準備3
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ホント株式会社を出ると、カズヤの家に向かう。
何で返してもらうのに、俺が行かなけりゃならんのだと、大人気ない思いを抱きながらフウマを小脇に抱える。
可能ならフウマに乗って移動したいが、割と近場というのもあり、勢い余って大気圏を飛び出すより確実に到着する電車を選択した。
空気を読んで、ぬいぐるみのように固まっているフウマ。
それを見た子供が抱っこしたいと言うので、流石に危険だからと断った。
フウマはちんちくりんな見た目をしているが、体重は百キロを超えている。そんな物を子供に持たせる訳にはいかなかった。
だが子供は抱っこしたいとぐずってしまう。
母親が宥めているが、嫌々と聞く耳を持たない。
ふう、ここは仕方ないな。
やれるか、フウマ?
そう尋ねると、任せろという意思が伝わって来る。
フウマを子供に手渡すと、絶妙な風属性魔法で体を浮かせて体重を限りなくゼロにして見せた。いつもベッド代わりに使っている魔法に加えて、雑妙なバランスの取り方。子供がくるくると回すのに合わせて、自然に見えるように制御する。
正に神業。俺には不可能な風属性魔法の技術である。
やるやないかこいつ。
フウマは、心なしかドヤ顔な気がする。
ここは素直に、凄いやないかいと褒めておいてやろう。
子供は満足したのか、フウマに抱き付いたあとそのまま持って行こうとした。
いやいや、それはいかんよ。これ、おじちゃんのだからね。それに、持って帰ったらお世話もしないといけないから大変だよ。
食費だけで、お父さんの給料無くなっちゃうよ。
漫画にアニメも死ぬほど見るんだよ。君はそれに耐えられるかな?
そう顔を近づけて教えてあげると、こくこくと頷いてフウマを返してくれた。
やっぱり誰も飼いたがらないんだなと、小脇にいる馬に同情した。
駅を出ると、カズヤにもう直ぐ着くからなと連絡する。
何だか、しどろもどろな対応で、怯えているような声をしていた。しかし、覚悟を決めたのか待っていると返事をしてくれた。
まあ、カズヤの意思なんて関係ないんだけどね。
初めて来る地域というのもあり、スマホの地図機能を利用して進むと、何だか大きな木が生えているのが見えた。
大き過ぎて、幾つかの家が影になっている。日照権的な物は大丈夫なのだろうかと心配になる。
あの森で見た木に匹敵する大きさ。
樹齢百年と呼ばれても、俺は信じるな。
いっそ観光名所にでもすれば良いのになと、どうでもいい事を考えながら進むと、その大きな木に近付いているのに気が付いた。
……いやいや、まさかな。
嫌な予感がして、流石にそれはないと思いたい。
そんな俺の願いとは裏腹に、GPSは大きな木の家が目的の場所だと告げる。表札を見ても、『世渡』と書かれており、ここがカズヤの家だと主張していた。
ピンポーンとチャイムを鳴らすと、はいとカズヤの声が聞こえて来た。
おう俺だ、取り立てに来たぞ。
ん? 違った、枝を返してもらおうか。
そう告げると、玄関がガチャリと開いた。
そこから現れたのは私服姿のカズヤで、ビクビクと怯えているように見えた。
んで、枝は?
こっちに来てくれ?
もうその時点で嫌な予感しかしないんだけど。
その通りだって?
ふざけんなよこの野郎⁉︎
お前! あれだよな、その馬鹿でかい木が枝とか言うんだろ⁉︎
そうだって?
馬鹿野郎! そこは違うって否定しろや!
何やってんだこんちくしょう!
どうしてこうなったのかを尋ねると、どうやっても世界樹からの反応が無いので、いろいろと試行錯誤したらしい。
水をあげたり、水につけたり、栄養を上げたり、土に植えたり、焼いたりしたらしい。それでも反応が無いので、接ぎ木を行ったそうだ。
接ぎ木ってのはあれだ、増やしたい植物の枝を他の植物に挿して成長させるやつだ。確かそんなのだったと思う。
んで、庭の木にやって見た所、次の日には大きく成長していたという。
いや、大きくって言うか、大きくなり過ぎじゃね?
つーか、そんなになってるなら、直ぐに連絡して来いよな。それでどうすんだよ、これ?
「……全部持って行ってくれても構わない」
構うわボケ! どうやって持って行くんだよ⁉︎
切って持っていけってか⁉︎
いらんわ、こんなでかい木!
んで、枝はどこにあるんだ?
そう尋ねると、カズヤは木を指差して上の方に動かした。
そして、この木の頂上付近に、接ぎ木した枝があるという。
この野郎、くそ面倒くさいことしやがって。
風を操り空を飛ぶ。周囲から視線を集めるが、もう知らん。誰に何を言われようが、こうなった以上は処理しないとどうしようもない。
木の頂上付近に来ると、一本だけ葉が違う枝が生えていた。この枝から感じる力もユグドラシルの物なので、間違いないだろう。
風の刃で枝を切り落とそうとする。
すると、なんか小さい生物が顔を出した。
その顔はハニワのようで、小さい体を広げて枝を守ろうとしていた。
とりあえず、俺は地上に戻る。
そして、カズヤの胸ぐらを掴んで問いただす。
あれは何だと。モンスターでもないのに、意思を持ったように動いていたのは何だと聞く。
分からない?
処理しようとすると、身を挺して守ろうとする不思議生物。
何とかしようとしたけど、いつの間にか愛着が湧いて、倒せなくなっていたという。
んで、俺に後は任せようと思ったと……。
舐めとんのかテメー! 完全に人任せじゃねーか!
自分でやったのなら、自分でどうにかせんかい!
というより、近所に迷惑だろうが。絶対苦情が来ているだろ。
そう言うが、何故か苦情は一件も来ていないという。
どんだけおおらか何だよ、ここのご近所さんは。
別の方面で感心していると、カズヤはある来訪者の話をする。
え、ここに二号来たのか?
世樹マヒト。うん知ってる知ってる、そんな名前なの。
ふーん、なんか言ってたか?
へー、前の世界の生き残りがいたのか、それは良かったな。
二号が教えてくれたのか。それで、あいつこの木の事言ってなかったか?
え、俺に任せるって。
もし放置したとしても、二号が迎えに行くから安心していいと……。
余計に困る情報よこすんじゃねーよ!
もしも、この木をどうにかしないと都ユグドラシルに行けないのなら、俺は迷わず木を破壊して枝を取り返していた。だが、こんな風に新たな生命? が宿ってしまったら、流石に迷ってしまう。
そもそも、あれは何だ?
魔力も感じなかったし、他の力も特に感じなかった。木が大きいだけで、他に特徴の無いただの木だ。
ん? フウマどうした。え? 俺に任せとけって。何とか出来るから、この木を譲ってくれと。
何故か自信満々なフウマ。
カズヤに許可を貰うと、好きにしろとフウマに託した。
え、俺も手伝えって?
木を引き抜く所まででいいからって?
しゃーないなー。
地属性魔法で木が根を張っている地面を操作する。
土を退かし、絡まった岩を退かして、道路や家が傾かないようにも補強していく。
その範囲は思っていたよりも広く、巨大な穴が出来てしまった。まあ、元に戻せば大丈夫だろう。
支えを失った木は倒れて来るが、それをフウマの魔法が受け止める。
そこから一気に上空へと上がり、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
フウマがどこに行っているのか、何となく感じ取ることは出来る。だがそれは、大雑把なもので、正確な場所までは分からない。
分かるのは、せいぜいここから東側というくらいだ。
あっちには、日本一の山である富士山があるが、あそこに持って行ってどうするのだろう?
俺も行くべきだったかな?
そう考えていたら、直ぐにフウマは戻って来た。
その口には世界樹の枝があり、上手いこと取り返せたようである。
木を破壊していなければいいが……。
そこはもうフウマの責任にするとして、世界樹の枝を取る。
特に変わった所はないので、一安心だ。
これで用事は終わりだなと帰ろうとすると、カズヤに引き止められた。
ん? ああ、気にすんなって。
お礼はいいから、これから頑張れよ。
ユグドラシルの所に行くんだろうって?
何で知ってんだ? 言っとくが、連れて行かないからな。
そうか、やるべき事が見つかったのか。そりゃ良かったな。
「俺は世樹マヒトについて行く」
そう宣言したカズヤの顔は、覚悟を決めた奴の物だった。
言いたい事はいろいろとあるが、俺は何も言わなかった。もう直ぐいなくなる俺が、とやかく言うべきではないと思ったからだ。
じゃあなとカズヤに別れを告げる。
二号はカズヤをどうするつもりなのだろうか。
あいつは何かの宗教を作ったらしいが、その目的がイマイチ分からない。ユグドラシルの為の宗教なのか、この世界を思っての宗教なのかも不明だ。
出来たら後者であって欲しいが、ミンスール教という名で世界樹を崇めていると聞いたら、違うのではないかと考えてしまう。
まあ、そこら辺は会った時にでも話してみよう。
そう決めて前を向くと、オレンジ色の光が空を染め始めていた。
透き通ったような夕焼け。
綺麗だが、ぽっかりと空いた気持ちになってしまい、あの日の寂しさを思い出させた。
何だか、フラッペが飲みたくなってしまった。