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幕間32(ヒナタ)その④

『ヒナタよ、お主なにか隠し事をしてはおらぬか?』


『……別に悪い事はしてないよ』


『その間が怪しいのう……。まあ良い、くれぐれも無茶はせぬようにな』


 世界樹の枝を使った、ユグドラシルとの交信を終える。

 どうにも勘が鋭く、ヒナタを怪しんでいる様子だった。

 もしバレたら怒られるかも知れないが、まあ、大丈夫だろう。それに嘘は言ってないし、実に建設的な事をしているとも思っている。


 そう、悪い事はしていない。


「キュ〜」


 そう、別に悪い事ではないのだ。


 ただ、命令に従うデーモンの軍団を生み出して、お城を作り、地底世界と交流して装備や食料、資材を譲ってもらい、代わりに倒したモンスターや地底世界では手に入らない物資を提供しているのだ。


 一方的な取引ではない。

 ちゃんとしたイーブンな取引だ。

 地底人の顔が引き攣っているようにも見えるが、それはきっと気のせいだ。


 地底人から譲ってもらった武器を一つ手に取る。

 それは一振りの剣で、炎を生み出す能力を持っていた。

 魔力を流すと炎を纏い、流す量によって炎が高温になり色も変化していく。

 赤からオレンジに、青から白に変化すると、これ以上は壊れるという所で魔力の流れを止める。

 

 熱を帯びた剣を振り、熱を冷ますと再び剣を見つめる。


「キュルル」


 どうしてだろうか。

 この剣に限らず、地底人の武器を見ると、どうしようもなく懐かしい気持ちになるのは。


 そんな望郷のような思いに馳せていると、一体のデーモンがヒナタの前に姿を現す。

 そして下手くそな念話を使い報告する。


『キョ、アクな、モンスター……ゲン』


『分かった、案内しろ』


 そう告げると、上半身裸になり、ユグドラシルから貰った純白のマントを腰に巻く。最後に聖龍の長剣を手にすると、配下のデーモンと共に飛び立った。



---



 ヒナタがデーモンという手駒を増やしてやっているのは、所謂、魔王ゴッコである。


 もちろん遊び半分でやっているのではなく、本気も本気、真面目に全力でやっている。


 デーモンを使って夜の世界の住人達を襲い、その戦利品を共闘関係にある地底世界に提供するのは、立派な魔王の姿だろう。

 更に凶悪な敵は、ヒナタ自ら出陣して葬り、その素材をユグドラシルに呼び出された際に、持ち帰るようにしていた。


 因みに、都ユグドラシルに呼び出されると、ここに戻って来るのにかなりの時間が必要になるので、転移魔法を習得していたりする。


 遊びは、真剣だからこそ面白い。

 それをフウマが持っていた漫画で学んだのだ。


 その成果もあり、真剣な魔王ゴッコは地底世界に平和をもたらした。


 それから、時間は過ぎて行く。


 各地にデーモンを派遣しては情報を取得していき、ユグドラシルでも知らないような情報の数々が手に入った。

 その中でも特出すべきなのは、友好的な神のような存在だろう。


 間違いなくアクーパーラクラスの存在なのに、心は穏やかで、他者に害を加えようとはしない。

 危害を加えられたのなら、烈火の如く敵を葬るが、基本的に大人しく他者の話を聞くのが好きな象だった。


 その象の名をガネーシャと呼んだ。


 ガネーシャは日頃から横になっており、ヒナタが訪れた時も姿勢を変える事はなかった。

 眷属であろう二足歩行の象が、多くの果実を運びお供えをしていた。


『おお、正しく我らを終わらせる力を持つ者だ。しかも、その腰に携えた者は、我らと同じく世界の化身たる龍だな。何とも珍妙な組み合わせである』


 ガネーシャは興味深そうにヒナタを見ているが、寝転がった姿勢から微塵も動こうとしなかった。


『初めまして、ヒナタと申します。貴方様の話を聞き、一度お伺いしたいと思い、馳せ参じました』


『よいよい、そのような事思ってもなかろう。儂を殺せるかどうか、知る為にここに来たのだろう? して、殺れそうか?』


『……無理。遠くからだと隙だらけに見えたけど、それが罠だって直ぐに気付いた。貴方を倒せるなら、アクーパーラも倒せるんじゃないかって考えたけど、どう考えても無理だ』


『そうかそうか、それは賢明な判断だのう。アクーパーラは儂よりも強いぞ、その肉は……ふむ、ふむふむふむ、誠に面白いのう! アクーパーラの肉を喰うたか⁉︎ そうか、奴は囚われの身になるのか! これは愉快愉快!』


 ヒナタの顔をじっと覗き込むと、ガネーシャは全てを察したらしく、突然笑い出した。

 それをしばらく眺めていると、よほど楽しかったのか満足そうに頷き、未来の忠告を始めた。


『うむ! 面白い物を見せてもらった。褒美だヒナタよ、お主の未来を見通してしんぜよう』


 一体何を言っているんだ?

 そう疑問に思うよりも早く、ガネーシャから未来視を受けてしまう。


『お主の父は未だ生まれてはおらん。この地に来るまで、気長に待つが良い。そう遠くない未来に、親しい者と戦う事になる。躊躇せず、全力で挑め。其奴は、ヒナタの知る者ではないからな』


『何を言っている……』


『最後に、ヒナタの肉体が悲鳴を上げておる。その虚弱な肉体では、本来の力は存分に使い切れん。いずれ、肉体に限界が訪れるだろう。どうするかはヒナタの覚悟次第』


 そこから先は、ヒナタの行動でいくらでも変わる。そう言葉を締め括って、ガネーシャは口を閉じた。


 今ので聞きたい事が増えたのだが、ガネーシャの眷属に、お帰りはあちらですと、半ば強制的に遠ざけられてしまう。


『……え? 親父、生まれてないの⁉︎』


 落ち着いてガネーシャの言葉を考えてみると、先ずはそこで衝撃を受けた。


『親しい者って、親父だよな? でも生まれてないって言ってたし、また別の誰かか? じゃあ誰だ?』


 分からないことが増えて、またガネーシャの元を訪れて詳しい話を聞こうと決意する。

 だが、その願いは叶わない。

 次に訪れた時、ガネーシャはどこかに行ってしまっていたから。



---



 また長い時間が経つ。


 相変わらずの夜の世界を旅をして、様々な場所を見て回った。


 都ユグドラシルと同じように文明を築いている場所は、地底世界の他にも一つだけあった。


 そこは広大な海の底にあり、ユグドラシルと同じような神によって守られた場所だった。


 見つけたのは偶然だった。

 海で複数の足を持った巨大なモンスターとの戦闘中、攻撃を避け切れずに水中に引き摺り込まれてしまったのだ。

 海底へと連れて行かれてしまい、このままではどうにもならないと我武者羅にアマダチを放つ。

 偶然、モンスターの胴体に当たり倒したのだが、突き抜けたアマダチは海底都市の結界までも貫いてしまい解除させてしまったのだ。


 現れた海底都市は、透明な水晶で覆われているかのような美しい姿をしていた。

 広さは都ユグドラシルの半分くらいだが、多くの魚人や知性の高い生物が暮らしていた。


 可能なら見てまわりたいと思ったが、そろそろ呼吸が危なくなっていた。だから一度海面に顔を出そうとして、大きな存在に捕まってしまった。


 それは、美しくも妖艶な長い体を持つ巨大な魚だった。


 リュウグウノツカイと呼ばれる魚がいるが、見た目で言えばそれが一番近いだろう。だが、顔立ちは優しく、まるで聖母のようにも見えた。


 これはやってしまった。


 そう思った時には遅く、水を操る魚に囚われてしまう。そして連れて行かれた先は、海底都市の中だった。

 ヒナタがゴボゴボとしながら溺死寸前になっていると、魚の魔法により水中でも呼吸が可能になり、ヒナタの命は救われた。


 海底都市の住人達が、ヒナタを不思議そうに見て来る。自分達とは違う存在に、興味を引かれたのだろう。


 ジロジロと見られながら進んだ先は、巨大な器の上だった。


 もしかして、料理されるんかな? と割とマジでびびっていたヒナタだが、魚から語りかけられて平静を取り戻した。


『空の者よ、私はこの地を守るワタツミ。クラーケンの討伐、感謝申し上げます』


 急に話しかけられて驚くヒナタ。

 だが、直ぐに正常に戻り、自己紹介と会話を進めていく。


 どうやら、ヒナタが討伐したモンスターは、度々海底都市を襲っていたモンスターのようで、かなり困っていたらしい。

 ワタツミ自身の戦闘能力は相当なものではあるが、クラーケンを倒すとなると海底都市にも被害が及ぶと心配して、行動に移せなかったという。


 なので、ここでお礼がしたいという。


『ささやかなお礼ですが、楽しんでいって下さい』


 そうワタツミに告げられて、


『結構です。お気になさらないで下さい。僕、空に帰りますから』


 嫌な予感がしたので、即座に飛び立ち海底都市を後にした。


 別に、親父が話をしてくれた浦島太郎を思い出したからではない。それも少しはあるのかも知れないが、今回は少しだけ違う。


 連れられて座った器には、恐怖に慄く多くの魂がこびり付いていたのである。

 これはきっと、あの器の上で踊り食いをしたに違いない。


 海底都市の見た目は美しかったが、その中身まで美しいとは限らないのだ。


 二度と近寄るまいと心に決めて、ヒナタは真っ暗な海から飛び出した。



---



 夜の世界に飽きて、どれだけの時間が過ぎただろうか。


 いい加減、明るい世界が見たいと思う今日この頃だが、相変わらず都ユグドラシルに呼び戻されて英雄なんかやっちゃってる。


 最近、デーモンの存在がユグドラシルにバレて、こっぴどく怒られた。何でもミューレがデーモンを倒したときに、ヒナタの魔力の残滓を感じ取り、どういう事だと調べたのだそうだ。

 素直に、ごめんなさいと謝罪して、今後は考えて行動しますと言って元の場所に戻ってきた。


 それで考えた結果、引き続きやる方向になってしまった。


 別に性格が育ての親に似たからではない。

 デーモンがこれまでに上げた成果が、捨てるには惜しいと思わせる物だったのだ。

 地底世界の拡張を手伝わせたり、世界を探索させたり、あらゆる情報を収集してまとめていたりする。それこそ、都ユグドラシルにあるアーカイブにもない情報だってある。


 これを捨てるだなんて、とてもではないが勿体無さすぎて出来なかった。

 

 最近は、目的を変えて珍しい物があったら報告するように指示を出している。

 そのおかげで、知性の低いモンスターを操る笛も手に入れた。


 これで、魔王ゴッコが捗るというものだ。


 強いモンスターに弱いモンスターをけしかけて、弱った所を狩る。


 正に魔王の所業である。


「キュフフ……キャフー」


 なんてほくそ笑んでみても、虚しい気持ちになってしまう。

 これに関しては、ヒナタの性分と合っていないのだ。あるから使っているが、モンスターを操るという行為が好きではなかった。


 だから、あと何回か使って捨てようと決めた。


『ヒナ、タ、サマ、モンスターが、ワレ、た』


『分かった。直ぐに行く』


 強力なモンスターが現れたと聞いて、直ぐに準備をする。

 この戦いも、いつも通りに終わるはずだった。


 特殊なモンスターではあったが、脅威で言えはそれほどでもなかった。

 ただ、問題はヒナタの肉体にあった。


「キュハッ⁉︎⁉︎」


 アマダチを使い敵を葬ると、強烈な倦怠感と痛みが全身を駆け巡る。

 そして、魂と呼べる物が肥大化し内側から肉体を攻撃し始めたのだ。


 宙に浮いていられず、地面に落下してしまう。

 はあはあと肩で息をして、痛みに耐えてこの状態が過ぎるのを待つ。


 思い出すのはガネーシャの言葉。

 いずれ肉体に限界が訪れると予言していた。

 どれだけ酷使しようと変化はなかったから信じていなかったが、これがガネーシャの言っていた事ならば、かなり不味いかも知れない。


 暫く経つと、倦怠感も痛みも無くなって来て、いつも通りに動けるようになっていた。


 一度、ユグドラシルに相談しておこうと、魔王城に戻る。



---



『ヒナタよ、戻って来い。そなたの体は限界を迎えておるかも知れん』


 自身の状態を告げると、ユグドラシルはそう告げた。

 その言葉に従い、都ユグドラシルに戻り直接検査を受ける事になった。


 そして、ユグドラシルから告げられた内容はガネーシャの言葉と同じ内容だった。


『そなたの力に、肉体が耐えられなくなっておる。根幹を破壊する力を使う度に、そなたの命も消耗されて行くじゃろう』


 神妙な面持ちのユグドラシルに『そっか』と答えて、元の場所に転移しようとするヒナタ。

 だが、そのまま行かせる訳にいかないユグドラシルは、その転移魔法を妨害する。


『どこに行く? ヒナタよ、お主はもう戦わなくてよい。これまで、この地のためによく戦ってくれた。もう休むが良い』


 その言葉に、キュハとため息が出る。


『何言ってんだよ、俺が戦わなかったら多くの犠牲が出るんだろ? だったら俺は戦い続けるよ』


『そなたこそ何を言うておる。戦い続ければ、命が無いと言っておるのだぞ! 大人しくここにおれば、それだけ生きる時間が長くなるのだぞ』


『その代わり、他の命が消えるんだろ。あんただって、それが嫌なんじゃないのか?』


『嫌に決まっておろう。だがな、それはお主に対しても同じなんじゃよ』


 それを聞いて、どうして守護者達がユグドラシルの為に戦っていたのか気付いた。

 彼らも、そしてヒナタ自身も、ユグドラシルを守っているようで、守られていたのだ。ユグドラシルにいつも見守られており、住民を生かそうと苦心しているのだ。


 だったら、尚更ヒナタは辞める訳にはいかなかった。


『やっぱり、俺が戦うよ』


『聞かん坊め……』


『仕方ないさ、親父ならそうするだろうからな』


 それだけ言い残すと、ヒナタは魔王城に向けて転移した。

 その姿を見て、ユグドラシルは無力な己を悔やむしかなかった。



---



 ある時、聖龍の長剣が淡く輝き出した。


「キュイ?」


 どうしたのだろうかと手に取ると、長剣から、いやト太郎からあるイメージが伝わって来る。

 それは、懐かしい顔がこの地に落ちて来るという物だった。そして、どう行動すれば良いのかを教えてくれる。


 聖龍の森近くに転移すると、真っ黒な翼を広げて闇夜に飛び立つ。


 空から傷を負った男が降って来る。


 その男は、この地では余りにも弱い存在だった。


 助けなければ落下した衝撃で死に、仮に生き残れても最弱のモンスターにも負ける存在だ。


 その身をキャッチすると、治癒魔法で治療する。

 元の傷でも、かなり危険な状態で、もしかしたら落下途中で死んでいたかも知れない。


『ナナシ、久しぶりだな』


 気を失った友人を見て、泣きそうになる。

 この顔には、言いたい事が山のようにある。

 親父が心配してたとか、剣を取られたと怒っていたとか、俺は強くなったんだぞとか、ト太郎がいなくなってしまったとか、いろいろと話したい。


 でも、それは許されない。

 ナナシはこれからそれを体験するのだから。


 湖の跡地に降り立つと、そっとナナシを地面に下ろす。


 そして長剣を突き立てると、聖龍の力が発動した。


 聖龍の遺骨から神聖な魔力溢れ出し、天津平次を過去の森へと送る。


『じゃあな、ナナシ』


 光に包まれた平次は、薄っすらと目を開いてヒナタの姿を見る。そして、また気を失い姿を消してしまった。


「キュウ」


 寂しい思いを抱き、ヒナタは闇夜を見上げた。



---



 ヒナタは戦い続ける。


 ユグドラシルに害を及ぼしそうな敵を片っ端から倒していき、偶に呼び戻されてモンスターを討伐する。

 

 戦う手段も少しだけ変えた。

 デーモンを最大限に利用して、相手を消耗させてからアマダチで止めを刺す。それで、ヒナタ自身の消耗を減らす事が出来た。


 魔王ゴッコは相変わらず続けているが、これのおかげで、デーモン達に対しても冷酷でいられた。


 こいつらには魂が無い。

 だから、何をしても良い。

 そう言い聞かせるだけの理由になっていた。


「キュー……」


 地底世界のワインを手に持ち、グラスをゆらゆらと揺らす。

 特に意味はない。

 ただ、そうしたいだけだ。


 そんな風に暇にしていたからか、デーモンから新しいモンスターが現れたという情報が入る。

 そこそこ強くて、デーモンだけでは歯が立たないらしい。


 仕方ないなと立ち上がり、デーモンに連れられて豚に騎乗した鎧のモンスターと対峙した。

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― 新着の感想 ―
田中はずっと魔法や剣で闘ってきて成長して どうしようもない敵のだめにアマダチを使い始めたが、 ヒナタは体が強くなる前にアマダチを使い始めて頼り切ってるからよくないのかな…………(´・ω・`) ナナシ…
[一言] 面白い
[一言] まぁオークにもオークって思われるくらいだからなーw
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