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ネオユートピア20

11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます!

 ヒナタは大きく飛翔すると、急降下して、黒龍の首に向けて光の刃を振り下ろす。

 ドッ! と鈍い音がして、くの字に折れ曲がり海に落下する黒龍。


 すると、海の制御も離れたのか大量の海水が俺に向けて落ちて来る。


 ちっと舌打ちをして、風を纏い海水を弾き飛ばしながら、一気に飛び上がる。そして、落ちて来る黒龍に向けて、不屈の大剣に強い殺意を込めた一撃を見舞う。


「っらぁーー‼︎」


 よくもやってくれたなこの野郎! と強烈な殺意を込めた攻撃は、ヒナタが加えた一撃以上の威力で黒龍に炸裂した。

 黒龍という巨大な質量は、落下していた勢いを完全に殺し、今度は空中へと大きく跳ね上がる。


 これがダメージになっているのかは不明だが、手応えは十分にあった。

 しかし、空中で翼を広げた黒龍は、これまでにないほどの質量で攻撃を仕掛けて来る。


 三対の翼から皮膜が無くなり、俺とヒナタに向かって大量の黒い弾丸が降り注ぐ。


 何とか飛んで回避しようとするが、数が膨大なのと、空中での俺の動きが遅くて被弾してしまう。


「ぐっ⁉︎ ガッ⁉︎」


 強烈な衝撃が襲い、魔法の制御を失い海に落下しそうになる。

 しかし、そうはならなかった。

 まるで空中に張り付けられたかのように、動けなくなったのだ。

 それは誰かが助けてくれたとかではなく、被弾した時に付着した黒が、俺を空中に止めていた。


「くっ⁉︎」


 操られるように急速に上昇して行き、その先には黒龍のアギトが待っていた。


 接近する凶悪な牙。

 本来なら絶好のチャンスなのだが、奴が放った黒は俺の動きを阻害しており、不屈の大剣を構えるのが間に合わない。


「キュ!」


 少し太くなった鳴き声が、俺の耳に届く。

 こんな所でも成長ってのは感じられるんだなぁ、なんて呑気な事を考えながら、ヒナタが黒龍の顎を跳ね上げるのを見ていた。


 圧倒的な攻撃力。


 ヒナタは左手を前にして、幾つもの魔法陣を展開させる。そこから放たれた光の魔法は強烈で、黒龍にダメージを与えて行く。


 卓越した魔力操作による光魔法。


 爆風によりなびく銀髪が美しく、端正な顔立ちと相俟って絵画でも見ているような気分だった。


「……やるじゃん」


 俺が呟くと、ヒナタは俺を見てニッと笑った。

 その顔は以前に見た憎たらしい笑みではなく、無邪気なあの頃のヒナタの笑顔だった。


 こりゃ負けられんな。

 そう思い、「ぐぬぬぬっ‼︎」と張り付いた黒を力尽くで引き剥がす。それから風の魔法で、バラバラに切り刻んだ。


 海へと落ちて行く破片。

 それを見ていると、下からもの凄いスピードで黒い弾丸が迫っていた。

 これは、さっき黒龍が放った奴だ。

 体から離れても、奴の一部であるのには変わりはなく、操作は可能なのだろう。


「ちっ!」


 舌打ちをして、急いで避けようとする。

 しかし、さっきと同じように、俺の空での移動速度では避け切れない。

 ヒナタは自前の機動力で難なく避けていたので心配ない。つーか、すでにヒナタは俺を置いて離脱している。


 俺を置いて行くなと言いたいが、近くに誰も居ないなら気にする必要が無い。


 全力で風を操り、全てを吹き飛ばすまで!


「ぐふっ⁉︎」


 と魔力を高めていると、腹に衝撃を受けて黒い弾丸の範囲から外れた。


 なんじゃいこら! と腹の方を見ると、突進したフウマの姿があった。


「ヒヒーン!」


 フウマが、危ないだろうが! と俺に説教して来る。


「いやいや、吹き飛ばすつもりだったから。魔力大量に消費するけど、一回くらいは行けるはずだったから大丈夫だって」


 とは言いつつ、自信は無い。

 この鎧の上から攻撃を受けて、体の芯まで届く衝撃がある。それだけ威力のある攻撃を、俺の風属性魔法で防げるかというと微妙だったりする。


 だから、正直助かっている。


「フウマ助かった。お前がここにいるって事は、残っていた奴らは、全員避難したって事で良いんだよな?」


「ブルル」


 違うと頭を振るフウマ。

 どうやら逃げようとしない奴らが、少しだけいたようだ。

 だったら後は、そいつらの自己責任だ。

 俺達がどうこうする必要はない。


「そいつらは諦めろ。今はそれよりも、目の前のこいつだ」


 顔の半分の骨が剥き出しになった黒龍が、こちらを睨んでいる。

 それを見てか、フウマはリミットブレイクを使い、姿を変えて黄金を纏う。


「キュルル」


 懐かしい声が、近くから聞こえて来る。


「よう、でっかくなったなぁ」


『親父は横にでかくなったな。おかげで、誰か分からなかった』


「あっそうだ! よくも襲いやがったな、忘れてないからな。あとで説教だ説教!」


「キュ〜」


「ヒヒーン!」


 フウマが嘶声。

 それは俺も混ぜろという意思表示ではなく、黒龍が何か仕掛けて来てんぞという危険を知らせてくれる物だった。


 俺はフウマに跨り、ヒナタは翼を広げた。


 下に視線を移すと、そこはネオユートピアがあり、上に視線を移すと、都ユグドラシルがあった。

 しかも、都ユグドラシル側は、多くの守護者がこちらを見て警戒している。


 まったく、観客が多くて嫌になる。

 それなのに、こうも力が漲って来るのはどうしてだろう。


 魔力量は心許ないはずなのに、急速に回復して来ている。全身に湧いてくる力は、これまでで一番強い。


 不屈の大剣を握ると、ギュゥと音を立てる。


 黒龍の魔力が高まる。

 これは前にも感じた覚えがある。

 あの黒い奴が使っていた必殺の魔法。

 広範囲を消し去る、消滅の魔法だ。


 途轍もなく強力な魔法だが、この魔法は予備動作大きく、消滅する範囲も感じ取りやすい。


 俺とヒナタは回避行動を取る。

 消滅魔法の効果範囲はかなり広く、俺達は大きく後退しなければならなかった。


 だが、どうしてこんな見え見えの魔法を使うのだろうか。以前戦った時に、俺が反応していたのを理解しているはずだ。


 それとも忘れたのか?


 黒龍から消滅の魔法が放たれて、俺達と黒龍の間の空間が消滅する。

 その瞬間、強烈な勢いで引き寄せられて、俺達は体の制御を失ってしまう。


「しまっ⁉︎」


 空間が無くなり、その勢いで突っ込んで来たのは黒龍。

 対応するには遅く、苦し紛れにフウマを庇うように不屈の大剣で受けようとするが、膨大な質量の前では無意味だった。


「ぐっ!」


 俺達は黒龍に轢かれて激しく吹き飛ばされる。

 だが、それだけだった。

 錐揉みしながらも、何とか体勢を立て直して、黒龍の姿を探す。

 黒龍は遥か彼方、豆粒に見えるほど遠くに離れて止まっていた。


 あそこまで離れる理由はなんだ?

 そう考えて、俺はフウマの腹を蹴った。


「ヒヒーン!」


 今まで以上の魔力の高まりを感じる。

 何かをやるつもりだ。

 黒龍はとんでもない何かをやるつもりだ。


 フウマは黒龍以上の速度で、奴に迫る。

 ヒナタを置き去りにしているが、気にしている余裕は無い。

 迫る俺達を見て、逃げるように飛翔する黒龍。


 黒龍に追い付くと、すかさず斬撃を加えて行く。

 反撃が来ても、フウマの速度であれば余裕で避けられる。

 フウマの速度が黒龍以上だから可能な芸当だ。

 サラブレッドという、お前誰だよ状態な姿のフウマは、ここで戦っている誰よりも速い。


 だが、対処が出来ない訳じゃない。

 黒龍はその身を震わせると、魔力の一部を爆発させた。


「っ⁉︎ フウマ、避けろ!」


 広範囲への衝撃波。

 奈落で、大怪獣が放っていた攻撃を思い起こさせるほどの威力。

 それは空間を破壊して、海を蒸発させ、大爆発を巻き起こした。


 アマダチの準備を始める。


 海から上がった煙で姿は見えないが、これまでにないほど黒龍の魔力は高まっていた。

 何かをやっている。

 ゴロゴロと雷が発生するほどの特大の魔力。それが思考性を持って、圧縮され形作られて行く。


「なんだよ……それ?」


 それは魔法陣だった。

 ただしそれは、余りにも複雑で筒状になった特大の魔法陣。

 魔力の動きが読めない。

 分かるのは、アマダチでは対抗出来ないという事だけ。


 アレはまずい! 逃げないと!


 そう思い逃げようとするが、向けられた方角を考えてしまい、動けなくなった。

 陸地が見えないほど離れているが、上空の輝きを見るに、あっちには日本がある。


 アレが着弾したら、どうなる?


「やってやらーっ‼︎ 踏ん張れよフウマ!」


「ヒヒーン‼︎」


 魔力を最高まで高めて、俺は全てをこの一撃に賭ける。


 俺の準備が終わると同時に、黒龍より黒い球体が生み出され、筒状の魔法陣を通り発射された。


 それは破壊の塊だった。

 あれが当たれば、大陸ごと破壊される。

 まるで世界の終焉を告げるかのような黒い球体だった。


「アマダチィ‼︎‼︎‼︎‼︎」


 全力の一撃。

 これまでで最高で最強の一撃。


 白銀の光は終焉の黒と衝突し、拮抗する。

 しかし、それも少しの間で、徐々に押され始めていた。


「グググッ……フウマ!」


 俺の呼び掛けに反応して、フウマは急降下を始めた。


 目的はこれの軌道を変えること。

 これで、あの終焉の黒に誘導機能があれば終わる。


「くっそー!!」


 だが、最悪な事に誘導機能は備わっていた。

 終焉の黒は俺達を追いかけて、軌道を変えたのだ。


 フウマの腹を蹴って、今度は急上昇する。地上に向かわないと分かった以上、上に行くしかなかった。

 

 

ーーー



 日本という国は、海外から恐れられている。

 八十年前の大戦では敗戦国となり、国力が低下して取るに足らない弱小国に落ちた。


 だが、強国と呼べるほどの力を持って復活した。


 全てはダンジョンと呼ばれる、永久に物資を得られる場所が発見されてからだ。

 戦勝国は日本政府を使い、日本人を強制的にダンジョンに潜らせた。

 そこから得られる物資の大半は、タダ同然で海外に流すためだ。


 日本を生かさず殺さず、長く長く、永遠にこき使うつもりだった。


 だが、それは出来なかった。


 探索者という存在は余りにも強力で、ほんの数人だけで、当時の日本政府を総入れ替えさせてしまった。

 戦勝国としてそれを見過ごせる訳がなく、治安維持の名目で派兵しようとした。だが、派兵する前に全てが終わっていた。


 たったひとりに、兵士も兵器も破壊されてしまったのだ。

 決して兵士が弱かった訳ではない。兵器だって、最新の物を取り揃えていた。それなのに、たった一人の探索者に敗北してしまった。


 この事実は伏せられたが、日本はアンタッチャブルな国として扱われるようになってしまう。


 あとから考えると、この判断は間違いだった。


 被害を考えずに、過去の日本を滅ぼしておけば、顔色を伺う必要なんてなかったのだ。


 だから彼らは、いつも口実を探していた。

 日本が危険だと、世界に知らせる出来事を待っていた。


 そして、それは現れた。

 異界を開き、巨大な黒いドラゴンを呼び寄せたのだ。


 滅ぼさなければ、滅ぼされるという理由を見つけてしまった。



 各国が動く。

 大量破壊兵器を、かつて日本に落とされた物以上の威力の兵器が、日本に向けて発射された。

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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
あれ、ヒナタが念話?で話してるけど田中って念話理解出来るんだっけ?
人工島周辺でバトルしてんのに 日本の何処狙ってるかわからない兵器 誰が対処するんだー
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