地上14
ダンジョンから戻った次の日、俺はステータスの確認をしにショッピングモールに向かう。
最初、どこで確認してたかなぁと頭を悩ませたが、ギルドで「登録してない方のチェックは行っておりません」という説明のおかげで思い出した。
因みに、そう告げた受付のお姉さんの目線はとても冷たい物だった。
そんなこんなで、ショッピングモールの武器屋に到着すると、店主が武器を手に持ってこちらを警戒していた。
物騒な物持ってんなおい。なんて思っていたら、店主の顔が驚いた物に変わってしまった。
そして開口一番に
「お前さん、何で生きてんだ?」
なんて宣いやがった。
誰が死ぬかボケ。
久しぶりに会ったらそれかよ。もしかして、もうボケたのか?
じゃあ、これまで何してたんだよって?
ダンジョンに潜ってたわ。マジで死にそうになったけどな。
カウンターの前で雑談をしながら、ステータスチェカーに百円を投入する。それから手を合わせ測定をすると、
『卒業』
の文字が表示された。
? あのさ、これ壊れてるんだけど。
そう武器屋の店主に苦情を言うと、そんなはずはないと否定する。なんでも昨日整備したらしく、間違いなく正常なのだそうだ。
そうなの? じゃあもう一回。
するとまたしても『卒業』の文字が表示された。
何だよ、やっぱり壊れてるじゃねーか。
そう主張すると、おかしいなと店主がカウンターから出てステータスチェッカーの確認を行う。
しかし、どこにも異常はないようで、自分で百円投入して確認していた。
ーーー
宗近友成(65)
レベル 53
《スキル》
身体強化 見切り 槍技 剣技 錬金術 鑑定 武技 剣舞
ーーー
おお、めっちゃ強いじゃないですか!
なんか生意気言ってすいませんでした!
この御仁は只者ではなかった。
そう言えば、前にやった時は手も足も出なかったんだった。そりゃ負ける訳だ。
最後に測った時のレベルは覚えていないが、これの半分くらいだった気がする。
店主は、ほら壊れていないだろうがと言い、俺の腹をポンッと叩く。
そして固まった。
いやいや、人の腹触っといてそういうリアクションは無いでしょう。
まるで俺の腹が出過ぎて、ドン引きしているみたいじゃないですかー。
やだーもう、と冗談を言っていたら、店主はゆっくりとした動作で俺の顔を見た。
その目は驚愕に染まっており、まるで言葉を忘れた老人のように口をパクパクとさせていた。
おいおい、本当に歳なのか?
まだ六十五歳なら元気だろうに……いや、早い人だと年齢は関係ないって話だからな。
まあ、なんだ。早目に病院行って検査してもらえよ、進行を遅れさせるのは可能みたいだからな。
え? 何の話だって?
いや、そろそろ痴ほあだっ⁉︎ いきなり殴るんじゃねーよ! こちとら客だぞ!
なんだって? 今までどこで何してたんだって?
さっきも言っただろうが、ダンジョンにいたんだよ。
何階まで行ったかって?
昨日、40階突破したところだよ。
何だよその顔、文句あっかこの野郎。
俺の返答に納得していないのか、店主はジッと睨んで来る。
そして、とても失礼な事を宣う。
「お前さん、本当に人間か?」
はっ倒すぞこの野郎。
人が一番気にしていることを的確について来る店主。
鋭い洞察力を持っているのだろうが、今それを発揮する必要するんじゃない。
俺は話を変えようと、もう一つの用事をここで済ませようと装備を取り出す。
都ユグドラシルで強化した不屈の大剣と守護獣の鎧を、ドンッとカウンターに置いて店主に鑑定の依頼をする。
なんか形変わっとらんか? と店主が尋ねて来るので、一回壊れたから治してもらったと伝えておく。
この装備を治した? 店主はそう呟きながらも装備を持って奥へと引っ込んで行く。
それから少しすると、ガタガタと何かが崩れる音がする。その音の出所はカウンターの奥で、空間把握が店主が椅子から転げ落ちたと知らせてくれる。
何やってんだ? と店内の商品を見て回る。
別に買う気はないので、本当に眺めているだけだ。残念ながら、ここにある装備は都ユグドラシルにある物より数段劣る。
あの装備がある限り、俺がここにある物を使う事はないだろう。
そんな風にぶらぶらしていると、疲れているのかふらふらとした足取りの店主が装備を持って戻って来た。
鑑定料金を支払うと、結果の書かれた用紙を渡された。
ーーー
不屈の大剣(魔改造)
カザト錬金術工房のゼノフの手により作り替えられた一品。不屈の大剣をベースに様々な鉱石、聖龍の龍鱗を使用して強化されている。龍鱗の能力により、自己修復機能を獲得。性能は桁違いに向上しており、再現は不可能。持ち主の精神に呼応して能力は強化、弱体化される。耐久値、攻撃力は持ち主によって変動。魔力を流すと剣閃を飛ばすことが出来る。
攻撃力 257(変動)
耐久値 374(変動)
買取価格 不明
ーーー
守護獣の鎧(魔改造)
カザト錬金術工房のゼノフの手により作り替えられた一品。守護獣の鎧をベースに様々な鉱石、聖龍の龍鱗を使い強化されている。性能は桁違いに向上しており、再現は不可能。龍鱗の能力により、自己修復機能を獲得。装備すると馬を召喚出来るようになる。馬の種類、能力は装備者により変わり、人によっては強力な相棒にも駄馬にもなる。また、高い耐久性を誇り、魔法によるダメージも軽減する。
※現在の召喚獣は待機中になっています。
耐久値 511
特殊効果 召喚(馬)(怒状態)
買取価格 不明
ーーー
うーん、想像以上に性能が高かった。
というか、特殊効果の所に怒状態とあるが、もしかしてフウマはこちらを認識しているのだろうか?
てっきり鎧に戻ったのだから、意識が無いものだと思っていたが、違うのだろうか?
うーん、なんだか面倒くさい臭いがするな。
このまま、永遠に封印でもいいのではないだろうか。
うん、それが一番だな。
俺は頷いて装備を収納空間に入れ……ようとして止められた。
今度はなんだよ?
なに、本当の事を話せって?
何の話?
どこで何をしていたのかって?
だからダンジョンにいたって言ってんじゃん。ダンジョンの中にいる奴に、この装備も修理してもらったの!
そこまで言うと、よろよろとしたように背後の椅子に腰を落とした店主。
一体何なんだよと思いながら、今度こそ収納空間に仕舞う。
何やらぶつぶつと呟き出した店主に、おーい大丈夫かーと声を掛けると、ゆっくりとした動作でこちらを見て「お前さんは、世界樹の所に行ったのか?」と問い掛けて来た。
その言葉に、今度は俺が固まる。
どうして店主が世界樹を知っている?
この店主は強いが、残念だが奈落で生きて行けるほど強くはない。
あの森に落ちて来たナナシや二号は別にしても、他の探索者が正規の方法でたどり着けるとは思えなかった。
どうしてユグドラシルを知っているんだ?
話を聞いた? 誰に?
元パーティメンバーが行ったのか……。
そいつは誰なんだ?
探索者協会の会長? なんだ探索者協会って?
ギルド。ああ、ギルドね。そういえば、そんな名前だったな。
いかんいかん、ど忘れしていた。
だが、店主のおかげで大切な用事を思い出す。
ギルドの会長に、渡さないといけない物があるんだったと。
もういいか? と店主に尋ねると、今度来たらそこの話を聞かせてくれとお願いされた。
まあ、それくらいならいいかと頷いて返す。
更に加えて、呪いの処分は済んだのかと言われてしまう。
覚えていないので何の話だと聞いてみると、ジャイアントスパイダーの素材が呪われていただろうと教えてくれた。
それを聞いて、何だったけと頭を捻りに捻って思い出そうとして、無理だった。
だから収納空間からジャイアントスパイダーの素材を取り出してみる。
すると、思いっきり殴られた。
何すんだよ⁉︎ と訴えると、馬鹿タレかこの! 呪いが増しとるだろうが! さっさと仕舞わないと、このショッピングモールにいる人間全員死ぬぞ‼︎ とご忠告を受ける。
流石にそれはまずいと、急いで収納空間にぶち込んで事なきを得る。
これの処分はどうしたらいいのか尋ねると、ダンジョンに捨てて来いと教えてくれる。それもどこでも良い訳ではなく、モンスターを倒した階層近くが良いそうだ。
そうすれば、モンスターの同族とダンゴムシが浄化して処分してくれるらしい。
そうかありがとうとお礼を言って、早速ダンジョンに向かってみる。
ショッピングモールから出て、ダンジョンのある方向に向かって歩く。
徒歩で五分くらいの位置にあるので、直ぐに到着する。はずだった。
ダンジョンに向かう途中でスマホが鳴り、足を止めてしまったのだ。
表示された名前を見ると『千里』の文字。
まさかまた攫われたのかと急いで電話に出ると、今晩みんなで飲みに行くんだけど、来ないかというお誘いだった。
うん、行く。
気付いたらそう答えていた。
断る理由もないというのもあるが、何となくあの頃を思い出してしまったのもあるのだろう。
何故だか急にダンジョンに行く気がしなくなり、足を引き返してしまった。
きっとこれは呪いのせいだろう。
千里に会う前に、血生臭い事をしたくないという理由だけではないはずだ。