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奈落57(世界樹16)改

 体内にある魔力を侵食しつつ、ダラダラと過ごしていると、室内に一つの気配が現れた。


『ハルト殿、お時間です』


 それは黒髪の天使で、名はリュンヌという。

 というのはどうでも良くて、どうやらやっと宴の時間のようだ。


 どっこいしょと椅子から立ち上がると、体内で燻っている魔力を外に排出する。

 俺の物になれよと侵食していると、毎回体内に魔力が溜まって仕方ない。


『っ⁉︎ 流石は……』


 何やってんだ?


 外に出ようとするが、リュンヌが真っ黒な目を見開いて俺を見ていた。

 何してんだよと空中に浮かび、早く行こうぜと言うと、『私が送ります』と止められた。


 ……そうだった。ここに来るのも、リュンヌに送ってもらったんだった。


 なんか格好良さげに決まったような気がしたんだけど、気のせいだったようだ。


 さあ行こうと視界が黒に染まり、次に出たのはとても広い会場だった。


 立食パーティのようなイメージをしていたが、どうにも全然違うようだ。

 会場は広大な空中庭園。

 中央には、世界樹の苗木が植っており、ホログラムのように映像が映し出されていた。その映像とは、都ユグドラシルの姿。どうやら、苗木を世界樹に見立てているようだった。

 無数にある浮島に触れると、その役割が表示されるようになっており、文字が頭の中に流れ込んで来る感覚を覚える。


『ハルト殿に知ってもらう為に、このような催しを用意しております』


 そうですか、と気の無い返事しか出来なかった。


 だって、どうでもいいよとしか思わないのだから仕方ない。

 俺は、ヒナタと拳を交えたら地上に戻るつもりだ。

 最初こそ、ヒナタを地上に連れて行こうとか考えていたけど、ここの住人に受け入れられているのなら、ここに居場所があるのなら、ここで生きて行くのなら、俺はそれを受け入れる。


 もちろん、何か困ったことがあるのなら助けてやりたいが、あれだけ強いのならその心配も無いだろう。


 俺は近くの椅子に座り、空中に浮かぶ。

 これは俺が魔法を使っているのではなく、椅子にそういう機能が備わっているのだ。

 会場には多くの椅子が浮かんでおり、中にはゆっくりと移動して談笑している。

 また、巨大な種族と目線を合わせるように、高く上がっている者もいる。上から見下ろされることで、会話に威圧感を与えるのを緩和させているのだろう。

 この椅子は、皆が対等に話せるようにと用意された物なのかも知れない。


 スイーと椅子に座って進んでいると、「ブル?」と口に飯を放り込んでいるフウマを発見した。

 あの場に置いて来てしまったが、特に気にしてはいないようだ。


「ヒヒン!」


 と思ったら違ったようで、分かってたなら迎えに来いとお怒りの様子だった。


 すまんすまん、あの後どうしてたんだ?

 え、大変だったの?

 そっか、大変だったんだなー。それでさ……ごめんごめんって⁉︎

 口のもんぶちまけて来るんじゃねー‼︎


 俺が適当に頷いて話を逸らそうとすると、フウマが察してブルブルぶちまけて来やがった。

 怒っているのは分かるけどさぁ、そこまですることないじゃん! フウマなら、俺の居場所分かるだろうし、簡単にたどり着けるだろう。

 それをしなかったのは、単にフウマが意地を張っていたからだ。

 

 顔に付いたモノを布巾で拭い取り、今だに開いている口を強制的に閉じる。


 食い物を粗末にするんじゃねー!


『いや、そうはならんだろう』


 呆れた感想は背後から届いたもので、誰だ? と振り返るとオベロンとその他がいた。


 何だよ、お前も俺に食い物ぶっかけに来たのか?


『そんなことするかっ⁉︎ みんなハルトを警戒して話し掛けないからな、代表して俺が来たんだよ』


 率直に言ってくれるぜこいつは……。


 ここに来てから、注目されているのには気付いていた。でも、誰も話し掛けて来ない。連れて来てくれたリュンヌも、いつの間にか消えており、一人で彷徨っていた。


 でも、寂しいとかは思わなかった……。

 ごめん嘘。ちょっとだけ寂しくなって、フウマがいる方に向かいました。

 一人だけなら何とも思わないけど、大勢の中で一人ぼっちなのは結構辛い。孤独を感じるのは、いつも他者に阻害された時なのだ。


 んで、なんか用?


『こいつがハルトに謝りたいってさ』


 親指を立てて示されたのは、大きな体のハイオーク。

 こいつは確か、神殿で俺に襲い掛かって来た奴だ。確か名前はベントガとか言ってたよな。なんかモゴモゴと謝罪の言葉を発していた。

 しかし、その内容が頭に入って来ない。

 何故ならベントガの格好が、あまりに攻め過ぎていたからだ。

 この空中庭園には、多くの種族がおり様々な格好をしている。ただそれは種族ごとには統一されていて、それがその種族の正装なんだなと分かる。

 だけどベントガの服装は、というかハイオークの格好が、世紀末の漫画に出て来るヒャッハー‼︎ してそうな物にモヒカンっぽい飾りまで頭に乗っけていたのだ。


 こんなん気になり過ぎて話なんて頭に入って来ないって。ほら、フウマだってアホ面晒してポカンとしてんじゃん。


『____大変、申し訳なかった‼︎』


 …………あっはい。


 巨体の三下ハイオークがホッと安堵した表情をしている。

 一体何を安堵しているのだろう?

 その前に、テメーの格好をどうにかしろよ。いくら何でも、頭爆発させられそうな格好は縁起悪すぎるだろう。


 そんなことを思っていると、オベロンが俺の肩を叩いて『許してくれてありがとな』と明るい表情をしていた。


 いやいや、それよりも仲間の心配してやれよ。そんな俺の思いは他所に、ベントガの謝罪を切っ掛けに多くの者達が話し掛けて来た。


 自己紹介から始まって、俺の種族はオークなのか、ハイオークなのか? とか、ヒナタを育てたのは本当なのかとか、どんな訓練を積んだらその力を手に入れるのかとか、聖龍の行方とか、どんなモンスターを倒したのかとか、ヒナタの名前の由来とか、やっぱりオークなのか? とか聞かれた。


 うん、引き攣った笑みを必死に浮かべて当たり障りなく答えていたけど、とりあえずオーク呼ばわりした奴は殺してもいいかな?


 拳を握ってギチギチ言わせていると、大きな魔力の持ち主が近付いて来る。


 そちらに視線を向けると、美しい金髪の天使が歩いている姿があった。

 彼女は、この前フウマと一戦交えた天使だ。

 あの時は武装していたが、今は体のラインが分かる白いドレスを纏っていた。それは、まるで地球産のウェディングドレスのようにも見えて、他の天使とは明らかに違っていた。


 俺の周りにいた奴らは、純白のドレスの天使に道を譲り、まるで花道を作り上げているかのようだった。

 彼女は俺の前に立つと、ゆっくりと頭を下げる。その様子を見ていた者達から、緊張して息を呑む音が聞こえ、この光景が普通でないのだと知らせて来る。


『先日は迷惑を掛けてしまい、申し訳ない。そして、助けていただき感謝申し上げる』


 え? あ、はい。


 適当に返事したけど、何のことだろう? というか、こいつの名前ってなんだろう?


 俺の疑問を察したのか、その天使は頭を上げて教えてくれた。


『私はミューレ。そちらのフウマ殿に挑み、呆気なく敗北したところを、間一髪貴方に救われた者だ』


 ああ、あの時のことね。覚えてる覚えてる。別に気にしなくて良いよ、フウマがやり過ぎてただけだから。


 あれは中々に強烈な一撃だった。

 直撃してたら、ミューレもただでは済まなかっただろう。というか、即死してもおかしくはなかった。完全にやり過ぎだ。


 ムカついてたら、何発か殴っといてもいいよ。


「メッ⁉︎」


 お前なに言ってんの⁉︎ と悲しみの声を上げるフウマ。それに『遠慮しておく』とミューレは苦笑を浮かべていた。


 とはいえ、いろいろと気になることはある。

 どうしてフウマと戦っていたのだろうとか、あそこまでする必要はあったのかとか聞いた。


『それは……私は試してみたかったのだ』


 試す?


『……私には、敬愛する偉大な姉がいた。姉は、少し変わった所はあったが、誰よりも強く、最もユグドラシル様の為に働いていた。そんな姉に、私は憧れていたのだ。憧れて、私もいつかああなりたいと思い、己を鍛え上げた。その甲斐あって力を付けたのだが……姉はいなくなってしまった』


 へー……。と長くなりそうな話に、適当な相槌を打っておく。


『姉だけでなく、生まれたばかりの大切な子もいなくなってしまった……。絶望した……。でも、絶望しても、諦められなかった。姉という目標を失ってしまっても、私は今も偉大な姉の背中を追い続けている』


 ふーんと口の中に飯を放り込んで、ぐちゃぐちゃと咀嚼してみる。


 うんま⁉︎ 何これ⁉︎ 見たことない料理だけど、めっちゃ美味いんですけど⁉︎

 手が止まらねー‼︎


『そんな中、ヒナタが生きていると聞いて希望を抱いた。立派になった姿を見て、姉の姿を重ねてしまった。戦う姿を見て、感動して打ち震えた。姉の子は、姉同様特別な存在だった。ハルト殿、ヒナタを育てていただき感謝いたします。貴方がいなければ、ヒナタは幸せにはなれなかったかも知れない』


 うんま⁉︎ ん? えっ?

 ああ、いいよいいよお礼なんて。それよりもこっちの何かの肉はもっと無い……の?

 あっ、いやごめん。今なんて言っ……。


 何か大切な言葉を聞き流したような気がする。それをもう一度聞こうとするが、丁度ユグドラシルが現れてしまい、言葉に詰まってしまう。

 ミューレもユグドラシルの姿を見て、『では後ほど……』と去ってしまった。


 ミューレの自分語りが長いせいで、大事な話を聞き流してしまった気がする。

 それに、聞きたいことがあるのだ。たとえば、姉の子が誰なのかとか、どうしてウェディングドレスみたいな格好なのかとか気になってしまう。


 まあ、そのうち時間が出来た時に聞いてみよう。ミューレが捕まらなかったら、ユグドラシルに聞けば良いし、そんなに焦ることもないだろう。




 そんなこと考えずに、今直ぐ聞いておけば、この後の無用なトラブルも回避出来たかも知れない。

 まあ、それも、全部終わってから考えるとしよう。

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― 新着の感想 ―
ハルトっておだてりゃ木に登るし放置されるとしゅんとするしまだまだ人間らしさが凄いのよな
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