フウマ10
4月25日2巻発売!!!
大幅に加筆しております!
新エピソードあります!
よろしくお願いします!
『これはまた、ヤバめでありんすなぁ』
ぬらりひょんより富士山の噴火が予告されて、日本オワタ! となったミミ子だが、
「玉藻御前を連れて来い、奴は竜脈に詳しかったはずだ」
と指示を受けて、フウマと共に西に向かい、半ば強制的に連れて来た次第である。
それで富士山の火口を見てもらったのだが、どうにも反応がよろしくない。
『母様、どのような状況なのだ?』
『竜脈の勢いが凄ぉて、はっきりとは見えません。でも、何も手を打たんのなら、十日後には噴火しんすなぁ』
「その手段とは何だ?」
『あら、空耳が聞こえしんすなぁ。どこかの頭でっかちはんがやらかしたんに、太々しくて羨ましぃわぁ。これは、地球さんも喜びますわ』
「くっ⁉︎ 玉藻御前、頼む、竜脈を正常に戻す方法を教えてくれ」
嫌味を言われても、何も言い返せないぬらりひょん。
玉藻としても、こんな事態を引き起こした張本人を切り裂いてやりたいが、それで解決しないのは理解している。
だから、責任を取ってもらう必要があった。
『……東の妖、全ての命を捧げる覚悟はありんすか?』
「…………人柱にするつもりか?」
人柱。
かつて人の世にあった風習。
神から加護を与えられる為、穢れを祓う為に行われていた悪習。多くの命を無駄に散らした、忌むべき行い。
しかし、これを知識ある者が適切に運用すれば、一定の効果が得られた。
『理解が早くて助かりますなぁ。……一万の妖を持って、竜脈を正常に戻す。選べ、生贄となる妖を連れて参れ』
戯けた様子から、妖の長の顔になる玉藻。
これは笑いごとではないのだ。
東の地が混乱に陥るだけならまだいいが、日本という国そのものが消えようとしていた。
人だけでなく、多くの妖も犠牲になる。
たった一万の命で済むのならば、それを選ばない理由はない。
その上、今回の騒動の元凶ははっきりとしている。ならば、責任を取ってもらうまでだ。
妖気を高めた玉藻の九本の尾が揺れる。
たとえ断ったとしても、ぬらりひょんを操り東の地から生贄を選定するつもりだった。
「…………」
それを理解しているぬらりひょんは返答に詰まる。
己が元凶と理解しているが、はいそうですかと部下達を差し出せるはずもなかった。
これで憂が無くなるのなら、部下達を含めた己の命も差し出せただろう。
ただ、その後の荒れるであろう東の地を思うと、どうしても頷けなかった。
刀に手が伸びる。
一触即発の空気に当てられて、くあぁ〜とフウマの欠伸が鳴る。
水を差されて空気が緩む。
『これフウマ⁉︎』とミミ子に注意されるけど、フウマとしては止めるつもりだったのでどうでもよかった。
噴火するのなら、主人に言ってどうにかするつもりだし、妖怪を一万体も殺させるつもりも無かった。
そこら辺を「プルル」とミミ子に伝えると、『……フウマ』と感動しているようだった。
ミミ子がフウマの言葉を伝えると、
『ほんに出来るのかえ? 天上の神々でも無理な話でありんすえ』
「待て、まだ頼るわけにはいかん。他に手段がないのか探す。それだけの時間は稼げないか?」
何故か懐疑的な上に却下された。
「……プルル」(……なんでや)
不満げに嗎声いて、フウマは落ち込んだ。
『時間を稼ぐのは可能ですが……相応の対価はいただきますえ?』
「土地の一部を譲る。それで足りないのなら、金銭で支払おう」
『大妖怪ぬらりひょんとあろう者が、人に染まりんしたなぁ。金銭なぞいらん。この地と、あんさんが使っている刀を貰いましょうか』
「ここを?」
『ええ、この富士山と樹海をいただきたい』
逡巡するぬらりひょんは、一度頷いて腰から刀を取る。
「これで良いか、ここは飛地になるがいいのか?」
『構いません。あの子がどうにか出来ると言うのなら、賭けてみるのも一興じゃありゃせんか?』
「ブル」
さっきの否定はなんだったんだと訴えるが、残念ながら玉藻には通じていない。
その後、玉藻の指示により、火口から樹海に移動する。
向かうのは、ダイダラボッチが封印されていた場所。
ここに、富士山に続く竜脈が流れているそうだ。
大穴が空いているのは、ダイダラボッチが封印されていた場所。
そこに刀に術式を刻み込み、真っ直ぐに落とす。
すると、何かが堰き止められる感覚があり、玉藻は印を結び妖術を使った。
そんな一連の流れを、フウマはキラキラした目で見ていた。
こういうので良いんだよ!
みんな、予備動作無しで力を使うものだから、まったくかっこよくなかったのだ。
魅せるという美学が足りない、男の浪漫が足りない、厨二への愛が足りていない!
そんな風に興奮していると、玉藻から状況の説明がされる。
なんでも、竜脈の余剰分をこの場に溜めているらしく、限界が来れば一気に流れ出して、即座に噴火するそうだ。
『期間はおおよそ一月、といったところでありんしょうか。それまでに、何らかの方法を考えなんし』
一時の猶予を与えられたぬらりひょんは、即座に動き出す。
東の妖怪のほぼ全て、それにミミ子も加わって過去の文献から、竜脈の制御の仕方を徹底的に調べ上げて行く。
しかし、出て来るのは人身御供ばかり。
やることは、玉藻御前が言っていた内容とさほど変わりはなかった。
『天上の神でも不可能なのか? フウマの主人ならば可能かもしれんというのに……』
「神は万能ではない。所詮は、世界に作り出されただけの物に過ぎん。その存在価値は、我らとそう代わりないのだ」
そこまで言うか、と思ったが、確かにと思わないでもない。
ダイダラボッチを封印するという行動にも、その封印にも小細工を仕掛けていたことにも、神と呼ぶには、その矮小さが滲み出ていた。
「仮に、可能な存在がいるとすれば、それはもう我らの知る神ではない。もっと違う、別の何かだ」
『違う、何か……?』
「ブル?」
ミミ子からの視線を感じて、調べるフリをして漫画を読んでいた顔を上げるフウマ。
神以上の力を持つフウマ。
更に強いその主人。
改めて、一体何者なのかと疑問に思うミミ子だった。
それから日々が経ち、いい解決策が思い浮かばず、フウマの主人に頼ろうとした時、
「プルル!」(用事があるから、ちょっくら行ってくらぁ!)
と、空気を読まずにフウマがどこかに行ってしまった。
『お、おいフウマ⁉︎ どうするのだ⁉︎ 日本の一大事なのじゃぞー‼︎⁉︎‼︎⁉︎』
その叫びは空に消えて行ってしまう。
マジどうするのじゃ……と途方に暮れていると、不思議な木を持ったフウマが現れて、ミミ子を連れて樹海に飛んだ。
降り立ったのは、一時的な封印を施した大穴。
そこに不思議な木をぶっ刺すと、みるみる木は育って行き、不思議な力を発するようになった。
その力はミミ子にも影響を与える。
三尾だった尾が、四尾になり、五尾まで増えていた。
「ブル?」(これで大丈夫か?)
『……大丈夫じゃろうが、いろいろと納得が行かん。説明してもらってって⁉︎ フウマ⁉︎』
説明が面倒になったフウマは、「ブルル」(あとは任せた)とミミ子を置き去りにしてどこかに行ってしまった。
『あとは任せるって……』
ミミ子は巨大な大樹を眺める。
富士山を噴火させるほどのエネルギーを吸収して、竜脈を正常に戻してしまった不思議な木。
それはまるで、奇跡のような出来事だった。
木を眺めていると、自然と頭を垂れていた。
優しい風が吹いて、ミミ子の頭を撫でる。
はっとして頭を上げると、そこにはエメラルド色の髪の少女の姿が見えた。
しかしそれも一瞬のことで、ふっと消えてしまう。
まるで狐につままれたような気持ちになりながら、『母様とぬらりひょんにも説明せんとな』と気持ちを切り替えて、ミミ子は立ち上がる。
こうして、一連の騒動は幕を閉じる。
しかし、それから数日後、世界オワタ! 的な出来事が起こって混乱に陥ることになる。
それを知らないミミ子は、そっと樹海を後にした。
ーーー
ミミ子
九尾の妖狐、玉藻御前の三百三十三番目の子。名は適当に付けられた。地方の妖怪を取りまとめる役目を任されていたが、フウマと出会ってしまったことで大出世する。北の地の妖怪の主の補佐、ぬらりひょんから名と顔を覚えられ、玉藻御前も再認識する。
この世界の、世界樹ユグドラシルの巫女に選ばれる。加護を与えられ、三尾から五尾まで成長する。
ーーー
フウマの話はこれで終わりです。
明後日より、田中の話になります。