ネオユートピア14
11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます!
https://blog.over-lap.co.jp/
書籍はWEB版を大量に加筆しております。
新たなエピソードも加えております。
よろしくお願いします!
時刻は十八時、祝賀会が開始された。
場所はネオユートピアの中でも、特に背の高い建物の最上階で行われており、そこから眺める夜景はとても美しい物だった。
また会場も広く、五百人以上が入っているというのに、まだまだ余裕はある。参加者も続々と増えて来ており、最終的には千人には届きそうだ。
服装はみんなドレスやタキシードにスーツと、相応の格好をしている。俺も、いつの間にか準備された白のタキシードを着用しており、なかなかにかっこいい姿になっている。
ブルルッ。
何、似合ってないのに調子に乗んなって?
あのなフウマ、こういうのはティピーオーを弁えないといけないんだよ。これがペット同伴でも良い祝賀会だとしても、そこらは守らなきゃいけない。だがな、ペットには無理があるテメーを追い出すのは簡単なんだぞ。
ん? 分かったら口には気を付けろよ。
ヒヒーン。
俺が脅すと、泣きながら千里の所に行ってしまった。
こいつあれだな、何だかんだで千里には懐いてるよな。
頭を撫でられても嫌な顔しないし、困っていそうな時は助けようとする。
まあ、悪い事ではないので放置でいいのだが、何というかまあイラッとはするな。
この祝賀会に参加しているのは、今回のグラディエーター参加者及びその関係者だ。それだけでかなりの人数だというのに、お連れ様もご一緒にどうぞというので、千里達も参加可能となったのだ。
それもこれも、ネオユートピアの力を示す一貫なのだろう。
まあ、そんなのは俺には関係ないので、愛さんと熊谷さん達に挨拶をしに行く。
本日初の顔合わせなので、それくらいはしておくべきだろう。
どうもどうも、はい、わざわざ準備していただいてありがとうございます。
しかも白のタキシードを。もう目立って仕方ないですわー。お前、結婚するのかって感じですよねー。
え? この衣装用意したの愛さんじゃないんですか?
グラディエーターの運営が?
何で? え、ああ、目印にしてるんですか。
……目印って、何の?
うん、やらかしたね。
どうやら昨日のイベントでやった、ダイドウとの一戦が好評だったらしく、勝利した俺を分かりやすくするための格好なのだそうだ。
式典が終われば、多くの人に声を掛けられるぞと忠告をいただいた。
面倒だな、逃げようかな。
なんて考えていたら、式典が始まってしまった。
最初にグラディエーターの主催者代表の話しから始まり、今大会の講評を行った。
その後、前半の部と後半の部でMVPが選出された。
前半の部では熊谷さんが選ばれて、後半の部は知らん奴だった。
あとはスポンサーから賞が与えられたり、いろいろな賞と共に多くの物が贈呈されていた。
そして何故か最後に俺が呼ばれた。
会場がざわつき、注目が俺に集まる。
舌打ちしたくなるのを堪えて、震えながら壇上に向かう。
苦手なんだよ注目されるの。グラディエーターは覆面してたから大丈夫だったけど、素顔だとどうにも顔が引き攣ってしまう。
……するか、覆面。
収納空間からするっと取って、シュッと被る。
準備万端と壇上に上がると、多くのフラッシュがたかれ、よく分からん威厳があるっぽい爺さんと握手した。
爺さんと気色悪い笑みを向け合い離れようとすると、このあと話があるから人を寄越すと言われた。
聞かなかった事にしたかった。
とりあえず、一億円のパネルと共に記念撮影して終了だ。
終わって、千里からどうだった? と尋ねられたので、爺さんからラブコールされたというのと、なんか怪しいから近付かないようにな、とも付け加えておいた。
あの爺さんは、威厳云々よりも先に、汚濁した水のような魂をどうにかした方がいい。
千里や美桜と話ていると、他の参加者から話し掛けられる。
そのほとんどが探索者で、あそこでどう動いたんだとか、どうやって魔法を無効化しているんだとか、どうやったら強くなれるのかとか、どうして覆面してるんだ? とかいろいろと質問攻めにあった。
まったく面倒だなぁ。
あのな、面で迫って来る魔法にだって弱い所があるんだよ。そこを見つけりゃいいんだよ。それが分からない? 感じろ、それしか言えん。
魔法を無効化するのは難しい事じゃない。魔法の素は魔力なんだ。魔力が変換して起こっている現象なんだ。だがな、全てが変換されるわけじゃない。全て変換されたらその時点で魔力ってエネルギーが尽きるんだからな。だからその残った魔力を消してやれば良い。こんな風にな。分かるか? 分からない。一回で理解しろやこの野郎!
どうやって強くなったのかって言われてもなぁ……地獄を味わえ。
これしかないわ。
覆面? これは俺の一部だ。
こんな風に適当に対応した。
そのせいか、一般の人達まで近付いて来て、またいろいろと聞かれた。
うん、まあ、面倒だったけど、悪い気はしなかった。
鼻高々にどんなモンスターを倒して来たのか、いろいろと話してあげていると、ちょっとこっち来いよとさっきの爺さんが言っていたお迎えが来た。
じゃあこの辺で、と話を切り上げると、ホッとした様子の人が多くいた。
……最後まで話して上げようかな?
俺が会場を出て行くと、その様子を見ていた愛さんが追いかけて来た。
どこに行くの? と聞いて来る愛さんに、なんかさっきの爺さんが話があるみたいなんで、ちょっくら行って来ますと答える。
すると、私もついて行くと言って、勝手に同行する。
案内の男にいいかと聞くと、それは許されないと排除しようと愛さんに手を伸ばした。
その腕をガシッと掴む。
テメー、うちの社長に何しようとしてんの?
案内の男は探索者だ。
プロレベルの探索者だ。
そんな奴が、愛さんに危害を加えれば最悪死ぬ。
だから、何かするようなら、俺はこいつを排除する。
そう意思を込めて睨み付けると、案内の男は動きを止めてしまった。呼吸を忘れて、瞬きを忘れて、恐怖していた。
動かなくなった男に、オラッはよ上司に連絡せんかい。と告げて、ようやく正気に戻った。
それからどこかに連絡すると、愛さんの同行の許可が出たようだ。
この出来に愛さんから、「やり過ぎよ」と怒られた。
それから、「助かったわ、ありがと」とお礼も言われた。
更に、「何かあったら、まずは私に相談して」と心配もされた。
この人って、なんだかんだ面倒見が良いよなぁと今更ながら気付いた。
最初は面倒なのに絡まれたと思っていたが、結果的に良い出会いだったのだろう。
ダンジョンに潜り始めていろいろとあったが、何だかんだで人に恵まれたな。
……恵まれたよな?
んー、どうだろうと考えながら、案内の男について行く。エレベーターの前で止まると、下行きのボタンを押して待つ。
エレベーターが到着するのと同時だった。
世界が切り替わる感覚を味わったのは。
何だ?
ダンジョンで経験した物と比べるとかなり弱いが、確かに何かが切り替わった。
愛さん、何かおかしくないですか?
そう尋ねるが、愛さんは何も感じなかったようだ。
念の為に、会場の方に向けて空間把握を伸ばしておく。フウマもいるので大丈夫だとは思うが、念の為だ。
だから、気付くのに遅れてしまった。
エレベーターに乗り一階まで降り、更に乗り換えて地下二階に移動する。
どうしてわざわざ地下まで来るんだ?
もしかしたら、何か罠が仕掛けられているのかも知れない。
そう警戒したのだが、それは無用な心配だった。
何故なら到着した先では、待っていたであろう人達がモンスターの腹の中に収まっていたのだから。