地上15
本日より28日まで二回行動。
6時と18時に投稿します。
昨日は遅くに帰って来たのだが、目覚めたのはいつも通りの時間だった。
それなりに飲んだのだが、昨日の飲み会は良く知らない奴が多かったせいで、緊張してなかなか酔えなかった。
もっと言えば、金髪のイケメンがダル絡みして来たので、はあ、はい、はあ、はいと相槌を打ち続けるだけだったような気がする。
千里と美桜が助け舟を出してくれたが、今度は黒髪のイケメンがこんこんと俺に向かって語り出したのだ。
内容はあまり覚えてないが、俺の目標がどうのとか、将来ダンジョンに関わる会社を設立するとか言ってた気がする。
ほぉ、へぇ、はぁ、ふーんと相槌を打ち続けるマシーンになった気分だった。
楽しくなかったのかと聞かれたら、まあ、楽しかったのだろう。
大勢でわいわい騒ぐのは嫌いではないし、その場にいるだけでも笑顔になってしまうもんだ。
それに、千里に大切な友人がいるのも知れて良かった。
おかげで、少しだけ心が軽くなった気がする。
一次会が終わり、二次会に行って、帰りにシメのラーメンを食べる。
どうしてアルコールが入ると、ラーメンが食べたくなるのだろうか? 満腹中枢がどうとか、エネルギーがどうとか、水分云々かんぬん聞いた記憶があるが、そんなものどうでも良くて、とにかくラーメンが美味かった。
これだけでも、地上に戻って来た価値があるというものだ。
向こうに行っても、ラーメンがあると良いなと思いつつ、朝の支度を始める。
飯を食い、蟻蜜でクィーーー! として、いつも通りの朝を送り、マンションを出る。
今日こそ、呪われたモンスターの部位を捨てるのだ。
というか、早く捨てないと忘れてしまいそうで怖い。適当に解体して、ゴミ袋に入れてもいいのだが、呪いが強化されていると聞いては、そうもいかない。
まったく関係のない人が呪われるのは、流石に気が引けてしまう。
嫌な奴がいたら、一部だけを渡してみたいなと思わないでもないが、いくら何でも越えちゃいけない一線だなぁと思い自重している。
ダンジョンから近いというのもあり、のんびりと歩いて向かう。
今日は休日だからか、いつもよりも人が多い。
平日は夜しか栄えていない繁華街にも、多くの人で賑わっている。
それはショッピングモール辺りまで続いていた。
だが、そこからダンジョンに向かうとなると極端に人が減っていた。
よほどダンジョンは人気が無いと見える。
なんて考えていたが、ギルドに入ると大勢の人で溢れ返っていた。
一体どうしたのだろうと目を凝らしてみると、来週公開される映画の宣伝をやっているようだった。
主演俳優や主要キャストが並んでおり、インタビュアーが何やら質問している。
ふんふんと話を聞いてみると、どうやらここのダンジョンで撮影したそうだ。
いやー、知らなかったなー、へー、そんな撮影してたなんて知らなかったなー。へー、そうか、へーへーへー。お蔵入りしないかなぁ、へーへーへー。あれ? 主演の人、元気無さそうだな。
中央にいる主演俳優の顔が疲れ気味のようで、よほど過酷なスケジュールを組まれているのだろう。
大変だなぁと他人事を思いながら、フル装備に着替えて顔を隠す。
なんだか周囲からチラチラ見られていたので、面倒くさい事態にならないようにと考えてだ。
と思っていたら、余計に注目を集めてしまった。
まるで変身したかのように、ほぼ一瞬で格好が変わったのが原因なのかも知れない。
なんか主役より目立ってすいませんねーとドヤ顔しつつ、俺はギルドを出た。
よく考えたら、別にギルドに用なんて無かったのだ。
ただ、昔からの流れでダンジョンに行く前に入ってしまった。
今度からは、無駄に寄るのは辞めておこう。
フル装備でダンジョンに向かっていると、何故か注目を集めてしまう。
確かに重戦士のようなゴツイ見た目だが、ガチャガチャと音は立てていないので、迷惑は掛けていないはずである。
もしかして、どこかに落書きでもされているのだろうか?
もしくは、背中に張り紙をされているとか。
背中に触れてみ……触れて、ふれ、ふれっ……届かない⁉︎
馬鹿な! 森での生活では、確かに背中に手が回っていたはずだ!
俺の体はそんなに硬くなってしまったのか……あっ、鎧を装着しているからか。
なんだ、簡単な事じゃないかと鎧を収納空間に入れて、背中に手を回してみる。
……届かんね。
いや、分かっていた。
この体型が原因だって分かってた。
どうして、こんな体型になってしまったんだろう。
日頃から動き回っているのに、一向に痩せる気配が無い。食事の量だって、一般的な物だ。間食だって、半日に一回しかしていないのだから誤差の範囲だ。
周りを見てみると、みんな普通サイズだ。
恨めしいな、みんな太ればいいのに。ここで呪物ぶちまけてやろうかな。
「お前はさっきから、何をぶつぶつ言っているんだ?」
痩せた奴らに嫉妬していると、痩せた厨二病野郎から話し掛けられてしまった。
ようカズヤ、久しぶりだな。
こんな所で何しているのかだって?
ゴミ捨てに来たんだよ。お前こそ一人で何してるんだ?
えっ、仲間が来るのを待ってる? 今日は、別のパーティと合同で潜るのか。
そっか、まあ頑張れよ。
俺も来いって? 嫌だよ、前も断っただろう。急に俺が加わったら、他の奴らだって嫌だろう。
え、一緒に潜る奴らは俺の知り合い?
なおさら嫌なんですけど。
そっちが俺の事を知っていたとしても、俺が忘れているから会うのは勘弁して欲しい。
もしかしたら、顔くらいは覚えているかも知れないが、名前は100%忘れている。そんな状態で、一方的に喋られても気不味くて仕方ないだろう。だから絶対に会いたくない。
じゃあな、と引き留めるカズヤを振り切り、ダンジョンに向かおうとすると「田中さん?」と別の所から喋り掛けられてしまう。
ちっ、遅かったか。
振り返って名前を呼んだ奴を確認すると、普通の男子だった。
少年から青年の間くらいの年齢だろうか、見た目は黒髪にごくごく普通で、親しみを覚えてしまう男子である。
ただ、親しみが持てるのは見た目だけで、それ以外はそうではない。
彼の周りには、四人の女性探索者がおりハーレムを作り上げていたのである。
殺したくなった。
ハーレムの隣には背の高い男子と小太りの男子、それから派手な格好をして猫を抱いている女子の姿があった。
こちらはハーレムとは違い、まだ子供といった印象を受ける。恐らく、カズヤのパーティがこちらの方だろう。
俺が無言で彼らを見ていると、ハーレム側の女子である巨乳担当の子が俺に近付いて来た。
そして、久しぶりだねとか、元気にしてたとか、私達大学生になったんだよ、と楽しそうに話してくれた。
他にも小太りの探索者が、これまで何やってたんだよと背中を押して話し掛けて来たりする。
俺はそれらを無視して、一度深呼吸をして告げる。
「お前らの名前忘れたから、先ずは自己紹介から始めようか」
言葉の意味が飲み込めなかったのか、ポカーンとした顔をして、本当に忘れたの⁉︎ と驚かれて、脳味噌まで脂肪になったのかよ! と非難された。
その後もいろいろ言われたが、顔は覚えてるけど名前覚えてない事実は変わらないので、何も言い返せなかった。
もっと言えば、猫を持ってる派手な子に「久しぶりなのに、名前忘れてごめんな」と謝罪すると、初対面だと言うので、顔も覚えていない事が確定してしまった。
周囲からの視線がキツくなった。
帰りたくなった。
俺が本当に覚えてないと知ると、改めて名前を教えてくれる。
名前を聞くと不思議と思い出すもので、おお久しぶり! て気持ちになった。
ハーレムパーティのメンバーは日野トウヤ、桃山悠美、神庭由香、九重加奈子、三森巫世の五人。
カズヤ率いるパーティは、美野アキヒロ、大岩サトル、葉隠ミロクの四人だ。
初対面の葉隠ミロクは動画配信者らしく、撮影した映像を編集して動画投稿サイトにアップしているそうだ。
へーと感心していると、JKミロというチャンネルを見せてくれる。登録者は十五万人もおり、かなり人気なようである。
ダンジョン20階を突破したら、一気に登録者数が伸びたと教えてくれた。
ふーん、凄いな。
ところで、俺を撮るのやめてもらっていいですか?
え、映画に出演してる人だよねって?
それ人違いです。違うから、あれ似てるだけの他人だから、撮るのをやめろー!
勝手に撮り始めたミロクから逃れるように動き、どさくさに紛れて、こいつらから離れるようにダンジョンに向かった。
ダンジョン20階
結論から言うと逃げられなかった。
ポータルを使い20階に飛ぶと、奴らもやって来たのである。
カズヤ達は合同で21階以降を探索するらしく、ここに飛ぶのは必然だったのだ。
20階で呪物を捨てに行く俺とは反対方向なので、じゃあと離れようとすると、何故かこいつらも着いて来る
何だよ、着いてくんなよ、探索行けよ。
え、俺も一緒に行こうって?
嫌だよ、お前らで行けよ。しかもダンジョンに、ペットの猫まで連れて来てんじゃん。
違う? ミロクの召喚獣……。
…………うん。
あのさ、ミロク。その猫とうちの召喚獣を交換しないか?
ちょっとバカで不細工で食い意地が張ってわがままな馬なんだけど、そこそこ強いから使えると思うよ。
えっ嫌?
大丈夫だって、その猫大切にするから。
何だったら、馬だけでもいらない? 漫画とかアニメ見せてたら喜ぶと思うからさ。
絶対に嫌って、そんなに強く拒否しなくても……。
姿を見てもいないのに拒否されるフウマ。
なんだか可哀想だなぁと思ったが、あの馬じゃ仕方ないかとも納得した。
それにしても、同じ召喚獣なのにどうしてこんなに違うのだろう。
こっちは不細工な上に言うことを聞かないバカ馬。
方や愛玩動物のように愛らしく、主人の言う事を聞く少し大き目の猫。
差があり過ぎて辛い。
なんだかんだ言いながらも、雑談しながら進んで行く。
モンスターが頻繁に現れるが、二つのパーティが戦ってくれるので、俺は戦わなくてよかった。
呪物とは言え、ゴミ捨てに来ているだけなのにこんな大所帯になるとは思わなかった。
入り組んだ道を進んで行くと、ちょうど良い広めのフロアを見つけた。なので、ちょっと捨てて来ると告げて一人離れる。
さあ捨てるかと、収納空間から大きなジャイアントスパイダーを取り出す。
すると、背後から息を飲む音が聞こえる。
どうやら、これがやばい物だと分かるのだろう。
俺にはさっぱり分からないがな。
さあ、これで終わりだと思っていたら、ジャイアントスパイダーの糸に絡まって他の物も出て来てしまった。
それは森で暮らしていた時に現れたモンスターの亡骸。
それは、あそこで現れたモンスターの中でも、唯一戦わなかった存在だから印象に残っていた。
全身が管のような物で作られており、腹がポッカリと空いている。手が異様に短く、頭部には無数の牙が生えた大きな口があり、目元は陶器のような素材で保護されていた。
体には焼かれたような痕が残っており、出会った時には絶命していたモンスターだ。
何でこれが出て来たんだろう?
そう思い、収納空間に戻そうとすると、背後から呟きが聞こえて来る。
「……魔王」
その声はカズヤからの物だった。
魔王って、何言ってんだこいつ? とカズヤの方を振り返る。しかし、それがいけなかった。
収納空間から、次々と俺が倒したモンスターの亡骸が連なるように出て来たのだ。
そして最後に海亀が姿を現そうとしていた。
それだけは不味い!!
別口の収納空間から不屈の大剣を取り出し、全力で切断する。
おかげで海亀を外に出すのは阻止出来たが、一部は出てしまった。
早く中に入れないと!
焦りながらも収納空間を発動しようとするが、死んでいたはずの管のモンスターが動き出し邪魔をされてしまう。
短い手から、結晶のような手が生まれて攻撃されてしまったのだ。
それを不屈の大剣で受け止めると、管のモンスターが叫び声を上げた。
「アアアァァァーーーーッ!!!!!?!?」
同時に世界が切り替わる。
先程まで洞窟の中にいたのに、超高層ビルが建ち並ぶ世界に移動していた。
そして、多くの亡骸達が管のモンスターに取り込まれてしまう。