フウマ⑨
2巻4月25日でます!!
黄金を纏い、サラブレッド型となったフウマはダイダラボッチを睨む。
それだけで、自我を失ったはずのダイダラボッチは動きを止めてしまった。
フウマは、ダイダラボッチの強さを正しく理解していた。
もしも奈落に存在していれば、一日と持たずに食い尽くされるだろう。仮に守護者がいれば、梃子摺ったとしても最終的に滅ぼされるだろう。
その程度の力しか、ダイダラボッチは持っていなかった。
この世界の国を作り直す力も、奈落ではその程度の物でしかなかった。
フウマは蹄で空中を叩き、空気の振動を発生させる。
ドンッ! と衝撃が走り、地上の泥は地面に縫い付けられてしまう。それどころか、振動で分解し始めており、ダイダラボッチの肉体が減少し始めていた。
それに危機感を抱いたのか、泥の肉体が硬質化を始める。
鉛色に変色しているのを見届けたフウマは、そっと降り立つと、片足を振り上げて思いっきり叩いた。
ゴッ! と鈍い音が鳴り響き、プラズマ化して紫電のように広がった。
「ヒヒン!」
上手く行った。
これぞ練習の成果だ!
そう興奮気味になるのも仕方ないだろう。
憧れの技を模倣し、それに見合った威力とエフェクトまで出せたのだ。これだけの為に、サラブレッド型になったといっても過言ではなかった。
連続して◯閃を放ち、硬質化した肉体を砕いて行く。
オラッオラッ! と、まるで調子に乗ったヤンキーのように、無抵抗な相手に攻撃を加えて行く。
一撃一撃が、樹海全体が揺れるような衝撃が駆け抜け、余りの圧倒的な展開にぬらりひょんとミミ子は唖然となる。
ダイダラボッチは、妖怪の中でもトップクラスの戦闘力を誇っていた。
山のような巨体が動けば、大抵な物は押し潰せる。
大きな肉体も、好きに縮小させることが出来た。
そして何より、大地を操る能力は天上の神々から危険視されるほどのものであり、妖怪に取っても切り札のような扱いになっていた。
酒呑童子など、比べるのも烏滸がましいほどの大妖怪。
それが、ダイダラボッチという妖だった。
『まさか、これほどとは……』
それが一方的にやられている。
ミミ子はフウマの実力を知っていたが、ここまで差があるとは思わなかった。
フウマでこれなら、その主人は?
そう考えて、己が正確にあの男の力を認識していないことに気付いた。
途端に恐ろしくなる。
だけど、日頃の家事をしている姿を思い出して、その心配は無用だなぁと自己完結してしまった。
フウマの主人を見ると、どうしても警戒心が薄れてしまう。
妖怪という存在を知ったら、どういう行動に出るか分からないが、それでも話し合えば分かってもらえるような気がしてしまった。
まあ、可能なら確実に繋ぎ止められる状態までは持って行きたい、というのに変わりはないが。
ガンガン砕かれて行くダイダラボッチは、反撃に出る。
硬質化した肉体を動かして、フウマを飲み込もうとする。しかし、風の刃で切り裂かれ、強烈な竜巻で粉砕されて何も出来ない。
危機的な状況に陥ったダイダラボッチは、消え去ったはずの自我を取り戻してしまう。
長い長い封印。
それも感覚を何十倍にも引き伸ばされていた。
人よりも強い精神を持つ妖でも、感覚が一万年を過ぎると崩壊してしまった。狂いに狂い、死にたくても死ねない地獄。そこで精神が狂いながらもすり減って行き、最後に消えてしまった。
その精神が、命の危機に呼び戻される。
『やめてくんろーーーー⁉︎⁉︎』
懇願する声が鳴り響く。
その声はとても大きくて、流石のフウマでも動きを止めてしまった。
「ブル?」
『もうやめてくんろ。もう嫌だ! もう嫌だ! 暗いのも一人も痛いのも、もう嫌だよぉー‼︎』
まるで子供のような声。
それと同時にダイダラボッチだった肉体が消えて行き、小さな存在へと変えてしまう。
まるで泣き喚く子供のような姿。
その姿を見て、「ブル」とフウマは残念に思った。
楽しく黒◯を撃っていたのに、こんな弱々しい姿を見てしまっては、もう何も出来なくなってしまうではないか。
もう一度「ブル」として、ちんちくりんの姿に戻る。
ついでに、危険が無いと判断して、ミミ子とぬらりひょんを地上に下ろしている。
『ま、まさか、此奴がダイダラボッチ、なのか?』
大きさが、ミミ子と変わらないくらいまで縮んでおり、先程までの圧倒的な存在感が消え去ってしまっていた。
それを見て、眉を顰めたのはぬらりひょんだ。
「ダイダラボッチ、貴様、力をどこにやった?」
力とは、そのままの意味だ。
ダイダラボッチの巨大な肉体と大地を操る特殊な能力。この二つがあって、天上の神々に恐れられて封印されていた。
しかし、今のダイダラボッチからは力を感じない。
取り込まれたと思っていた部下達も倒れており、息がある。それ自体は良いのだが、問題は力をどこに置いたのかという点だ。
誰かに渡したのならまだ良い。
その者が新たなダイダラボッチになるだけだ。
しかし、先程まであの姿だったのだ。
このわずかな時間に渡せる対象は、しばき倒していたフウマと、
『……大地に返しただ』
母なる大地。
つまり竜脈に流したということになる。
それを聞いて、ぬらりひょんは狼狽える。
「何ということをっ⁉︎」
刀を抜き、ダイダラボッチに向ける。
しかし、そうはさせまいとミミ子が立ちはだかる。
『待て! 何が問題なのじゃ⁉︎ 力を手放したのなら、もう脅威ではなかろう!』
「分かっていないな。ダイダラボッチの膨大な力を竜脈に流したのだぞ、何の影響も無いわけがなかろう!」
次の瞬間、大地が大きく揺れた。
この揺れはしばらく続き、段々と治って行った。
そして、富士の山からゴゴゴッ! という音が鳴り響いた。
「このままでは、余剰のエネルギーを火山として排出するだろう」
『まさか……そんな……』
「富士の山が噴火する」
日本終了のお知らせが鳴った。