ネオユートピア13
一巻の書影が公開されました!
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11月25日、オーバーラップノベルス様より一巻が刊行されます!
これも皆様のおかげです! ありがとうございますありがとうございます!
朝からスマホが鳴り、灰野という男から連絡が入った。
灰野は、美桜と千里を連れ去ろうとした奴だ。
そいつから連絡があったという事は、夢見焔が目を覚ましたという内容だと思っていた。
しかし、受けたのは『焔が……死んだ』という物だった。
は、ふざけてんのか?
俺から逃げるために嘘をついているのか?
そう疑った。
昨日は確かに治療をして、生きているのを確認して終えたのだ。
トレースに治癒魔法、蟻蜜まで使って完治させたのに、そこから容態が悪化するとは、とてもじゃないが考えられなかった。
だから疑ったのだが、『誰かに殺されたんだ…』と弱々しく返答された。
それから、言われた場所に向かう。
そこは海岸沿いの砂浜で、一部に激しく燃えたような痕跡が見えた。
多くの警察が来ており、実況見分を行っているようだった。
その中には、見たくもない顔もいた。
「おやおや、どうも田中さん」と話し掛けて来たのは黒一。
黒一は、相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべていた。
何でお前がここにいるんだよ。
仕事なのは分かってんだよ。ただの文句だよ。
え、俺? 俺は灰野から連絡があったから来たんだよ。
どうやって亡くなったのか知っているのかって?
知らねーよ。昨日治療したってのに、何でこんな事になってんだよ。
話を聞くために助けたのに、亡くなるとは思いもしなかった。
未来は大丈夫だろうか?
俺が心配するのはおかしな話だが、助かった時の喜びからこの結末は、流石に辛過ぎるだろう。
そんな俺の心配など知らないといった感じで、黒一はどのように亡くなったのか教えてくれる。
死因は焼死。
魔法の炎に焼かれて亡くなっているという。
それも今回はあからさまだったので、その犯人も特定出来ているそうだ。
……麻布先生。
彼がやったのかは、まだ分からない。
だが、もしも生きていると知れば、間違いなく殺しに来るだろう。
それは分かっていた。
分かっていても、俺は何も対策を立てなかった。
何故か?
無理だと思ったのだ。
麻布先生程度の実力では、灰野はもちろんグラディエーターに参加していた探索者には勝てない。だから、実力行使は不可能だと思っていた。
考え込んでいる俺に、黒一は一歩近付いて来る。
「……邪魔、しないで下さいね」
弧を描いた口。
笑ってない目。
本気で殴り飛ばしたくなった。
ーーー
連絡して来た灰野と会うと、意気消沈していた。
話を聞こうにも、ぼうっとしており動けなくなっていた。
悔しいが、その気持ちはよく分かる。
もっとも、長年共にいたこいつらでは、その悲しみは俺の比ではないだろうが。
俺の顔を見上げた灰野は、何かを呟き始めた。
「……これで、仲間が三人死んだ。ダンジョンでも死ななかったのに、なんで平和なはずの地上で死ぬんだ?」
三人。
麻生先生が言っていた数だ。
これで、彼の復讐は終わったのだろう。
どういう手段を使ったのか分からないが、己の手で成し遂げたのだ。
これからどうするんだろうか。
自首するのか、このまま姿をくらませるのか。
まあ、どちらにしても、これ以上俺に出来る事はもう無い。
ったく、子供はどうすんだよ、麻布先生よぉ。
やるせない気持ちになりながらホテルに戻る。
そこでは千里と美桜が荷物をまとめていた。
何でも、今晩の祝賀会が終われば、そのまま帰るらしい。
夜遅いのに大丈夫かと聞くと、愛さんもひと足先に帰るらしく、それに同乗させてもらうそうだ。
愛さんは仕事があり、千里と美桜は学業がある。
まあ、いつまでもここで遊んでいる訳にもいかないよな。
送っていこうかと言うと、気にしないで楽しんで来てと気を遣われた。
正直、楽しめるような状態じゃない。
さっさと帰りたい気持ちではあるが、ダイドウから長剣も貰わないといけないので、ネオユートピアを離れるのは遅くなるだろう。
それに、一億円は祝賀会で贈呈されるらしいので、参加はしときたい。
母ちゃんと父ちゃんへの、最後の親孝行になるだろうからな。
二人に一緒に飯食いに行かないかと誘って、ホテルのレストランに向かう。当たり前のようにフウマも着いて来るので、もう気にしないようにしている。
食事をしながら談笑していると、ネオユートピアのどこに行ったとか、凄い景色だったとか、楽しかったという感想が多く聞けた。
これは、千里を誘ってくれた美桜に改めて感謝だな。
何気に窓の外を見る。
レストランはホテルの上階にあるというのもあり、下の様子がよく見えた。
道を歩く人は少なく、数えられる程度だ。
その数少ない通行人の中に、頭がボサボサの女性がいた。
未来か?
このネオユートピアに来て知り合った女性。
予知夢という珍しいスキルを持っている彼女が、周りを見回しながら歩いていた。
姉が亡くなったので心配していたが、どうやら大丈夫そう……じゃないな。
深いクマのある目を血走らせており、その腰には短刀を携えていた。
もしかしなくても、姉の仇を探しているのだろう。
海岸沿いに行った時に、未来は麻布先生を疑っていた。出会えば、間違いなく刺しに行くだろう。
はぁとため息を吐いて、千里達にごめんと言って席を立つ。
知り合いでなければ、危ない奴がいると放置するのだが、知り合ってしまったからな……。
ホテルの一階に降りて、未来の元に向かう。
すでにホテルの下にはいなかったが、空間把握の知覚する範囲にいるので問題無い。
問題はやっぱりあった。
追いかけた先で、未来は職務質問されようとしていた。
そりゃそうだよな、物騒な物持って移動してたら警察に捕まるよな。
俺はそれとなく近付き、未来の持つ短剣を収納空間に入れる。
すると、職務質問していた警察官は逮捕する名目を失ってしまい、血走った目と暗い顔をした未来に、一言注意してから去って行った。
また歩き出そうとする未来。
それに、おいちょっと待てと声を掛ける俺。
しかし、制止しても足を止める気は無いようで、どんどん先に行ってしまう。
おい、待てって。
仇を取りたいんだろうが、お前じゃ無理だって。
そもそも、犯人が誰で、どこにいるのか知っているのか?
そう告げると、未来は方向を変えて俺に向かって来た。
居場所を知っているなら教えて。
そう言いながら、恐ろしい剣幕で迫って来る未来。
明らかに冷静ではなく、差し違えてでもやるつもりでいるのだろう。
悪いけど、居場所は知らない。
あの人が犯人かは知らない。
姉が殺されたお前に言うのは酷だが、今は大人しくしていろ。黒一っていうクソ野郎が動いている。下手に邪魔すれば、お前も殺されるぞ。
そう忠告するが、未来は俺を無視して歩き始めた。
周囲を睨み付けながら歩いて行く。
仕方ないな、と俺は諦めてスマホを取り出して灰野に連絡した。
迎えに来た灰野は、さっき見た時とは雰囲気が明らかに違っており、その目は未来の物と似ていた。
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