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地上19

 目を開けたら、もの凄い事になっていた。

 いきなり腹に風穴が空いたトウヤが飛んで来て、出遅れたのに気が付いた。


 おい、フウマは何やってんだ⁉︎

 まったく引き付けてねーじゃねーか!


 心の中で悪態を吐いていると、トウヤの口からゴポッと出ちゃいけない物が出て来た。

 急いで治癒魔法を使って回復させると、命が救えるラインまではなんとか持っていけて安堵する。


「すまん、少し遅れた」


 安堵したついでに、少しを強調して謝っておく。

 トウヤが何か言いたそうな顔していたが、文句ならあとで幾らでも聞いてやろう。


 それよりも今は……。


「お待たせ」


『奪われたか⁉︎ 愚かな、豚のまま死んだ方が幸せだと言うのに』


「また豚って言いやがったな! 殺されてーのかこの野郎!」


 不屈の大剣を収納空間に入れる。

 恐らく、今の俺なら、あの長剣が無くても出来るはずだ。


 右手にアマダチを生み出す。

 全てを斬る剣。そのモノの根幹から斬る剣。不滅を殺す剣。


 神殺しの剣。


 そして、


「リミットブレイク」


 更に、


「リミットブレイク・バースト」


 これまで出来なかったアマダチを使用してのリミットブレイク・バースト。


 それが出来るようになった。


 海亀はアマダチを恐れたのか、大きく距離を取る。


 だがそこに、幾つもの石の杭を発生させ串刺しにする。


「俺の頭は読めてないようだな」


 さっきまでなら、避けられていた攻撃。

 魔法の精度が上がったのもあるだろうが、それでも避ける素振りもなかったのは、俺の思考を読んで戦って来た弊害だろう。


 石の杭を砕き傷を再生させると、海亀は空を飛んだ。


「行くぞ」


 小さく告げると、一気に迫る。


 海亀は苦し紛れの魔法を放って来るが、その全てを避け無効化して行く。

 何かの力が迫って来るのを感じ取り、それを切り裂くと、海亀の目の一つが破裂した。


 魔法は全てを更地に変えて行き、いつしか建物は無くなっていた。


 すると、もう逃げきれないと分かったのか、海亀は動きを止めて手に黒い水を作り出す。それは、だんだんと形を変えると凍りつき、一本の剣となった。


「なあ、ひとつ聞いても良いか?」


『……何だ?』


「どうしてあいつらを殺さなかったんだ? 時間ならあっただろう」


『私が殺すのは、私が認めた者のみ。例外は貴様らのように、私を食らった者だけだ』


「そうか、じゃあ終わらせるか」


『来い、愚かな豚め』


「お前の敗因は、俺を豚呼ばわりして怒らせたからじゃボケェーー!!」


 俺の怒りのアマダチが海亀に迫る。


 海亀はアマダチに刃を合わせて来るが、それは障害にもならず、一瞬の均衡もなく砕け散る。そして、勢いはそのままに、海亀を袈裟斬りに通り抜け全ての力を消滅させた。


『愚か、愚か、安寧を捨てた……愚か…者…め』


 こちらを見る目には、憐れみの感情が宿っていた。


「……安寧なんて、もう諦めてんだよ」


 余計なこと言ってんじゃねーよ、そう悪態をつきながら姿が変わり落下する海亀を見送る。


 落ちたモンスターを追って俺も地面に降りると、元の姿を取り戻していた。

 力無く魔王が横たわっており、体には余計な物は付いておらず、管のような物で形造られた最初に見た姿だった。


 魔王には、まだ微かに意識が残っているようで、俺が近付くと目がこちらを向いた。


「何か言い残す事はあるか?」


 ただの気まぐれだった。

 間もなく死ぬ者の意志を、聞いておこうと思ったのは。


『……我の世界は、美しかった。生命に満ち溢れ、多くの思いに溢れていた。今一度、あの景色を……』


「……」


 望郷を求めるように、短い手が空に伸ばされる。

 しかし、その手は何も掴めなくて、力を失い地面に落ちた。


『あの者に伝えておくれ、もう間違えるな……と。

 ああ……帰ろう、彼の地に、我らの、世界……に』


 魔王は最後に、かつてあった世界を見たのだろうか。

 求めていた物を見つけた子供のように、目を輝かせて、そして光を失ってしまった。


 何とも後味の悪い結末に、歯噛みする。


 ダンジョンが最後に世界を取り込むのは知っていた。だがそれで、どれだけの悲劇が起こっているのかをまったく想像出来ていなかった。


「……余計な事、言っちまったな」


 世界がどうなろうが知らないと言ってしまった。

 知り合いのいない世界に価値は無いと思っていた。

 そんな言葉を、必死に戦った者に吐いてしまった。


 ただ、それだけが心残りだった。


 せめて魔王の亡骸は、しかるべき場所に埋葬してやった方が良いだろう。

 そう考えて、収納空間に入れていく。


 もしかしたら奈落には、魔王と似たような存在がいるのかも知れない。

 もしかしたら、あの森で戦った奴らの中にもいたのかも知れない。


 結末は変わらなかっただろうが、少しだけ余計な事を考えてしまう。


 魔王の亡骸を入れ終わると、世界が切り替わる。

 さっきまで瓦礫の世界だったが、洞窟の中に戻っていた。

 近くにはカズヤ達もおり、先程までの出来事が夢だったのではないかと錯覚してしまいそうになる。

 だが、そうではないとトウヤを見れば、一目瞭然だった。


 トウヤは腹に受けた傷で血塗れになっており、未だに意識を失っていた。


 もっと言えば、フウマは横になって眠っていた。


 ……このバカ馬……いや、今が戻すチャンスだな。


 頑張ってくれたフウマに感謝しつつ、お前の役目は終わったと送還しようと魔力を流して行く。


「……ブルッ⁉︎」


 しかし、勘の良いバカ馬は飛び起きて、思いっきり拒絶しやがった。


「ちっ、あと少しだったのに」


「ブルル!」


 止めろこの! と叫ぶフウマを無視して、足元に落ちているスキル玉を拾う。

 色はいつもと違って黄色をしており、溶けるように掌に消えて行った。他の奴らも同じようで、近くに落ちているスキル玉を拾っていた。


 俺はあいつらに近付くと、改めて謝る。


「その、巻き込んですまなかった。かなり危険な目に合わせてしまったな。怪我とかはしてないか? 治療するから言ってくれ」


 そう言うと、桃山が恐る恐るといった様子で手を上げた。


「どうした? 怪我したのか?」


「ハルト君って、何者なの?」


 質問の意味が分からなくて、兜の下で眉を顰める。

 まるで、俺が不審人物みたいな言い方だけど、違うよな?

 

「何者と言われてもな……俺は俺だ、としか言いようがないな」


 兜を取りながら質問に答える。


「じゃあ、どうやってそんなに強くなったの?」


「ひたすらに戦って来たからじゃないか? 戦って勝たないと死ぬ環境だったからな……」


 今考えても、よくあの奈落で生き残れたもんだ。

 もう一回やって生き延びられるかと聞かれても、自信はない。

 あそこには、海亀クラスの怪獣がたくさん存在しているのだ。あれらに目を付けられたら、間違いなく死ぬ。


 今倒した海亀だって、本体から切り離されたほんの一部に過ぎない。そんな存在に苦戦してたんだ。本体と対峙したら、泣きながら逃げると思う。


 そう考えてみると、俺ってそんなに強くないのかも知れない。


 そんな風に答えていると、カズヤが間に割り込んで来た。


「田中! 頼む、教えてくれ! その鎧はどこで手に入れたんだ? 誰かに貰ったのか? だとしたら誰だ⁉︎ あいつは今どうしている⁉︎」


 支離滅裂な言葉を投げ掛けて来る。

 こっちも、質問の意図が分からない。


「何言っているのか分からん。分かりやすく十文字以内で言ってくれ」


「鎧は誰に貰った?」


「ダンジョンのモンスターから手に入れた」


「モンスター?」


「そうだ。ホブゴブリン、だったと思う」


 もしかしたらオークだったかも知れない。

 昔の出来事すぎて、記憶が曖昧だったりする。

 鎧を収納空間に入れながら、質問に答えていく。今の鎧は、着脱が楽で良い。収納空間を使えば、ほぼ一瞬で身に付ける事が出来るからな。


「鎧の名前はなんだ?」


「名前? 守護獣の鎧だけどっ⁉︎」


 鎧の名前を告げると、カズヤに胸ぐらを掴まれた。

 アキヒロとサトルが止めようとするが、俺は手を上げて静止する。


 カズヤの顔が泣きそうになっていたのだ。


「あいつは、グンは、そのホブゴブリンはどうなった⁉︎」


「殺した、他の探索者を殺そうとしてたからな」


「そんなはずはない! あいつは、無闇に誰かを傷付けるような奴じゃない! 本当の事を教えてくれ、違うんだろ? その鎧は、譲り受けたんだろ?」


 それは否定して欲しくて、懇願しているようだった。

 だから俺は、真実だけを言う。


「悪いけど、今言った通りだ」


「そんな……」


 カズヤは胸ぐらを掴んでいた手を離し、力を失ったかのようにふらふらと倒れ込む。

 よほどショックだったようだが、カズヤはあのホブゴブリンと知り合いだったのだろうか?

 こいつにも、いろいろと不明な所があるな。魔王からの伝言も、恐らくこいつに向けての物だ。


「魔王からの伝言があるんだが、聞くか?」


「……魔王から?」


 ゆっくりとした動作で、俺を見上げる。


「もう間違えるな。だそうだ」


 言葉の意味は分からない。

 ただ、頼まれたから伝えただけだ。


「お前が何者なのかは知らんが、世界の為に戦った奴の言葉だ。しっかりと受け止めてやれ」


「……なあ、教えてくれ。魔王の言葉は真実なのか? ダンジョンに世界が取り込まれるというのは、魔王が世界を守っていたというのは本当なのか?」


「魔王については知らないが、そうだな……その話は別の日でもいいか? 出来たらトウヤが目覚めてからにしたい。巻き込んじまったからな、説明はしなきゃいけないだろう」


 カズヤはまだ何か言いたそうだったが、トウヤの方を向いて口をつぐんだ。


 その後、誰も何も口にはせず……、


「この子、なかなか乗り心地が良いわね」


「いいな、いいな、次私乗っていい?」


「あのー、私も魔力切れで疲れてるんで、乗せてもらって……」


 なんてはずもなく、九重を筆頭に何故かフウマに乗って移動していた。

 フウマは嫌がっている素振りは見せておらず、好きにせえといった感じである。

 さっきまで命の危機だったというのに、大した精神力だなと思いつつ、トウヤを背負って地上を目指す。

 

「……ん〜、間違いないよな」


「どうかしたのか?」


「いや、なんでもない」


 トウヤを背負っていて気付いたのだが、こいつの魔力に海亀の魔力が混ざっている。

 気のせいかと思い、トレースを使って調べてみたのだが、間違いなく海亀の物だった。


 もっと言うと、左の二の腕に六角の痣が出来ており、亀を彷彿とさせるデザインになっていた。


 厄介な事にならなきゃ良いな、と思いながら地上に戻った。

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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
[一言] 次あったら殺すねマークつけられてんじゃん
[良い点] 面白い [一言] トウヤくんは亀肉を食べるといいよ!
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