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『フウマ③』

18時にも投稿します。

『君、どうしてここにいるの?』


 いつか見た白猫の獣人シャリーがいる。


『シャリーどうだった?』


 更に黒猫の獣人クロエまでいる。


「ブル?」


 どうして二人が居るのだろうと疑問に思うフウマ。ここは錬金術師の工房で、子供がいるような場所ではない。

 もしかして迷い込んだのだろうか?

 それなら仕方ないなと見なかったことにして、無視を決め込み、ゲームに視線を戻す。


 だから、檻の中に入って来ないでもらっていいですか?

 当たり前のように、リードを付けないで下さいよ。


『シャリー何してんの?』


『この子、きっと捕まってるんだよ!? このままじゃ、実験材料にされちゃうよ!』


 想像力のあるシャリーは、檻に閉じ込められているフウマを見て、ある結論に至っていた。

 守護者から逃げられるくらいの子だから、きっと何かの材料にされるんだと。その短い足とか、小さい尻尾とか、ブサイクな顔とか、きっといろんな所を切り離されて使うんだと想像したのだ。


 流石にそれはないだろうとクロエは思う。

 あの時に見たフウマの力は、守護者を圧倒しており普通ではなかった。ここの職員に、この子を実験するだけの力は無いのはクロエでも分かる。

 だからシャリーに近付いて告げる。


『それは大変だ。助けて上げないと』


 何だか楽しくなりそうだと、純粋なシャリーの案に乗っかった。

 純粋なシャリーと比べて、クロエは天邪鬼的な一面を持っているのだ。


『さあ行こう!』


「メ〜」


 悲しみの声を上げるフウマとそれを必死に助けようとするシャリーを見て、面白いことになりそうだとクロエのテンションが上がった。




ーーー




 不思議な実験動物を連れての脱出。

 そのミッションの難易度は高く、とてもではないが簡単に成功するものではない。


『こちらデルタニャー、前方に職員を発見、どうぞ』


『問題ない、デルタニャーは引き続き前方を注意しつつ進め。後方はオメガニャーに任せて、どうぞ』


『ラジャ』


 デルタニャーことシャリーに指示を出すオメガニャーのクロエ。その間に挟まれたフウマは、子供の遊びだからと諦めて着いて行く。


 まあいいか、暫く動いていなかったし、久しぶりの運動がてら付き合ってやろう。そう自分に言い訳をして、子供に逆らえない己を誤魔化す。

 前回も子供達に危害を加えることは出来なかった。

 理由はヒナタと姿が重なるからだが、きっとこれが治ることはない。それが分かっていながらも、いつでも振り解いてやれるんだぞと内心虚勢を張っていたりする。


 だから、まあ、少しくらい遊んでやっても良いかとおおらかな気持ちでいた。


『こちらオメガニャー、疲れたので休憩する。どうぞ』


『こちらデルタニャー、ラジャ、健闘を祈る』


 いきなり休憩かいとフウマは呆れるが、背中に掛かる重量を感じてもしかしてと背中を見る。するとやはりと言うか、クロエがフウマの背中に乗っかっていた。


「ブルル」


 おい、何乗ってんじゃいと背中のクロエに抗議する。


『思った通り、乗り心地が良い』


 しかし背中をさわさわと撫でられ、少しくらい良いじゃないかと主張してくる。

 クロエは軽いので負担にはならないが、せめて許可くらい取って欲しいと、もう一度嘶いて注意してみる。


『分かった、次は事前にお願いする』


 そんな意思が通じたのか、クロエはまたフウマを撫でて念話を返した。


『こちらデルタニャー、オメガニャーはこの子の言ってる事が分かるのか? どうぞ』


『こちらオメガニャー、適当です。どうぞ』


「ヒヒン!?」


 適当かい!?

 何気に意思が通じたと思っていたフウマはショックを受ける。これまで、会話らしい会話が成立したのは主人の田中とヒナタとト太郎だけだった。ナナシや二号は語りかけては来ても、こちらの意思は通じなかったのだ。

 だから少しだけ感動したのだが、それも勘違いだったようだ。


『でも、何となくは分かるかな。シャリーはどう?』


『んー、何となく分かるよ。今、何だか落ち込んでる』


 それは顔色だ。

 あからさまに沈んだフウマの顔を見て答えるシャリー。

 そんな会話をしながら進んでいると、ホビットの錬金術師が通りかかった。


『おっ? なんだフウマ、散歩か? 飯までには帰って来いよ』


「ブルル」


 気の良いホビットが通り過ぎて行く。

 彼はフウマにゲーム機を与えた張本人であり、だらける要因の一つを作った奴でもある。


『君、フウマって言うの?』


「ブルル」


 せやでと返答するフウマ。

 意思が通じないと、名乗れないから面倒だ。主人がいれば紹介してくれるのだが、今は別行動をしているので、首に名札でもぶら下げていた方が良いかなと思っていたりする。


『違う、この子の本当の名前はフウマじゃない』


「メッ!?」


 いきなりなに言ってんのこの子とクロエを見る。

 そこには紐の付いたプラカードを持ったクロエがおり、そのプラカードをフウマの首に掛けた。


『んーと、プリンド・アーサー・メブルルヒヒン? これ名前なの?』


『そう、訳すると、太った騎士王の鳴き声はメブルルヒヒン。通称プリン』


「メーーーーッ!?!?」


 そんなの嫌過ぎる!

 子供に危害加えられないけど、今回は良いだろう。これはもう良いだろ!


『って言うのは冗談。この子、念話使えないみたいだから名前を書いてみた』


 そう言ってプラカードを裏返すと、しっかりとフウマと記されていた。



 それから工房の出口に向かって進む。

 途中でシャリーが交代してとクロエに言うので、今フウマに乗っているのはシャリーだ。


 おい、許可取れって言っただろうと嘶くが、『大丈夫、心配ないからね』と意思疎通ができない。


『あ、あー、こちらオメガニャー、前方にエルフの坊ちゃん発見。どうぞ』


『こちらデルタニャー、了解、こちらでも一人でいるヨハニを確認した。どうぞ』


『排除しますか? どうぞ』


『武器が無いので却下です。どうぞ』


 それまだやってたんだな、つーか排除って発想が物騒過ぎて引いてしまう。


『お前ら何やってんだ?』


『こちらデルタニャー、ヨハニがこちらに気付いたようです。どうぞ』


『こちらオメガニャー、目つきが悪いです。どうぞ』


『なんでいきなり悪口!?』


 面と向かって言われたのが初めてだったのか、かなりショックを受けた様子だ。

 それでも、エルフの族長の孫というプライドがあるから折れたりはしない。一応、エルフの王子様的なポジションなのだ。それに、シャリーの前で無様な姿を晒すわけにもいかなかった。


『ふっ、まあいいさ、好きに言ってればいい。それで、何してんだ? そんなブサイクな乗り物に乗って』


「ブルル!」


 誰がブサイクだこのガキ。テメーだって目つき悪いくせに、他馬のこと言ってんじゃねー!


 怒りの表情で、ヨハニに向けて威嚇する。

 何だったらやってやんぞこの野郎といった勢いのフウマに押されて、ヨハニが『うっ!?』と後退り距離を取る。

 だが、それで圧力が治ることはない。

 何故なら、フウマをブサイクと思っていない子がいるからだ。


『ひどーい! フウマこんなに可愛いのに!』


『そうだそうだ。ブサカワイイを理解しろー』


 フウマの上からシャリーが可愛さをアピールし、クロエがそれに便乗した。

 ヨハニの感想は間違っていないのだが、少数の意見は多数の意見により押し潰されてしまう。


『わ、悪かったよ、ブサカワイイ、ブサカワイイ』


 多くの者が見れば、間違いなくヨハニと同意見だっただろう。だが残念なことに、ここには三人と一体。あとは雑談している職員や学生、エルフの守護者くらいしかいなかった。


『だって、謝ってるから許してあげて』


「ブルル」


 今回は見逃したるわと頷くフウマ。

 これでもカッコいい姿だった時代もあるんだぞ、あの野郎が痩せれば軍馬並みにカッコ良くなれるんだぞ。そう、ここにはいない召喚主に向かって悪態をついた。


『ん? ヨハニ、ほかの子達は?』


『別行動だ。俺は用事があるのに、あいつら足が遅くてな。着いて来れないから置いて来た』


『そっか、ひとりぼっちなんだ』


『おい止めろ! 俺が寂しいみたいな言い方すんな!』


 ヨハニはエルフ族の王子様的なポジションである。

 ただ、それで人気があるのかと言うと、そこそこ人気はある。族長のヨクトからしっかりと教育を受けており、天使族以外には普通に接して会話もする良い子なのだ。

 今一人でいるのも待ち合わせをしているからで、周囲から孤立した訳ではない。


『じゃあ、一緒に遊ぶ?』


 しかし、ひとりぼっちで可哀想と思ったシャリーはヨハニに手を伸ばす。

 いつもなら誰が遊ぶかと断るヨハニだが、相手がシャリーだと迷ってしまう。ヨハニは獣人族が好きだ。特に白猫のシャリーが好きなのだ。

 この誘いは魅力的で、是非ともその手を取りたい。

 でも、用事があるのは事実だ。

 族長の孫として反故にできない。

 それでも、シャリーからのお誘いだ。別に相手は大人なんだから、許してくれるだろう。と安易な思いが浮かぶ。

 迷いに迷って、そして。


『……すまん、待ち合わせしてるから。誘ってくれてありがとう』


 血の滲むような思いでしっかりと断って見せた。

 よほど悔しかったのか、唇から血が流れており、フウマは若干引いてしまった。


 シャリーはそっかと頷いて、フウマの腹を蹴り前進を指示する。


 なんかコイツ、普通に乗りこなして来てるなとフウマは子供の順応さに感心する。

 乗られることに違和感を覚えなくなったフウマは、トコトコと歩き出す。そして、正面に何者かが立ち塞がり、歩みを止める。


『貴女たち、何やってるの?』


 それは魔人族の教師であるママリリだった。


『……こちらオメガニャー、ママリリ先生に見つかった。どうぞ』


『こちらデルタニャー、どうしよっか? どうぞ』


『んー、んーー〜〜逃げよう』


『待ちなさい』


 逃亡を図るためクロエはフウマに飛び乗ろうとしたが、一連の様子を見ていたママリリに速攻で捕まってしまう。


『こちらオメガニャー、捕まってしまった。どうぞ』


『見れば分かる。どうぞ』


『この状況でよく出来るな、お前ら』


 片手で持ち上げられているクロエを見上げて、ヨハニは呆れた様子である。

 クロエもここまでかといった様子で、この遊びの終わりを悟ってしまった。ただ、シャリーの方はと言うと、まだ諦めていなかった。


『行こう、フウマ!』


「にゃ!?」


 そう言ってフウマの腹を蹴って駆け足の指示を出した。

 どうやらクロエは置いていく所存のようである。

 マジか!? と衝撃を受けているクロエだが、それ以上に衝撃を受けている者がいた。


『フウマ……フウマ!?』


 何故かママリリがフウマの名前に反応したのである。

 クロエを持つ手を離し必死にシャリーに、いや、フウマに向けて手を伸ばしていた。

 待ってと、貴方に聞きたいことがあると必死に手を伸ばすが、フウマの姿は遠ざかっていく。


『待って!』


 ママリリは蝙蝠の翼を広げてフウマのあとを追おうとする。

 この工房で空を飛ぶのはマナー違反だ。貴重な物が多数あるため、落下したときの被害がバカにならないのだ。勿論、それはママリリも分かっているが、それ以上にフウマを優先させる必要があった。


 そして追うため羽ばたこうとするが、フウマの前に守護者が立ち塞がるのを見て動きを止めた。

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