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フウマ⑥

活動報告更新しております!


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/180477/blogkey/3423727/

 玉藻御前の元から帰ると、洗濯物を干しているタエコがいた。

 主人の田中は何をしているのかというと、


「ほぉ〜、アタタタタッ‼︎ アター‼︎」


 割り箸を使って蚊柱を退治していた。


 一見ふざけているように見えるが、これが訓練なのをフウマは知っている。

 田中が少し力を込めて拳を振えば、蚊柱なぞドンッ! と爆散してしまうのだ。それをわざわざ割り箸を使って、絶妙な力加減で一匹一匹を捕まえている。これが訓練でなかったらなんというのだ。


「これぞ割り箸百裂拳。お前達はもう死んでいる」


 そう、これは北◯を極める訓練なのだ。


 というのはどうでもいいとして、「ブル」と嗎声いて帰宅を告げる。

 するとタエコが振り返り、フウマを迎えてくれる。


「フウマちゃんお帰りなさい、朝から遊びに行ってたの?」


「ブルル」(ちゃうで)


「そう、楽しかったのね。お友達出来た?」


「ブルル」(ちゃうで)


「それは良かったわね」


「メー」


 どちらも否定していたが、残念ながらタエコにはフウマの声は届いていない。

 因みに言うと、玉藻御前にも通じていなかった。玉藻は、その場の空気やミミ子の反応を見て判断していたのだ。


「んじゃフウマ、あとは頼むな」


「ブル」


 蚊柱を殲滅し終えた主は、フウマの帰宅を気付いており、目配せするとそれだけを言って出掛けてしまう。

 これからダンジョンに行って、体を思いっきり動かすつもりなのだ。

 さっきまでのお遊びではなく、戦いの勘を忘れない為の訓練。

 それを二日に一度行っていた。

 その帰りに誰かと会ったりしており、それを結構楽しみにしているのをフウマは知っている。


 邪魔をするのも野暮というもので、いってら〜と送り出す。


 さあ、今日もタエコの護衛だと側に行く。


 何でもない一日だ。

 今晩、また北の地に行かないといけないけど、それでも今は平穏を満喫したい。


 タエコの隣を歩いて、危険がないか常に風を操って周囲を警戒する。だけど、この治安の良い国で危険なことなんて滅多に起こるはずもなく、特に何の異常も無い一日がまた過ぎて行く。


 そう、ここまではよかった。

 夕方に差し掛かり、庭で黒◯の練習をしていると、一羽の鴉が舞い降りた。


 その鴉には三本の足があり、強くはないが特殊な力を感じる。

 フウマはこの鴉に見覚えがあるような、無いような気がしていた。何とか思い出そうと捻り出して、名前を思い出せなかった。


 そんな鴉である八咫烏が告げる。


『フウマ、ぬらりひょんが何かをしようとしている』


「ブル?」


 誰だぬらりひょんって?

 いや、もちろん名前は知っている。漫画やアニメにも出て来る妖怪だ。というか、最近聞いた気がするが思い出せない。

 それがフウマの記憶容量だった。


『その反応はミミ子から聞いていないのか? 東の地を治める大妖怪だ。奴がフウマの主人に怯えて、何かを企んでいるぞ』


「ブルル!」


 そりゃてーへんだー! と驚いているが、何が大変なのかまったく分かっていない。

 それでも、何だかよくない気がする。

 でも、そのおかげで、今度こそ呪◯師が現れるかもしれないと期待してしまう。


 フウマはどこまで行っても己の憧れを忘れない、健気なバカ馬だった。


 八咫烏に向かって、「ブルル⁉︎」どこにいる⁉︎ と尋ねる。


『恐らくは富士の樹海。あそこには国造りの大妖怪が封印されている。ぬらりひょんは、それを復活させようとしている』


「ヒン?」



ーーー




「あれは何だ。あんなのが存在してたまるものか。人の身で神に至る者はいても、個で世界を滅ぼせる存在など、いてたまるかっ⁉︎」


 ぶつぶつと独り言を呟きながら、ぬらりひょんは樹海に足を踏み入れる。

 お供の妖怪も引き連れており、周囲を警戒させていた。


 この地は、酒呑童子が討たれた場所ではあるが、それよりももっと重要な場所でもある。


 国造りの大妖怪、ダイダラボッチ。

 神に対抗する巨人族にして、その余りの強大さに封印された伝説の妖怪。

 もしも封印が解かれたら、今ある国を滅ぼして更地にし、新たな国を作り上げるだろう。

 そんな規格外の大妖怪が、富士の樹海に封印されているのだ。


 ぬらりひょんは、ダイダラボッチを復活させるために、封印を解こうとしていた。

 目的はもちろん、最近現れた強大な存在に対抗する為だ。


『ぬらりひょん様、本当にやるつもりです?』


「無論だ。ダイダラボッチならば、まだ国を立て直せば良い。だが、あれは違う。あれが一度暴れたら、国どころか世界が滅びる。それは、人も妖も関係ない。等しく滅びるぞ」


 護衛の雪女に告げると、その足は自然と速くなる。

 自分で吐いた言葉で、更に危機的な状況にあると再認識してしまったのだ。


 しかし、その足を止めさせる存在が現れた。


『ぬらりひょん様、お伝えしたい議がございます』


 その者の体は大きく、他の同種の妖よりも強い力を持っていた。


「……大天狗か。して、どうであった北の地は?」


 ぬらりひょんは立ち止まり、首を垂れた大天狗に問い掛ける。


『はっ、お役目は真っ当出来ずに、早々に見つかってしまいました』


「なに? では逃げ帰って来たのか」


『処分は如何様にも……』


「そうか。して、それだけではないのだろう? 北の地で何と言われた?」


 ぬらりひょんは大天狗の性分を理解している。

 実直で忠義者。

 主君を決して裏切らない武将のような存在だ。

 そのような者が、何事もなく戻って来るとは思っていなかった。


『北の主より、歓談の場を設けたいと』


「……そうか、後日返答する。それまで待機せよ」


『はっ、……ひとつお伺いしたい事がございます』


「なんだ?」


『北の主には、上位の存在である主人がいると申しておりました。それは事実で御座いましょうか?』


 大天狗の問い掛けに、ぬらりひょんは簡潔に答える。


「事実だ」


『……では、ここには、一体何をしに?』


「ダイダラボッチを復活させる」


『っ⁉︎ ぬらりひょん様は、この国を終わらせるおつもりか⁉︎』


「終わらせない為に成すのだ。眷属を見たのならば、お前も理解したはずだ。その主人の恐ろしさを」


『くっ⁉︎』


 反論出来ずに大天狗は黙るしかなかった。

 そして、ぬらりひょんの後に続き、ダイダラボッチが封印された場所へと向かう。


 到着した先には、小さな祠があった。

 その中には小さな小さな社が鎮座しており、幾重にも封印が施されていた。

 力が無い者ならば、触れただけで発狂するような物で、何人たりとも近付けないようになっていた。


 ただし、それは人の話であり、力のある妖怪は別である。


 ぬらりひょんは、東の地を治める大力ある妖怪だ。

 玉藻御前ほどではないが、結界や封印術も修めており、この封印ならば問題なく解除出来た。


 ただ、封印を解除するのには、ぬらりひょんでも三日は掛かる。

 それでも、奴を葬れるのであれば、大した労力とも思わなかった。


 ぬらりひょんは、ひとつ一つ丁寧に封印を解いて行く。


 そして、封印が解かれると同時に、護衛をしていた大天狗を含めた妖怪達は、ダイダラボッチに飲み込まれてしまった。


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― 新着の感想 ―
でもフウマの主ならば正直ダイダラボッチと仲良くできそうな気しかしないぜ
大国主か。神だからなぁ。
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