幕間40(ユグドラシル)
現世と繋がってしまった。
『あやつめ、やりおったな!』
空の向こう側に見える世界は、ダンジョンが今根を張り侵食している世界だ。
まだ時間はそれほど経っておらず、マヒトの尽力により、ダンジョンの侵食は抑えられていた。
『じゃが、ここと繋がってしまっては、全てが台無しじゃ!』
ダンジョンは、そこから生み出される魔力により、現世を満たす。
それに順応出来ない者達は淘汰され、適応し、選ばれた者だけが生き延びる。そんな過酷な世界に作り変えて、己の一部にする。
それが、ダンジョンだ。
ここと繋がった瞬間に、大量の魔力が流れ出た。
そして、聖龍の姿をしたモンスターが現世に向かい、更に侵食が加速してしまう。
更に、それを追ってヒナタまで行ってしまった。
これで、ダンジョンの侵食は取り返しの付かないレベルに達してしまった。
『これ以上、向かわせないようにしたいのじゃが、閉じるにはあちらの魔法陣をどうにかする必要が……』
世界を繋げる装置となっている魔法陣の解析は既に済んでいる。
後は解除するだけなのだが、それには天使を向かわせる必要がある。
だが、田中と聖龍の形をしたモンスターの戦いは激しく、地上に下ろせば巻き添えを食う恐れがあった。
『これでは、戦いが終わるまで手が出せん』
悔しそうにするユグドラシルの側に、一人の天使が姿を現した。
『ユグドラシル様、一体何事ですか⁉︎』
それは守護者筆頭の天使、ミューレだった。
『見ての通りじゃ、あちらと繋がりおったわ』
『一体どうやって⁉︎』
ミューレは都ユグドラシルで、最も魔法陣に詳しい守護者だ。そのミューレでも、この地と地上を繋ぐ魔法陣は作り出せなかった。
『我の枝じゃ、主らの娘が我の枝を使い、無理矢理繋げおったのじゃ』
『マヤが⁉︎ そんなはずはっ⁉︎』
『冗談で言っておるのではないぞ。それに、我にも責任がある』
ただの天使が、ユグドラシルの枝を持った所で、この現象は引き起こせない。
しかし、世樹麻耶はミューレと世樹マヒトの遺伝情報から、ユグドラシルの手で生み出された新たな生命だ。
それが影響して、天使としても、人としても不完全な麻耶だが、ユグドラシルとの親和性はどの天使よりも高かった。
だから繋がってしまった。
枝を通じて受けた思いは、ユグドラシルに対する憧れと望郷の願い。
幼い頃に地上に送ったから大丈夫だと思っていたが、そうではなかった。いつも、心のどこかにこの地に対する思いが存在していた。
その思いに反応して、枝に宿った力が、本体の元に帰ろうと魔法陣を改変、強制的に繋げてしまった。
『ミューレよ、反省するのはあとじゃ。今は守護者を集め……何じゃと?』
『ユグドラシル様?』
ミューレにこれらの対処法を告げようとしていると、森で異変が起きていた。
『いかん、森のモンスターが動き出しおった! ミューレよ守護者に告げよ! 森のモンスターを討伐せよと!』
『はっ!』
この広大な森はユグドラシルのテリトリーだ。
森のモンスターを全て把握している訳ではないが、大体の動きは感じられるようになっていた。
森で生息しているモンスターは、森外のモンスターと比べて弱い。だが、地上に一体だけでも出たら、その被害は測り知れない。下手をすれば、国が滅びるレベルだ。
それだけは、絶対に阻止しなければならなかった。
しかし、このタイミングだからか、更なる邪魔が入る。
『……ヒナタから連絡はあったが……これは、何者かの策略かのう?』
森から伝わって来る情報は、ゴーレムの軍団が攻めて来ているというものだった。
ヒナタが生み出したデーモンに指示を出し、ゴーレムの討伐に向かわせた。
『ヒナタ、無事に帰って来るのじゃぞ』
子供を心配する母のように、ユグドラシルは衝突する二つの力を見つめていた。