ネオユートピア23
11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます。
活動報告に特典情報を載せています。
明日は6時と18時に投稿。
カッコよくなったフウマに跨り、空を駆ける。
骨の頭部になった黒龍は、空に向かって恐ろしい魔法を放っていた。
その魔法が何を意味するのかは知らない。
ただ、そんな隙だらけの状態を見逃す訳にはいかなかった。
「アマダチ!」
白銀の大剣を生み出し、全てを断つ剣を放つ。
黒龍は反応するが、回避は間に合わず残った片腕を犠牲にして防いでみせた。
頭部の半分は再び黒に染まり、俺に敵意を向けて来る。
「決着を付けようか」
そう告げると、言葉が届いたかのように黒龍も反応する。
大きく羽ばたいた黒龍は、割れた空間を避けるように、空高く舞い上がる。
それに続くように、俺達も後を追う。
黒龍の後ろ姿を見て、何故だか誇らしくなる。
別に黒龍に親近感を覚えるのではなく、ヒナタがやったであろう成果が、その体に刻まれていたからだ。
そのおかげで、黒龍の機動力は落ちており、同時に魔力も大きく減っているのが分かる。
この黒龍も、限界は近い。
大気圏外まで上がり、呼吸が苦しくなる。
それでも、平気だと思うのは、俺が人外に片足を突っ込んでいる証明なのだろうか。
地上を見下ろすと、都ユグドラシルの姿は見えず、日本や大陸が見えるだけだった。きっと、下からでないと、割れた空間は見えないのだろう。
まあ、それは置いておくとして、
「行くか」
魔力量は正直心許ない。
それでも、アマダチはあと二回は使える。
これで、黒龍を殺し切れば俺の勝ち、殺さなければ俺の負けだ。
「ヒヒーン‼︎‼︎」
フウマが加速する。
機動力が落ちた黒龍では、フウマの動きには着いて来られない。
動き出した黒龍の周りを旋回し、速さで翻弄する。
だが、動きは目で追えているようで、フウマに向けてブレスを放った。
そう、フウマに向けて放っただけで、そこに俺はいない。
「アマダチ!」
予めフウマから離脱して、黒龍の頭上に移動しており、白銀の閃光を放つ。
取った!
そう確信したが、わずかに反応されており、頭部を掠め、左半身を根こそぎ黒を削ぎ落とすに止まった。
これで、戦力は格段に落ちたはずだ。そう思ったのだが、黒龍の口は俺を向いており、膨大な魔力を吐き出そうとしていた。
「フウマ!」
俺が呼ぶと同時に、フウマは俺を拾ってくれる。
そして、通り過ぎた場所をブレスが通過し、俺達の後を追って来る。
だが、遅い。
ブレスを振り切り、再び黒龍に接近する。
半身を失い満身創痍に見える黒龍だが、残された半身で動いており、諦めた様子はない。
それに、強い殺意に衰えはなく、寧ろ強くなっている。
何としてでも俺を殺したいのだろう。
「それは俺も同じだ!」
最後の一撃を見舞うため、アマダチを作り出す。
これが最後の一刀になる。
心に倒すと誓い、ありったけの殺意を込めて、最高の一撃で決めてやる!
フウマが駆ける。
黒龍も動いてはいるが、片翼ではバランスを取るのがやっとの様子だ。
正面から向かうと、それを狙ったかのようにブレスが放たれる。
それを直角に上昇して避け、黒龍の頭上を捉える。
これで終わらせる!
そう意気込んだが、黒龍から黒い靄が発生して、その身を隠してしまった。おかげで、狙いが付けられない。
「ちっ⁉︎」と舌打ちをして、フウマが風を使い吹き飛ばす。しかし、そこには黒龍の姿は無かった。
どこに行った⁉︎ と突然消えた黒龍を探す。
だが、姿は見当たらず、代わりに強い衝撃が体を襲った。
「ぐっ⁉︎⁉︎」
吹き飛ばされながら見ると、黒龍が尾を振り抜いており、そこで攻撃されたのだと理解する。
追撃のブレスも放たれており、フウマの腹を蹴って、直撃だけは回避した。
こいつは何をした⁉︎
驚いて黒龍を見ると、再び黒い靄を発生させて、その体を隠してしまう。
何をしているんだと警戒していると、真下から魔力を感じて急いで回避する。
そこには黒龍の姿があり、消滅の魔法が使われていた。
範囲からギリギリで逃げ切れて安堵するが、それ以上に黒龍がした事を察して焦ってしまう。
こいつは、空間を自在に操っている。
それも、魔力の痕跡無しでだ!
「こいつ、この土壇場で覚醒しやがった⁉︎」
ふざけんなよ! そういうのはなぁ、物語の主人公の特権だろうが!
内心悪態を吐きながら、黒龍を警戒する。
だが、その時間さえもこいつに取って好機だった。
黒龍の尾だけが靄に包まれる。
空間把握が反応するが、俺達が動く前に強烈に打ち付けられた。
「ぐっ⁉︎ くそぉ!」
バランスを崩しながらもフウマは体勢を立て直し、俺は不屈の大剣を片手に持った。
アマダチと不屈の大剣の二刀流。
聞こえは良いが、必殺のアマダチの維持にも魔力が消費されており、不屈の大剣を片手で満足に扱える気もしない。
このままじゃ、ジリ貧だ。
だが、
「やってやらー‼︎」
負けてたまるか!
覚悟を決めると、力が漲って来る。
いや、明らかに力が増している。
この力がどこから来ているのかは知らない。
それでも、悪くはないと思ってしまう。
「行くぞフウマ! 止まるなよ!」
「ヒヒーン!」
力は漲っていても、魔力量に変わりはない。
フウマもそろそろ限界だ。
だけど、どうしてか、負ける気がしない!
一気に加速して、黒龍に迫る。
距離を置けば、そこは奴のテリトリーだ。接近戦しか勝機はない。
黒龍が再び靄になり、姿を消す。
追いかけるように、周囲から白い骨が突き出して狙って来る。
その全てを避け、靄に向かって突き進む。
靄が消える直前に、不屈の大剣を振り下ろすと、何かを斬ったという明確な感触があった。
靄が晴れて、そこに居たのは黒い気持ち悪い奴。
しかしそいつも、まるで何もなかったかのように姿を消し、黒龍が真上から現れた。
黒龍の尾が降って来る。
「おおおーーーっ!!」
そいつを不屈の大剣で受け止め、力尽くで弾き返す。真下に現れた魔力の塊、黒龍のブレスにフウマが反応して軌道上から外れる。
そこから高速で旋回して、骨だけの部分に向けて不屈の大剣で力の限り殴打する。
ドゴッ! と鳴り、黒龍の頭部の一部が砕ける。だが、次の瞬間には靄に変わって霧散してしまった。
意思を込めろ。
もっと強い意思を、全てを滅ぼすほどの強い意思を込めろ!
周囲から聖龍の骨が迫って来る。
フウマが瞬時に避け、すれ違いざまに渾身の一撃を加える。
「っらあーーーっ!!」
その一撃は、聖龍の骨を破壊する。
確かな感触が手に伝わり、何かを掴んだ気がした。
骨は霧散するが、砕いた箇所は残っており切り離されていた。
続けて、骨による攻撃が繰り出される。
それを砕く砕く、何度も何度も砕いていく。
そして残ったのは、黒龍の黒に染まった半身と、そこから無様に伸ばされた細長い腕だった。
まるで別の化け物。
龍の頭部は残っていても、とても龍と呼べる姿はしていなかった。
「……終わらせようか」
不屈の大剣を収納空間に仕舞い、アマダチに意識を向ける。
アマダチの輝きが増し、奴を殺す準備が整ったと知らせてくれる。
先に動いたのは黒龍からだった。
当たらないと分かりながらも、奴はブレスを放って来る。
俺達も動き出し、フウマのスピードで避けながら接近する。
近付くと、無数の黒が触手のように動き迫って来る。
だが、ブレスよりも遅いそれに当たるはずもなく、奴の真上を捉える。
「アマダチィ‼︎‼︎」
渾身の一撃。
決着を付けるための一太刀。
こいつを殺し切る為の全てを断つ光。
俺のアマダチは、黒龍の頭部から飲み込み、それで終わった。
そう、あの黒い奴は龍の頭部を捨てて、アマダチを避けたのだ。
消滅する龍の頭部。
それを見ながら、俺は叫ぶ。
「ヒナターーーッ‼︎‼︎」
「キュ‼︎」
黒翼の天使が飛ぶ。
魔力が空っけつな俺に代わり、ヒナタが奴に向かって長剣を振りぬく。
尾から足に、腹部から胸部に、そして首までの黒を裂き骨をも断ち切って見せた。
その瞬間に黒い奴から悲鳴が上がる。
ヒナタに向かって手を伸ばして、まるで憧れの存在を見ているかのような眼差しを向けていた。
『アマダチ!』
長剣が白銀に輝き、俺が放った以上の閃光で、黒龍を呑み込み、そして消滅させてしまった。
ははっと自然と笑いが漏れる。
そして、魔力を失った俺とフウマは地面へと落下を開始した。
『親父⁉︎ フウマ⁉︎』
ヒナタが驚いたように追いかけて来る。
今更だけど、ヒナタに親父って呼ばれてるなぁと気付いた。
そこら辺の呼び方は、今後変えてもらおうか?
でも、悪くないと思っている自分もいる。
「まあ、それは後で考えたらいいか……」
落下する体を掴まれながら、俺はそんな事を考えていた。