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権兵衛へ

1巻重版記念に投稿します。

これも皆様のおかげです!

ありがとうございます! ありがとうございます!


重版の告知で、活動報告も更新しております。

 この手紙が読まれているって事は、もう俺はこの世にいないんだろうな。


 だから、ここで自己紹介させてもらうよ。

 俺は天津平次、権兵衛にナナシって呼ばれていた男だ。

 覚えてるか?

 忘れてたらぶん殴るから、絶対に思い出せよ。


 あー、どこから書いたらいいんだろうな……。


 お前達と別れてからを、詳しく書こうかと考えたけど、どうにも内容が多くて終わりそうもない。だから、細かいことは端折っておくな。


 恐太郎に元の時間軸に戻されて、俺はユグドラシルの所に行ったんだ。そこはとても発展していてな、俺の言葉じゃ言い表せないくらい凄かったんだ。


 まあ、この手紙を読んでいるなら、権兵衛も行っているだろうから分かるよな?


 そこではさ、あのチビが英雄なんて呼ばれていてよ、滅茶苦茶笑ったよ。やっぱり親子なんだなってな。

 残念ながらチビには会えなかったけど、無事が分かっただけでも安心したよ。


 今、会うまで残ればいいじゃないかって思っただろ?


 俺もそうしたかったんだけどな、チビに役目があるように、俺にも役目があるんだよ。

 だから、早く地上に戻らないといけなかったんだ。


 ユグドラシルに地上に送ってもらって、俺がしたのは仲間の安否の確認と、新たな仲間集めだった。

 あのとき、話した内容覚えてるか?

 大きな組織と争っているみたいな内容。

 あれな、日本の政府なんだよ。それを裏で操っている御庭番って連中がいるんだけど、そいつらを追い出して、探索者の権利を獲得するのが目的なんだ。

 でもさ、あいつら強くてな、前までの俺じゃ太刀打ち出来なかった。


 そうだ、前までの俺ならな。


 あの剣、権兵衛が使っていた剣。恐太郎が身を変えた物だって知ってたか?

 お前達と別れてから、恐太郎は俺の肉体に宿った。

 目的は権兵衛、お前を見つけ出してサポートする組織を作る為だ。

 それは、俺の目的とも合致していて、文句は無かったよ。


 そのおかげで、権兵衛に匹敵する力を手に入れたしな。

 文字通り、最強の力を手に入れたんだ。

 誰も敵わないほどに、圧倒的だった。

 おかげで、負ける気がしなかったぜ。


 まあ、その結果起こった事は教科書にも載っているから、権兵衛も知っているかも知れないな。


 結構な血が流れた。

 権兵衛ならもっと上手くやれたかも知れないけど、俺じゃこれが限界だった。

 それでも、俺なりに頑張ったんだ。


 そんな中で、気付いた事もある。


 なあ権兵衛。どれだけ強い力を持っていても、一人でやれることには限界がある。仲間がいても、一人で突っ走ったら意味がない。結果的に、多くを危険に晒してしまう。

 俺が言えた義理じゃないが、周りを頼れ。

 敵でも対話出来るのなら、語り合え。

 争い続けた血みどろの手じゃ、大切な人を抱きしめられない。

 俺みたいな過ちを犯すなよ。

 これは、余りにも辛すぎるぞ。


 まあ、俺が何と言おうと、お前は我が道を行くんだろうけどな……。


 俺にとっては、あんたは凄い男だ。

 命の恩人で、憧れの存在だ。

 俺はきっと、あんたの為に生まれたんだろうなって思ってる。


 ああ、寂しい人生だなとかは思うなよ。

 これでも誇りに思ってんだからな。


 権兵衛に出会えた。

 それだけで、俺の人生は光が差したんだ。


 一度くらい、酒を酌み交わしたかったけれど、出会えないのは確定しているからな。

 出会えば、権兵衛は迷宮には挑まない。

 挑んでも、あそこまでの力は得られない。

 そうなれば、チビも育たなくて、俺もあそこで死んでしまう。この探索者協会も無くなってしまう。


 だから、俺はあんたの名を知らないまま先に行くよ。


 権兵衛、あんたに出会えて良かった。

 

 あの世で会ったら、酒でも飲もうぜ。

 じゃあな……。



                 天津平次




ーーー



 馬鹿野郎が、そう悪態を吐きながら酒を注いだコップを置く。


 目の前にあるのは『天津家』と書かれたお墓だ。

 ナナシこと、天津平次の墓参りに来ていて、足元にはフウマもいる。


 この手紙は、先日ギルド長から受け取った。

 なんでも、俺に渡すように言われていたそうだ。


 あのよ、俺が凄いみたいに書いてあるけど、そんなに大したことないからな。

 力が強くなって、軽く世界滅ぼせるかも知れないけど、守れる物なんてそんなに多くないからな。

 そもそも、俺は頭が良くはないんだ。

 力の使い方を間違える可能性だって、滅茶苦茶あるんだからな。

 あまり買い被られても困るんだよ。


 はあ、と息を吐き出して、俺も日本酒を飲む。

 結構お高い物を用意したので、辛口なのに飲みやすくて美味かった。


 なあ、ナナシ。

 世界が滅びるのが確定しちまった。

 それも五十年以内だ。

 でもさ、俺はそれを許すつもりはない。

 何せ、この世界にヒナタが生まれちまったからな。絶対に守らなきゃいけなくなった。

 それに、都ユグドラシルも守らないといけないんだ。


 まったく、やる事が多過ぎて嫌になるぜ。


 お前は争い続けた血みどろの手って言うけど、それは守る為の手なんだよ。

 血みどろだろうが、その手は素晴らしいんだ。

 誰が否定しようが、俺はそう肯定するよ。


 だから、お前は誇りを持っていい。

 ナナシ、お前のおかげで助かった命は、途方もない価値があるんだ。

 それから目を逸らすな。

 お前こそ、周りを見ろ。

 ギルドを作って、誰もが尊敬するお前が否定したら、全ての命が無価値になっちまうだろうが。


 俺が俺を否定しない為にも、俺はお前の行いを否定しない。


 じゃあな、ナナシ。

 これからも俺は、戦い続けるよ。

 あの世で会ったら、また飲もう。

 

「さあ行くか」


 そうフウマに告げると、フウマに跨った。

 そしてフウマは酔い潰れた。


 …………この野郎っ。


 このバカ馬は、何を考えているのか残った酒を飲み干していた。

 最後まで格好付かなくて一人で赤面してしまう、そんな墓参りだった。

 

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ナナシが失敗したのは親ガチャだろ?勘兵衛はナナシの親やで
ナナシの子育て失敗言ってる人いるけど父親だでな 息子は大道の親父で奈落で骨になっとったやつやでな
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