地上9
感想の中にネオユートピアの崩壊で予知夢が原因とありましたが、田中が関わらなくても崩壊はします。ただ、被害が大きくなるだけです。
あと、たくさんの感想ありがとうございます!
大変励みになっております。
それは、朝早くから元の墓参りをしている時だった。
スマホの着信が鳴り、誰からだろうと画面を見ると、千里の文字が表示されていた。
昨日の今日でどうしたんだ? と電話に出ると、美桜が連れて行かれそうだから助けてと必死な声でお願いされた。
場所を聞いて、分かったこれから向かうと伝えて移動したのだが、バッチリ道に迷ってしまった。
どこそこにあるビルの工事現場だと聞いたのだが、それがどこか分からなかったのだ。
大体の場所は分かっても、その範囲が思っていたよりも広かったのが原因だ。更に言えば、他にも三箇所工事していたので、あっれーおかしいなーとなってしまった。
だから探した。
必死に探して、諦めて上空に飛び上がった。
すると、一つの工事現場から、似つかわしくない高級車が出て行く所を発見した。
もしかしてここかと、到着したときにはすでに終わっており、黒髪の男と金髪の男が倒れていた。
二人は酷くはないが怪我をしており、治癒魔法で治療してあげると、何故か俺の名前を呼んだ。
んーと頭を捻る。
この二人が誰なのか、まったく覚えていない。
恐らく知り合いなのだろうが、下手したら顔見知り程度なのかも知れない。
そんな二人が、俺に助けてくれと懇願して来る。
おい、俺を掴むんじゃない!
汚れるだろうが!
男に言い寄られても嬉しくねーんだよ!!
まるで縋り付くように俺を掴む野郎共。
二人を振り解いて話を聞くと、やはり先程の車両に千里と美桜が乗せられたらしい。
目的地はネオユートピア。
二つの県をまたいだ先にあり、車で移動するなら高速道路しかないだろう。下道で行く可能性もあるが、それだと俺ではもう探し切れない。
最悪、ネオユートピアに直行だなこりゃ。
そう頭の中で巡らせて、二人に何とかするから休んどけと伝えると、車を追って移動する。
工事現場の周辺に人が集まっていたので、一旦走ってから移動して、人目の無い所まで移動して風の魔法を使い上空へと舞い上がった。
高速道路に乗るという予測は間違ってなかったようで、割と直ぐに発見出来た。
空間把握を拡大して探ると、千里と美桜がそれぞれ別の車に乗っており、二人共拘束されていた。
今更だが、どうして千里も連れて行かれているのだろうか?
美桜を思ってとか金髪イケメンは言っていたが、それでも、危険には飛び込んでほしくなかったなと思う。
まあ、そういう性格なのだから仕方ないと無理矢理納得させて、後で説教してやろうと決意して風属性魔法を行使する。
まずは車両を加速させ、他の車両から見られない場所まで誘導する。
そして、一気に車両を上空まで舞い上がらせる。
車両の中にいる千里と美桜の姿を見て、ホッと安堵する。
無事なのは空間把握で分かってはいたが、それでも見るのとではまた違った安心感がある。
それから迷惑にならないように山の方へと向かい、良さげな開けた場所に車両を下ろす。
セダンの車には剣を突き立てた男が立っており、怯えたように俺をジッと見て来る。それは他の奴らも同じで、警戒するとかではなく、ただ俺を見て怯えているようだった。
まっ関係ないけどなと、さっさと救出するかなと収納空間から不屈の大剣を取り出す。
すると、息を飲む音が聞こえて来る。
新しくなった不屈の大剣を何度か振り、その感触を確かめる。
うん、なかなかに軽くて感触が心許ない。
能力自体は以前の物よりも遥かに上回っているのだろうが、重さは据え置きでも問題なかった。
うし、やるか。
そう気合いを入れて動き出そうとして、車に剣を突き刺していた男が何か喋り出した。
恨みをはらしに来たのかだって?
うるさいぞ犯罪者共。訳分からん事言ってないで、さっさと千里達を解放しろ。さもなければ、ぶちのめすぞこの野郎。
俺達を殺すのかって?
場合によっては、それ以上に苦しめてやるわ。裸にひんむいて、磔にするとかな。
つーか、俺言ったよな。美桜達に何かするなら容赦しないって。
脅しだと思ったのかボケ!
最初は忠告だったのに、マジでやんないといけなくなっただろうがこの野郎!
力で来るのなら、それ以上の力で返してやらー!
俺が大剣を構えると同時に、男と女が前に出る。
この中でも、最も強いだろう二人。
その二人が武器を手に取り、そして地面に落としてしまった。
……何やってんだ。
は? 降参? 降伏するって?
……舐めてんのか? 自分より力の無い奴にだけ好き放題やって、自分より強い奴には立ち向かえないのか?
「返す言葉もない。それでも、俺達は死にたくないんだ。敵討ちもしなきゃいけないからな」
ふざけんな。他人にやっておいて、お前達が許されると思うなよ。
は? お前達の仲間を殺してないかって?
いきなり何言ってんだ。話逸らしてんじゃねーよ。さっさと千里達を解放しろ。今なら顔面陥没くらいで許してやる。
さっきから何だよ?
お前らの事を覚えてないのかって?
テメーらみたいな犯罪者知るかボケ! 両足骨折も追加してやんぞ!
俺がそう言うと、男は落とした剣を拾って構える。
その顔色は恐怖もあるが、覚悟を決めた男の物だった。
「覚えてないのか……幸運だが複雑だぜ、くそ。彼女達は解放する。俺達は今後、彼女達は狙わない。俺が相手をするから、他の奴らは見逃してほしい。頼む」
まるで死を覚悟したかのような男の発言。
それに対する俺の答えは、
誰が見逃すか、全員ぶちのめす。
お前達は仲間が連れ去られて、はいそうですかって納得するのか? 仲間が傷付けられて、笑って過ごせるのか? 仲間を殺されて、当たり前の日常に戻れるのか?
ふざけるのも大概にしろよテメーら!!
お前達は俺の仲間に手を出したんだ。
絶対に許さん!
俺がそう宣言すると、最初に動いたのは大きな斧を拾った女だった。
男が何か叫んで止めようとしているが、それを無視して突っ込んで来る。
いや、その顔は恐怖で引き攣っており、男の言葉も届いていないのだろう。
不屈の大剣を大斧に合わせて振り抜き、炎が溢れた大斧を切断して破壊する。
武器を失った女は、動きを止めずに拳で殴り掛かって来る。
それはまるで、癇癪を起こした子供のようで、見ていて可哀想だった。
だから一撃を顔面に食らわして意識を刈り取った。
さて、次だ。と車の方を見やると、全員が恐怖で顔を引き攣らせていた。
はっきり言って、こいつらは弱い。
殺すのは容易く、無力化するのも大した労力を必要としない。
それでも、この地上では強い部類に入る。
俺の比較対象が奈落のモンスターになってしまっているので、どうにも手加減が難しい。
今し方ぶちのめした女も、一発で結構やばい状態になってしまったので、治癒魔法で治療を行っている。
他の奴らだと、今のであの世の可能性もある。
いくら何でも、命まで奪うつもりはない。そこまですれば、あのクソ野郎共と同じになってしまう。
東風達を殺したあの兄弟と……。
嫌な事を思い出したと歯軋りをして、やけになって特攻して来た男の剣を切り落とす。
男は残った刃で仕掛けて来るが、動きが遅くて反応するのは難しくない。
だからあえて体で受けてみる。
礼服が少し切れてしまったが、肉体にはノーダメージだった。
男の「は?」と困惑した声を無視して、その顔面に拳を叩き込む。
勢いよく地面に叩きつけられてバウンドする男に、治癒魔法を掛けて命を救う。
今ので、こいつらに対して武器は必要ないというのは分かった。
収納空間に不屈の大剣を仕舞い、逃げ出そうとした輩を捕える為に地属性魔法を使用する。
周囲に大きな石の壁を作り上げ、一定範囲内から外に出られないようにする。それでも、奴らは諦めずに逃げようとしている。
中には石の壁を攻撃して破壊しようとしているが、その程度の攻撃や魔法ではヒビも入らない。
一人ずつ殴り倒して行く。
人数は前回と同じ五人で、全員殴り倒すのに五分と掛からなかった。
全部が終わり、石の壁を解除すると千里達と改めて向き合う。
千里の開口一番の声は「やり過ぎじゃない?」というもので、続けて「でも、助けてくれてありがとう」という感謝の言葉だった。
美桜からも感謝の言葉をもらったが、少しばかりドン引きしていた。
おい、助けてやったのに引くなよな。
え? この人達生きてるのかって?
治癒魔法使って治療しているから……ん? んん?
……最初の奴、心臓止まってるね。
どうにも一番最初に殴り倒した女性の顔色が悪く、試しにトレースしてみると心臓が動いていなかった。
あかんやん。
頑張った。
千里と美桜も手伝ってくれて、なんとか蘇生させようと頑張った。心臓マッサージをして人工呼吸をして、治癒魔法も使って頑張った。
でも駄目だった。
そう、心臓の鼓動は戻らなかったのである。
これで諦められたら良かったのだろうが、残念ながら俺には蘇生する手段がある。
はっきり言って、こいつらには使いたくない。
だが、顔面蒼白な千里と美桜、そして俺の為にも使わなくてはいけないだろう。
二人に少し離れてくれとお願いして、気が付いた男を蹴り飛ばして退けてから準備に入る。
「リミットブレイク」
続けて蘇生魔法を行使する。
光が昇る。
体内の奥の奥、生命の根幹のような物に触れて女の魂を呼び戻す。
体に異常はなく、生命活動を再開出来ると教えて上げる。それでダメなら、オリエルタの時のように無理矢理引き上げる。
天使とは違い、人の魂は脆く感じる。
そっと掬い上げないと、形を崩してしまいそうで慎重になってしまう。
……こんな時なのに、もしもの話を考えてしまう。
今、こうして蘇生しているのが、東風だったら、元だったら、武だったら、瑠璃だったら、騎士だったらどんなに良かっただろうか。
あの時、この力があればなぁ。
こんな妄想をしてしまうのも、この力を手に入れたからだろう。
女の魂を掬い上げ、そっと体に戻してやる。
すると鼓動を打ち始め、体に熱が宿り、頬に赤みを浮かべた。呼吸も戻り正常な物へと戻っており、最後に治癒魔法で完全回復させて終わりだ。
んー……終わってみると、俺が傷付けて俺が治してんじゃん。これってマッチポンプとまではいかなくても、意味のない行動をしてしまってる。
これは手加減をしくじった結果だな、魔法で仕掛ければ良かった。
次はちゃんとやろう。
ダンジョンで練習しておくのもありかも知れないな。
そんな今後の予定を立てつつ、千里と美桜を見ると涙を流しながら呆然としていた。
お、おい大丈夫か⁉︎ と焦りながら尋ねると、何故か涙が止まらないと言う。
これはあれだろう。
魔法の光に当てられて、目をやられたに違いない。ドライアイというやつだろう。
スマホの扱いには注意しろよと二人に忠告して、倒れた奴らを車に押し込めていく。振動で目を覚ます奴もいたが、怯えて震えているだけなので問題ないだろう。
再び風属性魔法を使い道路に移動する。
そこで全員を強制的に目覚めさせて、ダンジョン近くに戻るように指示を出す。
そしてそのまま警察に行き、こいつらを引き渡した。
殺さない代わりが、警察への出頭だ。
美桜が警察に相談していたのもあり、話は順調に進み美桜と千里を除いて全員逮捕された。
美桜と千里を除いて逮捕されてしまった。
もう一度言おう、美桜と千里を除いて逮捕されてしまったのだ。
そう、俺も含めて逮捕されてしまった。