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奈落75(世界樹33)

 畑の害虫を駆除して、んー……と唸りながら過ごしていると、オベロンがいつか見たエルフのおっさんを連れて現れた。


『ハルト、ヨクトさんがお前を案内したいんだってさ』


 んー……パス。


『パスなんか無いよ! 今回はヨクトさんが案内するんだよ! いいな!』


 何だよそれ、強制じゃん。


『仕方ないだろう、ユグドラシル様からのお達しでもあるんだから。それに、俺も監視役として一緒に付いて行くから、何も心配いらないだろう?』


 心配なんかしてねーよ。

 それよりも、最近同じ所ばかりだったからさ、もっと別の所ない?


 別の奴に案内されると、同じ場所に行くことがある。

 特に、アミニクと回った所なんて、オリエルタに連れて行かれた場所とほとんど同じだったのだ。

 せめて、昼と夜の世界で別々に案内されていれば、見える景色も違ったのだろうけど、この世界ではそれも難しい。


『そっか、でも今回はその心配もいらないと思うぞ』


 視線をエルフのおっさんに向けると、笑みを浮かべて『ええ』と自信満々に頷いていた。


 何でも、今回連れて行ってくれる所はエルフの里らしく、族長が招待するのは珍しいらしい。


 ふーん……族長、続けられたんだな。


『後継はいたんだが、どうにも乗り気じゃないらしくてな。エルフの汚名を返上するまで、私に続けろと言われたよ』


 そっか、じゃあまだまだ死ねないな。


『ああ、生き恥を晒して生きて行くよ』


 ニッと笑ってやると、困ったように溜息を吐いていた。


 エルフの族長であるヨクトは、守護者の一部からは罪人として警戒されているらしい。

 ユグドラシルが無罪放免と宣言しても、その行動がユグドラシルの為だったとしても、あれだけの騒動の原因を作った奴だ。何を考えているのかも不明で、危険因子と認識している守護者もいる。

 正直それは仕方ない。

 暴れたのは俺だけど、原因作ったのはこいつとオリエルタなので、俺は関係無い。

 もっと考えてから動けとか言われたら、何も言い返せないので受け付けない。


 だから、悪いのは全部こいつ。

 異論は認めない。


『何ぶつぶつ言ってんだよ? 早く行くぞ』


 オベロンに急かされて、俺は二人の後を追った。



 エルフの里、っていうか割り当てられた区画になるが、思っていたよりも広かった。

 上空から見える景色一面がエルフに与えられた区画らしく、更に浮島まであるという。


 だが、これでも前よりも縮小したそうだ。


『少し前までは、一つの都市を任されていたのだが、都ユグドラシルの守りを強固にする為に土地を諦め、今ではこの森と浮島一つだけになってしまった』


 それだけの数が減ったのと、モンスターの猛攻により都市自体が消滅してしまったのだとか。

 いずれは取り戻したいと言っていたが、それがどれだけ大変なことなのかヨクトもよく理解しているのだろう。決して大きな声で思念を飛ばすのではなく、の横に立って呟いているだけだった。


 エルフの里を巡って気付いたのは、ここだけ文明が置いて行かれたかのような環境になっているということ。

 一応都ユグドラシルの技術は使われてはいるのだが、目に見える範囲には置いておらず、必要な物以外は外では使用していないらしい。


 それで大丈夫なのか? と思い聞いてみると、民家に案内されて中を見させてもらった。


『このようになっているから、問題ないんだ』


 ヨクトに見せられたのは、十本の木の上にある家。

 外観も木製で、木が好きなんだなぁと勝手に思っていたのだけれど、その中身はまるで違っていた。


 確かに木製ではあるのだけれど、都ユグドラシルの技術が使われていて、設備は都ユグドラシルの物だった。

 つまり、木製とは見せかけだけで、中身はなんも変わらんかった。


 がっかりした。


 何というか、もっと種族的に特徴を出して欲しかった。

 いや、確かに都ユグドラシルの設備は充実しているけどさ、こう情緒ってもんが無いじゃん。そりゃ機能美は素晴らしいよ、うん。種族ごとに建物の風貌とかも変えているよ。でもさ、なんかさ、無駄が足りないんだよなぁ。面白味が無いんだよなぁ。


 やっぱ、無駄を楽しむのって大事にしたいよね。


『なにやってんだ?』

『どうした? 次に向かうぞ』


 俺を置いて行く二人。

 いやいや、俺を案内してくれてんだよね?

 何で置いて行こうとするんだよ。


 なんて考えてたら、おかっぱ頭の小さなお子様がひょこっと顔を覗かせた。

 それは物陰から突然現れて、『これ上げる』と飴玉をくれた。


 甘い、ありがとな。


 そうお礼を言うと、子供は笑みを浮かべて物陰に隠れてしまった。


 いつまでも家の中から出て来ない俺を心配したのか、オベロンが『早く行こうぜ』と声を掛けて来る。

 それと同時に、子供の気配がふっと消えてしまった。


 おかしいなと隠れた場所を覗いてみるけど、何もいなかった。空間把握にも反応せず、ただただ姿を消しただけだった。


『どうかしたのか?』


 ……いや、何でもない。


 多分、狐に摘まれたのだろう。

 気にする必要は無い。だって、口の中は相変わらず甘いのだから。



ーーー



 エルフの里の案内が終わると、ユグドラシルから話をしようと呼び出しをくらった。


『ほほぅ、精霊に好かれたようじゃな。あの屋敷に住むか?』


 何でだよ、あそこには誰かが住んでるんだろ?

 それに、エルフの里に住んだら居心地悪いだろうが。


『あの屋敷に住んでおるのはヨクトじゃ。何だったら、一緒に住んでも良いぞ。彼奴ならば、エルフとの仲も取り持ってくれよう』


 ふざけんな‼︎

 おっさんなんかと住みたかないわい!

 何でそんな罰ゲームせにゃならんのだ!


『ふふ、冗談じゃ。じゃが、あの屋敷の精霊に好かれるというのは、とても珍しいんじゃ。偶にでも良い、遊びに行ってやってくれんか』


 あの屋敷にいたおかっぱの子供は、屋敷に憑いた存在なのだそうな。

 日本的に言えば座敷童、海外だとブラウニーだろうか? そんな存在が、この地にもいるのだそうな。


『あれらは、心ある者から生まれた存在じゃ。力は大したことないが、見守ってくれたりするぞ』


 家の中で見守ってって、それもうプライバシー壊滅してますやん。

 一人で安らげる場所が無いとか、それもう家として機能してなくない?


『家族が増えたと思ったら良いではないか』


 そもそも、相方がいねーよ。


『ならば、地上に戻った時に連れて来れば良い。事情を説明すれば、付いて来てくれるじゃろう』


 んなわけねーだろ⁉︎

 つーか相手もいねーっての‼︎

 喧嘩売ってんのか‼︎


 俺の剣幕を見て、控えていたミューレが動こうと……していなかった。

 ただ、俺に憐れみの目を向けているだけだった。


 おっ? なんだテメー、寂しい男が情けないってか?

 まとめてやってやんぞ?


 そんな俺の臨戦体制な気持ちはどうでもいいのか、ユグドラシルは無理矢理話を変えて来た。


『それは残念じゃったのう。して、この土地は気に入ったか?』


 俺の感情を残念の一言で片付けんなよ。

 ……まあ、分かっちゃいたけど、良い場所なんじゃないか。


『そうかそうか、気に入ってもらえたら何よりじゃ。もう少しで地上に戻す準備も整う、それまで楽しんで欲しい』


 楽しめるかは分からないけどな。


 なあ、一つだけ聞いていいか?


『なんじゃ?』


 キューレって、ユグドラシルから見てどんな奴だった?


 ヒナタの母親であるキューレ。

 オリエルタから話を聞いた時は、まるで興味は無かったが、アミニクの話を聞いて興味が湧いた。

 あいつは、俺がキューレに似ていると言っていた。

 守護者として活躍し、英雄として期待されていた彼女が、よく知る近しい者から否定されていた。


 そんな彼女が、周りからどう見られているのか興味が湧いてしまった。


 ヨクトからは『希望の光だった』と言われ、オベロンからは『得体の知れない不気味な奴』と真逆の評価を受けた。


 ならば、ユグドラシルは?


 真っ直ぐに見つめると、屈託のない笑みを浮かべて答えてくれた。


『他の子らと変わらん。我に取って、この地に生まれてくれた愛しく大切な命じゃ。もちろん、ヒナタもな』


 これが、ユグドラシルの本心なのだろう。

 全てを、須く愛している。

 そうでなければ、このような土地を作ったりはしないだろう。


 でも……参考にならんなぁ。


『なんでじゃ⁉︎』


 いや、そんな上から目線の返答が欲しかったんじゃなくて、どう感じたかってのが知りたかったんだよ。


『むぅ……別に良かろう。そも、近しい者ならばミューレもおるじゃろう』


 そのミューレからは『私の目標でした』という答えをもらっているので、間に合っている。


 アーカイブでも調べてみたけど、キューレの功績や戦う映像、家族に付いての情報しかなかった。

 どんな奴というのも、ユグドラシルを守る英雄候補と出るだけで、性格なんて出て来るはずもなかった。


 ただ、戦う姿から分かることもある。

 強い。

 ただ強い。

 俺単体だったら、恐らく負ける。

 フウマと一緒だったら、ギリギリ相打ちには持ち込めそうだった。

 それだけ強い。


 しかも、まだ成長途中の姿と来ている。

 俺も強くなる余地はあると思うけど、キューレに勝てる姿が思い浮かばなかった。

 もしもキューレが生きていれば、この地は安泰だっただろう。そう思わせるだけの強さが、彼女にはあった。


 もしかしたら、その姿を見たからこそ、俺は彼女に興味を抱いたのかも知れない。


 時間があればもう少し調べたかったけど、残念ながらタイムリミットは来てしまった。

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