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幕間36 ③(黒一福路)

11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます!

 黒一はネオユートピアに戻って来ていた。

 目的はもちろん、大吹インカの逮捕である。

 大吹インカと契約しているMRファクトリーに向かい、どこにいるのかと所在を尋ねる。


「大吹インカとは、昨日契約が切れており、弊社としては連絡が取れない状態にあります」


 対応した職員から、なんともタイミングの良い返答をもらう。まるで、大吹インカの犯行を把握していたかのようだ。


「それはまた急ですね。昨日と言えばグラディエーターに参加したばかりでしょう」


「はい、大吹インカから昨日のグラディエーターで引退すると申し出があり、承諾した次第です。パーティも離脱しており、連絡先も分からない状態です」


「では、パーティメンバーの灰野灯樹はいらっしゃいますか?」


「俺になんか用か?」


 声がして振り返ると、やつれた顔の男が立っていた。

 探索者監督署に所属していた時は、ギラギラとしていた印象だったが、今はその面影が無い。


「これは灰野さん、お久しぶりです」


「ああ、んで、俺に何の用だ。犯人を見つけたのか?」


 さっさと犯人を捕まえろという心情が、灰野の態度からひしひしと伝わって来る。

 だから、そうだと頷いてやる。


「ええ、犯人が判明しました。粛清に来たのですが、どうやら逃げられたようです」


 いやー参りました。そう言うと、灰野は黒一の胸ぐらを掴んで睨み付けた。


「どこのどいつだ⁉︎ 教えろ、俺の手で殺してやるっ!」


「それはいけません。粛清をするのは我々の仕事です。灰野さんが手を下せば、貴方も粛清の対象になりますよ」


「だったら早く殺して来い! お前らの怠慢のせいで、こっちは三人も殺されてんだぞ!」


「いやはや手厳しい。お怒りのところ申し訳ありませんが、一つお聞きしたい事があるのですが、よろしいですか?」


「……なんだ」


 黒一の目付きが変わるのを見て、灰野は冷静さを取り戻す。しかし、次の言葉の意味を理解して、察する事が出来た。


「大吹インカが、パーティを離脱したのはご存知ですか?」


「は? 何言ってんだ、あいつなら……っ⁉︎」


 灰野は黒一を掴んでいた手を離すと、MRファクトリーから飛び出して行った。

 その様子を近くで見ていたMRファクトリーの職員の反応は何もなく、ただその後ろ姿を見送るだけだった。

 止める訳でもなく、ただスマホを取り出してどこかに連絡をしていた。


 黒一はため息を吐いて、やれやれと笑みを深めた。


「業が深いって素敵ですね」


 利益の為なら、貢献してくれた探索者すらゴミのように扱う。

 その姿が、黒一の好みだった。


 どうやら、今回の事件をMRファクトリーは把握していたようである。この状況を利用して、いろいろと画策していたのだろう。


 目的は、夢見未来の確保。


 この事件を調べる中で、夢見未来が行った予知夢の噂に行き着いた。

 ネオユートピアの崩壊。

 これが原因で、加賀見レントがMRファクトリーとの契約を切ろうとしていた。それを認めるのは、会社に多大なる利益をもたらす夢見未来を手放す事を意味していた。


 それを会社側が許すだろうか?


 答えは否だ。


 未来を予知する存在を何としてでも確保しておきたいMRファクトリーは、あらゆる手段を使ったはずだ。

 度重なる交渉を行い、利益を最大限提供するという申し出もした。しかし、全て断られた。

 これは記録も残っており、会社側も事実だと認めていた。

 だから強硬手段に出たのだろう。

 人員を提供してもらい、加賀見率いるパーティの排除。

 元々、MRファクトリーに限らずネオユートピアはミンスール教とも深い繋がりがある。世樹麻耶に願い、力を借りて実行したとしてもおかしくはなかった。


「これはチャンス、ですが……」


 社会的にミンスール教を潰すチャンスだ。

 しかし、どうにも不安が残る。

 夢見未来の予知夢が真実だったとして、それはいつ起こるというのだろうか。それを画策しているのが、ミンスール教だったとしたら、もう手遅れではないのか。


 掌の上で転がされているような感覚もあり、どうにも気持ち悪かった。


「今は、犯人の確保を最優先しましょうか。では、連絡先を教えて下さい」


「はい……」


 黒一は職員に呪言を使い、大吹インカの情報を聞き出した。



ーーー



 後手に回っているのは分かっていた。

 事件が起き、その捜査に時間を取られ過ぎた。

 それもあちらの計算のうちだろうが、それでも十分に挽回は可能だと思っていた。

 だが、この状況は予想外だった。


「総司君は影美さんを守って下さい。遊香さん、ストックはどれほどありますか?」


 ネオユートピアに、モンスターが溢れ出したのだ。


「了解だ。まさかこんな事になるとはな……」


「まだまだストックはあるけど、一番強いのでも天闘鶏だよ。それも一体だけ」


「十分です。これから、この事態を引き起こした輩に会いに行くので、私が指示するまでついて来て下さい」


 黒一が笑顔を向けると、三人とも顔が引き攣っていた。

 救助ではなく原因の排除。その提案は至極真っ当なのだが、今も周囲で悲鳴が上がっているのに、それを無視する決定に引いていた。

 それに気付いた黒一は、立場上の言い訳はしておく。


「安心して下さい、手の届く範囲の方は救いますので」


 黒一は石を拾うと、女性を襲おうとしていたゴブリンに向かって投げた。石はゴブリンを破裂させ、先にある建物にめり込んで止まった。

 女性は助けられたのに気付いたのか、頭を下げて感謝を示す。それを手を振って止めて、早く逃げなさいと先を促した。


 正直、有象無象がどうなろうが知った事ではない。

 それでも、スキル福音のタシになるのなら、助けるのも悪い選択ではなかった。


 さあ行きますよと言って、目的の場所に向かう。

 向かうべき場所は、上空を見れば一目瞭然だった。

 輝くパスには大量の魔力が流れており、これが原因で今の異常事態が起きてるとすれば、その魔力の供給を断つ必要があった。

 ネオユートピアのエネルギーを賄っている、魔力精製所で何かが起きているのは明白だ。


 もしかしたらそこに、世樹麻耶や大吹インカもいるかも知れない。


 あの後、影美の追跡を使い、逮捕に動いたのだが途中から姿が消えていた。同様に、麻布針一の居場所も掴めなくなっており身柄の確保が出来なかったのだ。

 何者かに匿われている。

 もしくは消されている可能性もある。


 何はともあれ、今は動くしかなかった。


 ネオユートピアの崩壊。

 それが、今起きているのだから。


 そこで、ああと黒一は気付いて、仲間達に忠告する。


「人は殺さないで下さいね。どうにもここは、ダンジョンになっているようなので」


 この言葉が意外だったのか、「えっ⁉︎」と反応する。

 これまでに、突然ダンジョンが現れたのは観測されているが、地上にある場所がダンジョンになるというのは聞いた事がなかった。


「まったく、これをやった方は何を考えているのでしょうね?」


 まったく面倒ですねと呟きながら、襲って来た探索者を殴打する。

 突然襲って来たその探索者は、肌の色が違っており、日本人でない事が分かる。胸元にはミンスール教徒の証である木の葉の首飾りがあった。


 これで、誰がこの事態を起こしたのか確定した。


「黒一さん、これは……」


「ええ、どうやら私達は狙われているようですね」


 周囲を見ると、外国人と思われる探索者に囲まれており、全員が実力者だと分かる。


「九州地区で活動なさっていた方々ですね。一度だけ警告します、直ぐに九州地区に戻って下さい。さもなければ、粛清の対象となりますが、よろしいですか?」


 そう優しく忠告するが、反応はなく全員が武器を手に魔力を漲らせた。


「……仕方ないですね。遊香さん、止めをお願いします」


 黒一は武器破壊の効果のある手甲を装着し、専用武器であるトンファーを手にする。

 くるくると回したトンファーには、黒い魔力が宿り不吉な印象を抱かせる。

 一歩前に出ると全身から魔力を迸らせ、意識を戦闘モードに切り替えた。


 緊張が走る。見ただけで理解出来る彼我の実力差に、囲んでいた者達は後退る。

 その中の一人が、恐れをなして逃げ出した。


「ガッ⁉︎」


 しかし、足が動かずに倒れてしまう。

 何が起こったのかと体を見ると、膝から下が消滅していた。


「忠告したでしょう、粛清の対象ですと。全員逃しませんので、覚悟して下さいね」


 膝下を失った探索者を蹴り、仲間の下へと飛ばす。

 そこに待っていたのは遊香の操るオーク。

 大きな口を開けたオークは、怯える探索者の頭部に齧り付いた。


 上がる悲鳴の残酷さが、恐怖を一層際立たせる。


 黒一による粛清と言う名の虐殺が始まった。

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― 新着の感想 ―
ぬるぽ
オークは人間のように文明を築いていて、 オクタンくんなどとコミュニケーションをとった後だと、テイムして人を食わせるのは恐ろしく感じるな…………(´・ω・`)
成る程。直接殺害をしなければ、魔人化はしない訳か。 だったら、いくらでも手は有りそうだな。 まあそもそも人間卒業している田中は、関係なさそうでは有るけれど。
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