フウマ⑧
今月の25日、2巻出ます!
突然騒ぎ出した八咫烏が、ダイダラボッチの復活を告げた。
フウマはそんなの知らないのでキョトンとしていたが、ミミ子が尋常じゃないほどに驚き、
『なんじゃとぉーーーー!!!!』
と絶叫していた。
おいおい、ダイダラボッチって何だよ? とミミ子に尋ねると、『凄く大きくてやべー奴なのじゃ!』とよく分からない返答をいただいた。
ただ、妖怪達の中では有名なようで、『一度目覚めたら国が滅びる』と言われているそうな。
「ヒヒン!」
それを聞いて、やっぱキタコレ! と呪◯師の登場を予感してテンションを爆上げした。
『フウマ! 主殿には頼めぬか⁉︎ これはもう妖や人の話ではなくなった、この国の危機じゃ!』
「ブル?」
妖怪の存在を知らせることになるけどいいの? と尋ねるが、『この際、そうも言っとられん!』となりふり構わない様子である。
ダイダラボッチという妖怪が、それだけ強力な妖怪なのだと、流石のフウマも察する。
だけど、「ヒヒン」とミミ子を落ち着かせる。
『これが待っておられるか⁉︎ 頼むフウマ、妖が、この国が滅んでしまう……』
懇願するミミ子。
そんなミミ子を前に、フウマは立ち上がり「ブルッ!」と嗎声、俺に任せろと主張する。
こんな絶好のチャンスを、あいつに邪魔されてたまるか!
黒◯を見るんだ。
領◯展開を見るんだ。
無◯空処を見るんだ。
伏◯御廚子を見るんだ。
あいつが来たら、一撃で終わってしまうだろうが!
という自分勝手な欲望からの主張だった。
さあ行こうと、ミミ子を強制的に背中に乗せる。
ミミ子が『おっおい、フウマ⁉︎』と驚いているが、そんなの関係ないと空に飛び上がった。
本当ならフウマだけで行きたかったが、場所が分からないから仕方がない。
いろいろと諦めたミミ子が、富士の樹海を指し示す。
そこに呪◯師がいるのか⁉︎ と鼻息荒く、目的地に向かって飛んだ。
◯
到着すると、樹海から腐ったような悪臭が漂って来ていた。
余りの臭いに、風を起こして追い返しているから良いが、風を止めると、さっき食べた物を吐く自信があった。
『あれが……ダイダラボッチ、か?』
樹海を指差すミミ子に反応して、どれどれと見てみるが、泥のような物が広がっているだけで、妖怪と呼べる者は見当たらなかった。
「ブル?」
『あれじゃ、あの悪臭を放つ泥があろう。あれがダイダラボッチ、やも知れん』
「ブルル⁉︎」(分からんのかい⁉︎)
『仕方なかろう! ダイダラボッチは伝承に載っておるだけで、遥か昔に封印されたとしか知らんのじゃ。ただ、山のように巨大な体と、地形を変えるほどの力を持っておるそうじゃ』
そう言われて、改めて泥を見る。
泥は段々と広がっており、樹海を取り込んでいっているように見える。
それでも、とてもではないが、山のような巨体には見えなかった。
「ブル」(やっぱちゃうやん)
『そう言われると……自信が無くなるのう』
ミミ子自身も実物を見たことが無いので、あれがそうだとは言えなかった。
しかし、あの泥から妖気が感じられるので、完全に否定することも出来ないでいた。
『ここは一旦引いて、母様に確認をっ⁉︎ フウマ⁉︎』
一度引こうと提案するが、フウマは一直線にある方向に向かって疾走する。その先では、泥の塊が起き上がっており、誰かを飲み込もうとしていた。
関係のない人が犠牲になる。
それに気付いたフウマは、到着すると同時に強烈な風を巻き起こし、泥の塊を吹き飛ばしてしまった。
『あやつは……ぬらりひょんか⁉︎』
「ブル?」
それって、敵の首魁の名前?
助けた人物を見ると、やや頭が長い気がする。着物を着ているのはまだいいのだけれど、腰に日本刀があるので、明らかに一般人ではない。
明らかにその筋の人か、犯罪者。もしくは人ではないかだろう。
『フウマ、彼奴を助けられぬか? 事情を聞きたいのじゃ』
「ブル」
任せろと頷いて、ぬらりひょんを風で包み込んで回収する。
真横に来たぬらりひょんは、見た目は普通のお爺さん。頭が少し長い以外は、どこにでもいそうな存在で警戒心が湧かなかった。
人畜無害。
それが最初に抱いた印象だった。
『お主、ぬらりひょんで間違いないか?』
「……そうだ。お前は玉藻御前の小狐だな。名は確か、ミミ子と言ったか?」
『むっ、儂を知っておるのか、儂も有名になったものじゃな』
鼻高々といった様子だが、残念ながらそんな呑気な状況ではない。
ぬらりひょんを追って、泥が空に上がって来たのだ。
フウマは「ブル」と更に高く舞い上がる。
泥の速度は速くはないが、あの質量が全て持ち上がるのなら、大気圏くらいまで行かないと逃れられそうもない。
それも面倒なので、竜巻を発生させて蹴散らしてみる。
泥は広範囲に飛散して、落下した場所を焼いて更に成長してしまった。
これは駄目だなと諦めると、距離を取ることに集中する。
『ぬらりひょん、あれはダイダラボッチなのか?』
「そうだ。長い封印で自我を失ってはいるが、あれはダイダラボッチだった物だ」
国作りの大妖怪。
その成れの果てがそこにいた。
『何故封印を解いた? 仮に自我を失っていなかったとしても、制御出来るような存在ではなかったはずだ』
そのミミ子の問い掛けに、ぬらりひょんは歯軋りをする。更に鋭い目をミミ子に、フウマに向けて言葉を紡ぐ。
「貴様はあれを見て、何故大丈夫だと思った? あれは人ではない、妖でもない、ましてや神でもない。まったく別の、世界を滅ぼす異物だ。あのような者が存在してたまるか!」
あそこで見た存在。
人の範囲ならば、やり込める自信があった。
しかし、いざ目にするとその強大さに何も出来なくなってしまった。
この、東の地を治める大妖怪がである。
今になって思う、酒呑童子の判断は間違いではなかったと。
あれは危険過ぎる。
排除しなければ、世界が終わる。
だからこそ、ぬらりひょんは行動したのだ。
『ぬらりひょん……』
その様子を見て、ミミ子は同情の眼差しを向ける。
この国を代表するほどの大妖怪でも、あの存在に当てられては判断を誤るのだ。
それほどに、あの存在は強大で罪深かった。
そんな中で、フウマは捕らえたぬらりひょんに近付き肩を叩き「ブルル」と嗎声く。
ドンマイ。
お前の主人が原因だというのに、理解していないフウマはぬらりひょんを元気付けた。
『フウマ……』
ミミ子はそんなフウマを見て、何だこの喜劇はと凄く残念に思った。
『ぬらりひょん、あれを再び封印する手立てはあるか?』
「無い、あるとすれば天上の神くらいだろう」
『では、倒す手段は?』
「それこそ、あの存在を連れて来るしかない」
『それ以外じゃ!』
「ならば無い。何故拒絶する? そこの眷属と共にいるというのに……」
『儂とて、貴様ほどではないにしても危険に思っておる。我ら妖という存在を、あの者には認識させたくないのだ』
「いずれ知られるぞ」
『だとしても、今ではない』
せめて、友好的な関係を築いてからにしたい。
人のフリをして近付いて、普通の友人から始めるのだ。それから、仲が良くなってから正体を明かす。
かつて玉藻御前が使用して、最悪の陰陽師を生み出してしまった手法ではあるが、これしか方法が思い浮かばなかった。
「……ふん、好きにしろ。どうせその頃には、儂はいないからな」
『どういう意味じゃ?』
「解放しろ。ダイダラボッチの自我を与える方法を思いついた」
『なんじゃと⁉︎ ……それはどういった方法じゃ?』
「儂がダイダラボッチと一つになる。さすれば、動きの制御くらいは出来るだろう」
『愚かな! 一つになるという事は、ぬらりひょんとしての死を意味するのじゃぞ!』
「それが事態を起こした儂の罪。責任くらい取らねばな」
『東の地はどうなる⁉︎ 残された妖怪達は争い始めるぞ!』
「任せる。なに、北の地もやれたのだ。東の地が増えたところで変わらぬだろう?」
ふっと笑い、動こうとするぬらりひょん。
すでに拘束は解かれており、自由に動くことが出来た。
「では、あとは頼む」そう呟いたぬらりひょんは、体を傾かせ、地上に落下……はしなかった。
「ブルル!」
それを阻止したのは、当然フウマである。
「何故、邪魔をする?」
「ヒヒーン!!」(おいこの野郎! また厄介な役目を押し付けるんじゃないだろうな⁉︎ 北だけでも大変なのに、東もとかふざけんなよこんちくしょう!)
この後に起こるだろう厄介ごとを悟り、フウマは逃亡するぬらりひょんを止めた。
もちろん、無視すればいいのだけれど、ミミ子にお願いされたら断れる自信が無かったのだ。
「ブルル」
フウマは、地上から伸びて来る泥を眺めながら嗎声く。
お前らはもう何もすんな。ここは俺がやるから大人しくしとけと、ミミ子も含めて空気の層で包み込んだ。
『フウマ何をする⁉︎』
ミミ子の訴えを無視して、フウマは黄金を纏い姿を変えた。