表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/348

幕間41 ①(天津大道)

11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます!

活動報告に特典情報を載せています!


すいません!予約時間ミスしてました!!

18時にも投稿。

 一ノ瀬梨香子に話を聞き、麻布の案内で大道は魔力精製所に向かっていた。小梅と牡丹は、梨香子と共に残している。梨香子の治療と異常事態が起こった時に、逃げてもらう為だ。


 パスを行く大道の手には、武器である長剣が握られており、すれ違う人から注目を集めてしまう。

 それはそうだ、日本では武器の携帯が許されていない。それに大道の持った長剣は、布で包んでいても、存在感を消せる物ではなかった。


 これなら地上を行った方が良いかと、パスから降りて地上を移動する。


 それから直ぐに変化は起こった。


 これまでパスから微弱な魔力を感じ取れる程度だったが、突然膨大な量の魔力が流れ始めたのだ。


「なんだいきなり!」


「これは……大道さん、まずいかも知れません」


 突然の変化に驚く大道。

 そんな大道に、輝き始めたパスを見て、麻布はある可能性を見出してしまった。


 麻布は、格上の探索者に復讐する為に、錬金術のスキルを獲得して魔法陣に対する造詣を深めて行った。

 その知識は生半可な物ではなく、探索者協会会長を唸らせるほどの物まで生み出すほどだった。


 そんな麻布が言う。


「……世界の改変? 大量の魔力を利用した……迷宮化?」


「何だと?」


「もしかすると、麻耶さんは、ここをダンジョンに作り替える気なのかも知れません……」


「馬鹿な、そんな事が可能なのか?」


「その為のパス、なのだと思います。初めからそれが目的で、作られていたとしか思えません」


 あくまでも予想でしかないが、麻耶ならばやりそうな気がしてしまった。


「マヒトさんは、どうして止めなかったんだ? あの人なら気付いていただろう……」


 大道にとって師匠であり、最も信頼出来る人物だ。

 麻耶の動きにも注意していたマヒトが、気付いてないとは考えられなかった。

 だとしたら、何か狙いがあるのだろうか。


「なあ、ここがダンジョンになるとして、どんな事が起こると思う?」


「……恐らく、モンスターが溢れ出て来ると思います。最初は弱いのから始まり、時間の経過と共に強力なモンスターが現れるようになるのではないかと……」


「……どうやったら止められる? 上のパスを破壊したら止められるか?」


「やめた方が良さそうです。破壊した瞬間に、大量の魔力が暴走して、何が起こってもおかしくはない」


「じゃあ、何も手段はないのか⁉︎」


「……大元を叩けば、もしかしたら止められるかも知れません」


 その言葉に自信は無さそうだったが、可能性があるのならばやるべきだろう。

「んじゃ、さっさと行くか」と麻布に言い、二人は急いで麻耶がいるだろう場所に向かう。


 しかし、向かっている途中でモンスターが現れ始めて、その足は鈍くなる。現れたと言っても、大道からしたら取るに足らない雑魚だ。麻布でも余裕で勝てる、ゴブリンなどの弱いモンスター達だ。

 だから、無視して行っても良かったのだが、彼方此方から悲鳴が上がり、助けようと動いてしまった。


 そして何より。


「おい、テメーら、この状況分かってんのか?」


 外国人の探索者達が、大道に襲い掛かったのである。

 数も百人以上はおり、はっきり言って絶望的状況だった。

 問題はそれだけではない。


「ここがダンジョンになってるってんなら、こいつらは殺せないよな……」


 この人数を殺せば、魔人化するのは確実だった。

 それに、邪魔する奴らの胸元には、ミンスール教徒である木の葉の首飾りもあり、麻耶の子飼いの探索者だと分かる。

 だとしたら、こいつらは九州地区で集めた外国人部隊なのだろう。


「ちっ、面倒だな。おい麻布さんよぉ、あんたは先に行け。こいつらの狙いは俺だからな」


「大道さん……先に行きます」


 麻布は何かを勘違いしていたかも知れないが、大道は別に負ける気は無い。

 長剣と対話を行い、大道は大きな力を手に入れていたのだ。それこそ、この程度の探索者では傷一つ付ける事が出来ないほどに。


「お前ら、向かって来るなら覚悟しろよ」


 長剣を向けて外国人部隊に忠告する。

 まだ使い始めたばかりの新たな能力は、圧倒的なまでの力の上昇を行う。その分、魔力消費も大きいが、大道の魔力量ならば一時間は使用可能だ。


 ふぅと息を吐き出し、その能力を使用する。


「リミットブレイク!」


 爆発的に上昇した身体能力。

 これまでにないほどの全能感が、大道を興奮させる。だが、この感情が紛い物だと知っている。だから、冷静に動けた。


 明らかに変わった大道を見て、立ち塞がっていた外国人部隊は狼狽えた。これだけの人数がいるにも関わらず、勝てないと察してしまったのだ。


 それでも引くことは無い。

 敬愛する麻耶の為に、この命はあると本気で考えているから。


 戦いは一方的なもの……にはならなかった。

 原因は、殺せない事にある。

 外国人部隊が死をも恐れずに迫るのに対して、大道は不殺で対応しなければならなかった。


 おかげで時間が掛かった。

 片腕片足を切り落としても動く奴らばかりで、丁寧に一人ひとり意識を刈り取る必要があったのだ。


「はあ、はあ、無駄に消耗しちまったな」


 おかげで、リミットブレイクは後一回使うのがせいぜいだろう。

 残りが麻耶だけなら使う必要もないのだが、用意している兵隊がこれだけとは考えられなかった。


「早く来てくれ、マヒトさん」


 これは自分だけでは止められない。

 麻耶の暴走は異常だ。

 特にこの数ヶ月は、狂気に取り憑かれているようにも見えた。

 もっと早くに対応していれば、こんな事にはならなかったのではないか。

 そう思わずにはいられない。


「くそっ!」


 この現象で、多くの人が死ぬ。

 それは、止められなかった者達にも責任はある。

 そう考えて、大道は悔しくて情けなくて仕方なかった。

 だったら、救出に向かった方が良いのではないか? そう考えて、歩みを止めてしまう。その方が、多くを助けられるのではないかと考えてしまう。


 だが、隣から現れた巨大な気配に、その考えも無くなってしまった。


「ヒヒーン」


「うおっ⁉︎ なんだこれは⁉︎」


 そこには、不細工な小さな馬と空に磔にされた多くの人達がいた。

 新手のモンスターか⁉︎ と警戒するが、長剣から懐かしいといった感情が流れ込んで来て、敵ではないと理解する。


「……ブルル」


 その馬は長剣を懐かしそうに見つめると、大道に向かって首を振り、避難するから来いと示す。


「……最近の馬って、器用なんだなぁ。じゃない、すまないな、俺にはまだやる事があるんだ。全部終わったら避難するから、先に行ってくれ」


 そう言うと、ブルッと頷いてくれて、馬は行ってしまった。

 磔にされた人達の、助けてくれ! という恐怖した表情は、何とも言えない味を出していた。

 まあ、結果的に助かるだろうからと、大道は気にしないで先を急いだ。



ーーー



 麻布に教えてもらった場所である魔力精製所では、既に激しい争いが起こっていた。


「あれは……黒一か? どうしてあいつが……、麻布は……っ⁉︎」


 争いの中心には黒一がおり、先に来ているはずの麻布の姿が見えなかった。なので、視線を巡らせていたのだが、そこに映ったのは純白の翼を生やした麻耶の姿だった。


 建物の上に立つ麻耶は、パスの光と合わさり、神々しくも妖艶で人を強く惹きつけていた。

 だが、その内面を知っている大道からすれば、悍ましいだけの物でしかなかった。


「おい、お前は何を考えている? こんな事しでかして、どうするつもりなんだ?」


 一息で建物の上に飛び、黒一の戦いを眺めている麻耶に問う。

 それに驚きもせずに振り返る麻耶。

 満面の笑みを浮かべる麻耶は、まるで誕生日プレゼントを貰った子供のように見えた。


「ふふ、大道さん邪魔しないでくれないかしら。私、今とても嬉しいのよ」


「何が嬉しいだ、今も多くの人が犠牲になっているんだぞ! これが、お前が望んだ事なのか⁉︎」


 大道の必死の訴え、それが面白かったのか、麻耶は笑い出してしまった。


「あはははははっ! どうでも良いではないですか、あのような有象無象なんて消えて仕舞えば!」


「なんだと!」


「そもそも、私は彼らがどうなろうと、どうでも良いんです。全ては、私の価値を示す為。本来の目的を成し遂げ、迎えに来てもらうんです!」


「目的?」


「ええ! この世界にダンジョンを増やすんです。そうすれば、彼の方の望みが叶うんです!」


「……狂ってる。その翼も意味が分からん」


「あら、この翼は本物ですよ。それに、狂ってなんていませんよ。私は最初から、彼の方の指示で動いていたのですから」


「何が彼の方だ。マヒトさんは知っているのか?」


「さあ、どうなんでしょう。ネオユートピアに仕掛けを施したのは、知っていたはずです。でも、止めなかった。私でも、お父様のお考えは計りかねます」


 下顎に人差し指をやり、困った表情をする麻耶。

 これまでの姿と比べて、酷く幼く見えた。


「……止めるつもりは、ないんだよな?」


 長剣を構えて魔力を高める。


「ええ、その気はありません。そもそも、もうその段階ではないですから」


 杖を握った麻耶は、翼を広げ魔力を迸らせた。

 その魔力を感じて冷や汗を流す。

 これまでの麻耶とは、比べ物にならないほどの魔力量。簡単だと思っていた相手が、かなりの強敵に見えた。


 先に動いたのは麻耶だった。

 光の魔法を使い、無数の矢を作り出したのだ。


「ちっ!」


 舌打ちをした大道は、駆け出す。

 魔力をかなり消費しているせいで、無茶が出来なかった。


 光の矢を放つと同時に、空に飛び立った麻耶。

 それに反応して空間魔法を使い、上から強襲する。

 しかし、それは杖で受け止められてしまう。


「なっ⁉︎」


 馬鹿な! と大道は内心驚愕する。

 この長剣を受け止めるなど、どんな武器でも防具でも無理なのだ。それを、接近戦を苦手とする麻耶がやって見せた。


 いや、違う。

 長剣から意思が届き、この娘を傷付けるなという。


「この剣……なんだか懐かしい気がします。私に下さらない?」


「誰がやるかよ!」


 麻耶から離れると、追撃の魔法を長剣で切り払いながら落下する。

 着地すると、麻耶が急降下して来ており、光を宿した杖で殴打して来た。

 それを受け止めると、ドンッ! と小爆発を起こして吹き飛ばされる。だが、その程度で傷を負うほど弱くはない。

 大道は、次はこちらからと攻撃を仕掛けた。


 二人は己の戦いに集中して行く。

 大道は麻耶を止めるため。

 麻耶は邪魔な大道を排除して、長剣を手に入れるため。


 だから気付かなかった。


「お前ら邪魔」


 太った探索者に、問答無用で吹き飛ばされてしまうまで、何が起こっているのか気付けないでいた。


「なんだ⁉︎」


 吹き飛ばされた先で起き上がった大道は、信じられないような膨大な魔力を感じ取る。

 人が死ぬとかのレベルではない、都市が一つ消滅してもおかしくないような暴力的な魔力。


 そこから放たれた魔法は、この現象の核である魔力精製所を跡形もなく消滅させてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
麻耶、ユグドラシルに行ってもオクタン君といっしょに農作業ぐらいしか出来ないぞ?(´・ω・`)
面白い。ト太郎は麻耶も助けるのかな。
通りすがりの一般ぽっちゃりのお通りだ~ドンッ 麻耶やっぱ幼いままで……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ