ネオユートピア15
11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます!
11月1日に活動報告更新しております!
明日、幕間三話投稿します。
時間は6時、12時、18時です。
よろしくお願いします!
扉を開くと、モンスターが食事をしていた。
食料はもちろん人間だ。
俺がこれから、会う予定だった人達である。
彼方もいろいろと準備をしてくれていたようで、テーブルの上には写真付きの資料が置かれていた。
一体、どんな話をしようとしていたのか皆目見当が付かない。
まったく、これじゃあ気になって夜も眠れないじゃないか。
おい、分かってんのかこの野郎!
フゴッ。
え、私はメスだって。
ごめん、間違えて。
って、そうじゃねーよ! テメーらが食ってるの、これから話する相手だったんだよ。分かってんの⁉︎
……フゴ。
俺が怒ると、オークの一体が食べたであろう人のメガネを差し出して来た。
いるかボケ!
つーか血が付いててグロいわ!
謝ればいいってもんじゃないんだよ!
ん、ああ、すいません愛さん、直ぐに話を終わらせますんで。
え、知り合いなのかって?
何言ってるんですか、オークに知り合いなんているわけ……あっいました。オクタンくんって言うんですけどね、一応ハイオークなんですよ。結構いい奴でしてね、俺の友達って、邪魔すんじゃねー!
襲い掛かって来たオーク共を、風の魔法で一掃する。
ったく、これだから自制の効かない奴は困る。
やれやれと頭を振ると、テーブルの上に置いてある資料に目が止まった。
そこにあるのは、俺の個人情報。
俺だけでなく、親や兄弟、友人関係に至るまで記載されていた。それも写真付きで。
……まさか、ここにいた奴らは、俺を脅迫するつもりだったのか?
俺が言うことを聞かなければ、家族がどうなってもいいのか、的なやつ。
あり得るな。
その程度の脅しに従うつもりはないが、かなり不快にはなっていただろう。
まあ、それももう分からない。
何せ、死んでしまっているからな。
一応、蘇生魔法による復活は可能だ。
死後そんなに経ってないし、今も魂があるのを感じ取れる。だが、そんな厄介な奴らを生き返らせる義理はない。
さあ、愛さん戻りましょう。
そう言って振り返ると、案内の男が愛さんを人質に取っていた。
「お前はなぐぶっ⁉︎」
男は何かを言おうとしていたが、殴り倒せば問題無し。
解放された愛さんに大丈夫ですかと尋ねると、「多分、貴方が先手を打ったのだと勘違いしたのよ」と何故か男の方をフォローしていた。
先手も何も、俺にモンスターを操る力なんて……なんて……なんでモンスターが地上にいるんだ?
「リミットブレイク」
空間把握に集中して、その感覚を広げる。
膨大な情報を並列思考で処理しつつ、最悪な情報をまとめていく。
どうやら、あの切り替わった感覚は正しかったようだ。
焦りながら、まとめた情報を愛さんに告げる。
愛さん、どうやらネオユートピアにモンスターが出現しているみたいです。
俺の焦った様子に冗談ではないと悟ったのか、愛さんは険しい表情を浮かべていた。
モンスターは今の所、地下施設にしか現れていない。だが、出現する範囲が徐々に上がって来ており、直ぐにでも地上から現れるようになるだろう。
一部の人は気付いているようだが、ほとんどの人は今も変わらずに過ごしている。
このままだと、多くの人が犠牲になってしまう。
早く上に戻って知らせましょう。
そう愛さんに言われてハッとする。
そうだ、ここには戦力になる奴らが集まっている。状況を知らせれば、直ぐにでも動いてくれるはずだ。
俺は殴り飛ばした男を担いで、愛さんの後について行く。途中で現れるモンスターを即殺して、エレベーターにたどり着く。だが、動かない。
理由は空間把握が教えてくれる。
エレベーターの下にゴブリンがおり、設備を破壊していたのだ。
こっちですと声を掛けて、階段を目指す。
階段で一階に上がり、最上階まで行けるエレベーターに乗る。しかし、こっちも途中で止まってしまった。
それだけじゃない、少し揺れたかと思うと落下を開始したのだ。
チッと舌打ちをして、風を操りエレベーター停止させ、最上階まで一気に上昇させる。そして開かない扉を蹴破って、ようやくたどり着いた。
会場では未だに談笑しており、この状況を理解している人は一人もいない。それどころか、外の景色を見て楽しんでいた。
何を呑気なと声を上げようかとしたが、俺も外の景色を見て言葉を失った。
ネオユートピアの交通網、その主要な物となっているパスが、強い光を発していたのだ。
これを美しいと思って見ているのは一般人。
嫌な予感を感じているのは、普通の探索者。
この現象が危険だと感じているのは、凡ゆる危機から生き延びる探索者だろう。
その危険を察知した熊谷さん達が、これは何だと俺に聞いて来る。
分かりません。
ただ、膨大な魔力が巡っている。
でも、これに似た物なら知っています。
掌に魔法陣を展開する。
魔力が巡るという点は似ている。だが、その量が膨大過ぎて同一視出来ない。
それに、仮にこれが魔法陣なら、余りにも無駄な魔力を撒き散らしてしまっている。洗練された技術などなく、力尽くで発動させようとしているかのような印象を受ける。
……まさか、これが原因でモンスターが現れているのか?
そうとしか考えられない。
てっきり、ダンジョンの侵食が始まったのかと思ったが、誰かの意思によって起こされたとしたら、それを解消すればこの事態を止められるかも知れない。
俺は熊谷さん達に、地下にモンスターが現れたと説明をした。愛さんは、他の参加者に説明をしているが、まったく信じてもらていない。信じた人も、何かのイベントと勘違いしているのか、面白がっている様子だ。
しかし、それも直ぐに信じるようになる。
近くの建物で爆発が巻き起こり、中からモンスターが現れたのだ。
途端にパニックになる一般人。
それに対して、探索者達は冷静になる。
ここにいる探索者は、ほとんどが実績のある者達だ。どうすればいいのか、今も頭の中で整理しているだろう。
だから俺は声を上げる。
武器が必要な奴はこっちに来てくれ! 幾らかまだ余りはある! エレベーターは使えない! パスには絶対に触れるなよ、体が分解されるぞ!
あれに触れたら、探索者だってただではすまない。それ以下の一般人が耐えられるはずもなかった。
俺の呼び掛けで、探索者が続々と集まって来る。
祝賀会の為に武器を置いて来ており、今は手元に無い状況だ。
無くてもある程度は戦えるだろうが、それが原因で遅れを取っては意味がない。だから、少しでも戦力は上げておきたいはずだ。
俺が持っているのは、ホブゴブリンが使っていた武器と、デーモンが使用していた物。
収納空間から取り出したそれを床に置くと、好きな物持ってけと差し出した。
すると、ほとんどの探索者が、ホブゴブリンの武器を選択する。
その理由は何となく分かる。
デーモンが使っていた武器は、全て特殊な効果が備わっている。それを使い熟せば、強力な武器になるが、この短時間で使えるようになる者はまずいない。
だったら、癖のない普通の武器の方がいいのだろう。
武器を持った彼らに、ここにいる人達を守って逃げてくれとお願いをする。
じゃあ、あんたは? と探索者の一人が聞いて来る。
俺はこの原因をどうにかしに行く。
時間が経てば経つほど、モンスターの数が増えていっているから気を付けろよ。
それから、フウマ!
突然呼ばれたフウマは、なんじゃいといった様子で、トコトコと近付いて来た。
フウマ、お前は救えるだけを救え。
ブル?
救える命を片っ端から救え、お前なら出来るだろ?
真っ直ぐに見つめてそう言うと、フウマは力強く頷いた。
ヒヒーン!
嗎声いたフウマは宙に浮かぶ。
そして、強化ガラスを突き破って外に飛び立った。
きっとフウマは、多くの命を救うだろう。
ただ、まあ、ガラスを突き破るのは止めろよ。
下に人がいたら危ないだろうがい。
呆れながら俺も窓側に立ち、マスクを脱ぎ捨てる。
千里にじゃあ行って来ると言って、俺も空へと飛び立った。