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奈落32(迷いの森19)

「こ、れは、なん、でオェー!?」


 二号は目の前の大きな存在に当てられてしまい、四つん這いになって吐き出した。


 何をしているのかというと、海亀から肉の一部を切り取る作業をしている。

 いつもなら、湖から離れた場所でやっているのだが、海亀の肉を食った二号が凄く感動してしまい、何の肉なのかこの目で見たいと言い出したのだ。

 しゃーねーなーとト太郎に許可をもらって、近くで海亀を収納空間から取り出すと、余りに巨大な海亀に生存本能が刺激されてしまい吐き出したのだ。


 因みに、ヒナタもナナシも同じような事をしており、ヒナタは真っ先に逃げ出し、ナナシは涙を流して許しを乞うていた。

 それ以来、肉を切り取る作業に同行することはなくなり、肉を取りに行くと言うと、毎度いってらっしゃいと見送られるだけになっていた。



 肉も切り取り、約十回分の食事はあろう肉の塊を持つと、魔法陣を展開して杖で強化された魔法を叩き込んだ。

 その瞬間、体の中にある海亀の魔力から、怒りの感情が表れるが、それは寧ろチャンスだと魔力を流して侵食しようと仕掛けてみる。

 すると、ほんの少し奪ったところで、亀のように甲羅に籠ってしまった。


 この頃は、戦いの無いときは甲羅に籠る事が多く、魔力を伸ばしても侵食する事ができなくなっていた。今のように、甲羅から顔を出したときくらいしかチャンスがないので、タイミングを見計らっておかなくていけない。

 それは優しい魔力と森の魔力も同様で、これ以上奪わせないという意思を感じる。


 まあ、それは良いとして、海亀を収納空間に入れると二号と向き合う。



 どうだ、今のが奈落の世界にいるモンスターだ。


「オェー!? 何で、あんなのが、存在、してるんですか? 権兵衛、さんは、今のを倒したんですか?」


 んな訳ねーだろ、何度も殺されかけたし命からがら逃げ延びたわ。俺の知る限り、他に四体はいるから気を付けろよ。まあ、出会ったら死ぬから気を付けようがないがな。


「じゃあ、どうして今の怪物を持ってるんですか?」


 あの怪獣達は争っているみたいでな、その負けた方を頂いた。死んでいるように見えるだろうが、あれで仮死状態だからな。外に出しておくと復活するから、死んだと思っても近付くなよ。


「え゛っ、何でそんな物を持ってるんですか!?」


 そりゃ、解放して復活させたら殺されるからな。多分、肉食った奴ら全員狙われるぞ。


「ええ〜、そんな物食べさせないで下さいよ」


 力を付けるのに必要だからだ。お前も感じただろう、魔力が高まっていくのを。


「それはそうですけど、あの怪物に狙われるようになるって聞いてたら、食べませんでしたよ」


 そうなると、そこらにいるモンスターに殺されるぞ。肉を食ったからって勝てるようになる訳じゃないが、力が上がるのは間違いない。帰りたいんだろ、地上に。なりふり構わず力を求めろよ、今のままじゃ俺達から離れるだけでお陀仏だぞ。


「……そうですね、すいませんでした余計な事を言って」


 大丈夫だ、ナナシにも同じように言われたからな。それに、俺もお前の立場だったら同じように言うだろうよ。



 自分がやるべき事を思い出したからか、二号の顔に覚悟のようなものが見える。

 もしかしたら、余計なことを言ってしまったかもなと少しだけ後悔する。力を求めるのは、探索者ならば当然の行動だと思っているが、二号のそれは別の思いも含まれている。


 二号は決して心の弱い青年ではない。それでも、ナナシと比べると力も心も弱い。どこかで道を間違えなければいいが、それを正すにはもう遅い気がする。せめて、手段を間違えないでくれればと願うしかない。


 暗く、絶望した瞳。

 あの目は、東風達を亡くなってしまったときの俺の目と、よく似ている。

 だから、俺は二号に何も言う資格はない。

 その目的を成した俺に、二号を止める手段はない。

 この青年には正道を生きて欲しいと願いながら、道を間違えるだろう力を授けている。


 何がしたいんだと、自分自身を嘲笑しながら屋敷に戻った。





「キュッ!」


 最近のヒナタは調子が良い。

 何かを掴んだのか、剣も魔法も急激な成長を見せている。


 これまでは俺の動きを真似していたが、自分に合ったスタイルを見つけ動きを洗練させている。魔法もまた同じで、風属性の魔法は動きの補助のみに特化させており、光属性の魔法だけを攻撃手段として使用している。

 魔力の使い方も上手くなっており、魔法を使用するときに漏れる魔力量も減って来ている。おかげで、魔法の使用を察知するのに苦労するようになって来ていた。



 雨のように光の針が辺り一帯を串刺しにせんと降り注ぐ、まるで逃げ道のない魔法だが、それは俺やフウマ以外の場合だ。

 魔力の流れを作り出し、俺に降り注ぐ光の雨を逸らしてやり過ごすと、地属性魔法でシェルターを作り周囲を囲う。


 そしてシェルターの外で、光の雨が爆発を起こす。


 その衝撃は凄まじく、シェルターがひび割れ砕けてしまった。


「キッ!」


 砂埃が上がり、視界が不良ななかを移動していると、正確に俺の場所を捉え上空から剣を振り下ろして来る。

 やるなと思い、杖でその一閃を受け止めると、剣を持ったヒナタを掴もうと手を伸ばして空振りに終わる。

 これまでにも散々掴まれて来たからか、その行動を予測して自身に風を当てて、再び上に上がったのだ。


 ヒナタの手が光る。

 真上、しかも至近距離からの魔法はいくら何でも避けきれない。右手には杖を持っており、左手は空を切った状態だ。

 これは油断しすぎた。


「キュ!?」


 だから魔法には魔法で対抗する。

 巻き上がった砂埃を操り、ヒナタの手を逸らす。

 そして、その手から放たれた魔法は地面を焼き、木々を切断し、見学していたフウマと二号の真上を通過して途切れた。


 あっぶねー。

 いつの間にそんなに成長してたんだと、驚愕する魔法を使ってみせたヒナタ。

 砂埃に加えて、地面を操り捕まえに動くが、俺の魔法に何かが干渉して動きを鈍らせる。

 その何かとは、そうヒナタ……ではなくト太郎だ。

 幾ら急成長しているとはいえ、俺の魔力に干渉出来るほどの魔力操作能力は持っていない。ならば、それが出来るのはフウマかト太郎になる。そして、魔力が伸ばされているのは湖の方からだった。


 何すんじゃいと、湖から顔を覗かせているトカゲ頭を見る。


「ガフ」


 唸るト太郎は、もう少しヒナタに付き合ってやれと言っているようだった。

 仕方ないな、なんて思うはずもなく、ヒナタは気が向いたら奇襲を仕掛けて来るので、今更時間を取る必要もないのだ。


 俺の操る魔法から逃れたヒナタは、剣を持ち接近戦を仕掛けて来る。

 チッと舌打ちをして杖を構えると、連続して振るわれる剣戟を受け止め、流していく。体勢が崩れたところにカウンターを合わせようとすると、風を起こして予想外の動きで避けてしまう。


 やり難いと思いながらも、この動きは俺自身やった覚えがあり、これも俺の真似だった。

 人の技術を真似て身に付けていった俺の技術、それがヒナタに真似されている。その中で、自分に合った物を取捨選択し高めていく。それがヒナタのスタイルになっており、いずれは俺を超えるかも知れない。


 それは悔しくはあるが、凄く嬉しくもある。

 ヒナタが強くなるというのは、この奈落の世界で生き抜き、脱出する可能性が上がるという事なのだ。

 ならば、ヒナタの成長に嫉妬するような気持ちは無い。


 剣を退け、魔法を無効化し、今度はこちらから攻め立て、体力の限界が来たところで地面に埋めた。

 埋めたというのは文字通り、首から下を地面に埋めたのだ。


「ギューーーッ!!」


 地面から出た生首から抗議の声が上がるが、それくらい脱出してみせろとフッと鼻で笑ってみせる。

 ヒナタを捕らえている地面は、魔法で強固にしており、そう簡単に抜け出せるものではない。幾ら魔力で身体強化したとしても、今のヒナタの力では地面を砕くのは無理だ。


 これは別にイジメでやっている訳ではない。

 先程にも上げた身体強化を、更に練度を上げる為のものだ。

 今のヒナタは、まだ子供の体とはいえ驚異的な身体能力と魔力量を誇っている。それこそ、森のモンスターを倒せるほどのものだ。だが、森の外だとどうにも心許ない。

 森の外では連戦が当たり前、しかも森のモンスターよりも一段も二段も強い。その上、あの怪獣達が存在しているのだ。

 せめて逃げ延びるだけの力を付けさせたくて、身体強化の特訓を開始してみたのだが。


「ギュギュムギューーッ!?」


 何だか、ムキになってるヒナタって面白いな。

 ふふっと思わず笑いが零れる。

 それを面白く思わなかったのか、ムッとした顔をしたヒナタは別の魔法を使用する。

 魔力の流れ方からして光の魔法。

 魔法で地面を砕こうとしているのだろうが、地属性魔法で固めた地面を砕けるとは思えない。寧ろ、狭いなかで暴発してヒナタ自身を傷付けるかも知れない。いや、それどころではなく、魔法の威力次第ではその命を奪うだろう。


 バカ止めろと、ヒナタの魔法に干渉しようと手を伸ばすと、嫌な予感がしてその場を飛び退いた。


 その予感は正しく、光の線が地面から抜けて先程までいた場所を通過して空に昇ったのだ。

 間違いなくヒナタの魔法。

 幾ら光の魔法だからといって、俺の魔法を通過するのは不可能だ。それが可能なのは、かつて戦った銀髪の男の光の槍の魔法だけだった。


 あらゆる物体、魔力を透過し目標だけを攻撃する魔法。

 俺には真似できない魔法だ。


「キュッ!」


 俺が驚愕の表情を浮かべているからか、ヒナタは上機嫌に鼻を鳴らしてドヤっている。

 ただし、地面には埋まっているが。


 あの魔法は銀髪の男特有の魔法だと思っていたが、もしかしたら種族で使える魔法なのかも知れない。

 だとしたら、ヒナタはあの銀髪の男の子供である可能性が益々増えてしまった。


 これは……何も変わらんな。

 その予想は前からしていたし、今更迷うくらいなら最初からヒナタを育てようなんて思わなかった。

 確かに強くなって、敵対したら厄介だなぁとは思うが、その時はそのときにでも考えればいい。少なくとも、人を助けようとするくらいには優しい子だ。戦いではなく、話し合いで解決できるはずだ。


 そうだろう、ヒナタ?

 俺はヒナタに笑顔を向け近くに立ち、地面に手を付けると、更に地面を強固にして脱出できないようにした。


「ギュムーーー!?!?」


 決してヒナタのドヤ顔に苛立った訳ではない、俺なりの愛の鞭だ。

 分かってくれるよな、ヒナタ?


 そう笑いかけると、ヒナタが魔法を乱発して来たので、結局解除した。

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― 新着の感想 ―
おもしろい(´・ω・`)
[一言] 魔力に意思があるのか。武具にもあるしおかしくはないのか。ウミガメの亡骸や武具が器で従、魔力が主なのかな。 そういえばウミガメにアマダチは試したのかな。
[一言] ヒナタが銀髪男だったら滾りますわ~
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