フウマ⑤
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目の前でミミ子が酷い拷問を受けている。
手足が縛られ、同族達に激しい仕打ちを受けて顔を歪めている。
キュンキュン⁉︎ と悲鳴が聞こえて来て、こちらも心が痛んでしまう。
ミミ子はやめてくれと、もうやめてくれないと死んでしまうと訴える。
しかし、誰もやめてはくれない。
ミミ子が自白するまで、くすぐりの刑は続行されるのだ。
フウマは思う。
ああはなりたくないなと。
可愛いらしい顔でも、あそこまで顔を歪めたらとてもではないが見ていられない。
あんなブサイクな面は晒したくないなと、爆笑し続けるミミ子を見て思った。
という夢を見た。
楽しそうな笑い声が聞こえて来て、うるせーなーと目を覚ますフウマ。
『おお、ようやく目を覚ましたか』
そう言うのは、夢の中で拷問を受けていたミミ子だ。
「ブル?」としながら辺りを見回すと、広い部屋でたくさんの妖怪達がどんちゃん騒ぎをしていた。
なんぞこの状況? と疑問に思っていると、ミミ子とは反対側から声が届く。
『これは北と西の友好の証、慶事と呼ぶにぴったりじゃありゃせんか? こういう時こそ、騒いで楽しみましょうよ』
そう笑うのは、九尾の妖狐の玉藻御前だった。
「ブル?」
しかし、今ので余計に分からなくなった。
北と西の友好の証とは何のことか、さっぱり分からないのだ。
『これフウマ、あれほど言ったであろう。禍ごとが起これば、互いに協力し合えるように同盟を結びに行くと』
「ブルル?」
そんなの言ったっけ? とよく思い出せないフウマ。
これは仕方ない。
記憶容量のほとんどをアニメや漫画に費やしており、他は残りかすのようにしか覚えていない。
その残りかすも、森での生活に割り当てられており、残りかすの残りかすしか普段の生活に使用されていないのだ。
『くぅ〜! 覚えとらんな⁉︎ フウマだから仕方ないと言えばそれまでじゃが、もうちょっとこう、しっかりしてくれぬか⁉︎』
「ヒヒン!」
『しっかりしてるって? そうか、フウマはそれでしっかりしているのだなぁ……。まあ良い! ちゃんとサポートしてやるからの!』
ガッカリとしながらも、それなら自分が補助すれば良いかとミミ子は考えを改める。
そもそも、フウマは妖怪側とは関係の無かった存在なのだ。
酒呑童子の暴走を止めてもらい、北の地を治めてもらっているだけでも、感謝しても仕切れなかった。
『話は終わりやんしたか? さっきはすんまへんでしたなぁ。まさか、眠りの香が効くとは思いませんした』
「ブル」
寝不足だったから、周りに便乗しただけだからと強がってみる。
フウマは魔法には強い抵抗力を持っているが、この世界独自の力であり、別系統の妖力に対してはそれほどではない。
身体強化を施せば、それなりに対抗できるが、無防備だと効果は抜群だったりする。
まあそれも、危険と判断した瞬間に相手を制圧するので何も問題は無いが。
つまり玉藻は、それだけ危険な行為に及んでしまった。
もしも使った技が、フウマの身に危険を及ぼす物なら、その首は落とされていた。
だからミミ子は非難する。
『母様、何故あのようなまねを? フウマの力は本物ですじゃ。酒呑童子でも何も出来ずに滅ぼされました。もしも、フウマが敵と判断していたら……』
母様は死んでいた。
そう言葉を続けそうになるが、それは言わないでいた。
心配するというのが、大妖である九尾の妖狐に失礼に当たると思ったからだ。
しかし玉藻は、心配してくれているミミ子の姿が楽しくて、嬉しそうに微笑む。
『ふふっ、心配してくれるのかえ? その時は別の者が跡を継げばよいじゃありゃせんか。それよりも、まずはあの強大な存在が何を企んでおるのか、我らをどうしたいのか知ることが先決でしんた』
『それは、命を賭してでもやる価値があったと?』
『ええ、妖の命運が掛かった事態でありんすからね』
この国に突然現れた強大な存在。
下手をすれば、世界を滅ぼしてしまえるかも知れない存在。
そんな危険な存在が現れたら、最大限まで警戒するのは当然だった。
これは、かつて己の過ちで妖怪を滅ぼしかけた玉藻の贖罪でもある。
もちろん、ミミ子からも報告は受けているが、それを全て信用するほど玉藻は愚かではない。
東の地を牛耳る大妖怪、ぬらりひょんは情報戦を得意としていた。己の力もさることながら、誤情報を流して意図的に操ることもあるのだ。
玉藻もそれなりにするのだが、ぬらりひょんには一手二手先をいかれていた。
おかげで、騙されたことは何度もある。
だから、確かめるなら直接この目で、という結論に至ったのである。
『まあそれも、杞憂であったようでありんしたがね……』
フウマから害意はまったく感じない。
ミミ子からの報告にあったように、あの強大な存在は妖怪達にまったくの無関心。というより、その存在に気付いてすらいないのだろう。
「ブル!」
そんな玉藻の心配なぞ知ったことかと、フウマはどんちゃん騒ぎに参加していいかと聞く。
するとミミ子が『行ってよいぞ』と言い、「ヒヒーン!」と飛び出して行った。
その後ろ姿を見て玉藻は、ふとフウマを操れるのではないかと考えてしまう。
これは興味本位だった。
試しに妖力を伸ばして触れてみると、
『ッ!?』
この世の物ではない、世界を滅ぼすような存在達に邪魔をされてしまった。
口元を押さえて顔を青くする玉藻御前。
強大な存在の眷属もまた、強大な存在なのだと悟るのだった。