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奈落69(世界樹28)改

『あれは、オベロン様だ⁉︎』


『どうしてオベロン様がここに?』


 周囲からオベロンを見て、驚きの声が上がる。


 というか、どうしてオベロンがここに?

 わざわざ俺を訪ねて来たようだけど、注目されるような奴は来ないでもらっていいですか?


『おっおい、何したんだよ⁉︎ 悪さしたんなら、さっさと吐いた方がいいぞ』


 テメーバルタ、俺が悪さするように見えんのか? どう見ても人畜無害の……。うん、別に悪さなんてしてないお。


『なんで目が泳いでんだよ』


 否定しようとしたけれど、守護者をしばき倒して浮島を落とした実績があるので、何も言えなくなってしまった。

 あれは不可抗力だったけど、他の奴らからしたら、まあまあ悪いことしているかも知れないしね。


『ハルト、呼び出しだ』


 いやいや、空気読んでもらっていいですか?

 そんな言い方するから、周りからの視線がキツくなったんですけど⁉︎


 俺の訴えをよそに、オベロンは真剣な顔をしており、まるで本当に犯罪者の確保をしに来ているようだった。


 こいつ確信犯だな⁉︎


 くっ⁉︎ ここで何か言えば、俺の立場はもっと悪くなる。変に口走ったりしたら、俺が浮島を落とした犯人だとバレてしまう。オベロンをぶん殴ったら、それこそ俺は悪者だ⁉︎


 ちくしょ〜。


 俺は両手を差し出して、しょんぼりしながら立ち上がる。

 もうこうなったら、行くところまで行くしかない!


『おお〜、まさか乗って来るとは……』


 慄いているオベロンを見ると、テメーが始めたんだろうと言ってやりたくなった。


 しかし、オベロンも最後までやり切るらしく、俺の手を魔法で拘束して連行する。


 これで俺も犯罪者か……。


 実際には違うけど、この光景を見ている奴らからしたら、俺は立派な犯罪者だ。

 納得いかないが、乗ってしまったから仕方ない。

 遊び心は、時に取り返しの付かない事態を巻き起こすのだと初めて知った。


 だけど、こんな俺を心配して助けようとしてくれるハイオークがいた。


「フガー‼︎」(やめろー‼︎)


 そう、オクタン君である。

 オクタン君が立ち上がり、オベロンの前に立ち塞がったのだ。


『うお⁉︎ なんだお前は⁉︎』


「フガー‼︎」(田中君を連れて行くなー‼︎)


『おっおう、いや、あのな……』


「フガー!」(連れて行くなー!)


『えっと、えー……』


 まさかの抵抗にオベロンは狼狽する。

 ここまでやって遊びでしたと言い出し難く、どうしようかと俺に視線を送って来る。

 だから俺は真剣な表情で、手を前に突き出して深く深く頭を伏せた。


『なっ⁉︎』


 さっきの仕返しだ。

 俺を犯罪者扱いしようとするからこうなるんだ。


 フゴーッフゴーッとオクタン君は鼻息荒く、俺を解放するよう要求する。それに対してオベロンは、


『駄目だ! この凶悪犯をここに置いておくわけには行かない!』


 悲報、俺、凶悪犯になる。

 おいおい、何言い出してんのこの妖精⁉︎


 オベロンが言えば、それが本当だと信じるだろう。そうなったら、俺はここを出歩けなくなってしまう。もう、生きていけない。


 そんな心配をしていたのだけれど、オクタン君は違った。


「フガッ!」(嘘だ! 田中君がそんなことするはずがない!)


 オクタン君。


 彼との付き合いは、そこまで長くない。それなのに、どこまでも俺を信じてくれる。

 なんて良い奴なんだ、惚れてしまいそうだ。


 それにしても成長している。

 この前までのオクタンなら、何も言わずに見送っていただろう。それが、格上のオベロンを前にしても怯まず圧倒している。


 メスのハイオークが、なぜオクタン君に惚れるのか分かった気がする。


 胸の高鳴りを感じた気がしつつ、俺はもういいとオベロンに告げる。

 ここで悪ふざけだったとネタバラシして、彼の心配を取り除いて上げるのだ。


 オベロンも俺の意を汲んで頷いてくれた。


『残念だが、こいつは守護者に暴力を振るった。抵抗するなら、お前も連れて行くことになるぞ』


 お前なに言ってんの⁉︎

 いや、間違ってないよ⁉︎ ないけど、そうじゃないだろう⁉︎


 俺の必死の訴えが届いたのか、オベロンは『あれ、違った?』とうっかりさん発言をしていた。


 オベロンの発言に周囲がざわつき出し、『やべー奴がいたんだな』『馬鹿なことを』『犯罪者め!』「フゴ」などの声が届く。

 そんな中で、オクタン君から本当? という問い掛けるような視線が送られる。それに対して俺は、「チガウヨ」と首を振った。


「フガッ‼︎」(僕は田中君を信じる‼︎)


 どこまでも俺を信じてくれるオクタン君、素敵。


『ええー……。ええっと、オクタンだったか? ひとまず落ち着いてくれ、別にハルトをどうこうするつもりは無い。ただ話を聞きたいだけなんだ。用事が済めば直ぐに帰すから、それでいいだろう?』


「フゴ?」(そうなの?)


 キョトンとしたオクタン君。

 そんなオクタン君の手をバルタが、『ここは大人しくしといた方がいいぜ』と引っ張っていた。


 俺もオクタン君に大丈夫だから、すぐ戻るから安心してくれと、悲しそうに言っておく。


『お前なぁ……』


 オベロンが何か言いたそうにしていたが、元々こいつが発端なので気にするつもりはない。

 そんなオベロンだけど、何かに気付いたようで、あるホブゴブリンの元に飛んで行った。


『ハヤタ久しぶりだな』


「……」


『気が向いたら、いつでも戻って来いよ』


 一体どういう関係なのだろう?

 余り他人の関係に首を突っ込むべきではないけど、ハヤタさんが無視しているのが気になる。


 なので、外に出たタイミングで聞いてみた。


『ハヤタはな、守護者を辞退した奴なんだ』


 辞退? 守護者になれなかったんじゃなくて?


 俺の知るハヤタさんは、とてもではないけど守護者になれるような実力は無い。あのプラントでは強い部類だけど、森の外のモンスターを相手に戦えるだけの力は備わっていない。

 そんなお方が、どうやって守護者になるというのだろう?


『あいつは強いぞ。今は力をセーブしているが、戦闘モードに入れば、そこらの守護者よりも強い』


 戦闘モード……。

 何それ怖い。


『お前が言うな』


 やかましい。

 それで、こんな騒動起こしてまで一体何の用なんだ?


『騒動も何も、ハルトがユグドラシル様に紹介されたホテルにいないのが悪いんだろ? それどころか、どうしてプラントで働いているんだよ?』


 いや、流れで。


『どうやったら流れでそうなるんだよ……。あっいいや、よく分かったからいいや』


 何が分かったのか不明だが、納得しているようだから、まあいいのだろう。


 んで、何の用事だよ?


『ユグドラシル様が呼んでいる。一緒に来てくれ』


 えっ、後半の仕事があるんだけど。


『後半の仕事はキャンセルだ。もうプラント側には伝えてある』


 それって勘違いされてないよね?

 俺が逮捕されたって勘違いされてないよね⁉︎


 必死の訴えは、そっと目を逸らして答えてくれなかった。

 俺はもう、ここでは働けないかも知れない。


『まあいいのだろう、っとその前に……』


 オベロンは地面に降りると、俺の正面に立ち頭を下げた。


『ハルト殿、この度は我が師ヨクトを救っていただき、感謝申し上げます。師の考えを知っていたはずなのに、俺は引き出せなかった。ああいうことをする方ではないと知っていたはずなのに、疑いもしなかった。もしもあのまま終わっていれば、師は罪人として扱われていた。そうなれば、俺は俺を許せなかったと思う。ハルト、助けてくれてありがとう。お前のおかげで、師は生きていられる』


 前にユグドラシルが言っていた。

 オベロンは苦労性だと。

 その小さな背中には、多くの物や多くの者達を背負っている。

 大きい。

 小さな背中が、とても大きく見えてしまった。


 そんなオベロンから頭を下げられて俺は、


 おう。


 としか答えられなかった。



____



 オベロンに連れられてやって来たのは、世界樹の麓。


 麓では山のように大きな浮島を建設しており、ユグドラシルがドワーフっぽい人達と何やら打ち合わせをしているようだった。


 こりゃ邪魔しちゃ悪いから別の日にしようぜ。そうオベロンに提案するけど、『自分がやったことから目を逸らすなよ』と面白そうに言われた。


 おい、さっきの殊勝な態度はどうした?

 俺に浮島の残骸を見せて満足かこの野郎。


 オベロンは笑いながらユグドラシルに報告に向かう。


『おお来たか、ちょうど終わったところじゃ。……なんでそんなに離れておるんじゃ?』


 いや、気まずくて。


『ふっ、気にする必要はない、形ある物はいずれ壊れるものじゃ。これまで何度も浮島を造り変えておるし、ミューレにも己の裁量で使う許可は出しておるしの』


 そうなの?

 なーんだ、気にしなくていいのか。


『ただ、もう二度と、ここまで破壊するのはやめてほしいの。制御が失われると、大きな被害を出すからの』


 あっはい、反省してます。


 適当に鼻でもほじろうかと思ったら、釘を刺されてしまった。

 うっかりでアマダチを放って、多くの命がを危険にさらしてしまった。これは大いに反省すべきだ。

 そんなの群衆操ってたヨクトが悪いとか、俺関係ねーしとか開き直っちゃいけない。せめて、格好だけでも反省したフリをするんだ。


 あのさ、それで何の用なんだ?


『うむ、これを渡しておこうと思っての』


 ユグドラシルに差し出された物は、以前ももらったカード型端末。

 それはもう持ってるよと告げると、『これは第一級管理者権限の端末じゃ、これがあれば都ユグドラシルのどこにも行けるぞ』と言うので、受け取っておいた。


 でも、どうして渡すんだろうか。

 これがあると、都ユグドラシルの良いも悪いも見てしまう。俺をここに縛りたいのなら、良い所だけを見せたらいい。なのにどうして?


『なに、お主にはよく知ってもらって好きになって欲しいのじゃ』


 …………。


『オベロン、ハルトを案内してやってくれ』


『はっ!』


 ユグドラシルの指示に応じたオベロンは、『行こうぜ』と羽を羽ばたかせる。


 その小さな背中を視界から外して、周囲を見渡す。

 ユグドラシルが生み出した緑の世界。

 空高くまで続く緑葉に、浮島を造り出す職人達の姿。ここを中心に、周辺には多くの種族が住んでいる


 俺は、少しだけ怖くなった。

 もしもここが好きになったら、俺はヒナタだけの為に戦えない。

 もしも、親しい仲間が出来てしまったら、大切な場所だと認識してしまったら、俺は死ぬまで戦い続けるだろう。


 終わりの無い戦い。

 それが少しだけ怖かった。



____




 オベロンが最初に連れて来てくれたのは、大きな浮島で、守護者の建物が設置された場所だった。

 この浮島の特徴は、世界樹の周りをゆっくりと周回していることだろうか。ここから守護者が飛び立ち、モンスターの討伐や治安維持を行なっているそうな。


 おい、何で最初がここなんだよ?


 ここは、俺に取って魅力を感じない場所トップテンには確実に入るだろう。


『そりゃ、一番使うようになるのがここだからだよ。種族特有の施設も多いから、それも含めて案内して行くぞ。まずはあれだ……』


 オベロンが指差す方向は浮島の中心地。

 その中央には大きな建物があり、その両隣にも負けないくらい大きなのがある。

 三つの建物が守護者本部となっており、中央にある建物に一級、準一級守護者が待機しているそうな。横にある建物には、二級守護者、三級守護者がそれぞれ待機するようになっているという。


 ふーん、オベロンはなん級なんだ?


『俺は一級守護者の序列十位だ。ハルトが知ってる奴だと、ミューレは守護者筆頭、リュンヌは序列二位。あと、オリエルタは準一級になるな』


 聞いてねーよ。


 あいつがどれだけの力を持っていようが、どれだけの立場にいようが興味がない。


 オベロンに案内されて、守護者の浮島を見て回る。

 この浮島には、守護者本部以外にも様々な施設が用意されており、訓練場や休養場、魔力回復施設なんかもある。他にも種族独特なトリミング所、羽休め室、骨格改造室などの、なんだこれ? 的な施設まで用意されていた。


 結構な時間見て回ったのだけれど、未だ十分の一も回ってないという。


 なあ、そろそろ休憩しないか? 腹も減ったし。


『そうだな、食事にしよう。普通に食べる? それとも満たすだけにするか?」


 満たすだけって何だろう? 幻でも食べさせられるんだろうか?

 そこのところをオベロンに尋ねると、必要な栄養素を詰めた錠剤があるらしく、それを飲むだけで満腹感も得られるらしい。これは、天使族やエルフがよく利用しているそうだ。


 いや、普通に食事で。


 美味しい食べ物があるのなら、是非とも味わいたい。


 食堂に向かっていると、訓練場を横切る。

 そこでは青髪の天使と、ハイオークの守護者が戦っていた。


 訓練と言うには激しく、激突する度に空気を震わせていた。

 ハイオークの巨大な武器を天使が受け止め、弾き返して攻撃を仕掛ける。ハイオークは天使との距離を保ちながら下がり、攻撃を合わせて行く。


 青髪の天使はオリエルタ、ハイオークはベントガ。


 この二体が本気でぶつかっていた。


 最初こそ拮抗したように見えたが、それも直ぐに崩れる。


『オリエルタは準一級、対してベントガは三級だ。実力差は明らかだ』


 あっという間にオリエルタの優勢となり、攻め立てて行く。ベントガも持ち堪えているが、そう長くは持たないだろう。


 これだけの実力差があるのに、どうしてやり合ってんだ? そんな疑問に、オベロンは答えてくれた。


『……オリエルタは、あの一件以降多くの者に挑まれているんだ。無視すればいいんだが、律儀に全てに応えている。ベントガも過去にヒナタに救われていてな、そういう奴が結構いるんだよ』


 ……すまん、ちょっくら行って来る。


 オベロンが『え? おい待て!』と止めて来るが、無視して俺は訓練場に向かった。

 


 

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