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奈落27(迷いの森14)

 木を一本切り倒して棺桶のように長い箱を作り出す。

 その中に灰色の杖を納めて、ヒナタから借りた花瓶に魔力を込めて、光を帯びた水を流していく。


 やがて水は箱一杯に溜まり、少し時間をおくと、水は真っ黒に染まった。

 箱をひっくり返して水を捨てると、再び水を溜めていく。


 これが何をしているのかと言うと、鬼が使っていた杖を使えるようにしている。

 鬼が杖を使っていたのか、杖が本体だったのかはこの際どうでもいいとして、失った長剣と打ち合えるほどに頑丈な杖を、何としても武器として使えるようにしたいのだ。


 ナナシが姿を消したせいで、あいつが持っていた長剣も一緒に消えた。


 そう長剣が、俺の武器が消えたのだ。


 あの野郎〜、パクりやがった!


 おかげで戦力半減だ。森を脱出する計画も頓挫してしまった。

 日頃から森に現れるモンスター程度ならば問題ない。

 だが、世界がモノクロに染まってから現れるモンスターは別だ。

 勿論、戦えない訳ではないが、奴らを倒すのにアマダチは必須なのだ。アマダチを使わないと高確率で復活してしまう。


 だから、必殺のアマダチに耐えられる武器が必要なのに、その唯一の武器である長剣を失ってしまった。

 これでは、負けはしなくても勝てもしない戦いを、永遠に続けなければならない。

 なので代用品になりそうな杖を、唯一、長剣と渡り合った杖を必死に使えるようにしている。

 この杖なら、アマダチにも耐えられるかも知れないから。

 

 そんなに必死なら、先にナナシを探せと言う話だが、もちろん探した。

 ナナシの姿が見えなくなって、直ぐにフウマと二手に別れて探したのだが、残念ながらどこにも奴の姿は無かった。


 モンスターにやられたのかもと考えたが、俺が鍛えた男だ。

 勝てはしなくても、逃げ延びるくらいは出来るはずだ。だから、間違いなく生きている。


 そう自信を持って言えるのだが、遂ぞナナシを発見することが出来なかった。


 これ以上、探しても無駄だと判断して屋敷に戻ると、ナナシと仲の良かったヒナタが酷く落ち込んでいた。

 ト太郎が一緒だったので寂しくはなかったはずだが、俺達の姿を見ると突撃して来たので、もしかしたら不安だったのかも知れない。

 ナナシだけでなく、俺達も居なくなるのではないかと。


 この子の精神はまだ幼い。

 子供なので当然ではあるが、この奈落で生きて行くには弱過ぎる。


 だから、地上に連れて行こう。

 このとき、俺はそう決めた。

 翼があり、人の言葉を話せないが、そこら辺は地上に戻ったときにでも考えよう。

 いざとなれば、愛さんに頼ろう。

 ホント株式会社と契約すれば、ヒナタの事くらいどうにかしてくれるはずだ。


 無理だったらダンジョンに住もう。

 今でも住めているんだ。31階なら廃村だってある。モンスターも格段に弱いから脅威ではない。


 問題ない、問題ないはずだ。


 それなのに何故だろうか、どうしようもなく不安な気持ちになるのは。




 また箱に水を満たしていく。

 その度に真っ黒に染まり、邪悪な何かが流されていっているような気がする。

 それを証明するかのように、灰色だった杖が茶色い木製の色に近付いていた。


 この杖には、意思が宿っている。

 その意思が杖のものなのか、鬼のものなのかは不明だが、俺が手に取ると、体を乗っ取ろうと思念を送りこんでくるのだ。


 うわ、うっざと収納空間に放り込んでいた代物だが、ト太郎が光の水に浸けてりゃ大丈夫と言うので、実行している。

 既に百回以上繰り返しているが、触れる度に思念が送られて来るので、まだまだ終わりそうにない。


 なので、杖を水に浸けている間に、鍛錬に勤しむ。

 と言っても、これからやるのは、剣を振るのではなく作り出すものだ。


 地属性魔法で作り出すのではない。

 それはかなり前に試した事があるが、正直、今でも既存の武器と同程度の物を作り出せる気がしない。

 形は似せられても、本物とは程遠い性能しかない。


 じゃあ、何を作るのかというと、アマダチを作り出している。

 何を言っているという感じだが、そもそも、銀髪の男は魔力を収束させて短剣を作り出していた。

 短剣に収束された力は絶大で、俺が使うアマダチよりも、桁違いに強力だった。もしかしたら、あれがアマダチの到達点ではなかろうか。

 あの一撃が放てれば、怪獣のような桁違いのモンスターを倒せるかも知れない。

 そうなれば、この奈落の世界で怖いものは居なくなるに違いない。ならば、頑張って習得するべきだろう。


 そうと決まれば、早速、掌に魔力を集中させていく。


 イメージは剣だ。

 目を閉じて魔力操作に集中する。

 収束させるなら小さい方が良い。その方がイメージしやすいし、魔力を圧縮出来る。


 ガンガンと魔力が消費されていき、形の定まらない魔力の塊が出来上がる。それを剣へと作り変えていき、そこで魔力が足りなくなった。魔力循環で補充してもなお足りない。


 これを作り出した銀髪の男は、一体どれ程の魔力を持っているんだ。


 くっと目を開き、その手に収まる魔力を見る。

 そこには、ぼやけてはいるが、大剣の形をした魔力があった。


 ……ん?

 おかしい。確かに短剣をイメージして魔力を集めていたのだが、何故か大剣を形作っていた。

 もしかして、ここから圧縮して行くのだろうか。

 どちらにしろ、魔力が足りないので、試すのは魔力が回復してからになる。



 一息ついて、魔力循環を行いながら休憩を取る。

 その横では、俺の真似をしているのか、ヒナタが手を伸ばして魔力を集めていた。


「キュム〜」


 しかし、魔力が直ぐに枯渇してしまい倒れてしまう。

 それをフウマが風で浮かせて、自分の背中に乗せる。ここで休憩しろという事なのだろう。


 魔力が空になって、ぐったりとしたヒナタだが、ここ最近の成長は目覚ましいものがある。ナナシに感化されたのもあるだろうが、短剣の扱いや魔力操作は格段に向上していた。

 このまま成長していけば、ヒナタもアマダチを使えるようになるかも知れない。


 そうなれば、この奈落でも生きていく事が可能になる。


 とはいえ、幾ら強くても食事や生活の基盤がなければどうにもならないので、今後はその辺りも教えて行こう。




 それから何度かの昼と夜を過ごす。

 いつの頃からか、森が紅葉に染まり出し、ダンジョンにも季節があるのかと、その変化に少しだけ驚いた。


 季節が変わったら、畑の育成状況はどうだと見てみるが、特に変わるようなことはなかった。


 薪を焚べて熾火にすると、山盛りの落ち葉を乗せる。

 そこに、予め準備していた大量の緑色のさつまいもを取り出して、落ち葉の中に突っ込んだ。

 じわじわと煙が上がり始め、辺りに焼き芋の良い匂いが漂い始める。

 匂いに食欲が刺激され、腹がグーッと鳴る。フウマが。

 煙の上がる落ち葉に興味を引かれたのか、大量の落ち葉に突撃しようとするヒナタ。

 アホかと、突っ込むヒナタを掴んで静止する俺。


 そして、それを元気ないながらも楽しそうに眺めているト太郎。


 季節の変わり目のせいか、ト太郎の元気がない。

 食事は普通にするし、その身から感じる魔力だったり圧力だったりは変わりないのだが、じっとしている時間が長くなっている気がする。

 そんなト太郎を元気付けようと、今回の焼き芋を行っているのだが、どちらかと言うとフウマとヒナタの方がテンションが上がっている。

 まあ、その光景を見て、ト太郎も楽しそうなので文句はないのだが。


 焼き芋が出来上がり、包んだアルミホイルを外して行く。

 収納空間に残っていたアルミホイルはこれで最後なので、今回のようなイベントは地上に戻らないと出来ないだろう。


 試食と言う名の毒味をいつものようにフウマで試して、俺も一口食べてみる。

 うん、甘くて美味い。

 スイートポテト並みに甘く、ここまで甘いと胸焼けしそうだが、甘い物が少ないここでは幾らでも入ってしまう。


 ヒナタに二つ渡して、残りをト太郎の元に持って行く。


「グアー」


 大きな口を開けたので、アルミホイルを外した物から放り込んでいく。

 半分くらい口に入れると、咀嚼して飲み込んだ。

 美味かったのか、おかわりと再び口を開く。

 これくらい食欲があるなら、一時的な体調不良か何かだろう。


 俺はほっとして、残りの全部をト太郎の口に放り込んだ。


 今回の軽いイベントは、ト太郎に元気を出してもらおうと計画したものだが、元気になってくれたなら良かった。


 お腹が膨れて、安心すると何故だか眠気が襲って来る。

 それは、フウマもヒナタもト太郎も同様のようで、うつらうつらとしている。

 うん、これ、あれだね。

 焼き芋に睡眠薬的な効果があったな、これ。


 意識がある内にフウマとヒナタを抱えて屋敷に入ると、カーペットの上で意識を失ってしまった。



 そして、目が覚めると、ト太郎は脱皮をしていた。

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― 新着の感想 ―
これ、ヒナタがあの銀髪の男っぽいな… 短剣でアマダチを撃ってたし、田中が親だと思うくらいに似てて、奈落は時間軸がズレている… 多分、戦闘中に水を浴びせて驚いてたのって、気づいたってことだろうな、過去…
おもしろい(´・ω・`)
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