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奈落42(世界樹)

 服を脱ぐ。

 脱いだ服はしっかりと折り畳み、川岸に置いておく。

 そして、魔法陣で水を出して体を洗い流す。

 こういうのは準備が大事だ。不潔だと色々と嫌われてしまうからな。


 フウマもそれに習ってか、俺と同じように魔法陣で水出して体を綺麗にしていた。もっと言えば、鞍や手綱も外していた。

 どうやら考える事は同じだったようだ。


 準備が出来た俺達は、顔を見合わせて共に頷いた。


 そして川に飛び込んだ。


 クィーーーッ!!!!?!?


 脳髄に叩き込まれるこの感じ、間違いない、この川はビックアントの女王蟻の蜜だ。

 これまで補充出来なかった分を補充するべく、飲みに飲みまくった。美味い、美味い!美味すぎる!!

 しかし、何かが物足りない。活力が湧くのと脳髄を刺激する感じは正にそれなのだが、体に染み渡るような感覚がない。

 もしかしたら、過去に感じたものを誇張してしまっているのかも知れないが、それでも今ひとつ物足りない。


 まあ、だからといって飲むのをやめる気はないが。


 腹一杯に飲んで、まだ足りないと飲んで、腹がはち切れそうになっても飲んで、もう飲めないと体が言うので、収納空間に入れていく。

 もう、容器なんて使わない。

 そんなの使ってられない。


 川の流れを堰き止めてしまったせいで、背後から非難の声が上がる。


 ああ、すまんすまん、フウ……ま?

 あれ?フウマは?


 背後を振り返ると、そこに居るはずの相棒の姿がなかった。あれ程の大きな馬だ、その存在感は凄まじく、一般人ならば見惚れてしまうほど凛々しい姿をしている。そんなフウマの姿が忽然と消えていた。


 フウマ?フウマー!!


「ヒヒーン!!」


 俺の相棒を呼ぶ声に、目の前の豚が反応する。

 違う、お前じゃない。

 お前みたいなちんちくりんな豚が、俺の大切な相棒なわけがない!


 そんな訳がないと頭を振る俺に、豚が俺の腹目掛けて突進してきた。

 グホッとなる俺の腹。

 衝撃のあまり収納空間を解除してしまい、再び流れる女王蟻の蜜。オエーとえずいて、その水面に映った顔は、俺の知るものと違っていた。


 えーと、どちら様?


 おかしい、普通、水面を覗き込んだら自分の顔が映るはずだ。それなのに、まったくの別人の顔が映っていた。

 おかしい、腹がだらしなく垂れている。俺の腹は細マッチョなイケてるボディのはずだ。

 おかしい、腹だけでなく他の所も軒並み大きくなって垂れている。これじゃまるで、俺がデブみたいじゃないか。


 ……そうか!?

 これは敵の攻撃だ!?

 間違いない!魔法により幻を見せられているんだ!

 そうだ!そうに違いない!

 フウマ、気を付けろよ!俺達は敵の術中にハマっている!


「ブル?」


 何言ってんだって?

 馬鹿野郎!俺達がこんな醜い姿なわけねーだろ!!

 モンスターの攻撃なんだよ、これは!


「ブルル!?」


 どうやら分かってくれたらしく、蜜を飲みながらも辺りを警戒している。かく言う俺も、蜜を口に運びながらのんびりと辺りを警戒した。


 やべーなおい、この蜜美味すぎるだろ。


 警戒しながらも、川岸に腰掛けて蜜を堪能する。

 正直、こんな事している場合ではないが、どうしても離れられない。収納空間にかなりの蜜を入れたのだが、これはあいつらと楽しむ為に取っておきたい。

 だから、自分の分はここで飲む分と、今から収納空間に収まる分だけで我慢しよう。


 敵が来るのを待ちつつ、蜜を飲み続ける。

 いい加減、来てくれないだろうか、このままだと本当に太ってしまいそうだ。

 そんな心配もしつつ、大丈夫、幻だから大丈夫と自分に言い聞かせる。


 もしもは考えない。

 考えたら負けだと思っているから。


 そんな現実逃避をしながら、それにしてもと思う、この川は一体何なんだろうと。

 蜜が流れているのは百歩譲ってと言うか、ありがとうございますだが、この川は舗装されている。

 まるでタイルのような素材で、川岸だけでなく川自体が同じ素材で作られているのだ。明らかに人工物なのだが、繋ぎ目が一切見当たらず、まるでこの川ごと一度に作り上げたようにも見える。


 これもダンジョンだからで済ませてしまうのは簡単なのだが、ト太郎やヒナタのような知能の高い存在を知っては、もしかしたらと考えてしまうのだ。


 にしても止まらんなぁと蜜を口に運んでいると、空間把握に反応があった。それも空から。


 マジで敵がいるのかと驚いて警戒すると、脳に直接言葉が届いた。


『貴様、ここで何をやっている!』


 その言葉にえ?と固まってしまい、反応出来なかった。

 そして何より、言葉の主達の姿が、俺のよく知る人物に似ていたのだ。


 ヒナタ?


 空から降りて来たのは、槍を手に持った純白の翼を持つ天使。

 肌の色や髪色にそれぞれ違いがあるが、間違いなくヒナタと同種の者達。身に付けている物は皆同じで、白いプロテクターと、脛当ての付いたブーツを履いており、インナーなのか、体にピッタリと張り付いた白い服を着ている。そして、目にはSF映画に出て来そうなゴーグルを嵌めていた。


『オークか? どうしてここにいる?』


 唖然とした俺に、手に持った槍を突き付けて質問してくる。槍の刃先を見て正気を取り戻した俺は、両手を上げて降伏のポーズを取る。

 可能なら、俺をオーク呼ばわりした奴を殴り飛ばしたいが、今は少しでも情報が欲しい。ヒナタと同種のこいつらなら、何か知っているかも知れない。


『貴様! 何だその構えは!? 敵対するつもりか!?』


 急に警戒し出した天使達。

 槍を向けて、魔力を込め始めた。


 これは、あれか、文化の違いってやつか。

 俺は即座に察して、手を下げた。すると、天使達も警戒を解いたようで、槍は向けたままだが魔力の動きは無くなった。


 両手を上げて降伏をしたつもりでも、文化が違えば通じない事もあるのだろう。ましてや、この天使とは種族も違う。下手をすればサムズアップなんかして、それが殺すなんて意味で受け止められたら、殺し合いが始まってしまうかも知れない。


 この天使達の前で、余計な動作は取らない方が良さそうだ。


 俺は直立不動のまま天使達の指示に従う。

 ここで心証を良くして、後ほど色々と話を聞きたい。

 そんな事を考えていると、赤髪の女天使が訝しげに話しかけて来た。


『……こいつ、本当にオークか? 所属を言え!』


 えーと、所属は分からないです。ついさっき来たもので、はい。


『ついさっき? 待て、そんな情報あったか?』


 その問いかけに、男の天使がゴーグルの横に触れて何かをし出した。


『今調べます。 ……ありました。昨日、新規に十体のハイオークを受け入れています』


『む、じゃあ、こいつは逸れたオークか?』


『どうやらそのようです』


 赤髪の女天使が部下であろう男の天使に尋ねると、どうやら、タイミング良くオークの受け入れがあり、勘違いしてくれたようだ。


 つーか、誰がオークだ。マジでコロすぞコイツら。


 殺意を胸の内に抑えて、ニコニコと無害をアピールする。燻る思いは忍ばせて、いつかやってやろうと夢想して堪える事にした。


 その甲斐あってか、天使達は俺を連れて行ってくれるらしい。


 天使の一人が手甲から何かを取り出すと、地面に放り投げた。すると、一枚の板が現れ、その端から手摺りのような物が生えて来た。


『これに乗れ、落ちるなよ、落ちたら死ぬからな』


 え?何かのゲームですか?


『いいから乗れ!お前の仲間がいる所まで送ってやるって言っているんだ』


 仲間という言葉に反応して、つい板に乗ってしまった。

 もしかしたら、本当に居るんじゃないのかと、天使の言葉に飛び付いてしまったのだ。


 無様に乗ってしまった俺だが、この板に乗ったからってどうなるのだろうと頭を捻っていると、板から魔力の動きを感じた。


 これは、と下を見ると、徐々に上昇を開始し、やがてフウマが豆粒のように小さくなっていく。


『さあ、行くぞ』


 上昇した俺を、天使の三人が囲んで誘導する。

 一体どんな魔法で上昇しているのか気になるが、魔道具に関する知識の無い俺には理解出来ないだろう。


『おい、見えて来たぞ』


 乗っている板を眺めていると、肌の黒い天使が話し掛けて来た。その顔はニッと笑っており、何かを自慢したがっている子供のようだった。


 その言葉に従い、顔を上げて正面を見ると、


「……すごいな」


 そう言葉にするのが精一杯な光景が広がっていた。


 摩天楼、絶景、壮大な光景、俺の知る語彙で表現できるのはこれくらいだろう。これまでに、俺が見てきた物全てが矮小に見えてしまうような、そんな景色。


 森を抜けた先には、超高層ビルなんて目ではないほどの建築物が乱立しており、その建築様式もそれぞれが違っており、同じ物は一つとしてない。

 空には大きな島が幾つも浮かんでおり、島の下には等間隔で光が灯されている。

 そして、島と建築物を繋ぐパスのような物が幾つもあり、この地の血管のように見えた。そのような光景なのに嫌悪感はなく、中を走る光の一粒一粒が消えない花火のように見えて美しく感じた。


 そのような光景が、どこまでもどこまでも続いており、その中でも一際目立つ物が、隔絶した存在感を発していた。


『あれが、お前達が仕える世界樹様だ』


 世界樹。

 どこかの宗教で聞いた名前だが、天まで届くような巨木を見て親近感が湧いた。

 その理由が自分の中に流れる魔力のせいだと理解していても、それでも親しみを覚えてしまった。


『ようこそ、世界樹が守る都〝ユグドラシル”へ』


 黒い天使のドヤ顔の理由がよく分かった。





「メ〜」


 蜜を舐めながら、悲しい鳴き声を上げるフウマがいたとかいなかったとか。




ーーー


田中 ハルト(24+12)(卒業)

レベル 71

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

ファントムゴートの服(自作)

《状態》

ただのデブ(栄養過多)

世界樹の恩恵《侵食中》

世界亀の聖痕 (効果大)(けつ)《侵食中》

聖龍の加護 《侵食完了》

《召喚獣》

フウマ


---


フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考 限界突破 治癒魔法 呪耐性 見切り

《状態》

世界亀の聖痕(蹄)

聖龍の加護 《侵食完了》


---


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― 新着の感想 ―
デブになったのは悲しいけど蜜飲めるならトントンなのか?
おもしろい(´・ω・`)
[一言] ただのデブwww
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