地上10
18時、幕間投稿
謝罪とはどういう風にすれば良いのだろうか?
古来より日本では土下座が主流となっているが、実際に目の前でやられると結構引かれると思うんだ。
じゃあ、90度のお辞儀で謝罪をすれば良いのだろうか?
それはそれで、何か足りない気がする。
心からの謝罪していると通じれば、それでもいいのかも知れないが、見た目から通じるのかと言われたらどうだろう?となる。
じゃあ、贈り物も一緒にするのはどうだろう?
女性が貰って喜ぶ物。
それは俺には何か分からないが、この人が喜びそうな物なら何となく察せられる。
何回もすいませんでしたーーー!!
俺は今、愛さんの目の前で土下座をして、ダンジョンで取れた素材を差し出している。
理由は、またしても身元引受人になってもらったからだ。
昨日、誘拐犯達を警察に突き出すと、何故か俺も逮捕された。
なんでも誘拐犯達に対する傷害の容疑らしい。
誘拐犯とは言っているが、誘拐犯側には美桜との連絡のやり取りがしっかりと残っており、強制的とはいえ同意しているものとみなされたのだ。
だから誘拐犯達は事情聴取のあと解放され、俺は奴らに対する暴行容疑で捕まった。
いやいや、違うでしょ! あいつらは俺の仲間を無理矢理連れて行ったの! と言い訳しても通るはずもなく、普通に捕まった。
誘拐犯達が「私達が悪いんです」と主張しなかったら、きっと今頃、檻の中だ。
なんで俺が犯罪者に救われてんだよ。
いろいろと納得出来ない事だらけだが、解放される流れになり、またしても迎えを愛さんに頼んだのだ。
いやー何度もすいませんねー。なんて軽い気持ちで迎えに来てもらったのだが、もう、なんだろうね。
ブチギレてたね、愛さん。
で、何をやったの?
蔑むような目を向けられて、とてつもない冷たい声を投げかけられる。おかげで、大事な所がヒュンと縮こまってしまった。
そこから平身低頭謝っているのだが、まずは移動しましょうとホント株式会社に連れて来られた。
因みに、千里と美桜は家族に帰している。
俺に着いてこようとしていたが、先ずは帰って安心させろと言ってある。
すいませんでしたーーー!!
マジですんませんでしたーー!!
軽い気持ちで呼んですんませんでしたー!
別に心痛まないしいっか、とか思ってすいませんでしたー!
便利だから使ったろとか思ってすいませんでしたー!!
「……貴方、そんな風に思ってたのね」
あっ、違うんです。これはなんと言いますか、あのーそのー、本音と言いますか口が滑ったと言いますか、つまり誤解なんです!
その後、どんなに誤解だと訴えても信じてもらえなかった。
話が変わったのは、ため息を吐いた愛さんが「もういいから、今度はこっちの質問に答えてちょうだい」と言って来てからだった。
はい! なんでもお答えします!
ええ、はい、マッピングールに入っていた映像ですか? どんな映像です?
んー……ああ、ダンジョンで間違いないですよ。こいつらめっちゃ強くて、数も多いんで逃げてましたよ。
ダンジョンの何階だって?
……さあ、何階なんだろ? もしかしたら一番下かも知れませんね。
どうやって行ったのかって?
…………さあ、覚えてないです。
真面目に答えなさいって言われても、前にも言ったように本当に覚えてないんですって!
本当に、どうして奈落に落ちたのか覚えていない。
何かと争った拍子に落ちたような気がするが、その後の出来事が命懸けで内容が濃すぎる上、時間も経っているのではっきりと思い出せないのだ。
どんなモンスターがいたかって?
映像の奴以外ですよね?
んー、そうだなぁ、ロボットみたいな奴に、黒いうねうねした気持ち悪い奴に、海亀っぽい怪獣に、溶岩を泳いでいるクジラに……結構たくさんです。
あの、ひとつ質問いいですか? 映像って全部残っているんですかね?
途中から途切れている。
そうですか……赤ん坊とかも映ってないですよね?
無いですか、そうですか。
ヒナタの映像とかないなぁと、今更ながら考えてしまった。
あと三、四ヶ月もすればヒナタに会えるが、幼い頃の姿もト太郎の姿も記憶の中にしかないというのは、少しだけ寂しいと思ってしまう。
ユグドラシルのアーカイブには、ヒナタの映像が残っているが、それは俺の記憶にある姿とは異なっていた。ト太郎に至っては、シルエットから違うので同じ存在だとは到底思えない。
記憶が残っている間はいいのだが、昨日出会ったイケメンのように俺が忘れてしまったら、昔を懐かしむ行為も出来なくなってしまう。
永遠の命。
考えるだけで恐ろしい。
え? ああ、大丈夫です。少し考え事をしてたもんで。
はい、何か情報はないかって?
そうですねぇ……愛さんには関係ない話ですけど、三百年から六百年後くらいに世界が滅びます。
分かります分かります。信じられないのはごもっともです。俺はどうでもいいんで、とりあえず信じているだけです。
何かおかしくないかって?
そうですよね、ダンジョンからモンスターが出て来るなんて信じられないですよね。
え、違う? どこからの情報だって?
そりゃ……言って良いのか、これ?
さらっと言ってしまったが、これは秘密にしている可能性がある。
二号が何やら活動していると言っていたが、世界が滅びるなんて話は聞いた覚えがない。
もしかしたら世界が隠蔽しているかも知れないし、二号が意図的に知らせていないかも知れない。もしもこの話をしたら、二号の妨害行為に繋がる可能性もある。
むむむっと悩んで、お世話になっているし愛さんにならいいやろという結論に至った。
これは内緒にして下さいね。
ダンジョンには、ユグドラシルっていう神様的な存在がいます……。
とりあえず、俺の知っている情報を話した。
奈落でモンスター相手に無双していると、知能を持った奴らがいて文明を築いているのを発見した。
文明もここよりも遥かに進んでいて、多くの種族が暮らしているとも伝えておく。
その中心にいるのが世界樹ユグドラシルで、神のように崇拝されているっぽく、色んな種族に姿を変える変態だとも付け加えておく。
そこには、これまでの世界の消滅と原因も記録として残されており、地球も例外なくダンジョンに飲み込まれて消えてなくなると告げる。
「……それを信じろと言うの?」
いえ、信じる必要はないですよ。
数百年後の未来には、愛さんも他のみんなも生きていませんから、無理に信じる必要は無いです。はい。
俺がそう言うと、愛さんは頭を抱えてうなだれる。
都市伝説の一つくらいに考えればいいと思うのだが、愛さんはそうではないらしい。
何やらぶつぶつと独り言を唱え始め、俺の顔を見る。
え、ユグドラシルがある証拠はあるのかって?
んーと、前にお土産で渡した端末がそうですね。ユグドラシルで使える物になります。
ああ、それです。
起動出来ない?
魔力を込めたら動くはずですけど、もしかしたら地上じゃ使えないかも知れないです。
駄目? 貸してもらっていいですか。あっ動きましたね、はいどうぞ。
端末を操作して何やら確認しているようだが、意味は分かるのだろうか?
この端末は、地図を見るかアーカイブを起動するくらいしか使い道がないので、地上では意味の無い代物だ。
それでも熱心に操作を始めた愛さんに、話は終わりですかと尋ねると、「また連絡します」と返事が返ってきた。
じゃあこれで、と退出しようとして一つ思い付いた。
愛さん、優秀な治癒魔法使いって募集してないですか?
ーーー
愛は田中に渡された端末を操作しながら、研究室に向かっていた。
廊下で社員とすれ違うが、いつもでは考えられない適当な挨拶を返してしまった。
それだけこの端末に集中していたのだ。
見たことのない文字、何が書かれているのか分からないはずなのに、不思議と頭の中で理解してしまう。
翻訳機能に似ているが、全く違ったアプローチ。明らかに、何らかの魔法によるものだ。
「これは……ネオユートピア?」
端末に映し出された地図は、有名な都市に似ていた。
いや、空に浮く島なんてないのでまったくの別物なのだが、建物を繋ぐパスなど共通点が多過ぎた。
「一体、これはなんなの?」
答えは既に聞いているが、とてもではないが信じられなかった。
いや、正確には信じたくなかった。
だから今、研究室に向かっている。
田中ハルトの話を否定する材料を探す為に。
世界が滅びる話を否定する為に、なんとか矛盾点を探そうとしていた。
だが、端末を操作すればするほど、出て来るのは田中の話の証明ばかり。
おかげで、治癒魔法使いとの話し合いの場を了承してしまった。
研究室に到着して、端末の解析を依頼する。
出来る限り正確に、急ぎでやってくれとお願いしてその場を後にした。
「どうしてこうも、予想外の出来事ばかり起きるのよ」
田中との話し合いは、探索者協会との交渉材料どころか、世界の危機かも知れない情報が出て来てしまった。
一企業の裁量を超えており、世界規模で取り扱わなくてはいけない情報だ。
とにかく、今は調査結果待ちだと答えを先送りにする。
それから約一月後、ホント株式会社にある宗教団体の教祖が訪れる。