フウマ⑥
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玉藻御前の元から帰ると、洗濯物を干しているタエコがいた。
主人の田中は何をしているのかというと、
「ほぉ〜、アタタタタッ‼︎ アター‼︎」
割り箸を使って蚊柱を退治していた。
一見ふざけているように見えるが、これが訓練なのをフウマは知っている。
田中が少し力を込めて拳を振えば、蚊柱なぞドンッ! と爆散してしまうのだ。それをわざわざ割り箸を使って、絶妙な力加減で一匹一匹を捕まえている。これが訓練でなかったらなんというのだ。
「これぞ割り箸百裂拳。お前達はもう死んでいる」
そう、これは北◯を極める訓練なのだ。
というのはどうでもいいとして、「ブル」と嗎声いて帰宅を告げる。
するとタエコが振り返り、フウマを迎えてくれる。
「フウマちゃんお帰りなさい、朝から遊びに行ってたの?」
「ブルル」(ちゃうで)
「そう、楽しかったのね。お友達出来た?」
「ブルル」(ちゃうで)
「それは良かったわね」
「メー」
どちらも否定していたが、残念ながらタエコにはフウマの声は届いていない。
因みに言うと、玉藻御前にも通じていなかった。玉藻は、その場の空気やミミ子の反応を見て判断していたのだ。
「んじゃフウマ、あとは頼むな」
「ブル」
蚊柱を殲滅し終えた主は、フウマの帰宅を気付いており、目配せするとそれだけを言って出掛けてしまう。
これからダンジョンに行って、体を思いっきり動かすつもりなのだ。
さっきまでのお遊びではなく、戦いの勘を忘れない為の訓練。
それを二日に一度行っていた。
その帰りに誰かと会ったりしており、それを結構楽しみにしているのをフウマは知っている。
邪魔をするのも野暮というもので、いってら〜と送り出す。
さあ、今日もタエコの護衛だと側に行く。
何でもない一日だ。
今晩、また北の地に行かないといけないけど、それでも今は平穏を満喫したい。
タエコの隣を歩いて、危険がないか常に風を操って周囲を警戒する。だけど、この治安の良い国で危険なことなんて滅多に起こるはずもなく、特に何の異常も無い一日がまた過ぎて行く。
そう、ここまではよかった。
夕方に差し掛かり、庭で黒◯の練習をしていると、一羽の鴉が舞い降りた。
その鴉には三本の足があり、強くはないが特殊な力を感じる。
フウマはこの鴉に見覚えがあるような、無いような気がしていた。何とか思い出そうと捻り出して、名前を思い出せなかった。
そんな鴉である八咫烏が告げる。
『フウマ、ぬらりひょんが何かをしようとしている』
「ブル?」
誰だぬらりひょんって?
いや、もちろん名前は知っている。漫画やアニメにも出て来る妖怪だ。というか、最近聞いた気がするが思い出せない。
それがフウマの記憶容量だった。
『その反応はミミ子から聞いていないのか? 東の地を治める大妖怪だ。奴がフウマの主人に怯えて、何かを企んでいるぞ』
「ブルル!」
そりゃてーへんだー! と驚いているが、何が大変なのかまったく分かっていない。
それでも、何だかよくない気がする。
でも、そのおかげで、今度こそ呪◯師が現れるかもしれないと期待してしまう。
フウマはどこまで行っても己の憧れを忘れない、健気なバカ馬だった。
八咫烏に向かって、「ブルル⁉︎」どこにいる⁉︎ と尋ねる。
『恐らくは富士の樹海。あそこには国造りの大妖怪が封印されている。ぬらりひょんは、それを復活させようとしている』
「ヒン?」
ーーー
「あれは何だ。あんなのが存在してたまるものか。人の身で神に至る者はいても、個で世界を滅ぼせる存在など、いてたまるかっ⁉︎」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、ぬらりひょんは樹海に足を踏み入れる。
お供の妖怪も引き連れており、周囲を警戒させていた。
この地は、酒呑童子が討たれた場所ではあるが、それよりももっと重要な場所でもある。
国造りの大妖怪、ダイダラボッチ。
神に対抗する巨人族にして、その余りの強大さに封印された伝説の妖怪。
もしも封印が解かれたら、今ある国を滅ぼして更地にし、新たな国を作り上げるだろう。
そんな規格外の大妖怪が、富士の樹海に封印されているのだ。
ぬらりひょんは、ダイダラボッチを復活させるために、封印を解こうとしていた。
目的はもちろん、最近現れた強大な存在に対抗する為だ。
『ぬらりひょん様、本当にやるつもりです?』
「無論だ。ダイダラボッチならば、まだ国を立て直せば良い。だが、あれは違う。あれが一度暴れたら、国どころか世界が滅びる。それは、人も妖も関係ない。等しく滅びるぞ」
護衛の雪女に告げると、その足は自然と速くなる。
自分で吐いた言葉で、更に危機的な状況にあると再認識してしまったのだ。
しかし、その足を止めさせる存在が現れた。
『ぬらりひょん様、お伝えしたい議がございます』
その者の体は大きく、他の同種の妖よりも強い力を持っていた。
「……大天狗か。して、どうであった北の地は?」
ぬらりひょんは立ち止まり、首を垂れた大天狗に問い掛ける。
『はっ、お役目は真っ当出来ずに、早々に見つかってしまいました』
「なに? では逃げ帰って来たのか」
『処分は如何様にも……』
「そうか。して、それだけではないのだろう? 北の地で何と言われた?」
ぬらりひょんは大天狗の性分を理解している。
実直で忠義者。
主君を決して裏切らない武将のような存在だ。
そのような者が、何事もなく戻って来るとは思っていなかった。
『北の主より、歓談の場を設けたいと』
「……そうか、後日返答する。それまで待機せよ」
『はっ、……ひとつお伺いしたい事がございます』
「なんだ?」
『北の主には、上位の存在である主人がいると申しておりました。それは事実で御座いましょうか?』
大天狗の問い掛けに、ぬらりひょんは簡潔に答える。
「事実だ」
『……では、ここには、一体何をしに?』
「ダイダラボッチを復活させる」
『っ⁉︎ ぬらりひょん様は、この国を終わらせるおつもりか⁉︎』
「終わらせない為に成すのだ。眷属を見たのならば、お前も理解したはずだ。その主人の恐ろしさを」
『くっ⁉︎』
反論出来ずに大天狗は黙るしかなかった。
そして、ぬらりひょんの後に続き、ダイダラボッチが封印された場所へと向かう。
到着した先には、小さな祠があった。
その中には小さな小さな社が鎮座しており、幾重にも封印が施されていた。
力が無い者ならば、触れただけで発狂するような物で、何人たりとも近付けないようになっていた。
ただし、それは人の話であり、力のある妖怪は別である。
ぬらりひょんは、東の地を治める大力ある妖怪だ。
玉藻御前ほどではないが、結界や封印術も修めており、この封印ならば問題なく解除出来た。
ただ、封印を解除するのには、ぬらりひょんでも三日は掛かる。
それでも、奴を葬れるのであれば、大した労力とも思わなかった。
ぬらりひょんは、ひとつ一つ丁寧に封印を解いて行く。
そして、封印が解かれると同時に、護衛をしていた大天狗を含めた妖怪達は、ダイダラボッチに飲み込まれてしまった。