ネオユートピア24
明日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます。
活動報告に特典情報を載せています。
『自分で飛べないのか?』
「無理、もう魔力が無いんだよ」
「ブルル」
地上へと降りながら、ヒナタと落ち着いた会話をする。
今のヒナタの状態は、左手で俺を持ち、足でフウマを挟んでいる。
どうして右手ではないのかというと、ヒナタが持つ長剣に理由がある。
「なあ、その剣ってト太郎なんだよな?」
『そうだ。俺を一人にするのが心配だって、側にいてくれる為に姿を変えたんだ』
「そうか……んで、どうして骨が引き寄せられてんだ?」
『さあ?』
俺達が斬り、砕いた骨は長剣へと引き寄せられていた。
昔の肉体を再生するとかそういうのではなく、ただ単にト太郎の魂に肉体が引き寄せられているように見える。
一部は地上に落下して、回収出来なくなっているが、それはもう仕方ないだろう。
「収納空間に入れておくか、邪魔だろう?」
『頼む、ちょっとこの量は持てないや』
骨の量もかなりの物になっており、どう考えても重量オーバーだ。
ちょちょいと収納空間に入れていると、地上が近付いて来ていた。上を見上げると、未だに都ユグドラシルの姿があり、報道局っぽいヘリも飛んでいる。
レンズがこっちを見ているが、気にしない方向で行こう。
「これ、どうすんだよ。もしかしてこのままか?」
『いや、下にある魔法陣も、もう直ぐ消滅する。あれが消えたら、こことの繋がりも消滅する』
「そうか、なら安心だな」
『多分だけど……』
「おい! こっちは真面目に心配してんだよ! 適当な事言うなよな」
『仕方ないだろ、こんな事初めてだし、予測でしか物を言えないんだよ。それに、ユグドラシルが何とかするだろ?』
「それな」
困った時は、上司に丸投げ。
こんな事態になったのも、多分だけどユグドラシルも関係しているはずだ。だから、責任はユグドラシルに取ってもらおう。
そんな勝手な事を喋りながら、二人で笑った。
地上に降りると、そこはネオユートピアで、地面に足を付けると同時に地面に転がった。
魔力が切れていて、体に力が入らない。
「ブルル」
それはフウマも同じようで、地面に転がって動けなくなっていた。
『大丈夫か?』
「大丈夫、直ぐに回復するから周りを警戒しといてくれ」
魔力循環を意識して、魔力回復に当たる。
このスキルも慣れたもので、集中していれば半日くらいで魔力が満たされる。
倒れて動けない俺とフウマを見て、ヒナタは苦笑していた。
だが、次の瞬間には表情を歪めてしまう。
それから、突然咳き込みだし、うずくまってしまったのだ。
「お、おい、ヒナタ⁉︎ ヒナタどうした⁉︎」
うずくまっていたヒナタは、大丈夫だと手を振って答えるが、口元は血で汚れていた。
その姿を見て、ユグドラシルの言葉を思い出した。
〝ヒナタはもう限界なのじゃ〟
あの言葉が真実なのだと、ヒナタの姿は物語っていた。
俺は苦しんでいるヒナタを見ている事しか出来なかった。
「ブルル!」
フウマも心配しており、治癒魔法を使おうと魔力を捻り出している。だが、それで治療が可能なら、ユグドラシルがとうの昔に治しているだろう。
アマダチを使う度に、ヒナタの命は削られている。
もう、こいつを戦わせてはいけない。
俺が、ヒナタを戦わせない。
そう心に誓う事しか出来なかった。
だから、せめて言葉を送ろう。
「ヒナタ、お前はお前の為に生きろ、後は俺がやるから……」
だから安心しろ。
そこまでは言えなかったが、俺の思いは届いたのか、苦しそうに微笑んでいた。
だが、それに対する返答は、
『頼む。って言いたいけど、あれじゃあ、まだまだ俺が頑張らないといけないな』
そう生意気そうに言うヒナタ。
「馬鹿言え、あの程度のモンスターなんて、俺一人で十分だ」
なんて強がって返してみる。
正直、あのやばい魔法を使われなかったら、なんとかなるかも……いや無理だな。
あの世界を滅ぼすような魔法を使ったからこそ、黒龍は激しく消耗していた。
もしも、消耗していなければ、先に限界が来ていたの俺達だろう。
もう、あんなのと戦いたくないなぁ。
そんな弱音を内心吐きながら、気になった事を聞く。
「ト太郎って、元の肉体には戻れないのか?」
『戻れるみたいだけど、千年以上眠る必要があるらしい。だから、落ち着くまではこのままでいるってさ』
長剣を掲げて、寂しそうにしているヒナタ。
ト太郎がヒナタを思って、その身を変えたとさっき言っていた。だとしたら、元の肉体に戻れないのはヒナタの為とも受け取れる。
千年も眠れば、ヒナタも生きているのか怪しい。俺だって死んで……死んでない気がするなぁ。
何故か遠い目をしてしまう。
『……なあ、どうして親父は太ってるんだ? フウマも俺の知っている姿じゃないし』
「あ゛っ⁉︎ 太ってねーし! ぽっちゃりしてるだけだし! 直ぐに元の体型に戻るし! そこらのデブと一緒にするんじゃねーよ!」
「ブルル!」
親に向かってなんつー口の利き方したんだ⁉︎ 誰に育てられたんだこの野郎!
フウマだってこのデブと一緒にするなと言っている。そうだ、そこらのデブと一緒にされちゃ困っ……あれ? 今、こので俺を指さなかったか、このバカ馬。
ジロリと睨むと、フウマも俺をジロリと睨む。
……やんのかこの野郎。
『悪かったって、喧嘩するなよ二人とも。親父達は、もう、このまま来るのか?』
「ん? ああ、そうだな……いや、少し待ってくれ。別れを言いたい人がいる」
たぶん、これが最後になるだろうから、別れはしっかりとしておきたい。
父ちゃんと母ちゃんには言っておいたし、兄ちゃんと姉ちゃんは、まあ大丈夫だろう。
弟か妹の姿も見たかったが、それはもう諦めよう。
都ユグドラシルの方を見ると、そこから天使達が地上に降りて来ていた。
向かっているのは、ネオユートピアの巨大な魔法陣の所なので、この事態を直す方法があったのだろう。
「もう少し魔力が回復したら、その人の所に行って来るから……」
『分かった。俺も着いて行った方がいいか?』
「いやいい。つーか、ヒナタが一緒だとみんな驚くだろうからな」
避難している場所からでも、天使が降りて来ている光景は見えているだろう。もしかしたら驚かないかも知れないが、念には念の為だ。
別れに、余計な感情は必要ない。
それに、ヒナタがいたら俺の顔面偏差値にケチが付くかも知れないので、お前は俺の隣には並ぶなと言いたい。
まあ、そんな事は言わないんだけどね。
『……親父はさ、こっちに家族がいるんだろう? 良いのか、本当に?』
空に向けていた視線をヒナタに向けると、申し訳ない表情をしていた。
それを見て、おかしくて笑いそうになった。
「ばっか、もう別れは済ませてるよ。それにな、ヒナタ、お前だって俺の家族だろう」
『っ⁉︎ ああ、そうだな……』
人の事、親父って呼んでおいて、家族じゃないはないだろう。
ヒナタが俯いているので、喜んでいるのかどうかは分からないが、拒絶はしていないので大丈夫だろう。
そろそろ、動けるくらいには魔力も回復して来たので、どっこいしょと体を起き上がらせる。
「メ〜」
すると、まだ動けないフウマが俺も連れて行けと訴えて来る。
そういや、こいつは千里に懐いていたからな。
フウマも最後の別れがしたいのだろう。
しゃーねーなとフウマの所に行こうとして、視界の端に何かが走った。
咄嗟だった。
風で自分を吹き飛ばして、ヒナタに向けて飛んだ。
驚くヒナタを突き飛ばして、その何かから逃す。
何かが体を貫く。
痛い、というより熱い感覚が胸元に広がる。
「がはっ⁉︎」
吐血しながら胸元を見ると、そこには機械の腕が鎧を砕き俺の心臓をくり抜いていた。
「おいおい、今のに反応すんのかよ。半端ねーな」
顔だけ背後を向けると、そこには知らないおっさんがいた。
顔立ちはナナシに似てない気もしないが、どちらかというとダイドウに似ている。
だが、別人だ。
ダイドウは、こいつほど邪悪ではない。
「誰、だ?」
「そういや、俺とは初対面だったな」
「キュ⁉︎」
ヒナタが男に斬り掛かる。
それを「おっと」と呟きながら離れて回避する。
離れた男の手には、俺の心臓が握られており、今も元気に鼓動していた。
「ああっ、やべーな、お前を見ると怖くて震えて来る。だから弱ってるテメーを狙ったんだけどなぁ」
男はヒナタを前にして、体が震えていた。
何があったのか知らないが、本当にヒナタが怖いのだろう。
「がはっ⁉︎ あの、それ、返して、もらえません、俺のなんですけど……」
治癒魔法を使いながら延命する。
はっきり言って、大ピンチだ。
魔力が足りないせいか、心臓が再生出来ない。
だから、男の機械の手にある俺の心臓を返してもらいたいのだが、返って来た返答は最悪なものだった。
「返すわけないだろうが。俺の狙いはそこの天使だが、こいつの狙いはお前だからな」
俺の心臓を持った機械の手は形を変えて、心臓を飲み込んでしまった。
その形には見覚えがある。
あの森で、俺が倒したゴーレムが持っていた物に似ている。
膝をつく。
心臓が飲み込まれた瞬間に、体から力が抜けてしまった。
何かの繋がりが切れてしまったかのような感覚を覚える。
……こりゃ、やばいな。
『返せ!』
「あははっ! いい感じに消耗してんじゃねーか! これなら俺でも殺せそうだなぁ!」
ヒナタの動きを見て、男は刀を取り出し応戦する。
男は確かに強い。
消耗した今のヒナタでは、勝てるかどうか分からない。
「……フウマ……」
フウマを見ると、よろよろと立ち上がり俺に寄って来る。
俺が死ねば、フウマも消える。
「ブルル」
「すまん……しくじった……」
俺の心臓を再生させようと、フウマも治癒魔法を使うが、結果は変わらない。
悪いなと、フウマの頭を撫でてやる。
こいつが頭を撫でられるのが嫌いなのは知っているが、今は何の反応もしなかった。
そんな俺達を他所に、新たな存在が現れた。
「貴様はぁーーー‼︎‼︎」
それは悲鳴のようにも聞こえた。
声を発した女性は、ギルド長のおばちゃんだった。
おばちゃんは刀を取り出すと、姿を消して、男に斬り掛かる。
苛烈に攻めるおばちゃんの目は憎しみに染まっており、まるで周りが見えていないようだった。
「おい、どこのどいつかは知らないが、邪魔すんじゃねーよ」
「私を忘れたのかい! 私ゃ、一時もあんたの顔を忘れた事なんてなかったよ!!」
果敢に攻めて行くおばちゃんだけど、残念ながら相手が悪かった。
男に全ての攻撃を受け止められ、空間を飛んで逃げた所を狙われて、突き刺されそうになる。
そこをヒナタがカバーして、何とか命拾いしたが、ヒナタの足手纏いになってしまっていた。
俺もどうにかして……あの男を倒してやりたい……。
だけど……もう……視界がぼやけて……よく……見えない。
「こんな……終わり……かよ」
情け無ぇなぁ……。
視界が真っ暗に染まり、体の感覚も無くなった。
こうして、俺は死んだ。