フウマ④
《告知!》
【無職は今日も今日とて迷宮に潜る2巻】
4月25日にオーバーラップノベルスより発売されます‼︎
あの剣をデザインしていただいたので、是非、口絵を見ていただきたいです‼︎
フウマの話は、今回の投稿終了後移動させます。
みみ子→ミミ子に変更
ぬらりひょんからの偵察だった大天狗。
それを返したのが昨日で、本日は九尾の妖狐と会う予定になっている。
「メ〜」
だけど、そんなのに会いたくないフウマは悲しげに泣く。
別に怖いとか、争いになったらどうしようとか心配しているわけではなく、とにかく面倒くさいのだ。
夜な夜な家と北を行ったり来たりして、もう疲れたのだ。
いい加減休みたい。
昼間は妊っているタエコを護衛しないといけないし、その間に漫画やアニメもチェックしないといけなくて、とても寝る暇なんてまったくもって微塵もこれっぽっちも無いのだ。
『ほれ、行くぞフウマ。母様と同盟を組むのじゃ』
当たり前のように背に乗ったミミ子に、ポンポンと急かされる。
この背中はそんなに安くないというのに、どうしてこの子はタクシー感覚で乗っているんだろう。
初乗り千円からだけど、ちゃんと払ってくれるのか?
金だ、金を寄越せ。漫画を買う資金にするんだ。何だったら現物でも可。
なんてことを「ブルル」と嗎声と、『馬鹿言っとらんで行くぞ。えっ嫌って? 分かった分かった。漫画は今度用意しておくからの』と理解してくれたようである。
交渉は成立したと、フウマは一息に空を駆ける。
目的地は西、ここから二百キロとそこまで離れていない。
フウマの速度ならあっという間の距離である。
『フウマ! フウマァ⁉︎ 行きすぎじゃ! 海に出とるぞ⁉︎』
「メッ⁉︎」
近いせいで行き過ぎてしまった。
夜というのもあり、暗闇が支配していて景色が分かり難かったのもある。
失敗失敗とテヘペロしつつ急いで戻り、やって来たのは温泉街。
「ブル?」
そこは全国的にも有名な観光名所だった。
様々な温泉があり、多くのホテルや旅館が立ち並んでおり、その成り立ちは江戸時代まで遡るとも言われている場所だった。
観光名所なだけあり、夜中でもそれなりに人が行き交っている。
そんな中に降り立ったのだが、誰もフウマ達のことを気にしていない。
フウマはふと上を見ると、何らかの力がこの温泉街を覆っているのに気が付いた。恐らく、これが何らかの認識阻害を発生させているのだろうと当たりを付ける。
大抵のアニメや漫画では、こういうのは定番なのだ。
僕は詳しいんだ。
フウマはそう自信を持って自慢した。
『こっちじゃ』
そんなフウマを無視したミミ子は、多くの人が行き交う中を平然と進んで行く。
狐の耳があり、三尾が揺れているというのに、誰も気にしていない。これはつまり、これでフウマの推測は証明されたということだ。
「ブルル!」
ほら、やっぱり言った通りじゃん! と自慢にもならない自慢をして、ミミ子の後について行く。
周囲を見渡しながら進んで行くと、人とそうでない者が入り混じっているのに気付く。
そうでない者は妖怪で、人に擬態しており、パッと見では気付かないほど自然な見た目と仕草をしていた。
フウマが気付いたのは、妖怪という存在を認識しているのと、その異様な力を感じ取れるからだ。
チラリと見ると、妖怪は口元を隠して視線を外す。
こちらを品定めしているのだと分かるが、なんだこの野郎と殺気を飛ばすと、怯えたように去って行った。
『こりゃやめい! ここの者達は普通に生活しておる者達じゃ。争いを好まん、大人しい奴らしかおらん。フウマの殺気なんかに当てられたら、卒倒して死んでしまうぞ!』
「ブル」
大丈夫、手加減しているからと言い訳をすると、
『そういう問題ではない! やめいと言っておるんじゃ、分かったな!』
もっと怒られてしまった。
仕方ないから、シュンと落ち込んだフリをしてみる。
すると、ミミ子があわあわし出して面白かったので、「ヒヒッ」と笑ってやった。
揶揄われたと分かったミミ子は、『もう知らん!』とそっぽを向きながら歩き始めた。
このじゃれ合いは、最近気心が知れて来た関係になった証のようなものだった。
九尾の妖狐、玉藻御前がいるのは、この温泉街で最も古く最も格式高い旅館。
一泊数百万円という金額が付いており、この国の皇族が何度も泊まりに来ているのでも有名な場所だった。
そんな旅館の最奥。
関係者でも立ち入りが許されていない秘密の間。
そこに玉藻御前はいた。
襖を開けた先には何人もの妖狐がおり、その誰もがミミ子よりも尾が多く、強い力を持っているのが感じ取れる。
その中でも一際目立つのが、白い着物を着た九尾の妖狐。
『よう来たな、ミミ子。元気しとったかえ』
キセルを持った玉藻御前は、ミミ子に声を掛ける。
久しぶりの親子の再会ではあるが、百を越える子を持つ玉藻には、ミミ子に対する愛情はほとんど無い。あるのは、与えられた役目を果たせているのかどうかだけ。ミミ子の名前も、来るという知らせがあって思い出したくらいで、ただ取り繕う為に言葉を述べているに過ぎない。
それを理解しているミミ子は、特に何とも思わずに応対する。
『母様、お久しゅうございます。此度はお時間を取っていただき、感謝いたします』
『よいよい、そう堅苦しいのはよそうではないか。そこの者かえ? 酒呑童子を討ったというのは』
玉藻の視線がフウマに向かう。
その目は、フウマという存在がどういったものなのか、見定めようとしていた。
しかし、当のフウマは玉藻に対して興味を失っていた。
え、これがあの九尾?
七代目◯影を追い詰めたあの?
槍の少年の最大の敵だった白面のあの?
いくら何でも、迫力が足りなくない?
あの伝説の妖怪だよ?
地形くらい軽く変えるだけの力持っといてよ……。
これじゃあ、尻尾の生えたただのおばはんやん。
なんて失礼なことを思いながら、ガッカリしていた。
『どうしなんした、ため息なんかついたりして?』
『こっこれフウマ! 母様の前じゃ、しっかり、しっかりせえ!』
「ブル」
そんなん言われても知らんて、と愚痴りながらもシャキッとしてみる。
そうする理由は、ミミ子があわあわしていたからだ。
きっと母親が怖いに違いない。
そう勝手に解釈をして、ミミ子の為に頑張ってやろうと気合いを入れたのである。
「ヒヒン!」
今度はなんやこの〜と睨み付けると、コロコロと笑われてしまった。
『なんとまあ、面白いお方。あんさんは、本に酒呑童子を討ったのかえ?』
『母様、それは真実ですじゃ! フウマの力は、この国の妖怪の中で最も強いですじゃ』
「メッ⁉︎」
違うよ⁉︎ 妖怪じゃないよ!? まさかの妖怪呼ばわりをされて驚きを隠せない。
確かに主人である田中は人の領域にいないが、フウマとしては極々普通の召喚獣のつもりだった。
確かにあのデブの影響で、かなりの力を持ってしまっているが、妖怪呼ばわりされるほどではないはずだ。とフウマは思っていた。
そんな反応をよそに、玉藻は目を細めて『ほう』とフウマを見る。
突然現れた強大な存在を玉藻も認識していた。
その眷属が酒呑童子を討伐したというのも、ミミ子から予め報告を受けていた。
見た目は小さな豚……、いや馬か? とはっきりとはしないが、己の眷属であるミミ子が言う以上、それは真実なのだろうと受け入れる。
玉藻自身も、大妖怪として西の地を治めており、プライドが無いわけではない。
しかし、己よりも強い酒呑童子を討伐した者に、勝てるとも思えなかった。
『フウマ、と呼んでも?』
「ブル?」
別にいいんじゃね? とシャッキっとした顔で答える。
すると、先程までの穏やかな雰囲気が一変して、張り詰めた物に変わる。
『っ⁉︎ か、母様?』
それは、玉藻がフウマに向かって強烈な妖気を叩き付けているからだ。更に、妖艶な香りが漂い始め、クラクラとしそうになる。
『フウマ、何を企んでおる? あの強大な存在に何を指示された? 我ら妖を滅さんとするか? さあ、答えい!』
先程までとは違った気迫を発する玉藻。
放った香りには、知性ある者を惑わす妖気が込められており、たとえ強者であろうと逆らうことは出来ない。
「ブル?」
しかし、見せかけの知性しか持っていないフウマにはノーダメージだった。
一体何のこと? と、あるかも怪しい小首を傾げて疑問を浮かべる。それを見た玉藻は、焦りを見せて扇子を手に取った。
『ぬぅ……我が魅惑の香が効かぬのか。では、これでどうかえ?』
今度は、眠りに誘う安らぎの香が放たれる。
嗅いだ者達は、たとえ同族だとしても次々と膝を付いて倒れて行き、それは『かあ……様』ミミ子も例外ではなかった。
だがフウマは、「……ヒヒッ」思いっ切り眠ってしまった。
この惨状を作り出した玉藻はフウマを見下ろして、
『……おりょ?』
眠ったことに困惑していた。