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奈落46(世界樹⑤)改

 フウマは困惑していた。

 獣人の子供達の訓練風景をママリリに監視されながらも眺めていたら、急にヒナタに似た天使が降りて来て、ママリリに襲い掛かったのだ。


 正直、事情が分からなかったので、助ける気はなかったのだけれど、子供を大切に思う奴に悪い奴はいないだろうと、咄嗟に助けてしまった。


 そして、彼らの会話を聞いていると、どうやら標的は自分のようだと気付く。だが、何故か天使達はフウマを警戒していない。寧ろ、親しみさえ抱いているようで、どう判断していいのか分からない様子だった。


 困惑して困惑して、よく分からない状況に興味を失った。

 分からない事を考えるのは疲れるので、考えるのをやめたのだ。


 こうしてだらけていると、白猫の獣人シャリーが迎えに来る。

 早く行くよとリードを引っ張るので、悲しみの声を上げて抵抗せずに従ってしまう。

 断り切れないのは、散々ヒナタのお願いを聞き続けて来たからなのかも知れない。良くも悪くも、フウマに影響を与えて、成長させてくれたのは間違いなくヒナタだろう。


 トコトコと着いて行くと、シャリーが小さな妖精に呼び止められる。

 会話を聞く限り、やはり自分が原因かと理解するフウマだが、なぜ警戒されているのか、どうしても分からなかった。つーか、もうどうでもよかった。


 そろそろ、主人の田中が動き出しそうなので、合流を目指す必要が出て来たのもある。

 シャリーには悪いが、ここら辺でさよならしなくてはならない。


 呼び掛けてお別れを言おうとすると、突然、上空から大きなモンスターが現れた。


 そのモンスターはオークに似ているが、筋骨隆々であり、その大きさは三階建ての建物くらいある。

 ト太郎ほど大きくはないが、その肉体を強化している魔力は、見事と言って良いほどの精度を誇っていた。


 しかし、見所はそれだけなので、特に気にする必要もなかった。

 ただ、それと同一の格好をした者達が、共に降りて来たので、少し驚いただけである。だから、特に気にする必要もないと、シャリーに向かってお別れの挨拶をする。


「ヒヒーン」


『……守護者がたくさん集まってる』


 だが残念な事に、シャリーは訓練場に集まった守護者達に夢中のようで、フウマの話を聞いていなかった。

 これどうしようかと悩んでいると、何かが高速で迫って来ていた。


 それは地を這うように低く、獣のような動きで疾走する。

 その者は、フウマに敵意を燃やしており、その手に持つ二本の手斧が魔力で強化されていた。


「ガッ!?」


 しかしそれも、フウマの魔法に阻まれてしまう。

 風属性魔法で空気の層を何重にも積み重ねた上、弾力性を持たせた物で、その迫っていた獣の動きを止める。

 因みに、この魔法は就寝する際にベッドとして使っており、その身を優しく包んでくれる最高の魔法だ。


『何だこれ⁉︎』


 高速で迫って来たのは、獣人の守護者である。

 シャリーやクロエと違い、より獣の面が強く出た獣人のようで、狼に似た顔をしていた。

 その狼の獣人は空気のベッドに突進して、前に進めなくて焦っている。背後に跳ぼうとしているが、獣人の後ろにも空気のベッドを敷いて上げて、抜け出せないように挟んであげた。


『ガンド様⁉︎』


 突然現れた狼の獣人を見て、シャリー目を輝かせる。

 世界樹を守る守護者は、都ユグドラシルの住人にとって憧れの存在であり、獣人ながらに守護者まで上り詰めたガンドは、獣人にとって英雄と呼んで差し支えなかった。


 そのガンドを目の前にして、シャリーは興奮していた。


『凄い!本物のガンド様だ!』


『おい、早くそいつから離れろ!』


『え?』


『分からないのか⁉︎ そいつは危険だ!』


 憧れの存在に指摘されて、シャリーはフウマを見る。

 道中で拾ったのだが、シャリーの感性では可愛らしい見た目をしており、とてもではないが危険なようには見えなかった。


 シャリーが首を傾げると、フウマも首を傾げる。

 両者共に、どうして危険認定されるのかが分からないのだ。


『シャリー、今はその子から離れて。守護者の言う通りにしましょう』


『ママリリ先生……』


 教師であるママリリの言葉に、シャリーはようやく気付く。

 訓練場に多くの守護者が立っているのは、途中で拾った謎の生物が原因だと。


『……君、危険なの?』


「ブルル」


 ちゃうでと頭を振るフウマ。

 どう見ても人畜無害の馬だろうがい、失礼な事言うなよクソガキ、と否定する。

 だが、周囲がフウマを危険だと捉えているなら、早急にシャリーを離すべきだろうというのは理解出来た。

 事実、大きなハイオークが飛び上がり襲い掛かって来たのだ。


「にゃ!?」


 風の刃でリードを切断すると、シャリーを空気のベッドに乗せてママリリの方へ移動させる。

 ここにいては巻き込まれるという判断だ。


「ブオオォォ!!」


 ハイオークによる丸太のような白い棍棒の一撃は、正確にフウマを捉え、凄まじい威力を持って振り下ろされる。

 まともに食らえば、トマトのように潰されて、地面のシミとなるだろう。

 あくまでも、まともに食らえばだが。


 フウマは空気の層を纏い、ハイオークの一撃を受ける。


 ぶよんと効果音が付きそうなほど圧縮されると、その反動でハイオークの一撃を跳ね返した。


「グオォォ!?」


『馬鹿野郎! 勝手な事すんじゃねー!!』


 オベロンが叫ぶが、その言葉は届かない。

 防がれたと理解したハイオークは、再び攻撃を仕掛けようとしたのだ。

 しかも次は薙ぎ払いで、このままでは空気のベッドに捕えられたガンドにも直撃するだろう。


『ベントガ止めろ!』


 それは流石に見逃せないと、オベロンが力を使う。

 使うのは地属性魔法。大地を操り、ハイオークであるベントガの体を拘束して行く。

 しかし、その拘束も不完全で、少しの動きを阻害する事しかできず、砕かれてしまう。

 そして、ベントガの強烈な一撃が繰り出される。


 瞬間、大きな白い丸太が宙を舞う。


『馬鹿なっ!』


 ハイオークであるベントガから驚きの声が上がる。

 白い丸太は地に落ち、土煙を上げる。

 ベントガは己の武器に目をやると、握った棍棒が半ばから切断されていた。


 守護者達が使う装備は、世界樹の葉を錬金術で加工して作られた物だ。防具は、軽くて頑丈で物理耐性、魔法耐性も高い逸品である。そして武器に関しても、普段は腰に棒として収まっているが、魔力を通すと使用者専用の武器として形作る。更に、使用者が使い易いように重量や大きさを調整されており、魔力による強化を施せば、格段に頑丈さや性能が上昇するという、神の一部を使用して作られた装備である。


 その武器が破壊された。


 過去に破壊された事例がない訳ではない。

 だが、それを成したのは、守護者の上位陣と世界樹を殺しうるモンスター達の手によってである。


 それはつまり、目の前の小さな存在が、その領域にいるということだ。


「ブルルッ」


 まるで攻撃が効いていない標的を見て、やはりかとオベロンは歯を食い縛る。


 応援を呼んだおかげで、この地には合計二十四名もの守護者が集まっている。

 だが、これでどこまで耐えられるかと不安になる。


 恐らく、それ程持ち堪えられない。

 せめて守護者筆頭の彼女がいれば、まだ持ち堪えられるのだが。彼女は今、この地にはいない。


 それよりも問題なのは……。


『オリエルタしっかりしろ‼︎ さっきから何を惚けてるんだ⁉︎』


 まるで動こうとしないオリエルタ。

 いや、オリエルタだけでなく、この場にいる天使達全員が、戦おうとしないのだ。

 最初は、標的の特殊な能力かと思ったが、天使よりも異常耐性の劣るガンドやベントガが動いている。明らかに別の要因があるのだ。


『……オベロン様』


『何だ?』


『恐らく、あれは敵ではないです』


『はあ?』


 オリエルタの発言に、何を馬鹿なと正気を疑う。

 そもそも、これだけ攻撃を仕掛けた以上、敵対するのは避けられない。


 そうオベロンは心配していたが、それは杞憂だった。


 謎の生物であるフウマは、贅肉たっぷりの体で伸びをして、大きな欠伸をする。

 周りの連中が武装していようが、襲って来ようが、気にする必要はないと思っていた。


 守護者らを、まったく驚異に感じていなかったのだ。


 そんなフウマは、さっさと田中と合流するかと空に行こうとする。


 しかし、強烈な雷が訓練所に落ちるのを見て脚を止めてしまった。


『貴様ら、何をやっている』


 落雷があった場所から現れたのは、美しい女天使だった。


『ミューレ、戻ってたのか』


 オベロンの声が、やけに響いた。



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