幕間41 ①(天津大道)
11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます!
活動報告に特典情報を載せています!
すいません!予約時間ミスしてました!!
18時にも投稿。
一ノ瀬梨香子に話を聞き、麻布の案内で大道は魔力精製所に向かっていた。小梅と牡丹は、梨香子と共に残している。梨香子の治療と異常事態が起こった時に、逃げてもらう為だ。
パスを行く大道の手には、武器である長剣が握られており、すれ違う人から注目を集めてしまう。
それはそうだ、日本では武器の携帯が許されていない。それに大道の持った長剣は、布で包んでいても、存在感を消せる物ではなかった。
これなら地上を行った方が良いかと、パスから降りて地上を移動する。
それから直ぐに変化は起こった。
これまでパスから微弱な魔力を感じ取れる程度だったが、突然膨大な量の魔力が流れ始めたのだ。
「なんだいきなり!」
「これは……大道さん、まずいかも知れません」
突然の変化に驚く大道。
そんな大道に、輝き始めたパスを見て、麻布はある可能性を見出してしまった。
麻布は、格上の探索者に復讐する為に、錬金術のスキルを獲得して魔法陣に対する造詣を深めて行った。
その知識は生半可な物ではなく、探索者協会会長を唸らせるほどの物まで生み出すほどだった。
そんな麻布が言う。
「……世界の改変? 大量の魔力を利用した……迷宮化?」
「何だと?」
「もしかすると、麻耶さんは、ここをダンジョンに作り替える気なのかも知れません……」
「馬鹿な、そんな事が可能なのか?」
「その為のパス、なのだと思います。初めからそれが目的で、作られていたとしか思えません」
あくまでも予想でしかないが、麻耶ならばやりそうな気がしてしまった。
「マヒトさんは、どうして止めなかったんだ? あの人なら気付いていただろう……」
大道にとって師匠であり、最も信頼出来る人物だ。
麻耶の動きにも注意していたマヒトが、気付いてないとは考えられなかった。
だとしたら、何か狙いがあるのだろうか。
「なあ、ここがダンジョンになるとして、どんな事が起こると思う?」
「……恐らく、モンスターが溢れ出て来ると思います。最初は弱いのから始まり、時間の経過と共に強力なモンスターが現れるようになるのではないかと……」
「……どうやったら止められる? 上のパスを破壊したら止められるか?」
「やめた方が良さそうです。破壊した瞬間に、大量の魔力が暴走して、何が起こってもおかしくはない」
「じゃあ、何も手段はないのか⁉︎」
「……大元を叩けば、もしかしたら止められるかも知れません」
その言葉に自信は無さそうだったが、可能性があるのならばやるべきだろう。
「んじゃ、さっさと行くか」と麻布に言い、二人は急いで麻耶がいるだろう場所に向かう。
しかし、向かっている途中でモンスターが現れ始めて、その足は鈍くなる。現れたと言っても、大道からしたら取るに足らない雑魚だ。麻布でも余裕で勝てる、ゴブリンなどの弱いモンスター達だ。
だから、無視して行っても良かったのだが、彼方此方から悲鳴が上がり、助けようと動いてしまった。
そして何より。
「おい、テメーら、この状況分かってんのか?」
外国人の探索者達が、大道に襲い掛かったのである。
数も百人以上はおり、はっきり言って絶望的状況だった。
問題はそれだけではない。
「ここがダンジョンになってるってんなら、こいつらは殺せないよな……」
この人数を殺せば、魔人化するのは確実だった。
それに、邪魔する奴らの胸元には、ミンスール教徒である木の葉の首飾りもあり、麻耶の子飼いの探索者だと分かる。
だとしたら、こいつらは九州地区で集めた外国人部隊なのだろう。
「ちっ、面倒だな。おい麻布さんよぉ、あんたは先に行け。こいつらの狙いは俺だからな」
「大道さん……先に行きます」
麻布は何かを勘違いしていたかも知れないが、大道は別に負ける気は無い。
長剣と対話を行い、大道は大きな力を手に入れていたのだ。それこそ、この程度の探索者では傷一つ付ける事が出来ないほどに。
「お前ら、向かって来るなら覚悟しろよ」
長剣を向けて外国人部隊に忠告する。
まだ使い始めたばかりの新たな能力は、圧倒的なまでの力の上昇を行う。その分、魔力消費も大きいが、大道の魔力量ならば一時間は使用可能だ。
ふぅと息を吐き出し、その能力を使用する。
「リミットブレイク!」
爆発的に上昇した身体能力。
これまでにないほどの全能感が、大道を興奮させる。だが、この感情が紛い物だと知っている。だから、冷静に動けた。
明らかに変わった大道を見て、立ち塞がっていた外国人部隊は狼狽えた。これだけの人数がいるにも関わらず、勝てないと察してしまったのだ。
それでも引くことは無い。
敬愛する麻耶の為に、この命はあると本気で考えているから。
戦いは一方的なもの……にはならなかった。
原因は、殺せない事にある。
外国人部隊が死をも恐れずに迫るのに対して、大道は不殺で対応しなければならなかった。
おかげで時間が掛かった。
片腕片足を切り落としても動く奴らばかりで、丁寧に一人ひとり意識を刈り取る必要があったのだ。
「はあ、はあ、無駄に消耗しちまったな」
おかげで、リミットブレイクは後一回使うのがせいぜいだろう。
残りが麻耶だけなら使う必要もないのだが、用意している兵隊がこれだけとは考えられなかった。
「早く来てくれ、マヒトさん」
これは自分だけでは止められない。
麻耶の暴走は異常だ。
特にこの数ヶ月は、狂気に取り憑かれているようにも見えた。
もっと早くに対応していれば、こんな事にはならなかったのではないか。
そう思わずにはいられない。
「くそっ!」
この現象で、多くの人が死ぬ。
それは、止められなかった者達にも責任はある。
そう考えて、大道は悔しくて情けなくて仕方なかった。
だったら、救出に向かった方が良いのではないか? そう考えて、歩みを止めてしまう。その方が、多くを助けられるのではないかと考えてしまう。
だが、隣から現れた巨大な気配に、その考えも無くなってしまった。
「ヒヒーン」
「うおっ⁉︎ なんだこれは⁉︎」
そこには、不細工な小さな馬と空に磔にされた多くの人達がいた。
新手のモンスターか⁉︎ と警戒するが、長剣から懐かしいといった感情が流れ込んで来て、敵ではないと理解する。
「……ブルル」
その馬は長剣を懐かしそうに見つめると、大道に向かって首を振り、避難するから来いと示す。
「……最近の馬って、器用なんだなぁ。じゃない、すまないな、俺にはまだやる事があるんだ。全部終わったら避難するから、先に行ってくれ」
そう言うと、ブルッと頷いてくれて、馬は行ってしまった。
磔にされた人達の、助けてくれ! という恐怖した表情は、何とも言えない味を出していた。
まあ、結果的に助かるだろうからと、大道は気にしないで先を急いだ。
ーーー
麻布に教えてもらった場所である魔力精製所では、既に激しい争いが起こっていた。
「あれは……黒一か? どうしてあいつが……、麻布は……っ⁉︎」
争いの中心には黒一がおり、先に来ているはずの麻布の姿が見えなかった。なので、視線を巡らせていたのだが、そこに映ったのは純白の翼を生やした麻耶の姿だった。
建物の上に立つ麻耶は、パスの光と合わさり、神々しくも妖艶で人を強く惹きつけていた。
だが、その内面を知っている大道からすれば、悍ましいだけの物でしかなかった。
「おい、お前は何を考えている? こんな事しでかして、どうするつもりなんだ?」
一息で建物の上に飛び、黒一の戦いを眺めている麻耶に問う。
それに驚きもせずに振り返る麻耶。
満面の笑みを浮かべる麻耶は、まるで誕生日プレゼントを貰った子供のように見えた。
「ふふ、大道さん邪魔しないでくれないかしら。私、今とても嬉しいのよ」
「何が嬉しいだ、今も多くの人が犠牲になっているんだぞ! これが、お前が望んだ事なのか⁉︎」
大道の必死の訴え、それが面白かったのか、麻耶は笑い出してしまった。
「あはははははっ! どうでも良いではないですか、あのような有象無象なんて消えて仕舞えば!」
「なんだと!」
「そもそも、私は彼らがどうなろうと、どうでも良いんです。全ては、私の価値を示す為。本来の目的を成し遂げ、迎えに来てもらうんです!」
「目的?」
「ええ! この世界にダンジョンを増やすんです。そうすれば、彼の方の望みが叶うんです!」
「……狂ってる。その翼も意味が分からん」
「あら、この翼は本物ですよ。それに、狂ってなんていませんよ。私は最初から、彼の方の指示で動いていたのですから」
「何が彼の方だ。マヒトさんは知っているのか?」
「さあ、どうなんでしょう。ネオユートピアに仕掛けを施したのは、知っていたはずです。でも、止めなかった。私でも、お父様のお考えは計りかねます」
下顎に人差し指をやり、困った表情をする麻耶。
これまでの姿と比べて、酷く幼く見えた。
「……止めるつもりは、ないんだよな?」
長剣を構えて魔力を高める。
「ええ、その気はありません。そもそも、もうその段階ではないですから」
杖を握った麻耶は、翼を広げ魔力を迸らせた。
その魔力を感じて冷や汗を流す。
これまでの麻耶とは、比べ物にならないほどの魔力量。簡単だと思っていた相手が、かなりの強敵に見えた。
先に動いたのは麻耶だった。
光の魔法を使い、無数の矢を作り出したのだ。
「ちっ!」
舌打ちをした大道は、駆け出す。
魔力をかなり消費しているせいで、無茶が出来なかった。
光の矢を放つと同時に、空に飛び立った麻耶。
それに反応して空間魔法を使い、上から強襲する。
しかし、それは杖で受け止められてしまう。
「なっ⁉︎」
馬鹿な! と大道は内心驚愕する。
この長剣を受け止めるなど、どんな武器でも防具でも無理なのだ。それを、接近戦を苦手とする麻耶がやって見せた。
いや、違う。
長剣から意思が届き、この娘を傷付けるなという。
「この剣……なんだか懐かしい気がします。私に下さらない?」
「誰がやるかよ!」
麻耶から離れると、追撃の魔法を長剣で切り払いながら落下する。
着地すると、麻耶が急降下して来ており、光を宿した杖で殴打して来た。
それを受け止めると、ドンッ! と小爆発を起こして吹き飛ばされる。だが、その程度で傷を負うほど弱くはない。
大道は、次はこちらからと攻撃を仕掛けた。
二人は己の戦いに集中して行く。
大道は麻耶を止めるため。
麻耶は邪魔な大道を排除して、長剣を手に入れるため。
だから気付かなかった。
「お前ら邪魔」
太った探索者に、問答無用で吹き飛ばされてしまうまで、何が起こっているのか気付けないでいた。
「なんだ⁉︎」
吹き飛ばされた先で起き上がった大道は、信じられないような膨大な魔力を感じ取る。
人が死ぬとかのレベルではない、都市が一つ消滅してもおかしくないような暴力的な魔力。
そこから放たれた魔法は、この現象の核である魔力精製所を跡形もなく消滅させてしまった。