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奈落52(世界樹11)改

 なかなか衝撃的な内容だった。

 アーカイブで得たダンジョンの情報は、はっきり言って絶望的である。


 まさかダンジョンが世界を侵食しているとは思わなかった。その期間も三百年〜六百年と時間を掛けて行われるが、逆を言えばそれだけしか時間が残されていない。


 世界滅亡確定である。


 これまでにも多くの世界を取り込んでいるようで、この世界は拡大を続けている。

 取り込まれた世界も、様々な対策を取っていたようだが、結果はご覧の通りである。


 地球オワタ!


 この都ユグドラシルは、滅亡した世界の住人を招き入れているのだが、それも全てではない。見所のある者、協力者とその関係者、戦力となりそうな者を誘い招待しているのだそうな。

 俺達の世界も、いずれそうなるのだろう。

 ダンジョンに取り込まれ、奈落の世界に組み込まれる。

 力が無い者は死に、新たな世界に順応した者が生き残る。


 つまり、人類滅亡である。


 はっきり言って、今の人類ではまず生き残れない。

 都ユグドラシルの住人は、恐らくだが結構強いと思う。

 住人の一人ひとりが少なくとも、プロ探索者並みの力を持っており、最初に出会った天使なんて武器屋の店主に匹敵すると思う。フウマと戦った女性の天使なんて、森で戦ったモンスターと遜色ないくらいに強い。

 

 未だに鉛玉を撃ったり、消耗したら終わりの兵器を使っている段階では、大量のモンスターには抗えない。

 地上に戻れば、状況は変わっているかも知れないが、少なくとも俺の知る限りでは生き残るのは不可能だ。


 生き残るには世界樹に助けを求めるしかないが、選ばれる者はほんの一握りである。

 競争率が高過ぎて、心の弱い者は自害するのではないだろうか。

 正にお先真っ暗である。


 まったく、大変な事になった。

 是非とも人類には頑張って欲しいところである。


 まあ、俺には関係ないからどうでもいいけどね。


 だってそうだろ?

 まだダンジョンが現れて八十年かそこらだ。

 世界が侵食されるまで、少なくとも二百年以上は掛かる。それまで生きられるほど、俺は人間を辞めていない。間違いなく寿命で死んでいる。

 だから関係ない。

 頑張れ、未来の人類。


 てーへんだてーへんだと呟きながら、ヒナタ達を探す為にアーカイブを後にする。


 するとそこには、大勢の武装した奴らが集まっていた。


 なんだこいつら?

 そう警戒していると、青い髪の天使が前に出て来た。


 …………。


 こいつから、何か懐かしい物を感じる。

 この顔に見覚えがあるような、無いような、また別の何かのような、よく分からないけど親近感が湧く、そんな感覚だ。


『お待ちしておりました。ユグドラシル様がお待ちです』


 え、なに、お待ちって?

 いや、待ってもらっても困るんだけど。


 いきなり何を言い出すんだろう?

 ヒナタとト太郎がいないと分かった以上、ここにはもう用は無い。さっさと森を出て、奈落を探し回らないといけないのだ。


『……ユグドラシル様から、ヒナタについてお話があると仰せつかっております』


 ヒナタ⁉︎ おい、今ヒナタって言ったか⁉︎

 やっぱりここにいるのか⁉︎


 希望の言葉を聞いて、俺は青い髪の天使に駆け寄る。すると、見上げるほど背が高くて、顔立ちがあの銀髪の男に似ているのに気が付いた。


 ……なんだろう、こいつに見下ろされると、なんかムカつくな。

 こいつ、あの野郎の関係者かな?

 ここで仕返ししてもいいかな?


 なんて物騒なことを考えていたら、青い髪の天使は首を振って否定した。


『今はここにはいません。それも含めて、ユグドラシル様が説明して下さります』


 ……分かった、付いて行くよ。

 

 ユグドラシル。都ユグドラシルの守護神。

 そんな奴が、どうしてヒナタを知っている?

 いや、ヒナタがここの出身なのは間違いない。それなら、知っていてもおかしくはない。


 ただ、それならどうして赤子のヒナタが森にいた?

 あんな無防備な状態で、死にそうなほど衰弱していた?


 嫌な想像が膨らんでしまう。


 別に、敵対したいわけじゃない。ここは良い所だし、多くの種族を救ってくれた神様だ。そして、遠い未来に人間だって救ってくれる存在だ。


 だから、そんなことは無いと信じたい……。


『いかがなさいました?』


 ……何でもねーよ。


 青髪の天使は、俺のぶっきらぼうな返答に困惑しているようだった。というか、こいつの名前聞いてなかったな。先に名乗れってんだ。


 なあ、あんた名前は?


『……私はオリエルタ、準一級守護者のオリエルタと申します』


 なんだろう、やけに名乗りたくなさそうだった。

 そんなに名前が知られるのが嫌か?

 なんか、真名的な物を知られると、操られてしまうみたいな?

 それとも、単純に俺に知られたく……ん? オリエルタ? どっかで聞いた名前だな?


 どこだっけなぁ〜と考えていると、『ユグドラシル様がお待ちですので、移動をしてもよろしいですか?』と尋ねて来る。


 ああすまん、行く。

 あっ、そうだった。俺の名前は……、名前は……、ちょい待ち。


 名乗ってもらったのだから、こっちも自己紹介しようかと思ったのだけれど、しばらく名乗っていなかったせいで、自分の名前が出て来なかった。


 どんだけ名前言っていないんだよ。免許証見ないと思い出せんかったわ⁉︎


 俺は田中ハルトだ、気軽に権兵衛って呼んでくれ。


『ごんべえ……ですか?』


 権兵衛だ、そっちの方に慣れてしまってるからな。まあ、任せるけど。


 フウマに跨ると、風を纏って空中に浮かぶ。

 それに反応するように天使は翼を広げ、他の者達は空を飛ぶだろうアイテムを手にしていた。

 誘導されて上昇すると、そのまま空を駆けて行く。


 先頭をオリエルタ、その後方に俺がいて、周囲を他の奴らが囲っている。

 まるで、俺を逃さないかのように包囲しているようだが、別に気にしない。だって敵意とか、警戒心とか一切感じないから。寧ろ、オリエルタから受ける何らかの感情の方が強いくらいだ。


 都オリエルタを眺めながら進んでいると、一体の妖精が近付いて来た。


『やあやあハルト殿。俺はオベロン、気軽にオベロン様って呼んでくれ。そっちのはこの前ぶり! あの時は、勘違いして悪かったな』


 オベロンと名乗った妖精は、生意気にも様を付けろと言って来た。俺の肩をバシバシと叩きながら言うので、恐らく冗談なのだろう。

 それに、フウマと何かあったのか申し訳なさそうに謝っていた。


 フウマも気にしていないのか「ブル」と反応していた。

 怒っていたら問答無用でぶっ飛ばしているだろうから、まあ許しているのだろう。


 そんなオベロンは、俺の肩に触れたまま疑問を投げ掛ける。


『……ハルト殿は、ヒナタの育ての親で間違いないんだよな?』


 どのヒナタかは知らないが、一人育てたな。


『そうか……、ハルト殿の話は、ヒナタから聞いたことがある』


 ヒナタ知ってんの? あいつ何て言ってた?


『“俺よりも強いくてかっこいい”ってさ。かっこ良さは、俺には分からないけど、……ただ……」


 オベロンの体は震え出し、言葉に詰まりながら続きを発した。


『強いっていうのは……ヒナタが、言うのなら、そうなんだろうな……』


 おい、どうした大丈夫か?


 心配になって声を掛けると、手を掲げて大丈夫だと主張する。だが、俯いた状態で、今にも落下しそうだった。


『妖精族はな……、他者の、強さに、敏感なんだ……。大抵、見た、だけで、分かるんだが……、あんたや、ヒナタ、みたいに……読み取れない、奴、が、いる。……そういう、奴には、触れて確認……するんだ』


 息も絶え絶えといった様子で、必死に思念を伝えようとして来る。心配した他の奴らがオベロンを支えるが、それを振り払って俺を見た。


『ハルト殿、俺は、あんたが怖い……。どうして、そんな姿で、いられるんだ?』


 子供のような妖精は、真っ直ぐに、怯えた眼を俺に向けていた。

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