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奈落61(世界樹20)改

 ミューレの攻撃を受けて、浮島から投げ出されたフウマは移り変わる視界の中で、どうするか逡巡する。


 ここで戦えば、多くに被害が及ぶ。

 この地で暮らすほとんどの者が、ヒナタの出生とは関係が無いのだろう。だから、巻き込むのはフウマとしても望むところではなかった。


 だが、それでも、この怒りは収まらない。


「ヒヒーン‼︎」


 ヒナタの姿を思い出し、怒りのままに魔法を使う。

 風を纏い、迫るミューレの真上から強烈な風を当てて叩き落とす。その衝撃で、都ユグドラシルのインフラ設備であるパスが砕けるが、知ったことではない。


 ミューレという脅威を退けると、オリエルタの元に向かって駆け出す。

 主人の田中が囚われてしまった以上、この役目は自分だと殺意を増して駆け抜ける。


 瞬時に最高速度に達したフウマ。

 この勢いで、オリエルタを保護している奴らも蹴散らし、トドメを刺してやるつもりだった。


 しかし、軌道上に魔力の線が流れており、目の前にミューレが出現する。

 転移魔法で移動して来たのだろう。

 それだけでなく、雷が込められた双剣はとても無視出来ないほどの魔力と暴力が込められており、フウマも防御体勢を取らなければならなかった。


「キュ!」


 ミューレの一撃はフウマの防御魔法と衝突し、都ユグドラシル上空を駆け抜ける。その余波だけで、多くのパスに影響を与え、周囲の浮島を動かしてしまう。


 電気の爆ける音と、重量物が衝突した重低音が鳴り響くなかで、フウマとミューレは睨み合う。


 フウマは邪魔するなと唸り、ミューレは引けと歯を食いしばる。


 フウマとミューレの衝突は激しさを増して行く。


 怒りの魔法が放たれ、ミューレを退かして都ユグドラシルを揺るがす。

 フウマを止めようとミューレが武器を振るえば、余波だけで都ユグドラシルが壊れて行く。


 都ユグドラシルを守る為、ミューレに加勢をしようと、一級の守護者が動き出す。

 序列三位は、ヒナタと同じく夜の世界に存在を固定しており参戦出来ないが、四位以下の者ならば動くことが出来る。


 しかし、


『来るな‼︎』


 ミューレによって止められてしまう。

 邪魔だから来るなと止めたわけではない。むしろ、都ユグドラシルを守る為、力を貸して欲しいくらいだった。


 だが、他の守護者が来たことにより、フウマが本気を出してしまったのだ。


「ヒヒーン‼︎」


 フウマは黄金を纏い、その姿を変えてしまう。

 チビでデブな小馬な姿から、神話に出て来そうな幻想的な馬へと変身したのだ。


 その姿は見惚れるほど美しく、そしてこの地に現れた災害級モンスター以上に強力でもあった。


『まったく、これが味方ならば、これ以上ないくらい心強いというのに……』


 ミューレは冷や汗を流しながら、フウマと対峙する。

 この姿のフウマと戦うのは二度目。

 一度目は、ほとんど何も出来ずに負けてしまった。しかし、今回はそうはいかないと双剣を構える。


 加勢しようとしていた守護者の大半は、フウマの姿に動けなくなってしまい、困惑していた。

 動けなくなったのは、天使族の守護者である。

 サラブレッド型になったフウマは、より強く聖龍の魔力を発しており、創造主の力の片鱗を前に戦意を喪失してしまったのだ。


 フウマは力を確かめるように、魔力を込めて空中を蹴る。ドッ‼︎ と激しく空間が鳴り響き、真下に来ていた浮島を大きく削り取った。


 フウマは一度嗎声と、ミューレを見た。

 空中をもう一度蹴ると、一気に加速してミューレに迫る。


『っ⁉︎』


 迫るフウマを前に即座に転移したミューレは、元の浮島に降り立ち、最も得意とする魔法を使った。


 今この浮島には誰もいない。

 そしてここは、世界樹ユグドラシルのテリトリーでもある。


『ユグドラシル様……』


 大きく育った世界樹の苗木。そっと触れて、呼び掛ける。


 大気が震える。

 フウマが駆け抜け、恐ろしいスピードでこの浮島に迫っていた。


 しかし、それでも焦ることなく、ミューレは木属性魔法を発動する。


 浮島が震え、島全体に張り巡らされた木の根が動き出す。

溢れた土砂は落下して行き、都ユグドラシルを汚して行く。


 ミューレはユグドラシルの苗木を意のままに操り、最強の矛と盾を手にフウマを迎え討つ。

 大気を操りながら迫るフウマの一撃は、浮島を破壊する威力を秘めていた。しかし、ミューレは根を使って受け止めた。


 まさか止められるとは思っていなかったフウマは、「ブル」と警戒すると一度離れる。


『ハルト殿にも伝えたことだが、ヒナタはオリエルタを許している。フウマ殿、それでもオリエルタを狙うか?』


「……」


 ミューレの問い掛けに、フウマは答えられなかった。


 当事者であるヒナタが許しているのなら、ここで口出しするのは間違いではないかと考えたのだ。

 召喚主である田中の怒りは、今もじわじわと伝わって来るが、フウマの意思は主人とは独立している。物事の判断は、単体でも出来た。


「ヒヒーン‼︎」


 考えた結果、フウマは戦闘を継続する。


 フウマとミューレの衝突は規模を増して行われるが、決着は案外早く付いた。


「……ブル」


 世界樹ユグドラシルの力を借りたミューレは手強く、フウマは魔力の大半を使い切り姿を維持出来なくなってしまった。そこを囚われてしまい、閉じ込められてしまったのだ。


『……何故力を抜いたのだ? あなたならば、ユグドラシル様の枝を破壊出来たのではないか?』


 率直な疑問。

 フウマの動きが、あの時よりも格段に悪くなっていた。攻撃も甘く、まるで危害を加える気がないようなものになっていた。


 フウマとしては、ヒナタを捨てたことに対して怒りはある。しかし、ヒナタが許しているのなら、これ以上フウマが口出しする必要は無いと判断した。

 それに、ミューレの力は世界樹ユグドラシルの一部を使っている。これを傷付ければ、少なからず影響が出るんじゃないかと、ほんの少しだけ心配したのだ。

 だから攻撃が鈍くなったし、そもそも戦う理由も、主人から流れてくる怒りの感情しかなかった。


 なら、もう戦う理由が無かった。


「ブルル」


 もう何もせんから、この檻を解け。そうミューレに訴えるが、警戒して解放してくれそうもなかった。


 暇なので、フウマは木製の檻の中で、主人の怒りの感情の正体を探ってみる。


 すると、そこから伝わって来るのは、己もオリエルタと同様の選択をしたことに対する、我儘で八つ当たりのような感情だった。

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