地上13
ふあ〜と欠伸をしながら起床すると、体をゴキゴキ鳴らして蟻蜜を頂く。
素晴らしい喉越しと全身を駆け抜ける刺激にクィーーーッ‼︎‼︎ と奇声が漏れてしまう。
この一杯のおかげで、今日も一日頑張れる。
とは言っても、今日は用事らしい用事が無い。
昨日で墓参りも終わっており、予定が何も無いのだ。だからのんびりと過ごしても良いのだが、何か大切な用事を忘れている気がする。
何だったかな〜と考えて、ああ、ダンジョン攻略するんだったと思い出した。何か違う気がしないでもないが、まあいいだろう。
じゃあ準備するかと朝食を食べて、朝シャンして、歯を磨いて、髪を乾かして、服を選んで着替えて、買い出しに向かった。
愛さんに用意してもらったマンションの近くに、スーパーがあるのは地味に助かっている。
徒歩五分で行けるのは、かなりの優良物件ではなかろうか。オクタンくんとハヤタさん呼んで、酒でも飲みたいな。バルタはついでに連れて来てやらなくもない。
なんて無理な妄想を膨らませながら、調理をして収納空間に入れていく。
準備が終わると、うし行くかと家を飛び出してダンジョンに向かった。
それでダンジョン31階に来ているのだが、早々に失敗に気付いた。
というより、前回潜った時に気付くべきだった。
次の階段の位置が分からなくなっていたのだ。
上空に上がってみても、フィールドの全容は見えても、どこに何があるかまでは分からなかったのだ。
くそ〜と諦めて地上に戻ると、愛さんに電話をする。
あーもしもし、愛さん? 俺だけど。
どちら様ですかって? 俺ですよ、だから俺ですって。
え、あっはい、はい、はい、すいません。田中です。
俺で通じるだろうと舐め腐った態度で応答すると、割と真面目に怒られた。
電話のマナーを守れ、最低でも名前くらい名乗れと、それが社会人の最低限のマナーでしょうと叱られてしまった。
あのー、少々お時間よろしいでしょうか?
ああ、申し訳ございません。全て私が悪いんです。
無知で馬鹿な私が全て悪いんです! だからお気になさらないで下さい。
え、はい、やめます。あのーマッピングールを一つ、譲ってもらえないですかね?
そうお願いすると、「いいわよ」と了承してくれた。
だが、それだけでなく更に言葉は続き、どうやら俺は、過去にマッピングールを貰う約束をしていたらしい。
まったく覚えてないが、それはかなりありがたい。
じゃあ今から取りに行きますと伝えて、電話を切る。
早速、ホント株式会社に向かい、本社ビルに立ち入ると受付の隣で誰かが待っていた。
それは女性で、俺に向かって「お久しぶりです」と言う。
誰だろうか?
首を捻っていると、女性は困ったように「お忘れですか? 以前、助けてもらった八丁奏です」と教えてくれた。
うん、まったく覚えてない。
だが、せっかく自己紹介してくれたので、あーあの時の人ね⁉︎ と驚いたようなリアクションをしておいた。
すると、女性は何かを察したのか苦笑を浮かべて、こちらですと誘導してくれる。
連れて行かれたのは、使われていない会議室。
そこのテーブルの上に、前使っていたマッピングールよりも一回り小さい物が用意されており、どうぞお手に取って下さいと差し出された。
元々小さかったマッピングールだが、ここに来て更に小型化されている。
何でも、戦闘に支障のないように、最大限考慮して作り出した物らしく、耐久性も抜群に高いそうだ。
技術の進歩は目覚ましい。
人とは常に進化していくものだと、改めて実感させられる。
だが、肝心な物はどうだろうか?
必要なのはマッピングールの性能向上ではなく、俺が進んだデータなのだ。
それだけで時間が大幅に短縮出来る。
何階まで潜ったのかは、まったく覚えてないがな。
そこの所どうなのよと尋ねると、八丁さんはどこかに連絡する。そして、
「少しの映像以外のデータは全て消えていたみたいです」
と教えてくれた。
マジで時間の無駄だった。
なんてがっかりしていたのだが、ホント株式会社を出た所で熊谷さんと出会して、事情を説明すると40階までの簡単な地図を頂いた。
ありがとうございます! ありがとうございます! と大きな声で頭を下げて感謝の思いを伝える。
すると、マジでそれは辞めてくれと真顔で言われた。それから、
「グラディエーターではよろしくな」
熊谷さんは、それだけを言って去って行った。
いや、俺は出ませんよ。
あくまで治療係としてですからね。
もしかして、戦わされるのか?
嫌だなぁ、絶対に拒否しよう。
ダンジョン35階
熊谷さんに貰った地図には、目印になる物が記されていた。
そこを目指して進むと、ダンジョンを最短距離での攻略が可能となる。更に俺の場合は、上空に飛び上がってから目標を探して、空から向かうので実質超最短距離で向かう事が出来るのだ。
なのだが、35階では天闘鶏による空からの襲撃が面倒くさい状況になっている。
巨大な鶏共は、これまで滅多に出て来なかったのに、ここに来て群れを成して襲って来るのだ。
大して脅威ではないのだが、こうも視界を遮られると目標が探せない。
邪魔だ! と竜巻を発生させて薙ぎ払うと、今度は天闘鶏に寄生していたアクアスライムが水の魔法で攻撃して来る。
手をパンッと鳴らして魔力の波を作り出して魔法を消滅させ、ついでにアクアスライムも消滅させる。
更に竜巻も消滅させて、巻き上げられた天闘鶏達が意識を失った状態で落下して行った。
これで探せるなと辺りを見回して目標を発見する。すると、次の天闘鶏達が迫って来ているのを発見した。
流石に相手にする気にはならず、さっさと次の階に向かおうと急降下してモンスター達を振り切る。
しかし、地上でも結構な数のモンスターと接敵する。
不屈の大剣で薙ぎ払うと、僅かな抵抗も感じずにモンスターの命を奪ってしまう。
ホブゴブリン、幻影大蛇、天闘鶏、アクアスライムと多くのモンスターが襲って来るが、はっきり言って今の俺の敵ではない。
とは言え、全てを相手にするのは面倒なので、風で遠くに吹き飛ばしながら進んで行く。
こうして、ようやく地図に示された通り次の階に続く階段を発見した。
ダンジョン36階
この階で現れるモンスターは、オーガという大きな鬼のようなモンスターだ。
男ならば、誰もが羨むような筋骨隆々の肉体。何かの毛皮を纏い、その手には大きな石の斧が握られている。
オーガと睨み合う。
そして、俺は不屈の大剣を手放し、オーガは大きな石斧を手放した。
スタスタとお互いに近付き、ガシッと両手を組み合う。
そして、はっ! と互いに力を込めて、俺達は力比べを開始した。
ギギギッ! と歯軋りをする音が聞こえて来る。
その音の出所は、目の前のオーガだと気付く。
こいつは分かっているのだろう。
俺には勝てない事を。
だから、悔しそうにしながらも身体強化を使い、全力で出して来たのだ。
分かっている。
こいつも、身体強化を使わずに俺に勝ちたかったのだろう。
だが、俺と手を組んだ時の驚愕した顔は、全てを悟った者の表情をしていた。
理解したのだ。
純粋な力では俺には勝てないと。
それでも、負けたくないと身体強化を使ったのだろう。
気持ちは痛いほどよく分かる。
ごめんね、俺、強くなり過ぎちゃって。
身体強化を使ったオーガを、純粋な膂力でオラッ! と圧倒して屈服させる。
負けたオーガは、そんな馬鹿なと驚愕して膝を突いてしまった。力自慢のオーガが力で負けて、よほどショックだったのだろう。
俺はそんなオーガの肩を叩いて、お前はよくやったよと褒めてやる。
奈落で鍛えた俺によく立ち向かった。
無謀な挑戦でしかなかったのに、お前は立ち向かったんだ。だから誇れ! そう俺の思いを伝えると、オーガは立ち上がりガッチリと握手を交わした。
きっとこいつは、もっと成長するに違いない。
そう確信していると、背中をトントンと叩かれた。
振り返った先にはオーガが十体くらいおり、次は俺とやろうと主張していた。
まったく、時間がないのに仕方ないなぁ。
そう思いながらも、しっかりと相手して力でねじ伏せて差し上げる。
オラ!オラ!いい加減にしろよオラ! と無双して、全てを圧倒した俺は、じゃあなとオーガ達に見送られて探索を再開する。
それから十回ほど同じ事を繰り返して、37階に続く階段を発見した。
ダンジョン37階
鷹の前半身に馬の後半身、鷹の大きな翼を生やしたヒポグリフと呼ばれるモンスターが空を優雅に飛び回り、俺を警戒しながら旋回している。
俺を獲物として見ているのなら直ぐにでも襲って来そうだが、飛び回るだけで近付いて来ない。
知能が高いからか、勝てない相手だと分かっているのかも知れない。
なんて思っていたのだが、ヒポグリフが一度鳴くとどこからともなく多くのヒポグリフが集まって来た。
知能は高いのだろうが、引くという選択肢は無いようで、数を揃えて襲うという選択をしたようである。
一体で勝てないのなら集団で。
その判断は、本来なら間違ってはいないのだろう。
少なくともヒポグリフは、俺に勝てないと判断はしたのだ。知能は間違いなく高い。
だが、無用なプライドがその判断を鈍らせたのだ。
ヒポグリフが一斉に口を開き、ケェーー‼︎と鳴き声を上げると超音波による攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃に対して俺は何もしない。
ただ上空で待機して、超音波攻撃を受けたのだ。
本来なら、まともに食らえばただでは済まないだろうが、こっちは都ユグドラシルで魔改造された守護獣の鎧を身に付けているのだ。その程度の攻撃が通るはずがない。
仮に通ったとしても、フウマが居なくなるだけなので何も問題無し!
体がブルブルと震えて、なかなかに良いマッサージを体験した俺は、今度はこちらからだと風の刃で応えて上げる。
無数の刃に反応したヒポグリフは、何とか避けようと回避行動を取る。
ある個体は更に上空へ、ある個体は急降下し、ある個体はひたすらに飛び回り逃れようとした。
しかしそ風の刃には誘導の能力も含めている。
一体も逃がすつもりはない。
全てのヒポグリフは、風の刃に両断されてその命を終えてしまう。
熊谷さんの地図には、ヒポグリフは知能が高く誇り高いモンスターと書いている。最大限に警戒すべきモンスターとも記されており、40階に至るまでに最も危険な存在とされていた。
事実、俺の実力を察せられるだけの知能を持ちながら、空を翔り強い力も持っている。しかし、そのプライドから引くタイミングを見失ってしまっていた。
遠くから警戒していた別のヒポグリフは、俺が気付いているのを察して逃げ出そうとはせずに、雄叫びを上げるように鳴くと、突貫して来た。
このモンスターは、もしかしたら命よりプライドという名のも生き様を大切にしているのかも知れない。
逃げるくらいなら潔い死を。
実に下らない判断だ。
命を第一に考える野生動物の方が、よほど生存能力は高そうだ。
向かって来るモンスターを殲滅しつつ、38階に続く階段を目指した。
ダンジョン38階
38階で新たに現れるモンスターは、アウルベアという梟の頭部を持つ巨大な熊だ。身体強化を使った肉弾戦を得意としており、口から炎を吐き出し攻撃して来るらしい。
昼間にはほとんど活動せず、夜間になると活発に行動するそうだ。その影響で、アウルベアが現れる38階と39階、40階では極力キャンプは控えた方が良い。と熊谷さんから貰った地図には書いてあった。
だが残念なことに、ここに来るまでに空は暗くなっており、ダンジョンには夜が訪れていた。
進む速度が遅くなったのは、間違いなくオーガとの力比べが原因だろう。出会う度に挑まれるので、余計に時間が経ってしまったのだ。
なかなかの速さで迫って来るアウルベアを、風の刃で腹部から真っ二つにする。
倒れたアウルベアを見ると、硬く頑丈な鳥の羽の下に分厚い毛皮があり、生半可な攻撃では通じそうもない肉体を持っていた。
それでも俺には、もうこのクラスのモンスターは相手にならない。
アウルベアの羽は売れるらしいので、一応回収しておく。だが、売却する必要性も感じない。あと三、四ヶ月生活するだけのお金なら、もう持っているので必要ないのだ。
使うとすれば、向こうに行って配るお土産用くらいだろう。
だから、無用な殺しはしたくはない。
とはいえ、襲って来るのなら倒すしかないのも悲しい所だ。
これ以上の夜間での移動は道に迷いそうなので、泊まれる場所を探しに行く。
廃墟となった村は多くあるのだが、その近くには必ずアウルベアが潜んでおり、獲物が来るのを待ち構えているのだ。
一体のオーガがその廃墟に入ると、激しく争う音が聞こえて来る。
モンスター同志でも、仲間ではないのかも知れない。
仕方ないので、何も無い草原にテントを張って……テントを張って……テント無いやん。
収納空間にそれっぽい物がないか探すが、見当たらない。もしかして、どこかのタイミングで使って壊してしまったのだろうか?
ありえるな。
一応、テント以外のキャンプ道具はあるので、あとは安心して休める寝床だけである。
寝床、寝床……寝床。
一つの廃墟となった村に目が止まった。
翌朝、母屋の一つで目を覚ます。
昨晩は少々暴力的な夜を過ごしてしまったが、ダンジョンならば日常茶飯事なので、特に珍しい事でもないだろう。
ボロボロの母屋だが、屋根はあり壁もある。
しかし、中は散乱しており、ここで暮らすにはいろいろと手入れが必要だろう。
そんな母屋から出ると、昨晩一緒に暴力的になったアウルベアが倒れている。それに、ダンジョンの掃除屋であるダンゴムシが集って処理していた。
そういえば、奈落ではダンゴムシを見なかったなと思い出す。
ダンゴムシはダンジョンのどこにでもおり、モンスターや人の亡骸、外から持ち込んだ物を一定時間放置すると、どこからともなく集まって来るモンスターだ。
奈落はダンジョンとは違うのだろうか?
だとしたら、どこから違うのだろう?
そんな疑問が浮かぶが、考えても答えは出ないので、さっさと次の階に向かうとしよう。
ダンジョン39階
空中に浮かぶ鉱石が、風を操り、炎を発生させ、水を生み出し、土を隆起させ、雷を発して襲って来る。
それを手でパンッと鳴らして、魔力の波を立てて消滅させると、鉱石を大剣で砕いて始末する。
このモンスターはエレメンタルと呼ばれる精霊の一種で、様々な魔法を操る厄介なモンスターである。
見た目は完全に石だが、砕いた中には七色に光る虫のような物が入っており、これが本体になる。
そんなエレメンタルが数体集まって来ている。
様々な属性の魔法を使い攻撃して来るが、魔力の波を発生させれば全てを無効化可能だ。
そうすると、残されたのはただ宙に浮かぶ鉱石だけで、石の弾丸でも十分に倒せてしまう。
それを必死に避けようと動くので、なんだか昔やったFPSを思い出して面白くなってしまった。
エレメンタルをバンバン撃ちまくり落として行く。
甲高い金属音が鳴り、ガラガラと鉱石が砕けて地面に落ちる。すると、まだ生きている虹色の虫が地面に潜ってしまい、また新たな鉱石に身を固めて復活してしまった。
おう、何回でも遊べますやん。
手加減すれば無限に遊べそうなモンスターを見つけて、俺のテンションは少しだけ上がってしまった。
今度、暇があったらゲームでもしようかな、なんて考えながらエレメンタルを全滅させて次の階に進んだ。
ダンジョン40階
上空に上がると、当たり前のようにヒポグリフが集まって来る。
こちらを警戒して旋回しているが、俺が次のアクションまで待つ必要はない。
叫ぼうとしたヒポグリフに接近して、不屈の大剣で始末する。
距離もあって、魔法で攻撃した方が手取り早いのだが、たまには大剣を使わないと体が忘れてしまいそうで怖いのだ。
地上でのんびりと暮らすのも悪くはないが、ダンジョンのような場所で全力を出すのも悪くない。地上だと、周囲に気を使ってしまい全力を出せなくなっていた。
久しぶりに地上に戻った時、なぜ窮屈に感じてしまったのか、その理由を改めて実感する。
一週間に一回くらいは、ダンジョンで全力を出した方がストレス解消にちょうど良いのかも知れない。
主に心の健康の為に。
地上に降り立つと、オーガが力比べを挑んで来る。
熊谷さんの地図には凶暴で恐ろしいモンスターと書かれているが、とてもそうは思えない。
力で圧倒すると俺を褒め称え、そして俺は俺に挑んだ度胸を称賛する。
正にイーブンの関係を結んでいた。
それだけではなく、力比べ中にヒポグリフが襲って来ると、オーガはヒポグリフを掴んで引き摺り下ろして撲殺してしまうのだ。
エレメンタルに至っては、まるでお菓子を食べるように鉱石ごと中身を食していた。
それ美味いんか? と試してみたくなるが、流石に超えちゃいけない一線だなと思い自重しておく。
じゃあなとオーガ達に別れを告げて、次のオーガの集団に捕まる。
そして力比べをして別れを告げて、また別のオーガの集団に捕まる。
……こいつら、どんだけ力比べが好きなんだ?
ここに来て、まさかのタイムロスだ!
襲って来るなら返り討ちにするだけなのだが、彼らがやって来る理由は平和的な力比べだ。俺から仕掛けたら、それは本末転倒ではなかろうか。
だが、こうも拘束されたら、今日中に探索が終わらない。食料も今日までの分しか用意していないのだ。最悪、天闘鶏とヒポグリフを食べなくてはいけないじゃないか!
わざと負ければ解放されるのか?
それも悪くはないが、本気で挑んで来る彼らを無碍には出来ない!
くそ! こんなところでも発揮する俺の真面目?な性格が恨めしい!
朝早くから40階に挑んでいるが、日が暮れる時間までオーガとの力比べが続いてしまう。
いつの間にか千体ほどのオーガが集まって来ており、遠くから探索者がこっちを指差しているのが見えた。
何やらスマホを構えており、撮影しているようにも見える。
この状況が面白いとでも思っているのだろうか?
なら、代わってくれないかな?
はっきり言って、終わりが見えなくて絶望してるんですけど。
分かりますかね、この気持ち?
そして、夜が訪れても力比べは続き、オーガは襲って来たアウルベアを始末して、毛皮に作り替えていた。
どうやらオーガの毛皮は、アウルベアの物らしい。そんなどうでもいい情報が手に入った。
俺がオーガ達から解放されたのは、次の日の昼だった。
途中でエレメンタルが差し入れされて、思わず食べてしまったが、味は蟹のようで美味しくて、なんだかとても悲しかった。
ここを突破したら、もう絶対に来ないと心に決めた。
40階ではボス部屋が二箇所用意されている。
一つは洞窟にあり、もう一つはどこかの廃墟の中にあるそうだ。
俺が挑むのは洞窟のボス部屋で、ボスモンスターはスプリガンと呼ばれる妖精種のモンスターである。
都ユグドラシルでオベロンという妖精族を見ているが、それとは別物だろう。
だってほら、小さい体の割に凶悪な顔付きをしているから。
洞窟のボス部屋に入ると、人間の子供のような存在が待っていた。
人の子との違いは、背中に羽があるのと顔付きが凶悪で醜く顔を歪めている点だ。
服は普通に着ているのだが、俺の空間把握が奴は全裸だと教えて来るので、恐らく幻覚か何かで作り出しているのだろう。
スプリガンは両手を広げると、様々な魔法を行使する。
その魔法の威力はエレメンタルの比ではなく、もしも地上で放たれたら、ビルの一棟くらい簡単に破壊してしまうだろう。
それほどの凶悪な魔法が、狭い洞窟のフィールドで俺に向けて放たれる。
だから手をパンッと鳴らして魔力の波を作り、魔法の全てを消滅させてみた。
スプリガンが、醜い顔をキョトンとした可愛らしい仕草で、何が起こったの? とよく分かっていない様子だった。
再び、大量の魔法を放って来るが、こっちも魔力の波を発生させて無効化する。
それを何度か繰り返すと、ようやく事態を察したのか酷く怯え出してしまった。
スプリガンは幻影で分身を作り出して、俺を惑わそうとする。
分身を作って、一体何になるというのだろうか?
ここは洞窟という限られた空間であり、ボス部屋である以上、逃げるのは不可能だ。
それはボスモンスターでも同じで……同じだよな?
そもそも、ボスモンスターが逃げるなんて考えていなかった。
もしかしたら、チャレンジャーは出られなくても、ボスモンスターならば出られてしまうのかも知れない。
それはまずいと、スプリガンの後を追う。
幻影を全て無視して、スプリガンを狙い、魔力を込めた不屈の大剣を振り下ろす。
鋭い閃光が走る。
以前のように剣閃を放ったつもりだったが、その威力は前の比ではなかった。
剣閃はスプリガンを両断するのではなく、その全てを飲み込み、消滅させてしまったのだ。
この不屈の大剣は、一体どれだけ能力が向上しているのだろうか?
一度、鑑定して見てもらった方がいいかも知れないな。
スプリガンが消滅した場所に転がったスキル玉を拾い、掌に消えていくのを見届ける。
それからボス部屋の先にあるポータルを起動して、地上へと戻った。
ーーーーーー
田中 ハルト(24+13)(卒業)
レベル 72
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性 不滅の精神 幻惑耐性
《装備》
不屈の大剣(魔改造) 守護獣の鎧(魔改造)
《状態》
ただのデブ(栄養過多)
世界樹の恩恵《侵食完了》
世界亀の聖痕 (効果大)(けつ)《侵食中》
聖龍の加護 《侵食完了》
《召喚獣》
フウマ(待機中)(怒り)
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