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奈落68(世界樹27)改

 養蜂場の様子を眺めていると、キラービー達が飛び回り、巨大な花から花粉を運んで行く様子が観察できる。

 そのキラービーは、次の花へと飛び移り受粉させる。

 大量の花粉を運び、少しばかり動きの遅くなったキラービーは、必死の思いで巣へと運んで行き、途中で大きな食虫植物に捕食された。


 俺はどっこいしょと腰を浮かせて風の刃を放ち、食虫植物を輪切りにして始末する。


 ギーッ⁉︎ と泣いているのは、先ほど捕食されたキラービーである。どうやら丸呑みだったようで、その命に別状はないようだ。


 え? なに? せっかく運んだ花粉を失ってしまったって?

 馬鹿野郎! 命あっての物種だろうが! 花粉なら俺も手伝ってやるから、また回収すればいい。


 ギィ〜と感激したような鳴き声のキラービーを連れて、花粉の回収に向かう。途中でハイオークとすれ違うが、同じようにキラービーを連れており、よほど仲が良いのか空を運んでもらっている。

 どうやったら、そこまで仲良くなれるのだろうか。

 きっと、長年培ってきた信頼関係の賜物なのだろう。新参者の俺では到底無理な話だ。


 他のハイオーク達が焦ったように、空を飛ぶハイオークを追いかけているが、きっと何かの遊びなのだろう。



 花粉を集め終わり、キラービーにお別れを告げるとお隣の畑へと向かう。

 畑には、数多くの野菜や果物が実っており、その大きさも俺が知る物よりも十倍くらい大きい。

 大きな野菜や果物は味が落ちるというイメージを持っていたが、ここの作物はそんなことはなく、常に糖度マシマシの絶品達である。


『おーい! こっち手伝ってくれー!』


 念話が届き、そちらの方に向かうと獣人のバルタが大きなカメムシのモンスターを相手に奮闘していた。

 体長1mはあるカメムシのモンスターには、二十本もの足が付いており、その内の四本には凶悪な刃が付いている。また、カメムシなだけあり危害を加えると臭い硫酸を発射するので注意が必要なモンスターだ。


 バルタの他にオクタン君とハヤタさんもいる。彼らは三人?一組となって害虫駆除を行っていた。

 タンクのオクタン君、遊撃のバルタ、魔法使いのハヤタさん。決して悪い組み合わせではないが、今回は相手か悪い。


 カメムシのモンスターが強いとかではなく、このモンスターの厄介なところは群をなすという習性にある。

 凶悪な刃や硫酸は都ユグドラシル産の装備で防げるが、群れで襲われて、数の暴力で押されたら負けてしまう可能性もあった。


 だからバルタは助けを求めたのだろう。


 生意気なバルタだけだったら放置していたが、オクタン君とハヤタさんがいるなら仕方ない。

 先程と同じように、風の刃を使いカメムシのモンスターを八つ裂きにする。カメムシが張り付いていた作物も一緒に切り裂いてしまったが、吸われたからには痛んで食べられないだろうから問題なし。


「フゴッ!」

「ギギッ!」


 カメムシを倒すと、オクタン君とハヤタさんがありがとうと片手を上げて挨拶してくれる。それに比べてバルタは……。


『おい! 危ないだろうが、やるならやるって言えよ!』


 なんてふざけたことを抜かしやがる。

 せっかく助けてやったのに、文句ばかり言いやがって舐めとんのかお前は。


「ギギッ‼︎ ギッ!」


 バルタの対応に問題を感じていたのはハヤタさんも同じようで、杖でバルタの頭を叩いて説教していた。

 ザマァと笑ってやると、バルタは悔しそうにしている。


「フゴ、フゴゴ」


 え? 俺が強いって?

 そりゃ、それなりに死線潜って来たからな。嫌でも力は付いちまうよ。


 そもそも、弱かったらとうの昔に死んでいる。ここに、こうして生きているのが強さの証明なのだ。だからオクタン君、俺の隣にいる君も強いぞ。そう格好よく告げてみると、何故かオクタン君は凄く感動している様子だった。


 そう、だから、ちゃんと断る勇気を持とうな。


 オクタン君はハイオークの中でも、爽やかなイケメンのハイオークだ。

 以前、ボス的な雌のハイオークに色々と奪われてしまい、何故かそれがきっかけで、多くの雌のハイオークから誘われるようになったのだとか。

 そのお誘いを断りたいそうなのだが、というか一度断ったそうなのだが、今度は数で押し切られてしまい一対複数という男のロマンを叶えたようなのである。


 なんだこの、自慢話かクソが。なんて思ったが、オクタン君の表情はやつれており、酷く疲れている様子だった。

 少しでも元気になればと、収納空間に余っている蟻蜜を提供したのだ。その効果か、今は以前のような元気な姿に戻っている。


「ギギ、ギギッギ」


 ああ、いいっすよハヤタさん。バルタのことなんて眼中にないんで、何言われても鼻をほじって忘れられますって。


 気遣いのハヤタさんに手を振って応え、バルタに向かって鼻をほじってやる。


『くっそ〜……俺の兄貴は守護者なんだぞ!』


 だから何だ馬鹿タレ。お前の兄貴がどんなに凄い奴だろうが、お前自身がしっかりしなきゃ意味ないだろうが。


『……確かに。じゃなくて、俺が言いたかったのはいきなり魔法を使うなって事だ! みんながハヤタさんレベルで、魔力を察知できるわけじゃないんだぞ』


 む、むむむむっ⁉︎ 小癪な、バルタごときがまともなこと言いやがって。


『どういう意味だよ⁉︎ 迷っているお前達を連れて帰ってやったのも俺だろうが!』


 案外常識人なバルタ。

 数日前、と言って良いのか定かではないが、あの後、準備が出来るまでの寝床を用意すると言われたので、端末を頼りに向かったのだ。

 宿泊施設の近くにフウマに揺られて到着すると、そこにバルタが居たのだ。


 そこで『おい、そっちじゃないぞ。早く帰んないとハヤタさんに怒られるぞ!』とバルタに声を掛けられて、何故か着いて行ってしまったのだ。


 どうしてだろうな、怒られると言われると何故か着いて行ってしまうのは。


 そんなこんなで、この場所で畑仕事をしながら過ごしている。


 ユグドラシルにはいろいろとお願いしている件もあるので、少しくらい働いて貢献しといた方が良いだろう。

 何をお願いしているかというと《不屈の大剣》や《守護獣の鎧》などの壊れた装備の補修をお願いしているのだ。

 無理なら無理で仕方ないと諦めるけど、何だかんだ愛着のある装備なので、使えるようにしてもらえたら嬉しい。


 ついでに、何かの足しになればと収納空間にあった素材っぽい物を大量に渡しているので、もしかしたら変な感じで戻って来る可能性もある。


 まあ、その時はその時で諦めよう。



 フウマはフウマで気ままに散策しており、暫くの間、戻って来ておらず、どこかを遊び歩いているようである。

 まあ、どこにいるのか大体分かるし、フウマも俺が呼べば直ぐに戻って来そうなので問題ない。


 本来なら、ユグドラシルが指名した場所で待機しておくべきなのだろうが、別に問題ないだろう。ユグドラシルは、俺がここにいると把握しているようだし、準備が整えば声を掛けて来るだろさ。


 だから大丈夫だと、足元にいるビックアントクイーンの幼体に治癒魔法を掛けて擦りむいた腹を治療して上げる。


 ギー!と元気良く鳴いた幼体は、どこかに走り去ってしまった。


 うむ、子供は元気なくらいが丁度良い。


『タナカは何で女王蟻に好かれてるんだ?』


 さあ、蜜を飲みまくったからじゃないか?


『蜜って生命蜜のことか?』


 生命蜜? かは知らないけど、結構な量飲んだぞ。


『あんまり飲み過ぎるなよ、体の崩壊が始まるらしいからな』


 ふぁ⁉︎ なんだよ崩壊って、嘘言って俺を驚かすんじゃねーよ。


「ギギギ、ギギ」


 嘘じゃない。本当に崩壊すんの?


 ハヤタさん曰く、蟻蜜を飲み過ぎると体が魔力に変換され始めて崩壊するそうだ。

 元々、生命蜜は世界樹の物であり、この地を守護する力の元として作り出された物らしい。身体能力の向上や魔力量の増幅などの神秘的な効果はあるが、それは一定量で頭打ちになる。また、多幸感も得られるが、それも限界が近づくにつれて、体が拒否しだすらしい。それが無いのなら、まだ大丈夫だそうだ。


 うん、俺にその兆候はないから全然大丈夫。

 えっ? 川に飛び込んだら一発で分解されるから気を付けろって?

 うん、全然おーけーおーけー。


 何も問題無し。

 きっと蜜違いだ。そうだ。そうに決まっている。


 震える体を悟られないようにして、四人で食堂に向かう。相変わらずの豚料理だが、味付けが毎回変わっており、食べていて飽きない。

 何の味付けなのか理解出来ない物もあるが、とにかく美味い。オクタン君も満足しているので、間違いないだろう。


『そういや、もう話し聞かなくなったな』


「ギギ」


 え、何の話?


 バルタの発言に同意するハヤタさん。

 何のことか分からずに問い掛けて後悔する。


『おま、あれだよあれ。浮島が一つ無くなった事件』


 あー……あれね、ははっ、あれね、うん、あれね……。


 何も言えねー。

 本来ならヒナタの噂話の方が話題に上がるはずなのに、浮島が落ちたせいで、そっちの方に話題を持って行かれてしまっていた。

 ヒナタの話をしないよう、ユグドラシルが呼び掛けたというのもあり沈静化したのも原因の一つだろう。まあそれでも、浮島を斬った光景はとても多くの者達の心に焼き付いているらしく、話題で持ちきりになっていた。


 まっ、まあいいじゃん。早く食べてしまおうぜ。


 気まずくなりながらも呼びかけると、バルタを除いた二人が頷いてくれた。


 そんな平和な食事の時間だけど、邪魔をする妖精が現れた。


『どうしてこっちにいるんだよ……』


 それは呆れた顔のオベロンだった。

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