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準備1

本日より投稿再開。

二日に一回、一日おきに投稿しますのでご了承下さい。

ではでは、よろしくお願いします。

 朝起きると、背伸びをして体をバキバキ言わせてから一日が動き始める。

 いつも通り蟻蜜をいただくが、「クィ……」残念ながら感動を覚えなかった。


 ああ、あの時の感動はどこに行ったのだろうか。

 蟻蜜のおかげで最高の朝を迎えられていたというのに、今ではそこらに売っているジュースと大差ない。


 俺はどうしてしまったんだろうか。

 あの感動は、もう味わえないのだろうか。


 そう項垂れていると、フウマが俺にもくれと催促して来る。

 ほらよと渡すと、「……ブル……」微妙な顔をするようになった。

 美味い物には目がないフウマでも、ノーサンキューな飲み物になってしまったようだ。


 つーかどうしよう。

 収納空間には、まだまだ蟻蜜が残っているのだが、正直もう飲む気がしない。

 だからといって、誰かにやるのは論外だ。

 母ちゃんと父ちゃんの若返りが、この蜜が原因なら(つーかそれしかあり得ないけど)、誰かに渡せば争いになるかも知れない。

 人を若返らせる。

 それは途轍もなく魅力的な物だ。

 それこそ、理想の体型を手に入れるなどよりもよっぽ……よっぽど……


 …………もしかして、俺が太ったのって、この蜜が原因?


 いやいや。

 いやいやいやいや⁉︎

 いーーやーーーー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎


 蹲る俺。

 そんな俺の背に、ポンッと蹄が乗る。

 慰めてくれるのかと期待してフウマを見ると、


「ブルルッ!」(全部お前のせい!)


 と追い討ちを掛けて来た。


 お前、とりあえず飯抜きな。


 そう告げると、「ヒヒーン⁉︎」(ごめんてぇ)とすり寄って来たので気持ち悪かった。


 うん、もういいや。

 適当に配ろう。

 誰が若返ろうが、だれが太ろうが関係ないや。

 みんな仲良く太ればいい。

 世界が太れば、相対的に見て俺は標準体重になるはずだ。


 ……ありだな。

 適当に考えてみたが、これは有り寄りの有りではなかろうか。


 みんな蟻蜜が飲めて幸せ。

 みんな若返って幸せ。

 みんな太って、俺が幸せ。


 これほど、幸せな行いはないのではなかろうか……


 ……うん、馬鹿な考えはこれくらいにして、そろそろ準備をしようか。


 本日はホント株式会社に出向く日だ。

 目的は、週末にひかえたグラディエーターの打ち合わせ。

 午後に集まって最終確認を行い、明日の朝からネオユートピアに向かう。


 俺は治癒師として参加なので、試合には出ないが、「いざという時はお願いね」と愛さんから連絡があった。


 お願いされても、試合に出るつもりは無いと伝えたはずですよねと言うと、試合以外でトラブルがあった時は、という意味らしかった。


 まあ、それくらいならいいかと了承している。

 今回で関わるのも終わりだろうから、後腐れなくしておきたい。


 このグラディエーターが終われば、時期的にユグドラシルに呼ばれるはずだ。母ちゃんが出産して落ち着くまでいたかったが、微妙かも知れない。


 赤ん坊の魂も、未だに宿ってないしな。

 正直な所、不安しかない。

 あった物を戻すのは可能になったが、無から創り出すのは俺には不可能だ。

 そこら辺をユグドラシルに相談したい所なので、出発前にカズヤから枝を回収しときたい。

 一応、取りに行くと連絡はしているが、素直に返してくれるかはまだ不明だ。


 まあ考えても仕方ないので、さっそく日課をして行こう。


 フウマの散歩は無しで、朝食を作って、二人を起こして準備させる。

 二人には、今日家を出ると伝えているので心配はない。

 母ちゃんが残念そうにしていたが、父ちゃんはどこか嬉しそうだった。

 少しイラッとした。


 次いつ帰って来られるのか分からないとも伝えているのだが、赤ん坊が産まれて来る頃には帰って来いと言われてしまった。


 その返答は、曖昧にしておいた。



 んじゃ、行って来るから。

 就職失敗したら帰って来いって?

 やかましい、意地でも見つけて来るから安心しろ。

 今度は彼女連れて来い?

 やかましい、意地でも紹介しないから安心しろ。

 結婚相手を見つけて来いって?

 やかましい、どうやっても相手は見つからないから安心しろ。

 じゃあ何しに行くのかって?

 就職っつってんだろうが!

 ……ん? いや、ん? なんか違うような……まあいいか。じゃあ、行って来るよ。


 なんかグダグダになってしまったが、とりあえず出発した。

 適当に歩いていき、人がいない場所まで移動してフウマに跨る。


 さあ行くか。

 そう告げると、フウマは嘶声いて空へと舞い上がった。


 前はこれで道に迷ってしまったが、今ではもう迷う心配もない。

 暇な時はちょくちょくダンジョンに行っており、体を動かしていたのだ。千里とも、たまに遊びに行っており、何度も行ったり来たりして覚えてしまったのだ。


 だから出発して数分後には、目的地に到着である。


 時間はまだ出勤時間帯というのもあり、多くの社会人や学生が行き交っている。

 時期が初夏というのもあり、朝から暑い。

 蝉の鳴き声を聞くと、一層暑さを感じてしまう。


 なあ、フウマ。

 そろそろ、そのスカーフ返してくれないか?

 え、嫌?

 いやいや、そもそもそれお前のじゃないし、俺のだし! お前ばっかり涼しい思いをしてずりーんだよ!


 フウマが身に付けているスカーフは、常春のスカーフというアイテムだ。

 効果は一定範囲の温度の調整で、どのような環境にあろうと、春の木漏れ日にいるような快適な空間を作り出してくれる優れ物なのだ。

 それを常時付けているのを許したのは、フウマが母ちゃんと一緒に行動する事が多かったからだ。


 そうじゃなけりゃ、とっくの昔に奪い取っている。

 涼しい時期ならまだしも、こうも暑ければ特にな。


 俺とフウマが見合うと、ピシリと空気が固まる。

 周囲に人はいないが、建物のガラスがガタガタと鳴っているような気がする。


 ……止めとこう。

 俺達が争うと、被害がシャレにならない。

 それにはフウマも同意のようで、フンスと鼻を鳴らして勝ち誇った様子で俺を見下していた。


 いつか馬刺しにしてやろうと思った。


 とりあえず歩いてマンションに向かう。

 こうも暑くては敵わないので、フウマを片腕に挟んでいる。こうすれば、俺も涼を堪能出来るのでWin-Winの関係ではなかろうか。

 フウマから、猛烈な批判の視線が突き刺さるが、お前が返さないのが悪いと言っておく。


 周囲からの視線は、物珍しそうにしており、スマホで撮影している人をちらほら見かけた。


 うん、もうそれはいいや。

 どうせ、こっちにいる時間も短いし、何を言われても気にしない。


「なんか凄くね⁉︎」「デブがブタを狩って来たみたい」「どうやったら酷いこと出来るんだ?」「人でなし」「そもそも人なのか?」「あの人?って映画に出てた人?」「似てるな」「まあ、とにかく絵面が酷い」


 ……お前ら好き勝手言いやがって、良い度胸じゃねーか。


 他人の悪口を言ったらどうなるのか、その身に刻んでやろう。そう額に血管を浮き上がらせていると、スマホにメッセージが届いたようだ。


 出鼻を挫かれて、チッと舌打ちをしちスマホを見ると、カズヤからのものだった。


 内容は、今日の夕方に家まで来て欲しいというもの。


 どうして家?

 そう尋ねると、「謝らなければならないことがある」と返って来た。


 おいおい、まさかマジで返せないとか言うんじゃないだろうな。

 そうなったら、もう一度転生してやり直してもらおう。


 念の為に、もしかして返せないとかか? とメッセージを送ると、「返すが、いろいろとあってな。見てもらった方が早いんだ」と訳の分からん返答だった。


 まあ返してくれるならそれで良いかと、送られて来た住所に行くからと返事してメッセージを終える。


 マンションに到着すると、エアコンを入れてフウマを解放する。

 部屋は、約二ヶ月間放置していたからか埃が溜まっている。荷物は予め回収していたので、空っぽの部屋を掃除をするのは簡単だった。

 実家で鍛えた家事スキルは、決して馬鹿に出来るものではない。掃除機は無いので、風属性魔法で埃を集めると収納空間に放り込む。これは後でダンジョン行きだ。

 それから拭き掃除を行って完了である。

 拭くのは、流石に魔法ではどうにもならないので、手作業で行った。


 ふぃ〜と達成感に浸っていると、スマホが鳴った。


 はいもしもし。

 はい、はい、はあ、はあ、はい、えーと……今何時ですかね?


 時刻を見ると、集合時間はとっくに過ぎていた。

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おもしろい(´・ω・`)
[一言] 楽しみ
[一言] きたー! 田中は社会人としてもう死んでるなw
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