おまけ話③(フウマ)
1巻重版記念に投稿します。
これも皆様のおかげです!
ありがとうございます! ありがとうございます!
重版の告知で、活動報告も更新しております。
なお、明日も投稿しますが、フウマの話とは関係がありません。
ミミ子は拘束した大天狗を前に、頭を悩ませていた。
目を覚ました大天狗に「何故、北の地にいたのだ?」と問いただしたのだが、黙りを決め込んでおり何も答えてくれない。
とはいえ答えないのは分かっていたので、それはどうでもいい。
では、何に頭を悩ませているのかというと。
「殺せー‼︎」「敵じゃ! 東の地から攻めて来あったぞー‼︎」「戦じゃー! フウマ様の初陣じゃー‼︎」「東を焦土に変えてやろうぞ! ささっフウマ様、号令をおかけくだされ」
大天狗が東の主である、ぬらりひょんの配下なのは皆が知っていた。おかげで、集まった妖怪達は殺気立ち、戦だと喚いているのだ。
眉間に皺を寄せたミミ子は声を張り上げる。
『落ち着かんか馬鹿者共! それじゃ、酒呑童子を止めた意味が無くなってしまうじゃろうが!』
フウマを持ち上げて、戦を始めようとする妖怪達を一喝する。
結果として倒してしまったとはいえ、ミミ子が酒呑童子を止めたいと思ったのは、世の混乱を防ぐためだった。
ここで戦を起こせば、今度は東の地が混乱し大災害に見舞われてしまう。それでは本末転倒だ。
もちろん、北の地の妖怪が敗れたら、混乱するのは北の地だ。しかし、フウマというヤベートップを得た北の地に負けはない。
負けるとすれば、それはフウマの主が敵に回るか、この国が滅びて勝者がいなくなった場合だろう。
つまり、戦になれば確実に東の地が落ちる。
「おい、どうすんだよこれ⁉︎ 本当に攻め込むのか⁉︎ だったらあたいも参加してやるよ!」
刀を持った赤い鬼、朱鬼が好戦的な笑みを浮かべる。その隣には蒼鬼も立っており、無表情で戦輪を手にしていた。
『主らもやめい! 大天狗よ、この状況が分かるか? お主がどういった目的で来たのか話さぬのなら、大きな争いが始まるぞ。主の主人であるぬらりひょんは、それを望んでおるのか?』
座っているにも関わらず、見上げるほどに大きな大天狗に問い掛ける。
すると、大天狗は観念したのか、喋り始めた。
「……ぬらりひょん様からは、酒呑童子を破った者を探れと指示されただけだ。争いは望んでいない。あのお方は平穏を愛しておられる」
それを聞いて、ミミ子は安堵した。
争いを望まないのならば、北の地から攻める理由も無い。
「ヒヒーン」
安堵したのはフウマも同じようで、いつも通りの姿に戻ったフウマは良かった良かったと嗎声いていた。
そんなフウマを見ていた大天狗は、何とも言えない表情をしていた。きっと、さっきまでの凛々しい姿とのギャップに、理解が追い付いていないのだろう。
「この者が酒呑童子を討ったのだな?」
『そうじゃな。ぬらりひょんも分かっておるとは思うが、フウマの主にだけは手を出すなよ。下手をすれば、我らは滅ぼされるぞ』
「なに? これ以上の化け物がいるのか⁉︎」
ミミ子は、ここで思い違いをしていたと気付く。
てっきり、ぬらりひょんにフウマの主の事を聞いていると思っていたが、どうやら違っていたようだ。
『知らされておらんのか? ……ちょうど良いか、皆の者もよく聞いておれ。フウマには主人がおる。その者は、天津神を超える力を持った存在だ。決して手を出すな、敵対すれば滅ぼされるのは、我ら妖ぞ』
その話を聞いても、誰も信じなかった。
理由は、フウマが規格外の存在であり、それを手懐ける存在など想像出来なかったからだ。
実際に見ればその考えも変わるのだろうが、この中にはあの光を見て、自ら浄化されるのを選ぶ妖怪も存在するだろう。
下手をすれば、ここの妖怪は激減して、東西南北のパワーバランスが崩れてしまう。
数は力だ。
だから、少しでも妖怪の数は……数は……フウマを見る。
別に減っても問題ないかな、と思ったミミ子だった。
どれほど有象無象を揃えようと、フウマの前では塵芥と変わらない。
正直、フウマ一体だけでも、この国の妖怪全てとやり合えるどころか、圧倒する力を持っていた。
そんな存在を前に、数を語ろうとするのは、どうにも虚しくなってしまった。
「馬鹿な、そのような存在が……」
『おる。だから酒呑童子は動き出し、フウマに止められたのじゃ』
そこまで言われて、大天狗は反論出来なくなってしまった。
その後、大天狗にぬらりひょんへの伝言を頼む。
解放された大天狗は立ち上がり、その姿を「ブルル」とでけぇなーと眺めていたフウマを見て、恐れ慄いて身震いしていた。
大天狗は、本来なら風を操るのを得意としている妖だ。
それが強力な竜巻に巻き込まれ、抵抗することも出来ずに気を失ってしまった。それも、その竜巻に攻撃する意思はなく、ただのデモンストレーションのような物だったにも関わらずだ。
その力が、敵意を持って放たれたらと考えると、余りにも恐ろしい存在に見えてしまった。
夜の空へと飛び立った大天狗は、闇に紛れて姿を隠す。
これで、伝言が届けばぬらりひょんとは争う事はなく、話し合いの場が用意されるはずだ。
そう安堵したミミ子は、フウマに語りかける。
『フウマ、明日は西に向かうぞ』
「ブル?」
『うむ、西だ。西にいる母様、玉藻御前に会いに行くぞ』
西を統治するのは九尾の妖狐であり、かつて最強の陰陽師を生み出した妖怪。
多くの妖を葬り、一部の妖怪からは今も恨まれている。
それがミミ子の母である。
一応、ミミ子がいる土地も西側には所属しているので、土地のボスに会いに行くようなものだった。
本来なら、最初に出向かなければならなかったのだが、北がゴタゴタしていたせいで、それどころではなかったのだ。
だから、フウマに告げたのだが、当のフウマは、
「ヒヒン」(え、めんどい)
とマジ勘弁といった様子だった。
「コン⁉︎」『そりゃなかろう⁉︎ わがまま言わないで、明日も同じ時間に行くからの!』
フウマの背中を叩きながら、ミミ子はフウマに跨る。
『明日また来るからの、大人しくしておれよ』
そう北の妖怪達に言い残して、ミミ子とフウマは空に飛び立った。