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奈落58(世界樹17)改

『誠にめでたいのう‼︎ 百を越える天災の如きモンスターを討伐した英雄! 聖龍と共に、ヒナタを育ててくれた! そして先ほども、襲来した災害級モンスターを一撃で葬り去ってくれた。ハルトよ、改めて礼を言うぞ』


 そんなん良いからと、手を振って早く進行しろと合図を送る。

 衆人環視は、あの神殿でお腹いっぱいだ。


 ユグドラシルの話は続く。

 この地に根付いてから幾星霜、様々な苦労があった。聖龍の庇護の下とはいえ、文明を築いていられるのは、奇跡のような出来事なのだ。とか何やら話している。


 適当に聞き流してしまいたいが、ミューレの件もありちゃんと聞いている。

 この話は、多くの奴らは半信半疑で受け止めているようだが、ここの外を見て来た身からすると、正にその通りだった。


 聖龍が、大怪獣のような世界を滅ぼしそうな存在達と同等の存在ならば、庇護を失った都ユグドラシルはいつ滅ぼされてもおかしくはない。実際に亀の野郎が現れたときは、滅ぼされる寸前だったらしいしな。

 そもそも、それ以下の存在を相手に負けているようじゃ、これから先、生き残るのは困難を極める。


 まっ、その為にヒナタっていう力を欲したのだろう。


 それで当のヒナタだが、海亀の脅威が無くなった以上、夜の世界に縛られる必要もない。だから『英雄が帰って来るぞ‼︎』とユグドラシルが告げると、会場から大きな歓声が上がった。


 何というか、何だろうな……。

 分かってはいたけど、ヒナタがここまで受け入れられていると思うと、何だか無性に嬉しくなってしまう。


 俺は自然と笑みが浮かび、会場を眺めていた。


 そんな俺に、どうにも敵意のような物をぶつけて来る輩がいる。そいつらは同じ種族で、ヒナタの帰還を聞いても、何の反応も示していなかった。


 まあ、不仲な奴は少なからずいるだろう。万人に好かれる奴は、そういない。いても、死んだ偉人くらいだろう。その偉人でも嫉妬で嫌われたりするから、この世の全てから好かれる奴なんて存在しないかも知れないな。


 そいつらも、俺に対してというより、きっとヒナタに対しての感情だろう。つーか、よく知らないのに敵意を向けられていたら、軽くへこむ。へこんで、キレて、跳び蹴りをかますかも知れない。


 その時は覚悟しろよこの野郎。


 ギロリと睨んでやると、そいつらは視線を逸らしてしまった。


 ふっ小物め、大したことない奴らだ。そう満足すると、食事を再開する。ユグドラシルは未だに喋っているが、話が長過ぎて付いていけない。

 何か新情報があるかと聞き耳を立てていたけど、内容がまったく関係ないものになっている。各種族に対する感謝の言葉なんて、俺にゃ何のことかさっぱりだ。


 ただ、俺に敵意を向けていたのが、長耳族(エルフ)というのは分かった。




 結局、宴の終わりまで多くの種族に話しかけられた。

 何故か間にオベロンが入ってくれて、『あー、あんまり近づき過ぎるなよ。一人ずつ話すんだ。いいな』と調整してくれたから助かった。

 オベロンのことは、ユグドラシルから苦労性と聞いていたけど、面倒見が良いせいで損をするタイプなのではないかと疑ってしまった。


 そんなオベロンを労って、肩をポンと叩いて頑張れ! とエールを送っておいた。


『おお? なんだか馬鹿にされてる気がするんだが、気のせいか?』


 気のせい気のせい。

 勘の良いオベロンには、余計なことはしない方がよさそうだ。


 さて、今回会話をした種族で印象に残ったのは幾つかいる。


 一つはハイオークの族長。

 何かに付けて、俺を同族認定してきて腹立たしかった。確かに、親近感が湧いているが、俺はまだ人間だ。お前らハイオークと一緒にするんじゃねー。


 二つ目は、魔人族を名乗る魅力的な肉体を持つ女性。

 何でも、昔暮らしていた土地が襲われたらしく、そこをヒナタが救ってくれたという。ヒナタは、その時に孤児になった魔人族の少女を引き取ったらしく、英雄と祭り上げられるまで一緒に暮らしていたという。


 ……え? それ、なんて光源氏?

 なんて殺意が湧きそうになったが、少女は別の場所で暮らしているらしく、長い間ヒナタには会えていないそうだ。


 ふーん……、仕方ない、見逃してやるか。

 一応、セーフと判定しておいていいだろう。


 それで三つ目だが、俺に敵意を向けていたエルフ族だ。

 族長のヨクトなるエルフは、まあ愛想が無かった。敵意を隠しているつもりなのだろうが、その目には憎しみの感情が感じ取れた。

 まあ、それだけなら適当に流していたのだけれど、握手を交わした瞬間に、『後ほどヒナタの真実を教える』と接触による念話で伝えて来た。


 もの凄く胡散臭い。

 胡散臭いんだけど、ヒナタのことと言うので、メンチ切りながら分かったと了承した。


 他にも数が少なくなっている巨人族や、地上で長いこと過ごせない水妖族。ハーフリングにダークエルフ、虫族に水晶が額に埋まったオーブ族なる者もいた。

 まだまだ沢山いたのだけれど、俺じゃもう覚え切れない。

 同一種族だと思ってたら、まったく別の種族だったりという場合もあり、判別は困難だった。


 これらの種族を、ユグドラシルは救って来た。

 長い長い時の中で、多くの命を救っていた。

 生まれて来ないはず命を救ってくれた。


 中心にある樹木に座り、会場を眺めているユグドラシルの姿が見える。周りには、天使族の守護者が固めており、その中にはミューレやリュンヌ、オリエルタの姿があった。


 誰もが、ユグドラシルを守ろうと強く決意しているのだろう。

 その意思が、彼らの瞳から窺える。

 そしてそれは、俺を嫌っているだろうエルフ族にもある物だった。


 世界樹ユグドラシルは愛されている。

 多くの命を救ったユグドラシルを、俺はいつの間にか尊敬していた。





 宴が終わり、案内された部屋でゆっくりしていると、ここにいるのも悪くないかもなぁと思えてしまう。

 ヒナタの元気な顔を見たら、地上に戻ろうと考えていたけど、少しだけ考えを変えても良いかも知れない。


「ブルル‼︎」


 え、嫌だって? なんで?

 早く漫画の続きが読みたい?

 馬鹿野郎! 漫画とここでの生活、どっちが素晴らしいか考えてみろ! 働かなくても、衣食住が保証されてんだぞ! ヒナタの名前使えば、いろんな所タダで使えるかも知れないんだぞ! 金の心配しなくていいんだよ! 分かってんのかそこんとこ⁉︎


「……ブルル!」


 それでも漫画が良いって?

 仕方ねーなー、ほれ俺が漫画描いてやるから我慢しろ。


 紙を取り出して、アホ面の馬の絵を描いて渡してやる。すると、次の瞬間には細切れにされてしまった。更に、風の刃が俺目掛けて飛んで来る。


 ほあたぁ‼︎


 手首のスナップだけで、風の刃を打ち消す。


 ほら、ごっこ遊びだって付き合ってやるからさ、我慢しろって。


「ヒヒーン‼︎‼︎」(絶対嫌‼︎ )


 フウマはまるで子供のように、床の上でドタドタと暴れ始める。


 やめろって、ガキかよ。

 分かったって、どっちにしろ地上には戻るつもりだし、その時考えようぜ。と言って落ち着かせる。

 まあ、いざとなればフウマだけ地上に残しても良いしな。そもそも、地上とここを行き来する手段を手に入れたらいい話だ。そこら辺はユグドラシルに聞いてみよう。


 あとは、ミューレが言っていたヒナタの親らしき存在。

 姉がどうのと言っていたが、アーカイブで見た名前は確か…………


 ……キューレとオリエルタ。


 そうだオリエルタだ。

 あいつがヒナタの父親なのか?

 髪の色が違うけど、というか金髪だったのに銀髪になってたから、ここにも髪を染める文化があるのかも知れないな。俺も今度、髪を染めに……って違う違う。現実逃避してる場合じゃない。

 あのオリエルタが、本当にヒナタの父親なのだろうか?

 他にオリエルタって居たりしないかな?

 顔立ちは、似ているようないないような……。

 身長はどうだろう? 体格は同じくらいか? そういや、オリエルタ見たとき親近感が湧いたな……。


 あいつが親なのか?


 でも、だったら、どうしてヒナタは森に置き去りにされてたんだ?

 聖龍に見出されたとか何とか言ってたけど、俺が見つけた時は衰弱していて、いつ死んでもおかしくなかった。それに、モンスターがわんさかいる森の中だ……。


 ……聞きに行くか。


 オリエルタの元に向かおうと立ち上がると、来客を告げるベルが鳴り響いた。

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