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奈落40(迷いの森27)

 何度も言っているが、アマダチを使っている間はリミットブレイクが使えない。

 あの長剣があれば使えるのだが、今の俺の練度では身体強化を併用して使うのが精一杯だ。


 とはいえ、アマダチは刃を飛ばして使用しており、接近戦を想定した技ではない。


 いや、結局のところ、それは言い訳でしかない。

 今、この状況を想定するべきだったのだ。


 アマダチを危険視した二体は、上空から急降下し森に隠れてしまう。そして、森の中を動き回りながら接近して来ていた。


 一体だけなら、まだ何とかなった。

 これが複数となると、勝ち目は一気に低くなる。


 ゴーレムも黒いモンスターも、リミットブレイク無しで対処するのは不可能な相手だ。力も足りてない上、スピードでも追い付けない。

 もしも同時に攻められたら、一体は倒せても、もう一体に殺されてしまうだろう。


 苦虫を噛み潰したような顔で、腰を落として居合の構えを取る。

 空間把握に集中して、効果範囲に入ると同時に倒す。もう一体の相手は、魔力を回復させながらするしかない。

 それが許されたらの話だが。


 二体同時の討伐は諦めて、辺りを警戒する。

 耳には、森の中を激しく動く二体の存在を捉えているが、目視での確認は出来ない。


 ふっふっふっと息を吐き出し、極度の緊張感の中で時を待つ。


 汗が頬を伝い、酷く喉が渇く。

 リミットブレイクを使わない状態が、こんなにも心許ないとは思わなかった。どれだけ限界突破のスキルに頼っていたのか実感させられる。

 限界突破のスキルは、俺にとって最大の武器であり鎧でもあるのだろう。もしも、今の状態で奴らの攻撃を食らえば、死に至るのは想像に難しくない。


 その身で、奴らを待つ。

 そして、来た。

 ゴーレムの兵器が、木々の隙間を縫いながら迫って来たのだ。


 チッと舌打ちをして走り出す。

 考えれば当然だった。殺される可能性があるのに、無防備に近づく奴はいない。

 せめて奴らの位置が分かればと、身体強化をして移動を始めたのだが、圧倒的に速さが足りない。


 地を走り、木を切り倒すが、それさえも避けて追ってくる。このままでは距離を詰められ、圧縮されてしまうだろう。

 ならばと、アマダチの力を少しだけ解放して、剣閃を飛ばす。


 視界一面の木が倒れ、大量の兵器が発動して削り取っていく。しかし、すべての兵器を破壊できた訳ではなく、残った兵器は速度を落とすことなく迫って来る。


 もう一度と剣閃を飛ばし、今度こそゴーレムの放った兵器を片付けた。

 そして、倒れた木々の先にゴーレムの姿を発見する。


 見えた。

 そう力を込めてアマダチを放とうとするが、背後にあった木から黒い針が伸び、四肢を肺を喉を貫かれた。


 ガフッと血を吐き出し、貫かれた衝撃でアマダチの制御を解除してしまう。


 顔を動かせるだけ動かし横目で見ると、そこには木に擬態した黒いモンスターがいた。


 この黒いモンスターに、殴られた事を思い出す。

 あの時も、近くには木しかなかった。それは、視覚で確認しており空間把握でも認識していた。それなのに、そこには黒いモンスターがいた。


 自分の認識の甘さが嫌になる。

 獅子のモンスターだって、俺の空間把握に感知されない能力を持っていたのだ。他のモンスターが、それに似た能力を持っていてもおかしくはなかった。この黒いモンスターが、感知できない擬態能力を持っている事に、気付けるチャンスはあった。

 ただ、その考えに至らず、絶好の機会を失ってしまった。


 擬態が解かれていき、黒いモンスターが顔を出す。

 その顔に目はなく、口だけが弧を描いており喜んでいるようで虫唾が走る。


 黒いモンスターが擬態を解くと、一本の木だけでなく、周辺の木すべてが黒く染まり、黒いモンスターの体へと吸収されてしまう。

 ピンポイントでの擬態ではなかった。

 辺り一帯を支配してまで、俺を殺したかったのだろう。


 黒いモンスターは俺に止めを刺すべく、腕を人が入るほどの大きな筒状に変える。俺を跡形もなく消し去るつもりなのだろう、膨大な魔力を溜めていく。


 何もしなければ死ぬ。

 だから死ぬ気で行動を起こす。


 消滅の魔法が発射されるよりも早く、風の刃で黒く伸びた針を切断する。そして、発射されると同時に足元の地面を操り体を上空へ跳ね上げた。


 上空へと逃げて、間一髪即死は免れた。

 だが、消滅の魔法を完全には避け切れなかった。

 膝から下が魔法の餌食となり、消滅してしまったのだ。

 杖の効果で再生が始まっているが、直ぐに地に足を着くのは不可能だろう。自分で治癒魔法を使えば話は別なのだが、今はその余裕を他のことに使いたい。


 残りの魔力でリミットブレイクを発動して、迫る脅威に備える。

 下を見れば、ゴーレムが追って来ており、今が好機とばかりに追撃を仕掛けてくる。


 先の尖った振り子が振られ、振られた数の刃が飛ぶ。

 更に、空中という事もあり、大量の空間を圧縮する兵器が放たれた。


 悪態を吐く暇もなく風を操る。

 連続で放たれた刃から逃れるべく、圧縮し固めた空気を掴み、刃の軌道から逸れようとする。しかし、刃は軌道を変え、当たり前のように追って来た。


 何度も軌道から逃れようと移動するが、振り切れない。その上、兵器が迫っている。


 収納空間から大量の土を取り出す。

 振り切れないなら受けるまで、迫る兵器はすべて撃ち落とす!この気概を魔法に乗せ、今ある魔力の大半を注ぎ込んで魔法を作り出す。

 作るのは大きな鉄の盾、そして兵器を落とせるだけの大量の土の弾丸。


 襲う刃を鉄の盾で防ぎ、拡張した空間把握の能力で兵器の位置を正確に把握し、弾丸を解き放つ。


 景色としては味気ないものだった。

 白いスパイク型の兵器と、土色の弾丸が相殺されて数を減らしていく。側から見れば、爆発もなく衝撃もなく、白と茶色が共に消えていくだけの、つまらない光景だろう。

 そんな光景でも、当事者からしたら笑えない生死を賭けた戦いだ。


 一発でもまともに食らえば、体が圧縮されて死んでしまう。ゴーレムもまた、ここで俺を逃せば殺されるかもしれない。


 どちらも、命を賭けている。

 だからこそ、誰もが生半可な行動はしない。

 それは黒いモンスターも同じだった。


 地上から消滅の魔法が放たれる。

 咄嗟に鉄の盾で防ぐが、少しの均衡のあと、虚しくも盾を貫かれてしまう。

 身を逸らしたおかげで、この身に当たる事はなかったのだが、ゴーレムに対する気が逸れてしまった。


 僅かな間だった。

 視線を下にいる黒いモンスターに向け、再び戻すと、迫る兵器の中にゴーレム自身も混ざっていた。

 残った兵器を落とすべく、残りの土の弾丸を発射して相殺させていく。そして、迫るゴーレムがどう来るのかと構えていると、そのまま突進されて激しく吹き飛ばされた。


 まさか、この場面で即死の術ではなく、ダメージを与えて来るとは思わなかった。


 空中で錐揉みしながらも、必死に体勢を立て直す。

 そして、接近して来るゴーレムに向かって魔力の球体を放った。


 これで、僅かでも時間を稼ぎたいという悪足掻きだったのだが、青い結界を張り、多少のダメージは構わないとばかりに突っ込んで来る。

 魔力の球体と接触し激しく爆発する。

 衝撃で結界は消失し、ゴーレムの本体にもヒビが入るが、どんな執念か俺の元まで迫る。


 杖の届く間合いまで詰められると、また突進されるのだろうと身構える。しかし、今度はゴーレムの体からアームが伸びて左腕を掴まれてしまった。


 そして、即座に流される電流。

 体が痺れ、内側から焼かれてしまう。


 だが、それだけだ。

 この程度の負傷ならば、直ぐに回復するのは分かっているはず。この距離ならば、振り子の刃で切った方が余程効率的だ。


 更にゴーレムの不可解な行動は続く。

 俺を掴んだまま移動を開始したのだ。それも、かなりの速度で空を移動しており、まるで黒いモンスターから逃げているかのようだった。


 もしかして、助けてくれるのかと淡い期待をしそうになるが、それだけはない。

 断続的に流される電流に加えて、振り子の先で腹を突き刺したからだ。


 あの黒いモンスターから離れようとしているのは間違いないが、俺を連れて行く目的が分からない。俺を戦力として使いたいのなら、この扱いはしないだろうし、先程から向けられる観察するような視線の理由も不明だ。


 今、この時が、唯一俺を殺せる好機なのに、だ。


 ゴーレムが移動を開始して、電流を流されて、腹を突き刺されながらも、魔力循環による魔力の回復を続けていた。


 ありがたい。

 このゴーレムには感謝するしかない。

 目的が分からないが、おかげでアマダチが使えるまで回復する事ができた。


 だから、死ね。


 感謝の念を込めて、捕えられた左手にアマダチを作り出そうと魔力を込める。

 そして、殺意を込めて形にしようとすると、左腕が凍り、切り落とされ、同時に腹に刺さっていた振り子も外れて、空中に投げ出された。


 は?

 

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 まるで狙っていたかのように、アマダチを発動した瞬間に腕を奪われた。


 落下する俺を、ゴーレムの兵器が追って来る。

 まるで、もう用はないと言わんばかりの所業である。

 ゴーレムに目を向けると、奪われた腕を開いた体内に入れていた。


 引き伸ばされる意識の中で思考する。

 空間把握に反応がある。黒いモンスターが俺達に追い付いており、体の半分を巨大な質量に変えて、ぶつけようとしていた。まともに食らえば、夏に現れる蚊のように潰されるだろう。


 ゴーレムは何故、俺の腕を奪った?

 どうして体内に入れた?

 その疑問の答えは、既に見ていた。

 あの青い龍を食い、あのゴーレムは青い龍の冷気を使えるようになっていた。つまるところ、あのゴーレムはアマダチを使おうとした腕を取り込んで、アマダチを使おうとしているのではないだろうか。


 ああ、まずいな。

 それはまずい。


 収納空間に杖を入れ、以前、ミノタウロスが使っていた巨大な斧を取り出し、魔力を流して能力を発動する。

 ミノタウロスの斧の能力は、一部の空間の動きを止めるというもの。もしかしたら時間停止をしているかも知れないが、停止した空間に接近すると動き出すので、確かめる事は出来なかった。


 その能力を使う対象は、この場から離れようとするゴーレム。


 それと同時に迫る黒く巨大な質量が直撃し、全身がバラバラになりそうな衝撃を受けて弾き飛ばされる。

 巨大な質量をミノタウロスの斧でガードし、途中で兵器に当たり削り取られていたが、勢いが衰えることはなかった。


 停止の能力を黒いモンスターに使うべきなのは分かっていたが、それでも、あのゴーレムを逃す訳にはいかない。


 空中で停止しているゴーレムを追い越して、地上に向けて落下する。


 運良くなのか、運悪くなのか、落下した場所は湖の上だった。

 あれだけ動いたのに、気付けば元の場所に戻っていた。


 湖に落ち、深く、深く潜っていく。

 大きなミノタウロスの斧で、あの質量を防ごうとしたからか、斧に大きくヒビが入ってしまい、湖に落ちたと同時に砕けてしまった。


 キラキラと落ちていく破片が、魔力の残滓となり光を放ちながら湖の奥底を照らしてくれる。

 思えば、この湖を深く潜ったのは初めてかも知れない。そんな呑気なことを考えている余裕はないのだが、何故か考えてしまう。


 治癒魔法を使って体の修復を始める。

 左腕が持っていかれた上、全身が複雑骨折、内臓も破裂している。

 奈落に長くいて、それなりに強くなったと思っていたが、それはただの思い上がりだったようだ。


 腕を再生させ、負傷を全て治していく。

 視界がクリアになり、視力も落ちていたのだと治療して気付いた。


 上では激闘が繰り広げられていても、湖の中では関係のない話のようで、静寂に包まれた世界が広がっている。

 そんな静まり返った世界で、湖の奥底に大きな大きな骨が埋まっているのを見つけた。


 その大きな骨は頭部のようで、まるでドラゴンのような形をしていた。見える範囲を見てみると、所々に骨らしきものがあり、もしかしたら湖全体にこのドラゴンの骨が埋まっているのかも知れない。


 長いことこの地に居るのに、新発見があるとは驚きだ。


 体の治療も終わり、水面に顔を出す。

 上空では激しく戦闘が繰り広げられており、辺りの木々が無くなり、大地まで抉り取られていた。


 ゴーレムを停止させていた能力も、ミノタウロスの斧が壊れたと同時に解除されたのだろう。

 戦闘が繰り広げられているという事は、黒いモンスターは機会を活かしきれずにゴーレムを仕損じ、ゴーレムはアマダチを上手く扱えていないのだろう。



 収納空間から杖を取り出すと、フウマ達がいる場所に移動する。

 フウマ達が避難していた場所は、屋敷があった所からほど近い場所だった。


 ト太郎は相変わらずぐったりしており、かなり辛そうにしている。フウマは二号の回復を行っており、近付く俺を見て何かを察したようだった。


「キュルルー!!」


 初めの頃と比べて、かなり大きくなったヒナタは、翼を羽ばたかせて空に浮かぶ。魔力も残り少なくて辛いだろうに、魔力を込めて翼を必死に動かしている。


 そんなヒナタに風を送り、空を飛ぶ補助を行う。

 すると、こちらに飛んで来て、俺はそれを抱き留めた。


「キュル!?」


 俺がボロボロな姿をしているせいで、心配になったのか大丈夫なのかと問いかけて来る。

 なに、大丈夫だとヒナタの頭を撫でて安心させると、力強くわしゃわしゃと金髪の髪をかき乱してやる。


「ギュオ!」


 何すんじゃ!と怒るヒナタだが、可愛らしい顔のせいでイマイチ迫力に欠ける。


 そんな事をしている間に、二体の化け物の戦いは激しくなり、攻撃の余波が横を通り過ぎていく。

 どうやら、遊んでいる暇はないようだ。


 驚いて固まるヒナタを小脇に抱えて、フウマの元に向かう。


 二号の治療をしているフウマは、魔力をかなり消費してしまっているようで、少し疲れているように見える。

 そんなフウマに力を貸してくれ、そう短く言うと、フウマは嘶き了承してくれた。


「権兵衛さん、私は……」


 二号は憔悴していた。

 フウマの治癒魔法により傷は開いていないはずだが、もしかしたら一度、治癒魔法を止めたのかも知れない。それで、今の自分の状態を把握したのだろう。だから、どうしたらいいのか分かっていないのだ。


 そんな二号に杖を差し出す。


「これは?」


 お前に預ける。この杖が、お前の傷を癒してくれるはずだ。だから、早く魔力を感じ取って自分のものにしろ。それまでは、貸しておいてやる。


 もう、これしか方法が思い浮かばなかった。

 治癒魔法で回復し続けるのは現実的ではない、ならば別の、永続的に治療可能な方法が必要だった。

 それが、この杖しかなかった。


 傷を即座に治療してくれる杖。

 他にも様々な能力があるが、一番助けられたのはこの能力だろう。


「駄目ですよ! 戦いに必要なんじゃないですか!? 私なんかの為に…そんな……」


 ああ、だから早くしろよ。この戦いに勝てても、次がどうかは分からないからな。


「勝てるんですか?」


 当たり前だ、負ける戦いをするつもりはない。


 ぐっと二号に杖を押し付ける。

 すると、恐る恐るといった様子で、杖を受け取った。


 気のせいかも知れないが、杖から任せなさいと意思が伝わって来る。だから俺も、頼むと呟いて杖から手を離した。


 その様子を見守っていたフウマは、二号にかけていた治癒魔法を解除する。


「がっ!?」


 途端に二号の傷口が開き、痛みに耐えられなかったのか膝を突く。それでも、杖から手を離したりはしない。この杖が助けてくれると信じているのだろう。

 そして、その期待は裏切られたりしない。

 杖に描かれた琥珀の紋様が動き出し、二号の手を伝い体内に入っていく。更に、傷口が琥珀色に輝くと傷は塞がり、治癒魔法がなくても傷が開く事はなくなった。


 今ので気を失ったのか、二号は倒れて動かない。呼吸はしているので、問題ないだろう。

 二号の手にある杖は、装飾が減り力も減じてしまっている。元に戻るかは不明だが、二号が無事ならよしとしよう。


「ブルルッ」


 フウマが行こうと呼びかける。

 空を見上げると、二体の戦っている姿が見える。

 もうここも、黒いモンスターの消滅の魔法の射程範囲に入っているのだろう。

 急がなければ、何もかもが消えてしまう。


 フウマに跨り、魔力を操り準備を始める。

 そして最後にヒナタとト太郎を見て、その顔を目に焼き付ける。

 最初は小さな赤ん坊だったのに、無事に成長してくれた。未だに男の子なのか女の子なのか不明だが、元気に育ってくれたならそれでいい。


 ト太郎は未だによく分からない存在だ。

 友好的だが、何か思惑があって俺達を閉じ込めていたのだろう。魔力をより感じられるようになって分かったのだが、森に溢れる魔力と、ト太郎が持つ魔力が同じものだった。森全体がト太郎の領域だったのだ。

 普通でないのは見た目からして分かっていたが、そこら辺はひと段落してから聞くとしよう。


 だから待ってろよ、ト太郎!


「グア……」


 弱々しくだが、しっかりと返事は返してくれる。

 戻ったら、元気が出る物でも作ってやろう。

 だから、それまでは……。


「ヒナタ、ト太郎、二号、行ってくる」


「キュルルッ!」


 拳を突き出して、頑張れと応援してくれるヒナタ。

 どこでそんな事を覚えたのだろうと疑問に思うが、昔見た漫画の影響かと思い至る。


 その思いに応えるように俺も拳を突き出して、ヒナタの拳に合わせた。





 一気に飛び上がり、空で戦う二体を発見する。

 強化していなければ、目で追うのも困難な速度で衝突している。ここにしがらみが無ければ、二体の相手は面倒だとさっさと逃げ出していただろう。


 湖の方に視線を向けると、小さな点に見えるほど離れているが、ヒナタがこちらを見ているのが分かる。


 これは、逃げるわけにもいかないなと苦笑して、行くかとフウマに呼び掛けた。


「ヒヒーン!!」


 力強く嘶くと黄金を纏い、切り裂く音を置き去りにして空を駆け抜ける。

 本気になったフウマは速い。

 それこそ、あの二体のモンスターでは触れることさえ出来ないだろう。それほどの速度でも抵抗を感じないのは、フウマが風を操り道を作っているからだ。

 フウマは、この奈落に落ちた頃よりも俄然強くなっている。その強さは速さであり、力であったり、魔法であったりと成長し、奈落のモンスターを圧倒するまでになっていた。


 そのフウマが全力で二体のモンスターに迫る。


「アマダチ」


 今回、何度目かのアマダチ。

 使い始めた頃は、剣に灯すだけで精一杯だったのに、大剣を作り維持できるまでになっていた。

 威力も当初の頃と比べるまでもなく、絶大な物になっている。しかも、何度も生み出せるまでに俺自身成長していた。


 長い森での生活は、俺達を成長させてくれた。

 ヒナタとト太郎との生活も、平穏ではないが楽しかった。

 ヒナタの成長を見て、森から脱出できない状況に焦る事もあったが、このまま続けば良いなとも思っていた。

 俺は、ここでの生活を悪くないと感じているのだろう。

 もう、ヒナタとト太郎は家族のようなものだ。


 だからさ、この生活を邪魔するなら、容赦はしない。



 衝突した二体が大きく離れる。


 形を変えながら蠢く黒いモンスター。

 方や、体の右半分を失っているゴーレム。


 何故、左のアームにアマダチを宿したゴーレムが負けているのか不明だが、もう、そんな事を考える必要はない。


 ゴーレムが反応するよりも早く接近し、アマダチがゴーレムのアームを切り落とし、ボディに刃が通り、核を両断した。

 何が起こったのか理解する事もなく、ゴーレムはその機能を停止する。そして、核に残った魔力が溢れ出し爆発四散した。


 動きを止めずに更に加速する。

 向かうは黒いモンスター。


 おい、逃げるなよ。


 ゴーレムがやられたのを見て、逃亡を開始した黒いモンスター。今更、逃すはずもなく、その身をアマダチで切り裂かんと迫る。


 ジグザグに動き逃れようとしても無駄だ。

 見切りが黒いモンスターの動きを見抜き、その距離を詰めていく。


 もう少しでアマダチが届くというところで、黒いモンスターは更に上空に上がり魔法を使おうとする。

 使うのは、これまでと同じく消滅の魔法だろう。

 何故ここで、上から魔法を使おうとしているのかは分かっている。


 また、湖のある場所まで戻って来ていた。

 奴は、下にいるヒナタ達を守るために、俺が避けれないと理解しているのだろう。


 まったく、その通りだ。


 黒いモンスターは、巨大な砲へと姿を変える。

 魔力が収束していき、全てを飲み込みそうな黒い魔力が現れた。


 あれが放たれたら、俺達はもちろん、下にいるヒナタ達や森の大半が消滅してしまうだろう。


 だから、そんな事はさせない。


 アマダチに意思と魔力を込め、消滅の魔法が放たれると同時に、アマダチを放つ。


 黒い消滅の魔法と銀色の剣閃が衝突し、少しの均衡もなく剣閃は消滅の魔法を切り裂き消失させる。そして、黒いモンスターを両断した。


 何かを絶つ感触があった。


「アアァァァあ゛あ゛あ゛ァァァーーーッ!?!?」


 断末魔が鳴り響き、形を保てなくなった黒いモンスターが、溶けて液体のように落下していく。

 もう、それに脅威を感じなかった。

 あれだけ感じていた嫌悪感も消え、ただの物質としてしか捉えられなかった。


 これで、この戦いは終わり。



 そう思っていたのだが、再び世界がモノクロに染まった。




ーーー


対大型モンスター用殲滅兵器・参型 (ゴーレム)


人工知能を搭載された自立型戦闘用ゴーレム。

ある世界で製造され、世界がダンジョンに飲み込まれてから起動を開始した兵器。錬金術師たちの傑作であり、危険過ぎると起動を許されなかった。

核を別の場所に置き、三つの端末を操り攻撃する。エネルギー充填の為、モンスターを取り込む。その際、解析し力を分析する。モンスター殲滅の命令を遂行しており、田中をモンスターと判断するか迷っていた。強力過ぎてモンスターと判断した。


ーーー


ビルメシア・ラーラ (黒いモンスター)


堕ちた天使の成れの果て。同族を半数殺して堕天した存在。天使の中でも有数の戦士だったが、事故で同族を殺し、溺れて行った。己の形を忘れ、自己を忘れ、力と破壊だけを求める存在。


ーーー


田中 ハルト(24+12)(卒業)

レベル 71

《スキル》

地属性魔法 トレース 治癒魔法 空間把握 頑丈 魔力操作 身体強化 毒耐性 収納空間 見切り 並列思考 裁縫 限界突破 解体 魔力循環 消費軽減(体力) 風属性魔法 呪耐性

《装備》 

ファントムゴートの服(自作)

《状態》 

ぱーふぇくとぼでー(各能力増強 小)《侵食中》

世界亀の聖痕 (効果大)(けつ)《侵食中》

聖龍の加護 《侵食中》

《召喚獣》

フウマ


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フウマ(召喚獣)

《スキル》

風属性魔法 頑丈 魔力操作 身体強化 消費軽減(体力) 並列思考 限界突破 治癒魔法 呪耐性 見切り

《状態》

サラブレッドタイプ

世界亀の聖痕(蹄)

聖龍の加護


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ヒナタ(天使)( 10)

《スキル》

光属性魔法 全魔法適正(小)

《状態》

世界亀の聖痕(足の裏)

聖龍の加護


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― 新着の感想 ―
と太郎が弱ってるのって田中が加護を侵食してるから?
卒業……田中、人間やめたってよ。
奈落編長え
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