ネオユートピア①
次の日、ホント株式会社に集まると、準備されている大型バスに乗り込んだ。
ネオユートピアに向かうのは、同伴者含めて三十名近くおり、結構な人数になっている。
因みに、選手である熊谷さん達や社長の愛さんは別の車両で移動しており、このバスには乗っていない。
千里が久しぶりと挨拶して来る。
おうと返すと、隣の座席に座って来た。
その更に隣の席には美桜が座っており、悪戯っぽく笑っていた。ただ、キャラに合っていないせいで、笑顔が似合ってはいなかったが。
昨日何か言っていたが、本当に呼ぶとは思わなかった。
まあ、俺は何とも思わないんだけどね。
別にね、何とも思わないんだけどね。
好きにすればいいじゃないかって、そんな思いだよ。本当だよ。
千里がフウマを撫でて、可愛いと少し感性を疑うような感想を言っている。
フウマも何故か千里に懐いてしまい、頭を膝の上に乗せていた。しかし、その重量が予想外だったのか、おっ重っ⁉︎ と驚いていた。
まあ、こんなちんちくりんな見た目でも、体重は百キロを超えているからな。そりゃ、頭部だけでも重いだろうよ。
それでも乗せた状態で頭を撫でているのは、千里の優しさなのだろう。
だが、俺は優しくはない。
頭が千里の膝の上に乗っているというのは、体が俺の方に乗っているのだ。つまり、邪魔という事だ。
フウマの首根っこを掴んで持ち上げて、窓際に座らせる。
ブルッと反抗的な目をして来るが、お前は自分の重さを認識しろと言いたい。
ふふ、仲良いね、と笑う千里。
それが合図になったかのように、バスが出発すると告げられる。
走り出したバスの車内は、のんびりとした物だった。
外の景色を眺めていたり、家族連れが子供の相手をしていたり、会話に花を咲かせたりだ。
俺も千里や美桜と談笑しており、和やかな時間を過ごした。
ネオユートピアに着いたら、一緒に観光しようよって?
うん、まあ、別にいいけど。
照れてねーよ。いつも通りだし、意識してないしぃ!
何そのパンフレット?
へー、ネオユートピアの情報が紹介されているのか。
千里から手渡されるパンフレット。
それは、パンフレットというより情報雑誌と呼んだ方が良さそうな分厚さをしていた。
内容は、ネオユートピアにある設備や商業施設、観光名所など様々だった。また、全体像も載っており、その姿には既視感を覚えた。
とても都ユグドラシルに似ていたのだ。
建築物の外観は数段落ちるが、建物同士を繋ぐパスがとても似ていた。これで浮島と世界樹があれば、都ユグドラシルと間違えていたかも知れない。
たまたまだろうか?
いや、そんなはずはない。意図的でないと、こんな似た作りになる訳がない。
都ユグドラシルを知る誰かが関わっているのだろうか?
そんな疑問を抱きながらパンフレットを見ていると、千里から話しかけられた。
え、試合に出ないのかって?
出ないよ。俺、選手じゃないし。
それに、着いて行くのは今回だけだからな。試合に出ても、他の選手の迷惑になっちまうよ。
今回、仮に参加しても、次がないのなら迷惑にしかならない。それに、もう大金を貰おうが、この世界で知名度を上げようが、称賛を受けようが、俺にとっては何の価値も無い。
やるべきは、ユグドラシルを守りヒナタを戦わせないようにする事だ。
それ以外はどうでもいいのだ。
ただ、まあ、今は少しくらい会話を楽しんでも許されるだろう。
バスは五時間ほど走り続けると、ネオユートピアが見えて来た。
遠くからでも見える巨大なビル群。
海を埋め立てた人工島というのもあり、完全に人の手によって作られた土地だ。
その姿は、都ユグドラシルというより、前に海亀の一部をしばき倒した場所である、巨大な建物の集合体を思い起こさせた。
コンパクトに仕上がった都ユグドラシルと言えば聞こえは良いが、その歪な姿には違和感しか覚えなかった。
もっと言えば、気持ち悪いとさえ思った。
ん? 何か、魔力が流れてないか?
ネオユートピアの全体に魔力が行き渡っており、一定の流れを作っているように見えた。
千里に頼んで、もう一度パンフレットを確認する。
その中に、ネオユートピアの中は一定の気温で調整されており、夏も冬も快適に過ごせるという。
魔力を感じるのは、これのためなのだろう。
まったく、最高じゃねーか!
これなら常春のスカーフの必要もなくなる。
フウマが装備しているスカーフも、必要のない物に成り下がってしまった。
暑い夏が苦手な俺としては、最高に恵まれた場所ではなかろうか。
まったく、気持ち悪いとか思ってすいませんでした! と土下座したい気持ちだ。
試合は三日後なので、その間はのんびりとさせてもらおうじゃないか。物価がやや、というか、某テーマパーク並に高額になっており、食事をするにしても考えないといけない。
金は必要ないからと、そんなに稼いでなかったのが悔やまれる。
フウマも爆食いするだろうし、遊びでも使うだろうし、何か良さげな物があったら母ちゃん達に送りたい。
それに……隣をチラリと見ると千里と目が合う。
どうしたの? といった様子で小首を傾げるので、何でもないと返しておく。
まあ、うん、何人かで遊ぶ金くらいは欲しいところだ。
そうこうしている間に、ネオユートピアに到着する。
中に入るには、片側四車線の車両検問所か歩行者用の入場ゲートを通過するしかない。特に問題無ければ簡単に入れるのだが、危険な物を持っていたりスパイ活動や危険人物はここで取り除かれるようになっていた。
もちろん完全にではないだろうし、グラディエーターに出場する選手なんかは武器の持ち込みが許可されているそうだ。
そんなゲートを通過して、ネオユートピアに到着した。