表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/348

ネオユートピア②

 ネオユートピアに入って直ぐにある駐車場に到着すると、バスから降ろされた。

 ここでの移動は、基本的に交通機関か建物を繋いでいるパスを使用するそうだ。

 理由は、景観を損ねるのと、車が必要ないくらいに移動手段が充実しているからだ。


 近くの建物に入り屋上まで行くと、SF映画に出て来そうな移動式の乗り物が用意されていた。

 最大四人まで乗れる物になっており、タッチパネルで行き先を決めるようだ。


 何だか、都ユグドラシルでオークと間違えて乗せられた物を思い出した。


 おかげで、めっちゃイラついた。


 因みに、乗り物の名前はポレンというらしい。


 三人と一頭でポレンに乗ると、パスと呼ばれる空洞の中を移動する。

 パスは透明になっており、ネオユートピアの様子を見下ろせるようになっていた。

 特に怖いと思わないが、美桜はそうではないようで千里に抱き着いていた。キャーキャー言っており、とても楽しそうだった。


 このポレンがどうやって動いているのかは、俺には分からない。だが、このパス自体に魔力が流れており、ポレンがそれを推進力に変換しているのは分かった。

 どちらも、都ユグドラシルで似た物を見た。

 あそこでは使われてない時代遅れの技術だが、地上では最新の技術なのだろう。


 本当に何なんだろうな、ここ。


 下を見てネオユートピアを見ると、そこは魔力で溢れていた。

 一つ一つは微弱だが、集めればそれなりの量になりそうだ。

 まるでダンジョンに来たかのような錯覚を覚える。

 ただモンスターの存在しないダンジョン。

 一定の気温で維持されているというのも似ており、余計にそう感じてしまう。


 せっかく綺麗な場所なのに嫌なもんだなぁと思いながら、今回泊まるホテルに到着した。

 

 今回、ホテル代と食事代は、グラディエーターの運営が負担してくれているらしい。それだけ稼いでいるというのもあるのだろうが、選手に最大限パフォーマンスを発揮して戦ってもらいたいのだろう。


 そのお零れに与れる俺達は、かなり恵まれているかも知れない。

 ありがとうございます。

 だから頑張って下さいね、と熊谷さん達に治癒魔法を掛けて労う。


 ホテルに到着した俺達は、選手である熊谷さん達と集まって作戦会議をしていた。

 何で俺? と思わないでもないが、治療班の美桜もいるので何故か自然と参加していた。


 はい、はい、作戦はそれで良いかと。

 今回は個人戦が二人に、残りがチーム戦になるのでバランスを重視して行きましょう。

 相手の傾向を見るに、チームは前衛に特化して来そうなので引き込んで叩くか、不意打ちを狙う方が良いですね。確実なのが、試合前に弱らせておく事ですけど、誰か下剤とか持ってないですかね? あれだったら仕掛けて来ますけど。

 ああ、そこまでしなくて良いんですね。

 じゃあ、どさくさに紛れてガム踏ませますね。

 え? それに何の意味があるのかだって?

 ガム踏んづけた事ないですか?

 あれ、結構ムカつくんですよね。試合前にやったら、冷静さを失うと思うんですよ。ええ、間違いないです。現に、俺も怒ってますから。


 そう、何気にホテルから外に出ると、ガムを踏ん付けてしまったのだ。

 吐いた人は前を歩いていた子供で、小馬鹿にした笑みを浮かべて、バスに乗って行ってしまったのだ。

 今度見掛けたら、尻を叩いてやろうと思っている。


 え、そんなに怒りが溜まっているなら模擬戦をやろうって?

 嫌ですけど。

 いや、やる理由がないというか、面倒くさい。

 ああ、すいません。つい本音が。

 今回勝つ為に協力してくれって言われましても……え? 別途料金を支払う……。

 ちょっと待って下さいね、今確認しますんで……。

 ……仕方ないですね、俺に任せて下さい!


 スマホで残高を確認すると、結構厳しい状態だった。

 普通に生活する分には十分に余裕はあるのだが、ここで使うとなると足りなくなりそうだった。寝る所と食事が無料だとしても、遊ぶだけでかなりのお金を使ってしまう。

 これなら、ギルドで換金しとけば良かったな。


 とりあえず、模擬戦は明日行う事になった。

 それから二日後に試合なので、十分に休息も取れるだろう。


 作戦会議も終わり、ホテルの外に出る。

 さっきはガムを踏んでしまったので、しっかりと足元には注意しておこう。

 千里と美桜は、ホテル内にある施設を利用するというので別行動だ。他の人達も、家族や仲間と過ごすようで、ぼっちの俺は、自然と一人行動になってしまう。


 足元からブルッと聞こえて来る。

 そうだな、お前がいたなとフウマの頭を撫でる。

 思えば、よく噛み付いて来たり突飛な事をしていたのに、今ではそんな行動を取ることも無くなっていた。

 少し寂しくはあるが、フウマも成長したものである。


 さあ、のんびりと散歩でもしようかと歩き出す。

 外と違い、梅雨のジメジメとした暑さは感じない。パンフレットに書いてあった一定の温度に保っているというのは、本当だったようだ。


 のんびりと一時間ほど歩く。

 人工島ではあるが、その規模は広大で一日で回れるものではない。更に、建物の中には多くのテナントが入っており、見て回るだけでも一週間は遊べそうである。


 それだけの店があるのに、コンビニに立ち寄ってしまうのは何故だろうか。

 知らない土地に来て、そこにしかない店に行けばいいのに、何故かどこにでもあるチェーン店に入ってしまう。

 まったく、人の行動とは不思議なものだ。


 コンビニでお茶とジュースを購入して、散歩を続ける。


 フウマにジュースを渡すと、風の魔法を操り器用に口に運んでいた。

 もう、風を手足のようにというか、何でもありになって来ているなこいつ。


 散歩をして思ったのは、人を見かけないというものだ。

 まったく見掛けないわけではないのだが、極端に人が少ない。田舎でももっといるぞというくらい、姿を見ない。

 その原因も、上を走っている移動手段のせいなのだろう。


 ん? なんかおかしいな?


 下から張り巡らせているパスを見て、何か違和感を感じた。数が膨大ではあるが、規則性を持って配置されているのは分かる。

 その配置が、ある物に似ているような気がするのだ。

 それが分からなくて、頭を捻る。


 何か分かりそうで分からない、このもどかしさ。


 この悶々とした気持ちに終止符を打ったのは、まったく別の所からだった。


 怒声が聞こえる。

 そちらを見ると、頭がボサボサの女性が走って来ており、その背後をスーツ姿の男達が追っていた。


 俺はスッと身を引いて、女性を逃す。

 すれ違う時、女性と目が合う。

 その目は、大きな隈が出来ており、助けを求めるような泣きそうな顔だった。

 それに頷いて、追って来る男達を見る。


 男達は待て! と怒声を上げており、明らかに荒事を生業にしていそうな人達である。

 女性が捕まれば、大変な目に遭うかも知れない。


 そんな危険そうな男達に対して、更に引いて道を譲った。


 女性がえっ⁉︎ と驚いた顔をする。

 ブル? とフウマが小首を傾げる。


 え、助けないのかだって?

 なんで?

 見ず知らずの人を助けてどうすんの?

 今は助けられたとして、その後はどうすんの?

 俺達、もう直ぐいなくなるんだよ。お前は責任持てるのか?

 俺が助けたことで、彼女の立場が更に悪くなったらどうすんだ。


 そう言うとフウマは黙った。

 黙って、男達を魔法で足止めした。


 はあ〜と盛大にため息を吐いて、面倒な事になったなと天を仰いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
ショック受けてたけど助けられる予知でも見たのかな?
フウマ…めんどくさくなったな…まぁ従属させてるわけではないから仕方なしか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ