表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
311/348

ネオユートピア22

11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます。

活動報告に特典情報を載せております。

 ビルメシアが奪った肉体は、元々世界を守護する聖龍の遺物だ。

 神であり世界の化身たる聖龍。

 その存在は、たとえ別の世界に来ようとも、その世界の意思を感じ取れた。

 更に言うと、世界を守るという使命は、たとえ骨だけになろうとも決して忘れることはない。


 だからこそ、世界を破壊しようとする兵器に対して激しく反応してしまった。


 ついさっき、核が備わったミサイルが発射され、それに気付いた世界が絶望し、悲しみの淵に落ちた。

 その感情に聖龍の遺物は反応する。


 それは、ビルメシアの意思など関係なく、この肉体は動いていた。


 世界を守る為に、この世界を破壊しようとする物を破壊する。


 筒状の魔法陣は、この世界の核兵器を消滅させる。

 発射されている物だけに限らず、この世にある全てが対象になる。


 黒龍の頭部から、ビルメシアの黒い部分が弾かれる。

 聖龍本来の力からすれば、ビルメシアなど取るに足らない存在だ。

 そのような存在に、完全に操れるはずもない。


 骨の頭部は筒状の魔法陣を作り上げて行く。


 この光景を見ていた人々は、何故か祈る仕草をしてしまう。

 たとえ悍ましい物に操られようとも、骨だけになろうとも、聖龍という存在は神々しかったのだ。


 破壊であり消滅であり、何よりも世界に取って救いの魔法が放たれる。


 魔法は正確に兵器を捉え、等しく消滅させて行く。

 様々な政治が絡む兵器が、そんな事情など知った事かと、等しく消え去った。


 核兵器のない世界。

 それが実現してしまった。

 これが、世界のパワーバランスが崩れた瞬間だった。



ーーー


《時間は少し遡る》



「お前はっ⁉︎」


 声がして振り返ると、そこには大きな杖を持った老人がいた。司祭がするような服装をしており、胸元にはミンスール教の信徒を示す木の葉の首飾りをしていた。

 腰はピンッと伸びており、しわくちゃの顔に笑みを浮かべて俺を見ていた。


 その姿を見て、俺は確信する。


「……誰だ⁉︎」


 マジで誰だ?


 こんな危ない所にいるのだから、普通ではないのは分かる。というより、結構な魔力を持っているのだから、普通でないのは間違いない。

 親しげに俺を見ているので、知り合いなのかも知れないが、残念ながら俺にはまったく心当たりが無い。


「貴方は相変わらずですね……」


「いや、えーと、すいません。でも、早く逃げた方が良いですよ。ここも危ないと思うんで」


「ええ、分かってます。まさかこのような事になるとは、思ってもみませんでした」


「……何を言ってる?」


 なんか怪しいな。

 もしかして、こいつがこの騒動の黒幕だろうか?

 てっきり、あの天使が原因かと思っていたが、こいつが裏で手を引いていたのなら、それも納得だ。それだけ怪しい奴だ。


 何やってんだよ二号よぉ、こんな奴を入信させやがって。


「まだ分かりませんか? 私ですよ、二号です。権兵衛さん」


「……は? お前が二号?」


 頭が追い付かなかった。

 歳をとっているのは理解しているし、ナナシが亡くなっているくらいだから、老人になっているのに驚きは無い。

 だが、二号を名乗るこいつから感じる魔力は、あいつの物ではない。


「ええ、そうですよ。これで、ようやく名乗れますね、私の名は世樹マヒトです」


 私の呼び方は自由にして下さい、と言う自称二号。


「……田中ハルトだ、こっちがフウマ。なあ、もう一度聞くぞ。あんたは本当に二号なのか? そっくりさんとか、モンスターの成りすましとかではなく……」


「…………」


 二号を名乗る老人が黙ってしまった。

 因みに、この老人が幻のとかいうパターンは無い。と思う。空間把握で感じ取れるのは、老人その物の姿で、他の誰かではない。

 だから聞いたのだが、老人は困った笑みに形を変えていた。


「……私はあの森での出来事を、たとえ老人になろうと、どれだけ時間が経とうと忘れる事はありません。あの時の私は、貴方にはどう映っていましたか?」


「……あんたが二号だとして答えさせてもらう。あいつは素直で優しい奴だった。努力家で、よく物事を考えていた。俺から見て、尊敬できる奴だったよ、あいつはな。それにな、治癒魔法を使うだけあって優しい魔力を持っていた。おおよそ、あんたのトゲトゲしい魔力なんてしていなかった」


 見た目は確かに似ているが、二号の魔力とはまったくの別物だ。

 それこそ、偽物と言ってくれた方が納得いくレベルだ。


「……困ったなぁ、嘘は言ってないんですけど。でも、説明しないと納得しませんよね?」


「手短にしろ、早く魔力を回復させて、行かなくちゃいけないんだよ」


 俺がそう告げると、二号を名乗った老人は杖を手放した。


 すると、老人の片腕が変わっていき、白い毛で覆われた獣の腕が現れた。


「これは、あの時私を襲ったNo.4と呼ばれるモンスターの片腕です。本体は権兵衛さんに倒されましたが、私の中には、彼の意思が残りました。内側から食い破って来る彼と、長い時間を掛けて対話をしました。その過程で、私とNo.4は混ざり合った」


「それで魔力が変質したのか?」


「そうです。今の私は、世樹マヒトなのかNo.4なのか、分からなくなってしまいました……」


 獣の片腕を見ながら、二号は困ったような笑みを浮かべていた。

 あの杖があるから大丈夫だと思っていたが、そう上手くは行かなかったみたいだ。

 きっと辛いのだろう。

 自分が誰なのか分からなくなるというのは、きっと身を裂かれるよりも辛いはず。

 でも今は、


「そんなのどうでもいいからさ、二号は何がしたいんだ? こんなんしでかして、何をしたかったんだ?」


「そんなのって……」


「今の状況からしたら、そんなのなんだよ二号。何になりたいかは、お前が決めろ。モンスターに成りたいのなら、俺が殺してやる。二号で居たいのなら、俺が認めてやる。それってさ、他人が決められるような物じゃないんだろう? ならお前が決断するべきなんだよ、分かったか二号」


「…………」


 あそこで、この杖を渡して延命させたのは俺だ。

 その結果が、この事態を引き起こしているのなら、これは俺がどうにかしないといけない。


「そんで二号、お前は何がしたいんだ?」


「…………私は勘違いをしていたようです」


「何がだよ?」


「権兵衛さんって、馬鹿ですよね」


「うるせーよ」


「でも、そんな貴方だからこそ、私は尊敬しているんです。お願いです。止めて下さい! 私がやってしまった過ちを止めて下さい! どうかお願いします!」


 懇願するように訴えて来る二号は、あの森で過ごした時と変わらないように見えた。


「ああ、分かってるよそれくらい。でもな、少しだけ待ってくれ。魔力が無いんだよ」


 今回復しているから待て。多分、十分くらいで百分の一くらい回復するから。


「分かっています。その為に、私は来たんです」


 二号が杖を手に魔力を高めて行く。


「このイルミンスールの杖の能力には、魔力譲渡が備わっています。権兵衛さん、私の魔力を貴方に託します」


「イルミンスール?」


「この杖の名前です。正確には、前の世界樹の名前になります。権兵衛さんに見つけてもらいやすいようにと、教会にこの名を付けました」


 そんな事言われても、杖の名前なんか知らんから、探しようがない。


 二号の魔力が高まり、俺の十分の一くらいにはなる。

 そんな二号に、上空のパスを見ながらもう一度問い掛ける。


「なあ、どうしてあんな物を作ったんだ?」


「……貴方が早く現れるようにと、ダンジョンの侵攻を進める為でした」


 苦虫を潰したような顔をして、後悔しているようだった。


「ですが、目的が変わった。この世界に、ダンジョンの恐ろしさを知らしめる為に、あれを娘を通じて作らせました」


 ネオユートピアの上空には、未だに巨大な魔法陣が展開しており、治まる気配を見せない。

 あれを破壊出来たら良いのだが、下手に干渉すれば、大量の魔力が暴走して、どれだけの被害をもたらすのか想像も付かない。

 理想は、魔力が消滅してくれる事だが、それも難しいだろう。


 二号の魔力が更に高まり、イルミンスールの杖に込められて行く。


「二号は後悔しているのか?」


「……娘に作らせたのは後悔しています。ですが、この行動に間違いはなかったとも思っています」


「……そうか」


「責めないんですか?」


「そりゃ責めたい。責めたいけど、お前の事情も知らないからなぁ。まっ、その話は、全部終わってからでもいいだろう?」


「……貴方という人は、どこまでも変わりませんね」


 杖に込められた魔力は、俺の総量の三分の一にも届かない。

 だが、これだけあれば、十分に戦える。


「では、後を頼みます」


「ああ、任せとけ」


 二号の杖から魔力が送られ、満たされて行く。

 魔力が回復すると、フウマも起き上がって二号に、おう久しぶり! と挨拶をしていた。


「さあ、行くかフウマ!」


「ヒヒーン‼︎」


 あの黒龍との決着を付ける為、俺とフウマは空へと舞い上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
楽しくて忘れられなくて そんなよく使われる理由だけど、変質するほどの永い時間の後で、昔のままの大切な人が現れるって本当に幸せなことやろうねぇ。
二号がわからない... 二号はもう人間とは言えないから、純粋な人間としての最強は黒一かな?
二号、混ざってたんか…なんか色々察せれるな 森で過ごした期間は平穏で、満ち足りたものだったんだろうなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ