地上11
今日は久しぶりにダンジョンに来ている。
目的は金を稼ぐでもなく、己を鍛えるでもなく、手加減を覚える事だ。
先日の一件で、自分の力が強過ぎるのだと改めて実感した。
暴力を振るわなければ何も問題ないのだが、状況がそれを許さなかったらどうしようもない。力で来るのなら、力で応じるしか俺は手段を持っていないのだ。
ダンジョン31階に向かい、ホブゴブリンを倒していく。
穏やかな表情のハヤタさんとは違い、ここに出現するホブゴブリンは凶悪な顔つきをしていて、倒しても罪悪感が湧かない。
守護獣の鎧を装備して不屈の大剣を持ち、殺さないように意識して戦闘に入る。
剣を持った戦士と、杖を持った魔法使いが殺意を宿して仕掛けて来る。
炎の塊が発射され、それに続くように戦士が剣を手に距離を詰めようとしている。
炎の塊は、目の前で爆ぜると衝撃で俺を吹き飛ばそうとする。しかし、その程度で俺が動くはずもなく、どっしりと構えて健在をアピールする。
そんな俺に驚いているホブゴブリンに大剣を合わせると、軽く添えるだけで剣を切断して、勢いを殺せなかったホブゴブリンも大剣にスパッと切断されてしまった。
残った魔法使いに近付いて、大剣で峰打ちをするとエグい感じになって絶命した。
そこで気付いた。
これって武器の性能が凄いからやり過ぎているんだと。
命を狙って来るモンスター相手に配慮する必要はないが、念の為に普通の武器は持っておくべきだろう。
確か、ショッピングモールに武器屋があったな、今度行ってみよう。
収納空間には、モンスターから回収した武器が残っているかも知れないが、探すのが面倒なのでやめておく。
下手に全部出したりしたら、あの海亀まで出して回収する前に復活させてしまうかも知れない。それはもう、世界の破滅だ。
ダンジョンに飲み込まれる前に、世界が終わってしまう。
まあ、それは置いておいて、今は手加減の練習をしよう。
今度は武器を使わずに拳で語ってみる。
顔面を殴る。
トマトのように弾ける。
ローキックを食らわせる。
両足が千切れ飛んで、地面に落下すると衝撃で絶命した。
腹パンをする。
背中から何か飛び出して行って、いろいろとやばい感じになって死んだ。
自分でやっておきながら言うのはなんだが、よくもまあ、こんなえげつない行為が出来るもんだ。
んー……あいつら、よく生き残れたな。
モンスターの惨状を見て、この前の誘拐犯達はよく生き残れたなと感心する。
ホブゴブリンよりも強いだろうし、俺が手加減したというのもあるが、全員生き残って……いや、最初の奴は手加減ミスってたな。
全然生き残れていないやん。
やっぱり、人相手に暴力はやめておこう。
まだ魔法の方が制御出来る分マシだ。
風を送り吹き飛ばす。
送る勢いを増すと、上空に巻き上げられて落下して死んだ。
石の弾丸を作り勢いよく撃つ。
肉体を大きく抉り取り絶命させる。
……手加減って難しいな。
何事もチャレンジが必要だと思うので、その後も手加減の練習をしながら探索を再開する。
長閑な風景。
草原が広がり、その中に一本道が通っている。遠くには木々が立ち並び、林を作り出していた。
空は明るく、過ごしやすい気候。湿度はそれほどではないが、乾燥しているという感じもない。
この世界で生きていた人物は、一体どんな人達なのだろうと考えてしまう。
ダンジョンは、かつてどこかにあった世界の成れの果てだ。
そこには知的生命体が住んでおり、独自の文明を築いていたはずだ。
オクタンくんにハヤタさん、ついでにバルタは都ユグドラシルでは新参者だと話をしていた。もしかしたら、彼らの先祖がこの世界の住人だったかも知れない。
いずれは地球もこうなるのだろう。
こればかりは仕方ない。
聖龍と呼ばれたト太郎でもどうにもならなかったらしいので、俺がどうにか出来るはずもない。
何せ俺に出来るのは戦う事だけだからな。
あるのは暴力だけ。
その力で何かを守れるのなら、それはきっと幸せな事なのだろう。
そう自分に言い聞かせて、かつてあった世界を観光しながら進んで行く。
観光とは言いつつ、景色が変わらず暇なので鼻歌を歌ってみる。
地上よりも開放感があるので、なんとも清々しい気分になってしまう。認めたくはないが、俺は地上よりもダンジョンの方が合っているのかも知れない。
そんな考え事をしていると、道端に宝箱が置かれているのを発見した。
余りにも不自然な場所にあり、明らかに罠だろう。
もう金の心配をしなくていいので、無理に宝箱に手を出す必要はない。
宝箱以上に価値のある物が、ユグドラシルにあるのだ。だから手を出す必要もないのだが、どうしてだろうか、こうも体が宝箱に引き付けられるのは。
頭ではダメだと分かっていても、何故か手が宝箱を開けてしまう。
ガチャと音がしてパタンと蓋が開いた音がする。
チラッと見ると、そこにあったのはルビー色のブローチ。丸い形をしたシンプルな物に見えて、宝石の中にはキラキラと光る粒のような物が漂っていた。
魔力を感じるので、何らかの魔道具的な物だろう。
……。
そのブローチを見て、千里を思い浮かべたのは、きっと同じ赤色だったからだろう。
効果次第では、渡しても良いかも知れないな。
そんな風に考えながら手に取ると、当然のようにトラップが発動した。
世界が切り替わるように夜の世界が訪れる。
そして現れたのは、冠を頭に乗せ豪奢な衣装に身を包み、威厳のある大きなホブゴブリン。
敵だと認識して、さっさと始末しようとしたのだが、目に理性が残っているのを察して動きを止める。
そのゴブリンは俺を見て、何やら口を動かしていた。
何を言っているのかは分からない。
ただ、ハヤタさんといたおかげか、何となく意志を汲み取る事が出来た。
『 私を殺してくれ 』
とても細く、今にも消えそうな意識なのだろう。
それだけを俺に伝えると、雄叫びを上げて襲い掛かって来た。
その動きは遅く、力強さもない。
奈落のモンスターと比べるのも烏滸がましいほど弱いモンスター。
助けを求めたゴブリンを一閃で斬り裂き、その命を終わらせる。
何とも最悪な手応え。
モンスターを相手にしているのに、ここまで嫌な気持ちになるとは思わなかった。
苦虫を噛み潰したような顔を撫でて、転がったスキル玉を手に取る。
掌の上で消えていくスキル玉。
確かアミニクが、相手の魂がどうとか言っていた代物だったはずだ。
……ダンジョンを調べないといけないかな。
アーカイブでダンジョンによる世界の終末は見た。
世界を幾つも飲み込み、世界を拡大させているのも見た。
だが、このダンジョンがどういう目的で、どうしてこのような行為をしているのか分からなかった。
奈落まで行かなくても、どこかにダンジョンに関する情報があるかも知れない。
時間の許す限り、挑戦し続けるのも手だろう。
世界が切り替わるのを感じながら、昼の世界に戻ったダンジョンで地上を目指す。
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ゴブリンキング
亜人の国、デミンズ王国の元国王。七百年を生きた亜人であり、国民が世界樹が守護する世界に移動しても、騎士と共にこの地に残り続けた存在。ダンジョンに囚われ魂をいじられても、強靭な精神で自我を残していた。ハヤタの祖父。
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田中 ハルト(24+13)(卒業)
レベル 72
《スキル》
地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性 不滅の精神
《装備》
不屈の大剣(魔改造) 守護獣の鎧(魔改造)
《状態》
ただのデブ(栄養過多)
世界樹の恩恵《侵食完了》
世界亀の聖痕 (効果大)(けつ)《侵食中》
聖龍の加護 《侵食完了》
《召喚獣》
フウマ(待機中)(怒り)
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