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奈落48(世界樹⑦)改

 ミューレ・エル・トネリコは、世界樹ユグドラシルを守る守護者の中でも最強の一角を担っている。


 ユグドラシルに対する献身的な態度や、その立場から守護者の序列一位、守護者筆頭としてその席を与えられていた。


 そんなミューレだが、新人の守護者を連れて森の外周で訓練を行っていた。

 森の外に生息するモンスターは、森の中と比べて圧倒的に強く、油断をすれば守護者であっても殺されてしまうほどだ。


 それほど強いモンスターだが、倒せなければ守護者として認められない。

 これが、最低限必要な実力だった。


 今回の外部遠征訓練を行い分かったのは、目ぼしい守護者はいないというものだった。


 総勢百名での訓練だったのだが、一対一ならば勝利出来ても、複数を相手に勝利する者はいなかったのだ。

 これは珍しいことではない。

 大抵の訓練でも今回同様、期待外れの結果に終わっていた。


『これでは、あの子に平穏な生活を与えてやれない』


 無用な考えを巡らせてしまい、不甲斐ない守護者達を睨んでしまう。


 威圧感が増したミューレを見た守護者達に緊張が走る。

 大抵の守護者からすれば、筆頭であるミューレは桁違いの力を持った存在だ。それは、同じ種族である天使からしても同様で、怯えはしなくても最大限に警戒してしまう。


 その様子を見たミューレは、これではいけないと他の守護者に先に戻ると告げて、転移魔法を使い都ユグドラシルに飛ぶ。

 あそこに残っていても、仲間を威圧するだけで、いるだけで邪魔になると判断したのだ。


 守護者に与えられた浮島に到着すると、今回の訓練報告を行うべくユグドラシルの下に向かおうとする。


『この魔力……』


 しかし、下の方から懐かしくて親しみのある。そして、心に訴えかけてくるような魔力を感じ取ってしまう。


 場所は、獣人が多く暮らしている辺りだろうか。

 耳元の機器を使い、そこで何が起こっているのか確認すると、二十名もの守護者が集まっていると出た。


『行ってみるか』


 興味を引かれたミューレは、その体を雷に変えて落下する。


 場所は獣人区の訓練場。

 中央に降り立ち周囲を見渡すと、多くの守護者が集まっていた。その中に、憎い奴の顔を見るが、今は無視しておく。


『貴様ら、何をやっている?』


 ここにいる守護者の中で、最も序列が高いのはオベロンだ。


『ミューレ、戻っていたのか』


 安堵したような声に、何かが起こっていたのは確かなようだ。


『オベロン、ここで何があった?』


『気を付けろよ。その小さい奴が、何らかの力を使って天使達の戦意を削いでいる!』


『戦意を削ぐ?』


 この場にいる天使に視線を巡らせ、そして四足歩行の小さな生物を見る。


 オベロンの言う通り、小さな生物を見ても戦意が湧かない。むしろ親近感すら覚えてしまう。

 武器を向けようと考えるが、どうにも武器まで手が動かない。強く意識すれば動くのだが、行動に移そうという気にはならない。


『ミューレ? まさかお前もか?』


『そうだな、どうにも敵意が湧かないな。だが……』


 これには心当たりがあった。

 都ユグドラシルの英雄から、いろいろと話を聞いていたのもあるだろう。


 この生物の可能性に、思い当たる者がいた。


『……ようやくか』


 永かった。

 英雄から話を聞いて、いずれ来るだろうことは分かっていた。


『これで、あの子も解放される』


 ミューレは武器を展開して、一本の槍を握り刃先を生物に向ける。


『おいおい、どうして楽しそうにしてんだよ⁉︎』


 笑みを浮かべたミューレに、オベロンがドン引きする。


 殺し合うという意思はない。

 ただ、確かめたいだけ。

 この生物が、いや、このお方が追い求めていた存在なのかを。


『私はミューレ・エル・トネリコ。守護者筆頭にして英雄の縁者。あなたを確かめさせていただく!』


 事態を見守っていた天使達が止めようと動くが、ミューレに追い付ける者はいない。


『やめろミューレ⁉︎』


 その声を無視して、その身を雷に変えて小さな生物目掛けて突き進んだ。



____



「プルルッ⁉︎」


 迫る雷を見て、こりゃあかんと上空に逃れるフウマ。

 これまでの甘っちょろくて弱っちい奴らと違い、あの森で現れたモンスター並みの強さを持った奴が現れたのだ。


 急いで上空に回避したのだが、雷は即座に曲がり追って来る。

 かなり強力な雷で、直撃すれば風の防御を突破して来るだろう。

 今は高速でジグザグに動いているから避けられているが、このままだと喰らうのも時間の問題だった。


 そうなればここで戦闘が開始される。

 ここら一帯を更地に変える規模の戦いが繰り広げられてしまう。


「ヒヒーン!」


 まったく面倒だな! なんて愚痴りながら、都市を抜け、結界を突破して森まで移動した。


 フウマが立ち止まり、地上に降りたのを見て、追って来ていたミューレも雷を解いて地上に降りる。

 その顔は相変わらず笑みを浮かべており、とても満足しているように見えた。


『奇襲して申し訳ない。あなたがどう考えて行動するのか見てみたかったのだ』


「ブル?」


『あなた方の話は、マヒトより伺っている。話と姿形は違っているが、それも誤差の範囲だろう。しかし、あなたが本物なのか判断する為に、手合わせを願いたい』


「ブルル」(嫌やで)


 そう告げるが、残念ながら馬の言葉は通じない。


 金髪の髪を靡かせた美しい天使が、槍を手放して二本の剣を手にする。二本の剣は双剣と呼ぶには大きく、とても小回りが効くような物ではない。純粋に、対モンスター用の武器を使っているのだろう。

 

 判断すると言っていたが、ミューレの様子を見るにそれで終わる気がしない。結界の外に出て森の中にいるのも、戦いの余波を考えてからの行動だろうと想像はつく。それは詰まるところ、手合わせ程度の規模で終わらせるつもりがないのだろう。


 ミューレから魔力が湧き上がる。

 それは暴力的であり、やはり森に現れたモンスターと遜色ない規模の力を持っていた。


「クッ!」


 ミューレの剣が高速で振られる。

 魔力を帯びた剣からは、不可視の剣閃が連続して放たれフウマを襲う。

 これは空気のベッドでは防げないなと判断したフウマは、風に乗って剣閃を躱わしていく。


 ひょいひょいと風に乗り簡単に躱わしていくフウマに、流石はと呟き、それでも甘いと攻撃の手を緩めない。


 連続して放たれた剣閃は上空へと上がり、フウマ目掛けて落下する。

 正面と上空からの隙間の無い剣閃に、こりゃあかんと魔法を使う。


 フウマが使える魔法は、風属性魔法と治癒魔法の二種類のみだ。だが、その内の風属性魔法に関して言えば、主人の田中よりも上手く扱える。

 元々、田中の魔法のレベルは相当なものであり、それを上回るフウマの魔法は常軌を逸していた。


 辺りの空間をフウマの魔法が支配する。


「ヒヒーン!!」


 そして空間を高速で振動させると、高熱と爆発が巻き起こり、辺り一帯に爆風が駆け抜け、周囲の木々を倒壊させ、降り注いでいた剣閃を消し飛ばした。


 正直、ここまでするつもりはなかった。

 魔力に干渉して無効化するのも可能だったが、それをするには数が多過ぎるのと、無駄に消耗しそうだったので辞めたのだ。

 だから、一度吹き飛ばして、早々に決着を付けようと思ったのだが……。


「キュラ!!」


 爆風の中を突き進むミューレを見て諦めた。


 美しいのに凶悪な顔付きをしているミューレを見て、その顔をどこかで見たなと思いながら、回避に徹する。


 身体能力を強化させ、風を使い三次元の動きでミューレの剣を避けていく。

 その鋭い剣は、確実にフウマの命を刈り取りに来ており、これで手合わせのつもりなのかと疑ってしまう。


 二本の剣は双剣というには大き過ぎるが、ミューレの扱う剣技はそれを最大限に活かしたものだった。いや、空中を使える事が前提の剣技なので、人が扱うには難しい技ではあるが。


『まだまだ!!』


 地から天から見舞われる嵐のような剣は、フウマを確実に追い詰めていく。

 空気のベッドを使い、ミューレの動きを阻害しようとするが、不可視の魔法は簡単に切り裂かれ、不発に終わってしまう。


 おいおいマジかよと、こちらから攻撃は仕掛けないでおこうと甘い考えを持っていたが、早々にそれを撤回する。

 何故なら、そうしないと死ぬから。

 目の前の修羅に殺されるから。


「ブルッ!」


 剣に合わせて、無数の風の刃を放つ。

 ガガガッ! と音が鳴り、剣の動きを阻害する。

 幾ら空間の層を切り裂けても、威力のある魔法を受けると、その動きも遅くなる。


「キュ⁉︎」


 しまったといった表情のミューレの括れた腹に向け、空気を圧縮した球体を叩き込み、その体をくの字に曲げて後退させる。

 フウマの必殺の魔法を受けたミューレは、魔法を受けても立っており、悔しそうに歯軋りしていた。

 どうやら、大したダメージにならなかったようだ。


 せっかく漫画を読んで、真似て使った技なのに、威力はイマイチだったようだ。螺◯丸、空◯拳、せっかく参考にさせてもらったのに、無念である。


 ギチチっと、強く噛み締める音が聞こえてくる。

 余程、攻撃を喰らったのが悔しいのだろう。

 そう思ったのだが、違ったようだ。


『ふざけるな! この程度の攻撃で私が倒れるか‼︎ 本気で来い! でなければ、貴方の命を奪うまでだ!!』


「メ〜」


 いつの間にか殺し合いになっていて、フウマは泣いてしまった。


 ミューレの魔力が一段と高まる。

 薄らと輝くミューレの体は、田中のリミットブレイクに似ており、その能力が底上げされたのだと察する事が出来た。


 どうやら、本当に先程までは手合わせだったのだろう。これから起こるのは、油断すれば死ぬ戦いである。


 だから、フウマも力を使う。


「ヒヒーン!!」


 能力を上昇させることが出来るのは、何も田中やミューレだけではない。

 フウマもリミットブレイクを使えるのだ。


 黄金を纏ったフウマを見て、ミューレは微笑む。

 そうでなくては面白くないと、いくら【根源を打ち砕く力】を持っていたとしても、地力が無ければアレらには勝てないのだから。


 白銀の光が線となり消えていく。

 音は無く、空気の動きもない。

 転移を使った様子もなく、魔力の残滓も読み取れない。


 それでも、フウマの目はミューレを捉えていた。


 横から迫るミューレの剣は、先程よりも圧倒的に速く、今のフウマでも避けるのは困難だ。

 だから大気を震わせ、超震動で対抗する。


 ドッと音が鳴り弾け飛び、効果範囲にある全てを粉微塵にする。

 更に風を操り、細く強力な竜巻を幾つも作り出し、反対側に回り込んでいたミューレに向かって放った。


 恐ろしく速いミューレ。

 その上、手の内をまるで見せて来ない。

 これまで使ったのは、剣技と転移、それと剣閃だけである。まったく、どちらが舐めているのか、分かったものではない。


 しかしそれも、この竜巻には使う他ないだろう。


 巨大で強力な竜巻を生み出し、全てを飲み込んで行く。


 ミューレはその竜巻から逃れようと、まだ無事な森まで下がり、木々の間を縫いながら避けようとする。

 しかし、それ以上にフウマの魔法は速く、引き離せなかった。

 だからミューレは魔法を使う。


「キッ!!」


 それは植物を操る魔法。

 大地より蔦が生え、竜巻を相殺せんと伸びてくる。

 だが、その程度で勢いを止めるのは不可能だ。細く強靭な竜巻は、蔦を粉砕し巻き込み、勢いを更に増していく。


 竜巻は容赦なくミューレに迫るが、避けようとする気配がない。

 ミューレの移動速度ならば、余裕で避けれるはずなのに、そうしようとしない。

 何か狙いがあるのかとも思いながらも、瀕死くらいまでなら許してくれるだろうと、容赦なく竜巻を襲わせる。


「キュ!」


 掛け声と共に、またしてもミューレから魔力が湧き上がり、その魔力は竜巻へと向かう。いや、正確には竜巻に混ざった蔦へと向けてだ。


 それはフウマにとって初めての経験だった。

 これまで、他の魔法に干渉して無効化させたり、魔力を伸ばして発動させなかったり、モンスターの魔力を利用して攻撃したりして来たが、まさか自分がやられるとは思ってもみなかった。


 フウマの竜巻の魔法は乗っ取られ、その制御を失った。

 魔力だけで奪われた訳ではない、それならば幾らでも抵抗出来た。だが、巻き込んだ植物を触媒に使われて、碌な抵抗も出来ずに奪われたのだ。


「ブルル!?」


『驚いたか? 魔法の腕前では負けていても、こうして無効化する手もあるのだ』


 ミューレはしてやったりと笑っているが、まだこんなものではないのだろうと、気迫を込めて剣を構え直す。


 そんなミューレを見て、これはちょっと暑苦しいと上空へと逃げるフウマ。

 植物を操るのが得意ならば、植物の無い空に連れて来れば問題解決である。しかし、何もミューレが得意なのはそれだけではない。


 目の前を魔力が走り、それが転移によるものだと気付く。

 フウマが上空に到着すると同時に、ミューレもその場に姿を現す。そして、下から斬り上げる一閃はフウマの体を薄く切り裂いた。

 咄嗟に風を当てて回避したから良いものを、あの場に止まっていれば真っ二つになっていた。


『空中戦がお望みか? ならば、こちらも合わせてやろう』


 フウマは傷を癒しながら嫌な予感がした。

 自信満々のミューレの態度もそうだが、この展開は、彼方の得意分野が空中戦の場合が多いのだ。

 そう学んだのだ。田中の意見を無視して、大量に購入した数々の漫画の中で稀に繰り返される展開である。


 ミューレの持つ二本の剣のうち、左手に持つ剣が変化する。

 剣の形を失い三十センチ程度の棒に戻ると、今度は左腕に巻き付き、既にある鉄甲と繋がり無骨なグローブのように形を変えた。


『私は、木属性以外の魔法が余り得意ではない。だから、それを補う為の道具を使う。卑怯とは言うまい?』


「ブルルッ」


『ふふっ、貴方ならそう言うと思ったよ』


 いや卑怯だろ、こっちは丸腰なんだぞと非難の声を上げる。だけど、この思いは絶対にミューレには届いていない。


 翼を羽ばたかせたミューレが、左手をフウマに向ける。

 魔力を流すと、五つの魔法陣が展開される。そして、純粋なミューレの実力であろう、白炎がその手に宿った。


 これで得意ではないのかと、悪態を吐きたくなるような魔法を、更に魔法陣で強化して使おうとしている。

 その上、ミューレが展開している魔法陣は見たことが無い物で、田中が使っている魔法陣よりも洗練されていた。


 地上よりも発展した都ユグドラシルの技術で作られたのならば、間違いなく田中が使っている魔法陣よりも威力は上だろう。


 いつでも逃げられる準備をするフウマ。

 足に風を溜め、いつでも動けるようにする。

 更に足元に速度上昇の魔法陣を展開して、移動速度を引き上げる。


 ジジジッとこちらまで熱気が届きそうな白炎の球体は、恐ろしい速度で放たれた。更に魔法陣で強化されると、数を増やしてフウマに向かって来る。


 まあそうでしょうねと、予想していた展開に高速で飛ぶ。

 数が増えるのも、追尾して来るのも、球体が形を変え鏃のようになるのも想定内。だが、それぞれが向きを変えて、包囲するように動くのは想定外だった。


 空を縦横無尽に飛び回り、追尾して来る魔法から逃げ、横から迫る白炎を必死に避ける。

 接近すれば爆発でもするのかと思っていたが、そのような機能は無いようで一安心だ。

 そして、もう一つ安心した点は、主人である田中ほど魔法の威力は高くないということだ。


 これなら何とかなる。


 フウマは白炎と相応の魔力を練り上げ、勢いよく空を蹴った。

 すると、空に波紋が広がり、それに触れた白炎の魔法が無効化されていく。


『……おお!』


 まさか魔法が無効化されるとは思っていなかったミューレは、興奮して更に魔力を練り上げる。そして、次の魔法を放つと同時に、自らも白銀の線となりフウマに向かっていった。


 戦闘は続く。

 疲れて帰りたくなったけど、戦いは続いている。


 まだ続くのかと、もういい加減にしてくれないかなと、フウマは泣きそうになっていた。


「メ〜」


 てか、実際に泣いていた。


 何度も強力な魔法が放たれ、転移とミューレ自身が白銀へと変わる移動術で接近戦を仕掛けられる。

 何度も傷付き、何度も癒して、何度も反撃するが戦いが終わる気配がない。


 もう、わざと負けようかなぁと考えるが、その瞬間にも粉微塵にされそうな攻撃の嵐が続いており、まともに攻撃を受ける訳にもいかなかった。


 いい加減助けてくれないだろうかと、遠くから観戦している田中に視線を送るが、退屈そうに欠伸をしていて、欠片も助ける気は無さそうだった。

 無理矢理にでも巻き込んでやろうかと移動しようとしても、それを察して逃げられてしまうので、途中で諦めるしかなかった。


 というより、こういうのはお前の役目だろうがいと、怒りが沸々と湧いて来た。


 手合わせと言いながら殺し合いになっているのもそうだし、そもそも戦う理由が分からない。

 理不尽にふっかけられた喧嘩に、どうして付き合わなきゃならんのだ。

 そういう怒りが蓄積されて行き、フウマは変身する。


 先に言っておくが、フウマはサ◯ヤ人ではない。

 ただ、怒りで覚醒したというだけの話である。


「ヒヒーン!!」


 辺り一帯を強烈な竜巻で吹き飛ばし、それに応じてミューレも一時的に下がってしまう。


 この行動は、ミューレにとって失敗だった。


 これまで以上に黄金の輝き出したフウマは、体に更なる変化を齎す。

 体が光るとフウマの肉体は一気に大きくなった。

 正確に言うと、元に戻ると言うかも知れないが、森で暮らしていた頃のサラブレッドタイプに変化していた。


 そして、その能力はこれまでにないほど上昇していた。

 これは田中が使っているリミットブレイク・バーストであり、怒りで覚醒したすーぱーな馬戦士でもある。



____



『……美しい』


 黄金に輝く怒り散らした馬を見て、ミューレはそう感嘆の声を上げる。


 ミューレにも、まだ勝機はあった。

 怒り狂った馬を引き連れて、得意とする地上戦に持ち込めば、まだ対処の仕様はあった。

 だが、圧倒的な存在感に加え、聖龍の魔力を取り込んだフウマの魔力に当てられてしまい、数瞬反応が遅れてしまった。


 突如、黄金の光が消失する。

 これまでの速さならば、まだ対処出来たのだが、覚醒したフウマの速さは一線を画した。


 見失ったと気付いた時には、既に目の前に現れていた。

 黄金の光に照らされて、迫る巨大な蹄に六角の紋章が刻まれているのが見えた。


 咄嗟に剣で受け止めれたのは、これまで培って来た経験からだろう。

 危険なものに対して最良の行動をしたのだ。


 おかげで一命は取り留めた。


 砕ける剣に、胸部のプロテクターが破壊され、ミューレの上半身を砕いて叩き落とす。


 声を出す余裕もなく、地面に叩き付けられたミューレは瀕死の状態に陥る。

 意識はあり治癒魔法で治療を開始しているが、怒りに染まった馬を止める術がない。


 黄金が迫る。

 それは美しくも断頭台のギロチンとなり、容赦なくミューレの命を刈り取りに来ていた。


 結局は、姉を超えることが出来なかったなと思いながら、ミューレは目を閉じる。


 その閉じた瞼の裏で、走馬灯なのか親しい者達の顔が過る。

 情け無くも頼り甲斐のあるマヒト、幼少期に離れてしまった娘。英雄となり、その命を燃やし尽くそうとしている甥。


 そして何よりも、敬愛すべきユグドラシル。


 彼らの顔が思い浮かぶと、こんな所で死ねるかと心が奮い立つ。

 ミューレから仕掛けた事など棚上げにして、その魂に燃え盛るような炎を宿しカッと目を開く。


 そして、目を開いて見たものは、白い服を着たオークの尻だった。


「やり過ぎだ、バカ馬」


 そのオークは、黄金に輝く両足を手で受け止めていた。




ーーー


ミューレ・エル・トネリコ(天使)


守護者筆頭。守護者の頂点ではあるが、実力では三番手。双子の姉が英雄候補だった。オリエルタとは義理の兄妹で、ヒナタの叔母に当たる。地上に娘がおり、真の英雄を導くため、いろいろと画策していた。etc


ーーー

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眼を開いてオークの尻が見えたら嫌だなww
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