもなりませんよ」
失敗かどうか判断するのはまだ早いんじゃないか?
「どういうことですか?」
これから、俺が証明すればいいんだよ。
この世界も、ユグドラシルの世界も、どっちも救えばお前のやって来たことは間違いじゃない。だろ?
「……あはは、流石権兵衛さんだ。私とはスケールが違う! ええ、期待しています。この世界をユグドラシル様の世界をよろしくお願いします」
二号は楽しそうに笑みを浮かべて、俺を見ていた。
じゃあな、そう告げて扉を開くと、そこには大道とカズヤがいた。
二人に、お前らも頑張れよ、そう言ってミンスール教会を後にした。
それから一ヶ月後、二号は姿を消した。