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『フウマ⑤』

 フウマはママリリに連れられて、カザト錬金術工房から程近い公園に来ている。

 そこのベンチに座り、ママリリはヒナタとの出会いを話し始めた。


 幼い頃、凶悪なモンスターから命を救われた。

 短い間だが、共に過ごした記憶。

 沢山の話をした中には、フウマのこともあったらしい。


 ふんふん、それでアイツは何て言ってたんだ?


 そう嘶いて尋ねると、


『凛々しくて凄く強いと言ってましたよ』


「ブル」


 せやろと頷くフウマ。

 しかし、その評価に疑問を持ったどこかの獣人が首を傾げていた。


『凛々しい? 凛々しいってなに?』


『クロエ知らないの? かっこいいって意味だよ』


『かっこいいって、なに?』


『かっこいいはかっこいいだよ』


『そっか、かっこいいんだ』


『何が?』


『……何がだろう?』


 かっこいいを考えて撃沈したクロエと、よく分かっていないシャリーが何故か付いて来てしまった。


『貴女たちは戻ってなさい。先生は、まだお話しないといけないから』


『えー、フウマって英雄様の知り合いなんでしょう? いろいろ聞きたいです』


『念話は使えないみたいだけどね』


「ブルル」


 やかましいぞ黒いチビ。そう悪態を吐くが、それすらもクロエには届いていないようだ。

 獣人二名は戻る気が無いのか、フウマに寄り掛かって会話を聞いている。


 フウマは、お前らマジで帰れよとブッ飛ばしたい気持ちを抑えて、今はママリリの話に耳を傾ける。


『ヒナタ様が英雄に任命されたから、私は引き離された。それ自体は仕方ないんだけど、当時は凄く悲しくてわんわん泣いちゃった。それから……』



ーーー




 ヒナタが英雄に任命されたあと、地方都市は全て解体されることが決まった。

 解体とは言え、全てを無かったことにするのではなく、新たな浮島として一部を都ユグドラシルに併合させたのである。それに伴い、すべての住民を都ユグドラシルに移し、住める場所を制限したのだ。


 その目的は、守る場所を限定するため。


 いくらヒナタが英雄だとしても、広大な土地全てを守るのは不可能だ。ならば、守る場所を世界樹ユグドラシルを中心に集約して、範囲を限定するのが最善だった。


 その影響で、空には数多くの浮島が浮かぶようになってしまったが、それも仕方ないだろう。

 命には変えられない。

 そのおかげで、以前と同じように、穏やかな日々を送れるようになったのだから誰も文句は言わなかった。


 そんな怒涛の日々が過ぎて行く中、ママリリは戦闘訓練に集中して、己の技量を上げていった。


 すべては再びヒナタに会うため。

 以前のようにヒナタと共に生活は送れなくても、せめて彼の力になるためにと守護者を目指したのだ。


 だが、残念なことにママリリに才能は無かった。


 魔人族なだけあり魔力量は多いのだが、見どころはそれだけだった。近接戦はほどほど、魔法は守護者のレベルに達していなかった。


 それは結果にも表れており、最終試験で森外のモンスターとの戦いで敗北してしまったのだ。


『もう一度チャンスを下さい! お願いします!』


『諦めろ、お前の事情は聞いている。だからこそ忠告するが、お前は守護者に向いていない。再び受けたとしても、結果は変わらないぞ。無駄に命を落として、あいつを悲しませるだけだ。それだけは辞めておけ』


 負けて殺されそうになった所を、妖精族の守護者に救われた。

 序列十位の守護者、妖精族のオベロン。

 その界隈では名を轟かせており、一級守護者の中で最も良識ある守護者として知られていた。

 小さな賢者。

 守護者の良心。

 我儘な妖精族の異端児。


 他者の心に配慮する上、その者の本質を見抜いて対応する能力は、妖精族にあるまじき行為だった。

 だからこそ、妖精族の代表であり唯一の守護者なのだろう。

 そのうち心労で、ぽっくり逝くのではないかと仲間達から心配されていたりする。


『何も守護者になることだけが道じゃない。よく考えてみろ、お前に向いている道がきっとあるはずだ』


 オベロンの忠告を聞いて、これまで我武者羅だったママリリは立ち止まって考える。


 まずヒナタの力になるのが第一だ。

 その上で自分に出来ることは何かを考える。

 考えに考えて出した結論が、教師になることだった。

 それが最善、というより、これしかヒナタの力になれる方法が思い浮かばなかった。


 己の力では届かないのなら、他に託すしかない。

 他力本願と言われたらそれまでだが、それでも構わないと選択したのだ。


 この選択は正解だったのだろう。

 ママリリは他者を教える能力に秀でており、教え子の中から多くの守護者を排出していった。



『ママリリ先生って幾つなの?』

『しーっ! 女性に年齢を聞くのはマナー違反』

『魔人族は長寿の種族だから、年齢なんて気にしなくて良いのよ』

「ヒヒン」

 何故か圧倒されて、悲鳴を上げるフウマだった。



 ヒナタが英雄として活躍するようになってから暫く経ち、誰もが心に不安を抱えながらも平穏な日々を送っていた。


 英雄がいれば安心と信じながらも、それが絶対でないと皆が気付いていた。故に、多くの者が己を鍛え戦闘能力を向上させていったのだ。


 この調子でいけば、数百年の時間で元の戦力を取り戻せるだろうと予想されていた。


 だが奴は現れた。


 神のような巨大な亀のモンスター。

 アクーパーラが都ユグドラシルに訪れたのだ。


〝この地に我の肉を取り込んだ者がいる。差し出せば危害は加えない。即刻連れて参れ〟


 アクーパーラの念話により告げられた内容がこれだった。


 一体誰が、あの神のような存在の肉を食べられるのだろうか。そう誰もが疑問に思うなかで、二名が名乗りを上げた。


 一名は現地の人間である世樹マヒト。

 そして、もう一名は英雄ヒナタだった。


 それを聞いた者、すべてが絶望した。

 この二名を差し出すのは簡単だろう。本人達も行く意向を示しており道を開けるだけで良い。


 だが、その後はどうなる。

 次にまた災害級、災厄級のモンスターが現れたら、誰が倒せるというのだろうか。

 英雄ヒナタを失うというのは、この地のユグドラシルの滅亡を意味していた。


 問題はそれだけではない。


『ヒナタ様を救え!』

『彼の方を差し出すのならば、いっそ滅んだ方がマシだ!』

『今こそ我らが立ち向かうのだ!』


 ヒナタに救われた者達が、関わった者達が、崇拝する者達がヒナタを行かせないと動き出したのだ。

 その勢力は都ユグドラシルの半数にも及び、天使族とエルフ族を除いた殆どの種族が参加したとも言われている。


 それにはママリリも参加しており、プラカードを持って反対したそうな。


 しかし、その状況も長くは続かない。

 いつまで経っても現れない待ち人に、痺れを切らしたアクーパーラが、世界樹を滅ぼしに掛かったのだ。


 放たれる魔法は世界を滅ぼす魔法。

 世界樹ユグドラシルは元より、この森すべてが更地になるような威力を持っていた。

 絶望も何も感じる暇もなく、ただ終わろうとする多くの命。

 それを何度も救って来た白銀の光がまた救う。


『アマダチ!』


 ユグドラシルに強化されたヒナタのアマダチが煌めき、アクーパーラの魔法にぶつけて相殺する。

 その様子を見ていた群衆は色めき立ち、彼なら倒せるのではないかと期待してしまう。


 だが、その期待はあっさりと裏切られる。


 英雄ヒナタの必殺技が全力の一撃だったのに比べて、アクーパーラには余裕があったのだ。


 今の魔法を防がれたのが気に入らなかったのか、アクーパーラは更に魔力を高めていく。

 その威力は、先ほどのアマダチが使えたとしても防げないレベルのものだった。その上、全力のアマダチを使ったヒナタは、満身創痍の状態だった。


 次で終わる。


 そう誰もが予感するなか、奇跡が起こる。

 世界が夜に包まれ、それと同時にアクーパーラも姿を隠したのである。

 何が起こったのか分からず、呆然とする住民達。


 ママリリも立ち尽くし、その様子を下から見ていた。

 奇跡に奇跡が重なり、奇跡的に助かった。ただ幸運に恵まれたから、ここにこうして都ユグドラシルは残っている。

 それを理解して、その場に崩れ落ちてしまった。


 同じような者達は幾らでもおり、混乱は長く続いてしまう。


 どうなるのかは、この地の上層部である評議会が決める。

 評議会は各種族の代表者一名と一級守護者三十名、そして絶対者たるユグドラシルで構成された組織だ。


 そこで下された決断は、ヒナタの追放と世樹マヒトの地上への帰還だった。

 追放とは言っても戻って来ないという訳ではない。

 その存在を夜の世界に限定して、危機が発生した際に都ユグドラシルに帰還するという処置が取られた。


 まるで都合の良い英雄(ヒーロー)のような扱い。


 それに反感を覚える者は大勢いたが、あのアクーパーラの魔法を見た後では、表立って反対する者はいなかった。


 全てはこの地を守るため、親しき者達に見送られて旅立ったヒナタ。そこにママリリが並ぶことは無かったが、遠くから彼が飛び立つ姿を見ていた。


 ヒナタと共に行きたいと言う者は、大勢いたそうだ。

 だが、誰もが力不足であり足手纏いにしかならなかった。

 ママリリには声を上げるチャンスも訪れなかったが、それでも彼の為にと決意する。


 彼が戻る場所を守ろうと、自分に力が無くとも教える力はある。

 大勢を守護者になるように育てようと決意したのだった。



ーーー



『じゃあ、私達も守護者になれるの!?』


 話を聞いて、シャリーが疑問を口にする。

 憧れの守護者になれるのなら、これほど嬉しいことはないと目を輝かせている。


『絶対じゃないけど、シャリーもクロエも才能はある方だと見ています』


『やったー!!』


『落ち着いて、まだ成れると決まった訳ではない』


 喜ぶシャリーを諌めるクロエだが、嬉しいのか尻尾をフリフリとさせていた。


「ブルル」


 フウマはそこまで話を聞いて立ち上がる。

 十分にヒナタの話を聞けた。それだけ慕われて、受け入れられていると分かっただけで満足だった。


 あとは、主人がこの地を守る英雄になれば、ヒナタも無事に戻って来れる。というより、海亀のモンスターは主人の収納空間に入っているので、もう戻って来れるはずだ。


 風を操り二人を上から退かす。


『帰られるのですか?』


「ヒヒン」


 ああ、じゃあなと言って去って行くフウマ。

 そろそろ昼食の時間なのだ。

 早く戻らないと食事が回収されてしまう。それは避けたいフウマは『じゃーねー!』と言う獣人を放置して帰って行った。




 その後、守護獣の鎧の修復が本格的に始まり、フウマは姿を消した。

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おもしろい(´・ω・`)
[良い点] いい豚を亡くしましたな。
[一言] ふ、ふうまああああああ!
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