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ネオユートピア④

 双剣が交互に走り、連続した斬撃が浴びせられる。

 俺はそれを普通の剣で受け止めて、動きが止まった熊谷さんに一撃を加える。

 ガキッと俺の一撃を受け止めた熊谷さんは、闘技場のコーナーギリギリまで吹き飛んで行った。


 離れた熊谷さんから目を離して、飛来して来る銃弾を避け、雷の魔法を剣で斬る。


 一連の出来事が意外だったのか、嘘だろと呟きながら突っ込んで来る熊谷さんのパーティメンバーを迎え打つ。


 今は、ネオユートピアの外にある闘技場で模擬戦をしている。

 仕事として依頼されていたのもあり、しっかりと熟させてもらっている。


 どうしてグラディエーターの会場である闘技場で模擬戦をしているのかというと、単純にここしか出来る場所がないからだ。

 一般の格闘技のように、リング上だけで戦うというのは、探索者では狭すぎて不可能だ。

 超人とも呼べる身体能力と、魔法という不可思議な現象を引き起こす力。それらを使った戦闘をするには、最低でもサッカー場クラスの広さは必要だった。

 それはグラディエーターの運営側も理解しているようで、大会に出場する選手には闘技場の使用許可を出していた。


 もちろん、運営側にもメリットはある。

 試合が無い日でも闘技場を解放して、一般客が遊びに来られるようにしているのだ。


 魔法を避けて、向かって来る熊谷さん達を軽くいなして後退させる。

 次の攻撃が始まる前に会場を見回すと、十分の一くらいは埋まっていた。試合が無い日だというのに、かなりの人気である。その中には愛さんや千里もおり、こちらを観戦していた。


 因みに美桜は控えの方で待機している。

 何かあったら、直ぐに治療してもらうためだ。当日は俺もそっち側にいる予定になっている。


 よそ見をしていると、それが気に入らなかったのか、殺意マシマシで襲って来る熊谷さん達。

 俺はそれらをいなして行く。

 こちらからは攻撃を加えない。

 もしすれば、模擬戦とは名ばかりの一方的な蹂躙が始まってしまうから。


 熊谷さん達が悪いのではない、俺の手加減が下手なのが関係している。

 手加減して、殺さないようにするのは可能だ。だが、無傷や軽傷で終わらせるのは無理だ。

 さっき熊谷さんを吹き飛ばしたのもかなり加減しており、これ以上となると投げ飛ばすくらいしか出来ない。


 それが分かっているのか、熊谷さん達も悔しそうにしている。

 なんか申し訳ない。

 華を持たせてやりたいが、力量差を理解している人達にやっても侮辱にしかならない。


 なら、倒してしまった方がいいだろう。

 時間もかなり経っているし、十分な模擬戦にはなったはずだ。


 俺は剣を構えて、熊谷さん達に向き合う。

 それだけで、空気が凍るような緊張感が会場を支配する。

 誰かの息を呑む音が聞こえる。

 それさえも耳障りになりそうな静寂の中、俺は熊谷さん達に向かおうとして、足を止めた。


 彼らが参ったと降参したのだ。

 俺も構えを解くと会場がいつも通りの空間に戻り、多くの拍手が巻き起こった。


 どうした⁉︎ 何が起こった⁉︎ と困惑していると、熊谷さんから俺に送られているものだと教えてくれた。


 え、何で? と更に困惑する俺。


 それだけ素晴らしい模擬戦だったって事さ、と爽やかに言う熊谷さん。

 そういう物なのかと納得して、観客に頭を下げておく。

 何かをしたつもりもなく、ただ仕事を熟していただけなので、こういう称賛は受け入れ難い。


 ただ、まあ、悪い気はしなかった。


 模擬戦を終えると、ネオユートピアに戻る。

 道中で同行していた愛さんから、田中くんってここまで強かったのねと感心された。

 なら、お金弾んで下さいとお願いすると、調子に乗るなと怒られた。


 怒らんでもいいやんと落ち込みながら、千里と美桜と昼飯を食べる。

 場所はホテルで、バイキング形式だ。

 外に食べに行ってもいいのだが、ホテルの食事が普通に美味しいのだ。それに、フウマを連れて食事可能な店が限られており、ホテルで食べるのが一番確実だった。


 外のテラスに食事を運んで、席に着く。

 外の景色を見ながら食べるのも悪くはないなと思ったが、上を走るパスが邪魔で景観を損ねていた。


 因みに、フウマに用意された食事は飼い葉だ。

 間違ってはいない。

 ホテル側には、フウマは召喚獣なので何でも食べるとは伝えているが、見た目があれなだけに飼い葉になってしまったのだ。


 だからホテル側を責められない。

 なのだが、フウマがキレるのとは話は別である。


 え、俺の食事よこせって?

 自分で取り行けよ、お前なら簡単だろ。

 なに、取りに行こうとして飼い葉を渡された?

 ああ、だからそんなに飼い葉が多いのか。どんだけ食べるのかと思ったわ。


 山盛りになった飼い葉があり、邪魔だなぁと思っていたらそういう理由があったようだ。

 邪魔な飼い葉を収納空間に片付ける。ここに置いていたら、他のお客さんに迷惑になるからな。


 何も無くなったフウマを見ると、ふるふると怒りで震えていた。


 仕方ないなぁと、俺の食べかけの食事を差し出す。

 卑しいフウマに食事を分け与える俺。側から見たら、そんな構図に見えただろう。なんて思っていたら、千里からそれは可哀想じゃない、とお叱りの言葉をいただいた。

 もっと言うと、フウマがキレそうになっていた。


 仕方ないなぁと、今度はちゃんとバイキングから食事を取って来る。

 そのついでに、ウエイターから飼い葉を持たされたのは何でだろう?

 もしかして、フウマのおかわりを要求しに来たと思われたのだろうか?

 間違ってはいないが、やっぱり何か間違っている気がする。


 フウマに食事を与えて、俺達も昼食を再開させる。


 うん? 今回のグラディエーターって、そんなに大物が来るの?

 政治家に他国の要人、企業家に俳優、各界の重鎮が招待されてるのか。

 ん? どうした美桜、眉間に皺を寄せて。

 ミンスール教の聖女が来る、それもトップが?


 ミンスール教と聞いて思い出すのが、昨日の出来事。

 未来が殺人事件にミンスール教会が関わっていると言っていた。それが不確かな情報だとしても、頭に強く残ってしまった。


 え? 俺は大丈夫なのかって?

 そうだなぁ、知り合いが作った宗教だからなぁ。あいつも悪い奴じゃないんだけど、何だか目的が見えないんだよなぁ。

 え、初耳。そりゃ俺もさいきん知ったからな。

 創始者は八十代って? まあ、それくらいの年齢になるのか。

 この前、連れて行かれた時はどうだったんだって?

 何の話?

 美桜を庇って、ミンスール教に連れて行かれただろうって?

 ……そんな事したっけ?


 記憶に残っていなかったが、どうやら過去に勧誘されている美桜を助けたらしい。身代わりにミンスール教会に連れて行かれてしまったそうで、その後から俺は行方不明だったそうだ。


 言われてみると、そんな事をした気がする。

 過去を振り返らない性格というわけではないが、奈落の印象が強過ぎて、どうでもいいと思った記憶を消去しているのかも知れない。


 まあ、そんな危険な奴が来るのなら、関わらないようにしようという事で話はまとまった。


 午後は自由時間なので、三人でネオユートピアを回る。フウマはホテルに残っており、無料のアニメを片っ端から見ているようだ。お菓子やジュースも準備しており、お前はここに何しに来たんだと言いたくなる。


 まあ、そんな駄馬は放っておいてネオユートピアを観光する。

 観光名所、というよりは映えスポットと言った方が良さそうな場所が多かった。

 移動手段が空が近いというのもあり、絶景に事欠かない。ビルの屋上に派手な何かを置けば、それだけで観光名所になっていた。

 そんな中でも、空中庭園とうたっている施設は良かった。

 海岸沿いにあり、海の景色が綺麗に見えたのだ。その景色も晴れの日限定なのだろうが、個人的に満足出来た。


 じゃあ戻ろうと話して、三人で下に降りる。

 ずっと高い場所にいたので、帰りは地面を堪能したかったのだ。


 だが、これが失敗だった。


「おや? 田中さんお久しぶりですね」


 黒い帽子を胸の前に持ち、髪をオールバックにした胡散臭い男。黒いスーツに黒いシャツ、黒いネクタイに黒い靴、それに黒い手袋までしている不審人物。


 黒一。


 貼り付けたような笑顔を浮かべて俺達を見ていた。

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― 新着の感想 ―
黒一、しっかりと念入りにお礼をしなくてはね。
おもしろい(´・ω・`)
きた黒一
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